ハートにご用心

「紫龍、今日は教皇の間の浴室へ行かないか?」
「あ……すみません。ちょうど星矢たちと約束しているので、今から行こうかと思ってたんです」
 たまには気分を変えて広い風呂に入ろう、というシュラの目論見は、最愛の恋人のつれない一言によってあっさりと破られた。
「今から?」
「はい。っと、時間に遅れるので、行きますね」
 紫龍は入浴セットと着替えの入った風呂敷を手にして、そそくさと磨羯宮を出て行った。
「紫龍……」
 むなしく呟くシュラを残して。
 こと恋人の事にかけては全く卒のないシュラが、珍しく後れを取った瞬間であった。

ハートにご用心~dedicated to 河野拓海さま


 紫龍が磨羯宮を出て行ってから約1時間後。
 シュラは、その教皇の間にある大浴場にいた。
 もともと教皇の間には日常使いのための浴室と、潔斎などの際に沐浴として使用する浴室があった。13年前、黄金聖闘士の一人である双子座のサガが反乱を起こし、教皇であったシオンを殺めて教皇になり代わった。教皇になり代わったサガは、もともとの風呂好きが昂じて、その浴室を大改装した。
 ……つまり、自分の好みに合わせて日常使い用の浴室も、沐浴用の浴室、どちらも広くしたのである。
 聖戦が終わり、シオン以下黄金聖闘士たちが全員蘇り、シオンが再び教皇に返り咲いてから、その浴室には再び手が加えられた。
「勝手に浴室を広げおって。無駄な予算を使いおったな、サガよ!」
 浴室を大改装したサガを一喝し、シオンは特に広く作られていた沐浴用の浴室をスパや温泉宿のように改装し、聖闘士たちに開放したのである。
 と言っても、利用するのは一部の聖闘士だけなのだが……
 なにせ、浴室のある場所は聖域の中でも最も奥まった場所にある教皇の間。そこへ辿り着くには、12宮を通ってこなければならない。12人の黄金聖闘士が全て揃っている今、その12宮を全て通り抜けて教皇の間を目指す勇気をもった白銀以下の聖闘士など、皆無である。
 そして黄金聖闘士たちも、自宮にそれなりの広さがある浴室があるため、わざわざ教皇の間へやってくる必要がない。
 よって、利用しているのは主に、女性用の浴室しかない女神神殿に暮らしている青銅聖闘士――紫龍の兄弟たちなのだ。
「この俺が先手を打たれるとはな……」
 浴室の利用は、予約制だ。
 利用したい時間を1時間単位で予約して、その時間は貸し切り状態で使うことができる。泡風呂や檜風呂、打たせ湯や寝転がることのできる浴槽などなど、入り放題なのである。
 たまにはその大きな浴室で紫龍と二人でゆっくり……と思っていたシュラは、1週間前から予約を入れていた。そして当日、直前に紫龍を誘って驚かせてやろう、と企んでいた。それが徒となったのか、シュラの前に天馬星座やアンドロメダ座の青銅聖闘士たちが予約を入れてきたのである。

 あろうことか、紫龍まで誘って。

 天馬星座の星矢は紫龍によく懐いているが、シュラの先手を打とうなどという頭が回る少年ではない。基本的に単純で単細胞な頭をしている。
 となると、これを仕組んだのは……
(おのれ、アンドロメダ……)
 今生のハーデスの依り代に選ばれるほど清らかな魂をしている……とはとても思えない腹黒さを持ち合わせた、一見すれば美少女と間違えてしまいそうな容貌をしているアンドロメダ座の瞬である。
 もともと、青銅聖闘士たちは紫龍を慕っている。料理の腕も、洗濯も掃除も家計管理も完璧で良妻賢母を絵に描いたような上に、心優しく義理固い紫龍は、まさに彼らの母親的存在なのだ。
