perspective

perspective ~ dedicated to 友成ゆうこ様


everyday
i open the window

everyday
i brush my teeth

everyday
i see your face

in the gleam of a brilliant twilight
i see people torn apart from each other
maybe that's their way of life


 毎日、当たり前のようにお前の顔を見る。

 もう二度と、その顔を見ることはないだろうと思っていた、お前の顔。
 彫が深いわけではないが、すっきりと整っている美しいお前の顔。
 それを見ることも、毎日当たり前になっている。
 どれほど眺めても、見飽きることのない顔。
 笑った顔も泣き顔も、セックスの時に見せる官能的な顔も。
 どれもが愛しいと思う。

 欠けることなど考えられない、お前との当たり前の日常。

 高級料理店が提供する最高級の料理も、お前の手料理と比べたら劣って見える。
 達人が育てた、花弁の艶も色も形も申し分ない美しい薔薇も、お前の美しさに比べたら色褪せて見える。
 俺は本気でそう思っているけれど、お前はそれを聞いたらきっと謙遜してまともに取り合ってくれないだろう。

 お前がここにいる。
 当たり前の、心地良い空気が俺を包む。
 同時に、お前が意識していない色香が俺の心をざわつかせる。

 すぐに触れることもできる。
 お前が俺を拒絶するなんて、あり得ない。
 けれど、このまま触れずにいて、今俺とお前との間に流れている心地良い空気を壊したくない気持ちもある。
 相反する欲求が交錯する、もどかしさすら感じる微妙な距離感。
 けれどそれすらも、お前がいるからこそ味わえる感覚だ。
 気がつけば、先ほどまで読んでいたはずの新聞の文字が、全く目に入らなくなっていた。
 夕飯の支度をしているお前の後姿を、俺はつい凝視していた。

「……」

 俺の視線に気づいたお前が、野菜を刻んでいた手を止める。
 俺たちは聖闘士だ。
 加えて、俺とお前は右腕に宿る聖剣で繋がっている。
 地上と冥界に切り離れても、お互いの存在がわかる。
 お前の中に宿る俺の小宇宙が、常に俺の下へとお前を引きとめる。
 俺を求めるお前の心が、その作用をさらに増幅させる。
 言葉など交わさずとも、向けられた視線やその意味は自然に通じる。

 それだけではない。
 二度も視力を失ったお前は、視覚以外の感覚がかなり鋭い。
 だから余計にわかるのだろう。

 俺が凝視している視線が、ただ見つめているだけではない熱を帯びていることが。

「シュラ……」
「何だ?」
「あまり見つめられると、落ち着かないんだが……」
「俺がお前の後姿を見ていたいだけだ。気にするな」
「その視線が落ち着かないんだが」
「俺に見られるのは、イヤじゃないだろう?」
「………」
 お前の沈黙は、肯定を意味することが多い。
 そんなことも、お前と過ごす日々の中で俺は学んでいる。
「今日の晩飯は何だ、紫龍?」
「人参のサラダと鶏のトマト煮込みだ」
「チリンドロンか」
「好きだろう、シュラ?」
 俺に見つめられては落ち着かない、と言いながらも手際よく支度していくお前は、俺を振り返ることもなく尋ねてくる。
 けれどその小宇宙は、確実に俺だけを捉えている。
 それがわかるから、こういうやり取りも心地いいと思える。
「まぁな」
 だが、このまま見つめ続けていては、俺の方が理性を保てなくなってしまいそうだ。
 お前は無意識のうちに俺を誘うからな。

 俺は、視線を読みかけの新聞に戻した。
 そしてお前が夕飯の支度を終えて、俺に声をかけるのを待つ。
 きっと、今日の夕飯も美味いんだろう。お前が作るチリンドロンは実に美味い。
 いつものように心から美味いと、デリシオーソと言えるのを。
 二人で片付けをして、デザートに何よりも甘いお前自身を食うその瞬間を。
 今は待ちながら、俺はしばらくこの距離感を楽しむことに決めた。


Fin

written:2010.09.03
respect for ryuichi sakamoto
peter barakan from 「perspective」



何だかとっても久しぶりな更新なんですが。
ためこんでいるキリリクも何とかせねば……と思い、模索しておりました。
当サイトがFC2へお引っ越ししてから2万Hitのキリリクの権利をぜひ!と申し出て下さった友成ゆうこさんに捧げます。
トモさんのリクエストは「何気ない日常の幸せ」で「甘めな山羊龍」で「エロなしでいいです」とのことでしたので、★なし作品と相成りました。

なのに何故そんなに時間かかってんだ!?って感じなんですが(苦笑)

どんな話にしようかな、と長いこと考えていたんですが。
たまたまBSで坂本龍一教授のJAPANツアーの番組を拝見しまして。その中で演奏されていたのが、この「perspective」でした。
あらかじめプログラミングしてある自動演奏ピアノと、教授の生演奏。そしてスクリーンに映し出される映像が融合したような、教授ならではのコンサートだったんですけど。
この「perspective」の詩が映像に溶け込むように流れてきて、何だか可愛らしいメロディが聞こえてきて。

これだっ!!!

とひらめきました。
まぁ、ひらめいてから書き上がるまで結構時間がかかってしまったんですが。
たまにはこういう話もいいだろう、ということで。
楽しんでいただけましたら幸いです♪

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