チャーミークリーン

チャーミークリーン


 その時、前方に見覚えのある後姿を見つけた。
 声をかけようとして、はたと気がついた。
 そして駆け寄ろうとした足が止まった。
(手、つないでる……!?)
 前方にいるのは、長い黒髪の青年。
 その隣にいるのは、彼とほとんど身長の変わらない、彼の師匠。
 見た目は18歳で彼と同じ年頃なのだが、
 実は二百数十年もの年月を生きてきた、聖域の実力者。
 その二人が。
 仲良く手をつないで歩いている、という事実に星矢は驚いていた。

 確かに、紫龍と彼の師である天秤座の童虎は仲がいい。
 何せ紫龍は事あるごとに「老師が仰っていた」と口癖のように言っている。
 そして童虎も出来がいいけれど結構無茶をする弟子が可愛くて仕方ない、といった様子だった。
 その二人が。
 アテネの市街地を、仲良く手をつないで歩いているのである。

 いつもの星矢ならば、「しりゅう~!」と呼びかけて遠慮なく飛びつているところだ。
 だが今は、とてもそれができる雰囲気ではない。
 二人はとても仲がよさそうなのだ。
 そして時折顔を見合せて微笑み合っているその様子といったら……
(どう見ても、ただの師弟って感じじゃないよなぁ)
 星矢は少しいたたまれない気持ちになって、ポリポリと頭をかいた。
(あの二人って、いつからそういう関係だったんだ!?)
 考えている間に、自然と星矢の歩調が速くなっていたらしい。
 前方にいる二人との距離が、近づいていた。

「星矢!」
 不意に、紫龍が星矢を振り返って呼びかけてきた。
 童虎とつないでいた手を外して。
「お前も街に出ていたのか」
「あ、ああ。小宇宙でバレちまったか?」
「それもある。でも、お前が壁に映ったのが見えたからな」
 気まずそうにする星矢に、紫龍は柔らかく微笑してみせた。
「老師と二人で買い物にでも来てんのか?」
「ま、そんなところじゃな。これからどこかで昼を食べようと思っておったのじゃが、お前もどうじゃ、星矢」
 星矢の問いに答えたのは、童虎の方だった。
 加えて、お昼まで誘われてしまった。

 ここは、断るべきだよな。邪魔しちゃ悪いしな。

 思う星矢をよそに、紫龍は師匠の提案を名案だ!と絶賛した。
 ノリノリ、といった様子で。
「老師もこう仰って下さっているし、せっかくだから一緒に行こう。どうせ帰る場所も同じだからな」
(いや、お前と老師が良くても、俺って完全に邪魔者だろ?)
 それは心の中で呟いただけで、声には出せなかった。
「お前がそう言うなら、お邪魔するぜ」
 星矢は仕方なく承諾した。
 星矢が加わったことで、手をつながなくなった二人に心の中で詫びながら。


Fin



ずーっと長いこと、拍手お礼画面に掲載していた童虎×紫龍です。
そういえば、アンソロでは書いてましたが、サイトに載せるのは初めてでしょうか?

お礼画面でも書きましたが、この元ネタ。
実話です(笑)
付き合っているとは全然知らなかったクラスメイトな男女が、手をつないで仲良く登校している所にばったり出くわしてしまったという……
なので、星矢ちゃんの心境は、そのまま私の心境でありました(苦笑)

そしてこのお礼SSを掲載したところ。
某様より「チャーミークリーンだ!」(こういう製品名の台所洗剤のCMで「これを使うと手をつなぎたくなる~♪」というのがあったのです;)との感想をいただきまして。
この度、サイトに転載するに当たり、そのままタイトルにしちゃいました(汗;)

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