 その彼が、聖戦が終わって黄金聖闘士たちが復活してからは、すっかりシュラに奪われている。
 シュラの邪魔をする絶好の機会だ、と瞬は判断したのだろう、とシュラは推測していた。
(ん? まだいるのか、あの連中は)
 予約時間きっちりに浴室に着いたシュラは、パウダールームから聞こえてくる声に眉をひそめた。
 彼らの予約時間は終わっているというのに、まだ居座っているのである。その中には当然、紫龍もいる。紫龍がいる前では、声を荒げて……場合によっては両手両足に宿る聖剣をちらつかせて彼らを怒るわけにはいかないだろう、と。瞬はそこまで予測して行動している。そして紫龍を慕っている星矢も、紫龍に気がある――とシュラは勝手に思っている――白鳥座の氷河も、その瞬に加担しているのだ。
「あ、こら星矢。ダメだよ、そんな乱暴に扱っちゃ。紫龍の髪が絡まっちゃうじゃない」
「乱暴って、普通にしてるだけだろ!?」
「もっと丁寧にしなきゃダメ。君と違って、紫龍の髪は癖のない真っ直ぐな髪なんだから」
 ……どうやら、瞬と星矢の二人がかりで紫龍の髪を乾かしているらしい、とシュラは二人の会話と聞こえてくるドライヤーの音から判断した。
「紫龍の髪……真っ直ぐで綺麗で、マーマみたいだ……」
「あ、こら、氷河! せっかく洗ったのに、頬ずりしないのっ!」
 聞こえてきた瞬の声に、シュラはこめかみに血管が浮くのを自覚した。
(あの連中……っ!)
 シュラがいないのをいいことに、紫龍の髪を触りまくっている、というわけである。
「お前たち、時間オーバーだぞ。さっさと出て行け」
 地の底から絞り出すような低い声で、シュラは彼らを怒鳴りつけた。紫龍以外の青銅聖闘士たち、星矢と瞬と氷河を、である。
「あ、シュラ……。すみません、時間オーバーしてしまって」
 シュラの姿を見て、真っ先に謝ってきたのは、案の定怒りの矛先が向いていない紫龍だった。
 見ると、他の3人はすっかり着替えも済ませて髪も乾かした後のようだが、紫龍だけが上半身裸で――というよりも、腰にバスタオルを巻きつけただけ、という格好で髪も生乾きという状態だった。
「お前のことだ、天馬星座たちの相手をしていて、自分のことは後回しにしたんだろう。こんな姿で……まだ濡れているな」
 シュラの言葉は図星だったらしい。紫龍は軽く俯いてしまった。
 そんな紫龍に苦笑して、シュラは生乾きになっている髪をひと房手に取って、唇を寄せる。……傍らにいる星矢たちなど、まるで眼中にない様子で無視をして、である。
「すぐに乾かして出ます」
「お前は髪が長い上に量が多いからな。すぐには乾かんだろう。ゆっくりするといい」
 青銅聖闘士たちにしてみれば、紫龍と仲睦まじくしている様子を見せつけたかったのだろうが。
(まだまだ青いな。所詮は青銅ということか)
 シュラは心の中でほくそ笑んでいた。
 すっかり着替えも済ませている他の青銅たち。
 たった一人、腰にバスタオルという状態で髪を乾かしている紫龍。
 乾かしてやるとか、もう一度俺が洗ってやるとか、何かと理由をつけて紫龍だけ引き留めるには、絶好のシチュエーションだった。
「何なら、俺が乾かしてやろうか? まだ時間はたっぷりあるからな」
 あわよくば、浴室で一戦……いや、時間が許せば二戦でも三戦でも……と目論んでいたシュラは、2時間キープしているのである。
「シュラの手を煩わせるまでもありませんよ。紫龍の髪は僕たちが手伝いますから……」
 間に割って入ろうとした瞬を、シュラは流すように睨みつけた。
「お前たち、時間オーバーだと言っただろう。まだいたのか?」
「でも、だったら紫龍も……」
