ジェラシーの傷跡

ジェラシーの傷跡

~dedicated to 河野拓海様




 冬の昼下がり。
 紫龍は聖域の中央部にある十二宮の第1宮、白羊宮にいた。
「こんにちは、ムウ」
「いらっしゃい。お待ちしてましたよ、紫龍」
「毎日すみません」
「いいんですよ。私も貴方が来てくれると嬉しいですし、何よりも貴鬼が喜びますからね」
 恐縮した様子を見せる紫龍に、ムウは優雅に微笑した。
「しりゅ~う!」
 ムウが言ったそばから、甲高い声が響いた。と思った次の瞬間には、紫龍の左肩に癖の強い短い髪にクルッとした大きな目の可愛らしい少年が飛びついていた。
「こんにちは、貴鬼」
 何もなかった空間に突然姿を現した少年に動じることなく、紫龍はにっこりと微笑した。
「えへへ、いらっしゃい、紫龍」
「今日もお邪魔させてもらうが、よろしく頼む」
「邪魔だなんて、とんでもない。いっそのこと、天秤宮を引き払ってここに越して来てもいいんですよ」
「それはさすがに遠慮します」
 貴鬼とムウに律儀に答えながら、紫龍は微笑した。
「それより、今日もお借りしていいですか?」
「どうぞ。昨日の続きですね」
「道具も全部出してあるから、すぐに取りかかれるよ」
「ありがとう」
 貴鬼に手を引かれて、紫龍は白羊宮の奥へと進んだ。



「お前、最近白羊宮に入り浸っているようだな」
 数日ぶりに磨羯宮を訪れた紫龍は、シュラの言葉に一瞬ヒヤリとした。
 コーヒーカップをソーサーに戻そうとした手が止まる。
「毎日ムウの所に通っているようだが」
 俺のところには数日ぶりだってのにな。
 そんな呟きが、シュラの言葉の裏側から聞こえてくるような声音だった。
(今はまだ、知られるわけには……)
 シュラは紫龍の恋人とはいえ油断も隙もなく、誤魔化すのも至難の業という厄介な相手だ。そんな彼を納得させる理由はないか……と紫龍は脳をフル回転させて考え出した。
「老師から命じられたんです」
「老師から?」
 老師こと天秤座の童虎は紫龍を聖闘士として育て上げた師匠だ。二百数十年前に起きた聖戦の生き残りであり、今は天秤宮の守護を紫龍に任せ、自らは前の聖戦からの親友――というのは表向きのことで、実際は恋人なのだが――である教皇シオンの補佐として聖域のナンバー2の地位にある男だ。
 紫龍の保護者である童虎の意向は、シュラとしても無視するわけにはいかない。
「俺のような未熟者は、黄金聖闘士たちから学ぶべきことも多い。シュラだけではなく、他の聖闘士にも教えを乞いなさい、と」
「それで、まずはムウから、ということか?」
「はい。ムウは俺が聖闘士になりたての頃から懇意にしていただいているので」
 紫龍の言うとおり、ムウが紫龍と懇意にしていることはシュラも知っている。彼が聖闘士になったばかりの頃、破損した聖衣を修復するためにムウが住んでいるジャミールを訪れていたことを。その時、自分だけでなく友のために命をかけた紫龍を見て感銘を受けたムウが、青銅聖闘士の中でも特に彼を可愛がっていることも。その裏に、下心が潜んでいることも込みで。
 だからこそ、紫龍がムウの所へ頻繁に出入りしているというのは気に食わない。たとえそれが紫龍の師である老師、天秤座の童虎の命であるとしても。
「老師に言われたことをムウにお話したら、ムウも快く引き受けて下さったので、それで……」
 紫龍は更にそう続けた。
 こう言い訳しておけば、シュラは納得してくれる。
 そう思っていたのだ。
 だが、紫龍の思惑は外れた。
「お前、老師の命だと言えば、俺が何でも納得すると思ったか?」
 シュラの鋭い視線が紫龍を射抜いた。視線だけで人を殺せる、と噂されるほどの険呑とした視線が。
「シュラ……」
 呟くように呼びかけた紫龍の声が聞こえたのか、それとも聞こえなかったのか。
 シュラはスッと動いたと思うと、紫龍をソファに押し倒して上から圧し掛かった。
「シュラ、何をっ!」
「お前がムウの所に行くのも気に食わないが。老師の命令だというのが、もっと気に食わん」
 紫龍の動きを封じて、シュラは噛みつくように唇を重ねてきた。
 気に入らなかった。
 老師の命令だから、とあっさりそれに従ってしまう紫龍が。
 以前もそうだったのだ。恋人同士になって、付き合いもそれなりに長くなって。週に3日は磨羯宮に泊まってシュラと過ごすようになった頃。シュラは童虎に紫龍との同居を許してもらうように申し出た。
 だが童虎は、紫龍が天秤宮を出ることを許さなかった。
 理由を明らかにすることもなくただ、許すわけにはいかない、と。
「シュラ……いやっ!」
 息を継ぐために唇が離れた瞬間に、紫龍の唇から拒絶の言葉が漏れる。
 シュラはそれを力で押さえこみ、紫龍の股間に手を伸ばした。文字通り急所に当たる場所を握り込み、まだ息づいてもいないのに刺激を加えた。
「や……やめっ!」
 苦痛しか生まない刺激に、紫龍は呻いた。
 シュラは、紫龍がそれ以上の拒絶の言葉を吐くことも許さなかった。
 再び唇を塞ぎ、舌で口腔を犯し、愛撫の手を強めた。
「ムウの所へは、行かせない」
 ゾッとするほど低く、残酷な声で囁いて。
 シュラは紫龍の首筋に噛みついた。



