Illness Illusion

Illness Illusion

~dedicated to 河野拓海様



ついておいで…

 囁かれる声に導かれるままに、紫龍は暗闇の中を歩いていた。
 微妙にトーンの違う、でもよく似ている二つの声。
 甘い囁き。
 左右から、二人の男が紫龍の手を取って誘う。
 自分の姿すら見えない闇の中だというのに、二人の男の足取りには全く迷いがない。暗闇の中を見通しているかのように、一人の男が紫龍の左手を、もう一人が右手を取って紫龍を導いた。

 ダメだ、このままでは……

 歩きながら、紫龍の理性が制御をかけてくる。
 けれど、抗うことのできない強い欲求に衝き動かされるままに、紫龍は二人の男に身を委ねていた。
 両側にいる男たちが立ち止まる。
 目の前には、翠の淡い光を放つ扉。
「紫龍」
 二人が同時に呼ぶ声が左右から聞こえて、紫龍を促す。
 促されるままに、紫龍は扉を開けた。
 そこは、広いのか、狭いのか、よくわからない空間だ。
 窓もない、明かりもない。
 けれど、全体的に翠の淡い光に満たされた世界。
「ついておいで」
 甘い囁きに導かれるままに、紫龍は空間の中心にあるベッドへと進んだ。
 体を横たえると、程よい弾力のあるマットと、肌触りのよいシーツが紫龍を包む。
「紫龍」
 呼びかけられて見上げると、淡い翠の光の中、同じ顔が左右から紫龍を見下ろしてきた。
 ああ、また来てしまったのだ。
 紫龍はぼんやりと思う。

 それは、淫らな幻想。
 強すぎる小宇宙が生んだ、次元の歪み。
 夜ごと繰り広げられる宴。
 劣情に焦がれる身体。

 このままでは……

 考えようとした思考は、左側から与えられたキスで霧散した。
 唇を啄ばむキスに、紫龍は自分から口腔を開いて相手の舌を迎え入れる。
「シュラ……」
 キスの合間に名を呼べば
「愛している」
 愛の言葉が与えられ、同時に深く口づけられる。

 流されてはいけない……

 止めようとする理性は、右側から与えられた愛撫で麻痺した。
 無骨な指が、優しく巧みに紫龍の頬を、胸を這いまわり、唇がそれを追いかけてくる。
「エルシド……」
 吐息混じりに名を呼べば
「……」
 答えの代わりに愛撫の手が強くなる。
 左からシュラが、右からエルシドが。
 時に同時に、時にタイミングをずらして、胸に愛撫を加えてくる。
 もう一歩進めば、苦痛に変わる紙一重の快楽。
「あ……もう――……っ」
 執拗な愛撫に白旗を振ると、エルシドの唇と指が紫龍の腹に降りた。
 同時に、もう一度シュラに口づけられる。
 互いの舌を貪りながら、エルシドが与えてくる刺激に悶える。
「ん……っ、シュラ……ぁ――……エル、シド……」
 シュラのキスから解放され、エルシドの愛撫に溺れそうになった意識が、不意に引き戻される。下肢の間で熱を持ち始めた陰茎にシュラが触れ、自分の存在を主張してくる。同時にエルシドもシュラに負けじと、再び胸に執拗な愛撫を加えてくる。
「あ……あっ、あ……んっ」

 快楽はもう止められない。
 過ぎた快楽は苦痛に似るのだと。
 紫龍は二人に愛されて初めて知った。

 紫龍は、寝転がったシュラの上にうつ伏せにされた。
 下からシュラが陰茎を口に含み、吸い上げる。
 後ろからエルシドが紫龍の秘所に舌を這わせ、指を差し入れてくる。
「あぁ………あ、ダメ……だ」
 二人のカプリコーンに翻弄される。
「シュラ……エルシド……」
 陰茎を愛撫するシュラの舌も、秘所を掻き回すエルシドの指も。
 どちらも紫龍を狂わせる。

 シュラとエルシドは、お互いに会話を交わすことはない。
 目を合わせることも。
 けれど、同じ山羊座を守護にもつ聖闘士だからなのか。
 二人の息はピタリと合っていて、紫龍を翻弄する。

 こんな夜を過ごすのはもう何度目になるのか。
 二人はどちらか一人が途中で消えてしまうこともあった。
 その時は、残った一人と愛し合う。
 愛し合っている途中で、二人が入れ替わっていることもあった。
 自分の中にいるのが、どちらの山羊座なのか。 
 わからなくなったのも、一度や二度ではない。
 けれど、それもまた、快感だった。