 なおも言い返そうとする瞬に、シュラは続けた。
「紫龍はいい。あと2時間、彼には余裕がある」
「えっ!?」
 驚いた様子を見せたのは、瞬や星矢たちだけでなく、紫龍自身もだった。
「これを見てみろ」
 教皇の補佐についており、元はと言えばこの浴室を大改装した張本人であるサガのサインが入った予約証明書を、シュラは彼らの前に突きつけた。
 そこには、利用時間と利用者名が書かれている。
「書いてあるだろう? 俺と、もう1名が今から2時間ここを利用する、と」
「もう1名って……」
「つまり、紫龍ってことですか?」
「そういうことだ。わかったら、とっとと出て行け」
 シュラはきっぱりと宣言して、星矢たちをパウダールームから追い出したのである。
「やっと邪魔者が消えたか」
「シュラ……」
 3人が出て行って、浴室から遠ざかっていくのを小宇宙でも感じ、サクサクと服を脱いだシュラの顔に、いつもの不敵な表情が浮かぶ。そんなシュラを咎めるように名前を呼んでくる紫龍だが、まんざらでもない、という表情が浮かんでいるのを見逃すシュラではなかった。
「まったく、せっかくお前と二人で入ろうと思っていたのに、まさかアンドロメダたちに先を越されるとはな」
 邪魔者がいなくなったのをいいことに、紫龍を抱き寄せた。
「仕方ないでしょう。磨羯宮で過ごしている俺や、宝瓶宮にいる氷河と違って、星矢や瞬は女神神殿にいるから、ここを使うしかないんです。それに、4人でこうして一緒に風呂に入ったのも久しぶりでしたし。本当は、一輝もいればもっと良かったんですけど」
「俺が邪魔をした、と言いたいわけか?」
「そうじゃなくて……」
 紫龍の意図がわかっていて、シュラは敢えて問いかける。シュラの狙い通り、紫龍はムキになって言い返してくる。
「星矢がはしゃいだのも確かですし、それで時間がなくなって、瞬や氷河に手伝ってもらって髪を洗ったのも確かなんですけど。でも、星矢たちを怒らないでやってほしいんです」
 紫龍が言い返してきた内容は、シュラの予想通りだった。
「相変わらず兄弟思いだな、お前は」
 師匠である老師の育て方が良かったのか、それとももともと紫龍がそういう気質だったのか――シュラは圧倒的に後者だろうと思っているのだが――紫龍は気が優しい。友情を重んじ、礼儀正しく義理固い。シュラが腹を立てているのを感じ取って、星矢たちをかばっているのである。
「お前から怒るなと言われれば、これ以上腹を立てるのはやめにしよう。その代わり……」
 一度言葉を切って、シュラは淫靡な空気を漂わせながら鏡に映る紫龍と視線を合わせた。
「お前が宥めてくれるんだろうな、紫龍?」
「え……?」
 シュラと恋人になってからそれなりに時間が経っているはずなのに、紫龍は未だにシュラのこういう思考回路にはついて来られないらしい。
 きょとん、としている紫龍の頬に軽くキスをして、シュラは紫龍の体に腕を回して紫龍を椅子から担ぎ上げた。
「ちょ、ちょっと、シュラ……ッ!?」
「腰にタオルを巻いただけ、なんてちょうどいい恰好をしていることだしな。もう一度俺が体も髪も洗ってやる。付き合え」
 シュラは紫龍を肩の上に担ぎ上げて、湯船が並ぶ浴室への引き戸を開けた。



 浴室に、淫らな水音が響いていた。
「ん……ん、ふ……っ」
 お湯が流れる音に、淫らな水音、そして時折漏れるなまめかしい声が重なる。
「ん……ぁ、シュラ……」
 香りのよい木材で枠が作られた浴槽に腰をかけ、足だけを湯につけた状態でシュラは紫龍を抱き締めて唇を貪っていた。
 口づけを施しながら、シュラの手は巧みに紫龍の体をまさぐる。