 シュラの唇が首から胸へと下りていく。
 その軌跡が、紫龍の肌にくっきりと刻まれている。
 噛み痕の歯型。
 きつく吸い上げた証の鬱血。
 紫龍の肌に赤い痕が無数に散っていた。
「あ……やめ……っ」
 唇が弱い拒絶の言葉を紡ぐ。
 紫龍の口から拒絶の言葉が一つ出るたびに、肌へと刻まれる歯型が一つ増える。
(行かなければ……今日は―――……)
 肌に加えられる刺激は、痛みと快楽。
 紙一重なようで、相反する刺激。
 翻弄され、考えがまとまらない頭で紫龍は思った。
(行かないと、いけないのに……)
 ムウと約束したから、というだけではなく。白羊宮に行かなければならない理由が、紫龍にはあった。
 けれど、ムウの所へは行かせない、と宣言したシュラを止める術は、紫龍にはない。言い出したら最後、どんな手を使ってでも必ず成し遂げる男だと、紫龍は誰よりもよく知っている。
 理由を全て話してしまえば、納得してもらえるとわかっている。
 けれど、それはできない。
(シュラのためなのに……)
 己の世界へ行きかけた意識が、胸を強く吸われる刺激で引き戻される。紫龍がシュラ以外のことに気を取られるのも、許されない。
「……っ、あ――……っ」
 いつもは愛の言葉を添えて与えられる愛撫。
 けれど今は。
 紫龍の弱点を知り尽くした指が、唇が、舌が。
 無言で確実に紫龍を追い詰めてくる。
「シュラ……」
 肌を滑る愛撫も、汗の臭いも、男の体温も。
 全て慣れ親しんだものなのに。
 知らない男に抱かれているようだと、紫龍は思った。
 体に刻まれる噛み痕の痛みよりも。
 心が痛い。
 溢れ出た涙が、頬を伝った。
 どうした?と。
 いつもならばすかさず気遣ってくれる声も、今はない。
 零れた涙を吸い取ってくれる唇も。
「シュラ……」
 頬を濡らす涙は、歓喜で満たされた情交の証ではなく。
 悲しみで彩られていた。