 その夜、最初に紫龍に入ってきたのはエルシドの方だった。
 ベッドの上に手をついて、膝をついて、獣の格好でエルシドを迎え入れる。
「あ……あぁ、ん……っ」
 せり上がってくる異物感と圧迫感は、すでに体に馴染んだもの。
 更なる快楽を生むためのスパイスだと、紫龍は知っている。
「ああ……あ、あっ!」
 エルシドが腰を使うや否や、紫龍の唇から立て続けに声が漏れた。
 脊髄を駆け上がってくる快感に支配される。
「あっ、あ――……んっ!」
 体を支え切れなくなり、紫龍は肘からベッドへ崩れ落ちた。
 エルシドを迎え入れて支えられている腰は高々と上げたまま、上半身だけベッドに突っ伏した体を、シュラが抱き起こす。
「しゃぶってくれ。俺もお前と一緒に気持ち良くなりたい」
 優しく顎を撫でられて、懇願と共に促される。
 甘い誘惑に導かれるまま、紫龍は目の前に現れたシュラの牡に手を伸ばす。
「シュラ……」
 エルシドに内襞を抉られ、快楽のため息と共に囁かれた名前に、シュラが口の端を歪めた。
「いい子だ、紫龍」
 屹立した幹に指を絡め、膨らんだ先端に唇を寄せる。
 軽く唇で触れると、シュラの唇から満足げな吐息が漏れる。
「……っ、あぁ……いいよ、紫龍」
「ん……っ、ぅ――……ぁ、ん……むっ」
 後からエルシドが感じる場所を突いてくる。
 何度も、何度も。
 その刺激に意識を奪われそうになりながら、紫龍は夢中でシュラにむしゃぶりついた。
 先端を吸って、奥深くまで飲み込んで、指で擦って……
 シュラに教えられた愛撫の手順を、そのまま返していく。

 エルシドの動きが次第に速くなる。
 その動きに合わせて、紫龍もシュラへの愛撫を深くする。
 深く、強く。
 もっと、もっと感じて……

 シュラが紫龍の口の中で。
 エルシドが紫龍の中で。
 紫龍がエルシドの掌に包まれて。
 果てたのは、3人ともほぼ同時だった。

「今度は、俺が」
 紫龍の息が整うよりも、シュラが力を吹き返す方が早かった。
 エルシドがズルリと出ていったと思うと、間を置かずにシュラが入ってきた。
「あ……あっ!」
 弛緩した体を再び快楽の嵐が襲う。
「ああっ、あ――……っ!」
 シュラに貫かれ、揺さぶられて声を上げる唇は、エルシドによって塞がれた。

 幾度となく繰り返される快楽の追復曲。
 ベッドの上で踊る悦楽の円舞。
 二人の男に与えられる愛撫の輪舞。

 一人だけでは足りない。
 二人の山羊座に愛されたいという、淫らな願い。
 その願いを可能にする、強大な小宇宙。
 強すぎる小宇宙が次元を歪め、空間を歪めた。
 異なる時代を生きる二人の男が、そこにいた。
 共に存在するはずのない二人。
 限りなく現実に近い幻夢。

 だが、歪めた時空を維持し、存在するはずのない者を維持するには莫大な小宇宙を必要とする。
 神をも倒す小宇宙を持つ紫龍といえど、永遠に維持し続けることは不可能。
 いつかは、消え去ってしまう世界。 
 けれど、それまでは。

 消え去るこの世界で
 あなたと愛し続ける
 ためらいも 迷いも
 いらない

ついておいで……

Fin

written:2009.02.05



前回アップした作品に続き、引っ越し後のカウンターで8000の切り番を踏んで下さった、河野拓海さまからリクエストいただきました山羊龍です。
河野さんからリクエストをいただいたのが、昨年9月のパラ銀7終了後に行われた、紫龍受けお茶会でのこと。

河野さん:「私、8000番踏んだんだけど」
私:「あー、ほな、何か書くわ。やっぱ山羊龍?」
河野さん:「もちろん!」
私:「そうやろな。で、どっちの山羊がいいの?」
河野さん:「どっち……? じゃぁ、両方!」

一部脚色ありですが、こんな会話が交わされまして。
ちょうどエル龍を書き上げた直後だったもので、私もうっかり言っちゃったんですよね。どっちがいいの?と。
かくして、W山羊で山羊龍を書くことになったワケであります。

実は、話のネタだけはリクエストをいただいた翌日にできてたんですよね。
このお話のタイトル、Gacktさんのアルバムに収録されている曲からいただいたのですが。パラ銀の翌日に地元に帰還して車に乗り込んだ時、ちょうどその曲がCDから流れたのですよ。
で、「これだっ!」となったわけです。
完成するまでにめっちゃ時間がかかってるんですが(汗)

このお話、ただヤッてるだけのお話である上に、日頃はあまり使わない表現を試みているので、若干わかりづらいかもしれません。
だとしたらごめんなさい、なのですが……
楽しんでいただけましたならば、幸いであります。

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