 温かい湯で上気し、ほんのりと紅く色づいた紫龍は、いつも以上に色香を増している。この紫龍を他の青銅聖闘士たちも見たのかと思うと、シュラの嫉妬心が燃え上がる。
「ぁ……ダ、メだ、こんな……っ」
 上気した紫龍の白い肌に吸いついて、自分のものだと刻印を印していく。ほんのりと色づいた肌よりもさらに紅い刻印が首から胸へと広がる頃には、紫龍のささやかな抵抗も止んでいた。シュラの胸を押し返すように突っ張らせていた手は、脱力してシュラの背中に回されていた。
「ここも、感じるだろう?」
 胸にも紅い刻印を印して、ぷつりと密やかに存在を主張する突起を口に含んで、甘く噛む。
「あっ! あ……ん――……っ」
 シュラの愛撫に紫龍の体が跳ねる。
 思わずすがったシュラの肩にしがみついて、紫龍は肩口に軽く歯を立てた。
「紫龍……いつもより感じているな。雰囲気が違うからか?」
 からかうように言いながら、シュラはそっと股間に手を伸ばす。そこはすでに、熱く固くなっていた。
「やっ、そんな……んぁっ」
 否定しようにも、やんわりと握りこまれて即座に快楽を訴える体は、本音を隠してくれることはなかった。
「まさかとは思うが、あの連中にここを触らせた、なんてことはないだろうな?」
 問いかけながら、シュラは胸の突起をチュ、と吸った。
「あっ! そんな、こと……っ」
「させてない、か?」
「ん……」
 答えようとした声は、言葉ではなく喘ぎ声になる。
 その反応に気を良くして、シュラはさらに責めの手を加えていく。
「ここも……あいつらは触ってないな?」
「んっ、あ……っ、触って、ないっ……――っ!」
 シュラの手の中で硬さを増していく陰茎の先端を擦られて、紫龍は体を震わせた。
「いい子だ、紫龍」
 浴室内の蒸気のためだけでなく、明らかに情欲に彩られていく紫龍が見せる素直な反応に、シュラは満足げな笑みを浮かべた。ふと目に入ったその表情が酷く扇情的で、紫龍は思わず見惚れてしまう。するとシュラはすぐにそれに気づいて、キスしてくる。
「ん……っ」
 舌を絡ませる深いキスをして、唇を離したシュラは湯の中に身を沈めて、紫龍の足を開かせた。そのまま、中心で熱を持っている陰茎を口腔に飲み込んでいく。
「あ……あっ、シュラ……」
 紫龍の足がピクリと動いて、浴槽の湯に波が立つ。
 シュラはさらに口腔深く導き入れて、後ろの実も揉み解しながら強く吸い上げた。
「ああっ! あ、シュラぁ……っ!」
 強烈な刺激を与えられて、紫龍の声が上ずる。
 紫龍が身じろぎするたびに、足をつけている湯が波立ってシュラの体に打ち寄せてくる。なおも紫龍への愛撫を続けようとして、シュラはふと、大きく開かせている紫龍の太股の付け根にある黒子に目を止めた。
 紫龍の右足の付け根には、一つ黒子がある。日頃は足の付け根に出来る皺の中に隠されてしまうため、こうして足を開かない限り、人目に触れることはない。
 つまり……セックスの相手にしかわからない、というわけである。
「これも、見たことがあるは俺だけだな?」
 問いかけて、唇を陰茎から離して軽く黒子を吸った。
「ぁっ――……ん、あ……シュラ、だけ……」
 焦らすような弱い刺激に、紫龍は抗議するような声音で答えてきた。声の裏にもっと、と強請る本音を感じ取って、シュラはふっと微笑して陰茎の先端を軽く吸い、顔を上げた。
「シュラ……?」
 いつもならそのまま紫龍を煽って、紫龍を一度イかせるか、あるいはその一歩手前まで追い上げてくれるのに。愛撫の手を途中で止めてしまったシュラを、紫龍は訝しげに見下ろしてきた。