 あちこちに自分の噛み痕が残る紫龍の体を、シュラは責めていた。
 こんな風に抱きたいわけではない。
 けれど止められない。
 紫龍を心ゆくまで責め苛んでしまいたい。
 心のどこかで芽生えていた欲望。
 いつもは気づかないふりをして、目を逸らしていた欲望。
 それが、シュラの手をすり抜けて別の男の許へ行こうとする紫龍を見て、そのために自分を拒もうとする紫龍を目の前にして、完全にシュラを支配した。
「シュラ……」
 弱々しくシュラの名前を呟いて、紫龍が涙を流す。
 手酷いことをしている、という自覚は十分にある。
 それでも、自分のために泣き、歓喜ではなく絶望と悲しみに彩られた紫龍を、シュラは美しいと思っていた。
「……つっ!」
 陽に曝されることがなく、白く瑞々しい太股の内側にも、シュラは噛み痕をつけた。肌も薄く、敏感な場所に与えられた苦痛に、紫龍は声をあげて顔を歪ませた。
 肉体に加えられるのは、苦痛。
 快楽が過ぎれば苦痛になるように。
 苦痛もまた、快楽へと変わる。
 その証拠に、紫龍の陰茎は硬く勃起していた。
 最初に紫龍の動きを封じるために服の上から触っただけで、一度もシュラはそこに触れていない。
「一度も触ってやってないのに、こんなにしてるのか」
 揶揄するように話しかけてから、シュラは気づいた。紫龍を押さえ込んで責め始めてから、ようやくまともに声をかけてやったことに。
「目を開けて見てみろ。自分がどうなっているかをな」
 紫龍が薄く眼を開けて、のろのろと視線を自分の中心へ向ける。
「触れてもいないのに、こんなにして……いやらしい体だな、お前」
「……っ」
 上気した紫龍の頬に、更に朱が走った。
 とっさに視線を逸らし、顔の動きに従って流れる紫龍の髪を、シュラは乱暴に掴んで視線を引き戻す。
「これでもまだ、白羊宮へ行くつもりか?」
「や……や、め……あっ!」
 言葉で責め苛みながら、シュラは髪を離して勃起した紫龍の陰茎を掴み、弱い先端を乱暴に擦った。
 紫龍は拒絶の言葉を口にしながらも、次の瞬間には快楽の喘ぎを漏らす。
「やめろ、だと? このままやめてやろうか?」
「やぁ……っ!」
「擦られるのも、やめるのも嫌なのか。いったいどうしてほしいんだ?」
 問いかけながら、皮一枚触れるかどうかの距離で、シュラは紫龍の陰茎をなぞった。
「ここを擦ってほしいか? 舐めてほしいか? それとも、後ろに欲しいのか?」
「……も、………くせに」
「なんだ? 聞こえないぞ」
「言っても、どうせ俺の言う通りにはしないんでしょう、貴方は」
 言いながら、紫龍がシュラを睨みつけてきた。
 初めて会った時のように、怒りに満ちた視線がシュラを射抜く。
 日頃は穏やかな顔をしている紫龍の、もう一つの本性が露わになる。
「いい目だ」
 ゾクゾクした。
 いつも紫龍を抱くのとは全く違う、けれどどこかでこうなることを望んでいた感覚だった。
