ゆがんだ時計7

ゆがんだ時計7


7.Side:Capricorn


 教皇の間を辞して自宮へ戻ったエルシドを迎えたのは、銅像の足元で転寝をしている紫龍だった。
「紫龍……?」
 よほど深く眠っているのか、呼びかけても返事はない。
「こっちは聖戦間近だってのに、呑気なヤツだぜ」
 夕暮れ時に紫龍の唇を奪って口説いたマニゴルドが、それを見てからかった。
「確かに、いつ冥闘士が侵入して来てもおかしくない時勢だからな。だがここは、この磨羯宮で最も安全な場所だ」
 神話の時代からずっと、代々山羊座の聖闘士の小宇宙が満ちているここは、磨羯宮の中で最も守りが厚い。ましてや、紫龍は未来において山羊座の聖闘士を恋人にしている。常にその小宇宙と接している彼にとって、ここは最も安心できる場所なのだろう、とエルシドは推測していた。
「紫龍も我らと同じ女神の聖闘士。危険を察知する能力に長けている。安全な場所だと認識しているからこそ、こうして転寝ができるんだろう」
 エルシドが紫龍の前に屈みこむのと、紫龍がハッと目を開くのは、ほぼ同時だった。
「エルシド……?」
「起こしたか、紫龍」
「俺は、眠って……?」
 我に返って、紫龍は急に立ち上がった。その動作が災いして、一時的に低血圧を起こしたのか、紫龍は眉間を押さえて倒れこんできた。
「急に立つからだ」
 崩れる紫龍を受け止めながら、こうして抱きとめるのは2度目だな、とエルシドは心の中で苦笑した。
 訓練の最中、相手をしているエルシドや童虎に向ってくる時には緊張感に満ちた闘志や殺気をむき出しにする彼だが、平素の彼はしなやかで、たおやかですらある。そのギャップもまた、彼の魅力なのだろうと。数日間生活を共にしたエルシドは感じていた。
「ありがとうございます」
 聖衣をまとった腕の中に紫龍を抱いて、改めて細い体だと思う。抱いた腕や指先にかかる彼の滑らかな黒髪の感触が心地いい。
「気にするな」
 エルシドは、そのまま紫龍を抱き上げた。
「ちょっ……エルシド――っ!?」
「倒れられてはかなわんからな。寝殿へ戻るぞ」
 エルシドは紫龍を抱き上げたまま、共に磨羯宮まで戻ってきたマニゴルドには目もくれず、寝殿へと足を向けた。
 当のマニゴルドは、ヒューッと口笛を吹いてニヤリと笑った。
「そのまま襲っちまうんじゃねぇぞ、エルシドよぉ」
「黙れ、マニゴルド」
 ニヤニヤと笑うマニゴルドを睨みつけて、エルシドは紫龍を寝殿へ連れて戻った。そして紫龍に貸している寝台へ横たえてやる。
 その時、図らずも紫龍の顔を至近距離から見下ろしたエルシドは、心臓が跳ね上がるような心地になった。
 初めてこの磨羯宮に運び込んだ時には気づかなかったが、紫龍は思いのほか睫毛が長い。ほのかに紅く色づく頬、光の加減で翠が混ざったように見える不思議な色合いの黒い瞳。
 そして、マニゴルドが「唇がガラ空きだ」と言って彼にキスをした、形の良い薄い唇。
 間近に覗き込んだ紫龍に、エルシドは魅了されていた。
「すみません、こんな……っ!?」
 エルシドが何を思っているかなどまるで気づかずに、無邪気に見上げてくる紫龍の瞳に吸い寄せられるように。
 エルシドは聖衣のヘッドパーツを外して紫龍に口づけた。
 マニゴルドよりも少し長く深く紫龍に口づけて、唇を離す。紫龍は驚いたようにエルシドを見上げてきた。
「エルシド……」
 呼びかけてくる声には応えずに、エルシドは再び唇を重ねた。初めは浅く啄むように口づけて、次第に深くしていく。紫龍の両手に自分の手を重ねて、紫龍の抵抗を封じて。エルシドは紫龍の口裂から舌を忍ばせて、口腔を愛撫した。
 口づけているうちに、もっと……と求める気持ちが次々と湧き上がってくる。