 どうしようもなく、興奮する。
「よくわかってるじゃないか。なぁ、紫龍?」
 シュラは衝動のままに動いた。
 紫龍の口をこじ開けて、己の牡の象徴を押し込んだ。
「歯を立てるなよ」
「ん……ぐっ!」
 腰を動かして、紫龍の口腔を喉まで犯す。
 誰よりも愛する恋人を犯す、倒錯した悦楽。
 何度も突き入れられて、喉の奥まで犯されて。
 紫龍の唇の端から唾液が漏れる。
「ふ………、んぅ……っ」
 普段の彼からは想像できないほどあられもない姿を曝す紫龍に、征服欲が満たされていく。
「ん……っ、うぅ……」
 温かく濡れた口腔の感触を楽しんで陰茎を引き抜くと、それは紫龍の唾液でしとどに濡れていた。
 息苦しさから解放され、紫龍は浅く息をして、時折軽く咳き込んだ。
 そんな紫龍の様子には構わず、シュラは彼の脚を抱えて秘部を曝け出させた。
「――っ! あ、ああっ!」
 まともに濡らしても、馴らしてもいない紫龍のそこに。
 シュラは紫龍の唾液が滴るほどに濡れた陰茎を捻じ込んだ。
「……っ、さすがにキツイな」
 受け入れる準備が整っていない場所に、最も敏感な先端をキリキリと締め付けられる。強烈な異物感に、生理的に排除しようとする動きが加わって、シュラを締め出そうとする。
「……や、ぁ……っ!」
 紫龍の顔が苦痛に歪んだ。
 だが、シュラはそれに構わず腰を使い始めた。
「やっ! やぁっ、シュラ……シュラッ!」
「くっ……力を抜け、紫龍」
 無理に動けば紫龍を傷つけるとわかっている。
 それでも、膨れ上がった欲望を解放するには、他に方法がない。
「紫龍!」
「いや……ぁ。こんな………っ!」
 身も心も苛まれる紫龍に、シュラを気遣う余裕などない。
 シュラは軽く舌打ちして、紫龍の中心で縮こまってしまった陰茎に手を伸ばし、やんわりと愛撫を加えた。
 前から快楽を。
 後から苦痛を。
 同時に与えられる強烈な刺激に紫龍が身悶え、体の動きに合わせて長い黒髪がソファの上で淫らに蠢く。
「やめ、ろ……っ。俺は、行かないと――のに……」
 シュラを無理やり受け入れさせられてもなお、紫龍の口から拒絶の言葉が出た。
「今日行かなければ、ダメだったのに!」
「紫龍……お前、まだ……」
 シュラは一瞬呆然とした。
 次の瞬間、怒りが一気に脳天へと突き上げた。
「まだそれを言うのかっ!」
「う――……っ、あ、ああぁっ!」
 怒りにまかせ、シュラは紫龍の粘膜が裂けるのも構わずに腰の動きを速めた。
 容赦なく突き上げ、奥の奥まで犯す。
 脚を抱え上げられ、折り曲げられ、息も絶え絶えになりながら苦痛に耐える紫龍の目から、とめどなく涙が溢れ出る。
「あ……あっ、あ……っ!」
「………」
 シュラに揺さぶられながら、苦痛とも快楽ともつかない声が、絶え間なく紫龍の口から漏れる。
 シュラは荒く息をつきながら、無言で紫龍を犯し続ける。
 やがてシュラの動きが一層速くなって、紫龍の中で果てるまで。



 気を失った紫龍を寝台に運び、自分もひと眠りして目が覚めた時。
 外はもう、暗くなっていた。
 満月の冴えた光が、室内を冷ややかに照らしていた。
 シュラの横で、血の気の引いた紫龍の顔が月明かりに照らされて一層白く映え、シュラはヒヤリとした。
「紫龍」
 呼びかけても、返事はない。
 紫龍の寝息だけが、室内に響いた。
「紫龍……」
 顔にかかる髪をそっと払い、優しく頬に触れる。
 白い顔と対照的に、体のあちこちに赤い噛み痕と鬱血が散っている。
「………」
 酷い抱き方をしてしまった、とシュラは少し後悔した。
 だが、何かを隠している様子の紫龍に。
 隠したままで誤魔化して、ムウのいる白羊宮へ行こうとする紫龍にどうしようもなく腹が立って、許せなかった。
 こんなにも心が狭く、罪深い男なのだと。
 シュラは思い知らされた。
 紫龍が目を覚ますまでにせめて体だけでも清めてやろう、とシュラは寝台を下り、下着とシャツを身につけた。
 タオルを湯で濡らし、紫龍の体を拭いてやる。
「……っ」
 シュラが案じたとおり、秘所は粘膜が傷いて流れた血が乾いてこびりついていた。
「紫龍……」
 自分が犯した罪を目の当たりにして、申し訳なさと愛しさが募る。
 体を清め終えたタオルを脇のテーブルに置いて、前髪をかき上げて額にそっと口づける。
 許しを請うように。
 その時。
 シュラの口づけがきっかけだったかのように、紫龍が目を覚ました。
「シュ、ラ……?」
「目が覚めたか」
 パチパチと瞬きをして、紫龍はシュラの姿を認識した。
 シュラはもう一度、紫龍の額に軽くキスをする。
「もう少し休め。酷い抱き方をして、すまなかった」
 紫龍を安心させるように、シュラは優しく紫龍を抱きしめた。
「もう暗くなってる……」
「ああ。今夜は満月のようだな」
「今、何時なんだろう?」
 問われて、シュラは傍らのテーブルにある時計を見た。
 月明かりで見える時計の針は、深夜に近い時間帯を差していた。
「10時を過ぎたところだな」
「10時……そんなに……」
 シュラの胸に体を預けたまま、紫龍は呟いた。
「ごめんなさい」
 謝罪の言葉を口にしたのは、懺悔しなければならないシュラではなく、紫龍の方だった。
「お前が謝ることじゃないだろう。悪いのは俺の方で……」
「違うんだ」
「紫龍?」
「ちゃんと祝いたかったのに、俺は……」
 紫龍はシュラのシャツを握って、シュラの胸に頬を埋めた。
 頬が当たるシュラのシャツが、じわりと濡れる。
「紫龍……何を、泣いて……?」
「今日は貴方の誕生日だから。だから、ちゃんとプレゼントも用意して、おめでとうを言って、祝いたかったんだ。なのに、俺は……」
 何一つできなかった。
 ポツリと呟いた紫龍の言葉に、シュラは己の罪深さを知った。
 そして同時に悟っていた。
 紫龍がどうしても白羊宮へ行くことにこだわった理由を。
「お前、もしかしてムウの所に出入りしていたのは……」
「今日、最後の仕上げをするつもりだったんだ。シュラがシエスタを取っている間に」
 紫龍を抱きしめたまま、シュラは思わず天を仰いだ。
 つまり、紫龍はシュラへの誕生日プレゼントを用意するために、それも手作りするためにムウの力を借りていたのだ。聖衣を修復し、あらゆる金属を操ることのできるムウと、その弟子のいる白羊宮で。
「もっと早く準備していればよかったのに、こんなことになって……。ごめんなさい、シュラ」
「謝るのはお前じゃない、俺の方だ」
 涙でシュラの胸を濡らす紫龍を、シュラはきつく抱き締めた。
「お前の話をまともに聞こうともせずに、勝手に誤解して嫉妬して、手酷くしてしまった俺が悪かった。すまない、紫龍」
 シュラは紫龍の頬に手を添えて、顔を上向かせた。
 涙に濡れる今の紫龍は、シュラに犯され、苛まれながら泣いた紫龍よりもずっと美しかった。
「俺は自分の醜い欲のために、お前の真心まで踏みにじってしまった。本当にすまない」
 抱き締めていた腕を解いて、シュラは紫龍に頭を下げた。
「シュラ……」
 項垂れるように頭を下げるシュラに、紫龍はそっと腕を伸ばして抱き締めた。
「貴方がそういう人だとわかっていて、何も言わずに隠し通そうとした俺も悪いんだ。ちゃんと、朝早くにここにきて、伝えておけばよかった」
 少し体を離して、紫龍は顔を上げたシュラを見上げてきた。
「ずいぶん遅くなってしまったけれど、まだ日付が変わる前だから、許してほしい。誕生日おめでとう、シュラ」
 静かに、けれどはっきりとそう告げた紫龍の微笑を、月明かりが照らす。
 その表情は何よりも愛しく、美しい。
「こんな俺でも、そう言ってくれるのか?」
「プレゼントを今日中に渡せなかったのは、シュラのせいだからな」
「わかってる。夜が明けたら、改めて祝ってくれ」
「1日遅れになるけど、いいのか?」
「お前が祝ってくれるというのなら、別に構わん」
「……わかった」
 シュラの言葉に頷いた紫龍を、シュラはもう一度抱き締めた。

Fin

written:2009.1.13



FC2にお引っ越ししてからのサイトで1万ヒットの切り番を踏んで下さった河野さんからリクエストをいただきました、山羊龍作品をお届けしました(^^)
……まだ8000ヒット御礼の作品も書き上がっていないというのに(汗)
しかも、山羊さまの誕生日に間に合わせようと思っていましたのに、完成したのは日付が変わった後(滝汗)

いろんな意味で、申し訳ないですっ(>_<。)

河野さんからのリクエストは、「山羊龍で、嫉妬する山羊さま」
前回は「嫉妬する相手は青銅で」とのことだったのですが、「今回は黄金がいい」とのことでしたので、前回候補に上がっていながら降りていただいたムウ様を嫉妬の相手にしてみました。
エロのレベルは、言わずもがな。
エロ大魔神の河野さんのことですからね、限界に挑戦しろ、という難題をいただきました(笑)

ムウ様に嫉妬するお話で、エロ最上級を目指せ。
ということだったからでしょうか。
エロが全然甘くない、というか当サイトにしては珍しく、ちと暴力的な感じになってしまいました(汗)

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