「お前を愛している」

 少しだけ唇を離した瞬間に、エルシドは思わず呟くように告げていた。
 言葉が、自然に唇から零れ落ちるように。
 最初は同じような剣技を使うということで、興味を持っただけだったのだが。数日共に暮らしている間に、いつしかそれは特別な想いへと変化していたのだと、エルシドは紫龍に口づけて初めて気づいた。
 長く深いキスから紫龍を解放して抱き締めると、紫龍は弾かれたようにエルシドを見つめて、軽く胸を押し返してきた。
 そうされて初めて、エルシドは紫龍の了承も得ずにキスしてしまったことに気づいた。
「すまない、紫龍。俺は……」
「今、気がついた……」
 だが紫龍はエルシドの言葉が聞こえていないように、呆然としたように呟いた。
「あなたの小宇宙だったのか」
「紫龍?」
 呟いた紫龍の指が、聖衣をまとったエルシドの胸を、聖衣の凹凸をなぞる。
「この聖衣をまとった時に感じたもう一つの小宇宙は、あなたのものだったんだ」
 確信したように、紫龍は続けた。
「シュラが俺を助けてくれた時、俺にこの聖衣を着せてくれたんです。共に宇宙の塵になるはずだった俺を、無事に地上に戻すために。その時のことはよく覚えてないんですけど、でも俺を守ってくれる小宇宙を感じていました。シュラの小宇宙と、もう一つ別の小宇宙を。あれは……あなただったんですね、エルシド」
 見上げてくる紫龍の目が、涙で潤む。
 紫龍の話を聞きながら、エルシドは思い出していた。
「黄金聖衣には過去の装着者の記憶を蓄積する特性がある」
「老師から、そうお聞きしたことがあります」
「お前を愛しいと思う俺の記憶も、この聖衣に残る。それがお前を守ることになるのか……」
「そうなんだと思います」
 喜びと戸惑いが混在して複雑な表情を浮かべる紫龍の目尻から、涙が零れ落ちる。
 エルシドは吸い寄せられるように、唇でその涙を拭った。そのまま唇で頬から顎へと辿り、また目に戻り。頬を下へと辿って唇の端へ辿りついたエルシドは、もう一度深く唇を重ね合わせた。
 口裂から舌を忍ばせると、今度は紫龍が応えてエルシドに自分の舌を絡ませてくる。
 恋人がいるはずなのにキスに応えてきた紫龍に一瞬驚いて、だがすぐにエルシドはキスに夢中になった。キスだけでは満足できなくなって紫龍の体に手を這わせると、鼻に抜けるような甘い声を上げて紫龍は身をよじった。
「ん……」
「紫龍……」
 キスだけでも感じ始めているのか、紫龍の顔が上気して、蕩けた目でエルシドを見上げてくる。
 理性の枷が外れるのを、エルシドは感じていた。
「お前を愛したい。いいか?」
「……相手があなたならば、あの人はわかってくれると思います。それに、こんなに煽られたら、このまま放り出される方が辛い」
「それもそうだな」
 紫龍の言葉に苦笑すると、見上げてくる紫龍はさらに深い笑みをその顔に刻んだ。
「エルシド……聖衣をつけたままでするつもりですか?」
「そうだったな。忘れていた」
 エルシドは教皇の間から辞した時のまま、聖衣を身につけたままだったことに気づいた。装着者の小宇宙が高まるほどに聖衣は軽くなり、身に着けていることを忘れるほどに装着者と一体化するようにできている。
 だが、性の営みを行う時には、聖衣は邪魔になるだけだ。
 エルシドの意志に応えて、聖衣はエルシドの体を離れてそれぞれのパーツが合体し、山羊を模した形へと変化した。そして金の光の弧を描いて、パンドラボックスの中へと戻って行った。
「これでいいな」
 エルシドはアンダーウェアの上を脱いで、紫龍に覆いかぶさりながら口づけた。



「あ、エルシド……だめ、だ――あっ……」
 先端から粘液をにじませる性器をしごくと、紫龍の口から濡れた声が零れた。
「紫龍……」
「あ――っ!」
 眉を寄せて、なまめかしい声を上げて、紫龍がエルシドの肩に指を食い込ませてくる。びくん、と体が跳ねて、頭を逸らした紫龍の喉元が、無防備にエルシドの目の前に曝される。誘われるままに、エルシドは両鎖骨の間から頤へと舌で舐め上げた。
 紫龍の露に濡れた指先を後ろへと滑らせて、双丘の間の奥まった場所を探る。
「ぁ、……あ、ん……」
 襞を撫でて指を潜り込ませると、紫龍は小さく喘いでエルシドの指を受け入れた。
「あっ、あ――……っ!」
 壁の内側の襞をこすり、抉ったエルシドの指が感じる場所に当たったのか。紫龍はエルシドの下で大きくのけぞった。
「っ――紫龍……」
 密着した身体の下でのけぞる紫龍の太腿が、エルシドの熱を擦る。直接的な刺激に、エルシドの腰が疼いた。
「紫龍、入れていいか?」
「……は、い………」
 欲情に潤んだ瞳がエルシドを見上げてくる。紫龍ははっきりと頷いた。
 紫龍の脚を抱え上げて、エルシドは猛った己の性器を押し当てた。
「う、あ――……っ!」
 十分に解したとは言えない狭い場所に、質量のある己を捩じ込んでいく。紫龍は息を詰めて顔を歪ませた。
「ああ、紫龍……――くっ……!」
 恋人がいるのだからそれなりに慣らされているのだろうが、もともと性の営みをするために作られているわけではないそこは、やはり狭くてきつい。内壁で締めあげられて、痛み混じりの強烈な快楽に、エルシドは呻いた。
 これほどの快楽を味わったのも。
 どうしようもなく欲しいと思ったのも。
 紫龍が初めてだった。
「あ、紫龍、紫龍――……」
 夢中で紫龍を呼びながら、エルシドは腰を動かして紫龍の内壁を擦り、最奥を抉った。
「あ――あっ、ん、あぁっ!」
 エルシドに揺さぶられながら、紫龍の喉の奥から洩れる甘美な声。
 脚を抱え直して結合を深くすると、寝台が軋んだ。
「ああ――っ!」
「紫龍……っ」
 紫龍の腕がエルシドの背中に伸びて、しがみついてくる。
 ぎゅ、と中にいるエルシドを締め付けられて、思わず快楽に呻いた。
「う――……っ、ああ、紫龍――」
 紫龍に誘われるように、エルシドは動きを速めた。
「エル、シド……あ、あ、ああっ!」
「く、――……あっ!」
 大きく背中をのけぞらせて、びくびくと体を震わせながら紫龍は先端から樹液を吐き出した。紫龍の精液が腹を濡らすのを感じながら、エルシドもぐい、と深く突き入れて二度、三度と紫龍の中に射精した。

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ああ、やっとここまで進展してくれました(感涙)
エル龍第7話でした(^^)
ぶっちゃけ、聖闘士が起立性低血圧なんざ起こすか!?と自己ツッコミを入れてしまったんですが(苦笑)

これを書いていたのは実は7月中旬で。その時は特別な意図があったわけではなかったんですが、ちょうどLC第10巻の発売とこのお話の更新が1日違いになる、という偶然に恵まれました。
まぁ、某マンガによれば「この世に偶然はない。あるのは必然だけ」なので、これもまた必然ということなのでしょうか(笑)
必然であるとすれば、私の萌え心が引き寄せた巡り合わせの良さか!?なんて思うんですけど(笑)

当初は、エルシドさんとのHシーンは最後に1回のみの予定でした。
が、途中で私が我慢できなくなりまして(爆)
急きょここでHシーンを入れることになったという(笑)

おかげさまで、前期期末試験も無事に終了しましたので。
次回は8月15日に更新して、それからはまた5日ごとの更新ペースに戻せたらいいなぁ、と思っております。


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