「本当に俺だけだな?」
「もちろんだ」
「だったら……」
 ニヤリと淫靡な微笑を浮かべたシュラは、紫龍の耳元で囁いた。
「行動で示してくれ。言葉だけでは、俺は信用できん」
 言いながら、シュラは紫龍の手を取って自分の体に触れさせた。
「お前から愛してくれ、紫龍」
 シュラに乞われて、拒む紫龍ではない。
 紫龍は再び自分の隣りに腰を下ろしたシュラの体に触れ、片手はシュラの頬に添えてそっと口づけた。承諾の印に。
 自分から舌を出して、シュラの舌に絡ませて、口腔を愛撫して。紫龍からのキスを受けただけで、そのまま暴走してしまいそうになる。すぐに抑えが利かなくなって、乱暴に犯してしまいそうになる。シュラが紫龍に極力何もさせずに、一方的に前戯を丁寧に施すのは、紫龍にとってシュラが初めての相手でセックスに慣れていないからというだけでなく、シュラが暴走してしまうのを止めるためだ。
 だが今は、ただ紫龍が施してくれる愛撫に酔う。
 いつもシュラが紫龍にするように、時折軽く吸いながら首筋に舌と唇を這わせ、鍛え上げられた胸へと降りてくる。くっきりと筋と筋の境目がわかるシュラの胸を手で探りながら、胸の突起を吸われて、シュラは思わず声をあげた。
「あぁ……気持ちいいよ、紫龍」
 言葉で告げるだけでなく、紫龍の髪を撫でてもっと、と促す。
 紫龍は唇と舌でシュラの胸を愛しながら、白線や腱画で分けられた筋腹をくっきりと浮かび上がらせる腹へと手を這わせていった。
 そしてシュラの中心で熱く息づいている陰茎に手を伸ばす。膨れ上がった先端を指の腹で擦られると、くすぐったさと快感が入り混じった、眩暈がしそうなほどの刺激が全身を襲う。
「紫龍……っ」
 シュラはビクリと体を震わせて、思わず息を呑んだ。
「もっと、してくれ……」
「……」
 シュラに哀願されて、紫龍はコクリと頷いた。湯の中に体を沈めて、シュラの足の間に体を入れて、陰茎へと顔を寄せる。
 指でこれから自分の中に入るであろう牡の象徴を辿って、そっと握り込んで、手で擦る。
 自分でいじったこともほとんどなかったのだろう紫龍の手は、恥ずかしさもあるのか少しぎこちない。だがその初々しさが、かえってシュラの快感を呼び起こす。
「……っ、う……ぁ――、んっ」
 手で擦るだけでなく、口腔に飲み込まれる温かい粘膜の感触に、シュラの唇から思わず声が漏れた。
 いつもシュラに施されるように、紫龍が丁寧に手と唇と舌でシュラに奉仕する。
 一度洗って乾かしかけた長い髪が湯に散らばって、広がって、湯の表面を漂う。その髪が、時折身じろぎするシュラの動きに合わせて波打つ様子は、更にシュラの情欲を煽った。
 日頃の紫龍からは考えられないほど淫らな音を立てて、紫龍がシュラの陰茎を口で愛撫する。
 全身を駆け巡る快楽と、紫龍の痴態。
 そのままイッてしまいそうになるのを、シュラはぐっと堪えた。その程度のコントロールは、シュラにとっては容易なことだ。
「紫龍、もういい。よくわかった」
「んっ……」
 そっと紫龍の頬に触れて、離してもいいと告げる。
「愛している、紫龍」
「シュラ……っ」
 唇を離す時、紫龍は最後にもう一度軽く先端を吸った。
「この中でお前を抱いたら、湯を汚す上にお互いに湯当たりするからな」
 そのまま浴槽で挿入するのもまた一興なのだが。シュラはその選択肢を外した。
 紫龍を浴槽から引き上げて、シュラは床の上に四つ這いにさせた。
「もっと腰を突き出して……欲しいだろう?」
「う、ん……シュラ……」
 シュラに促されるままに、紫龍が腰を突き出してくる。シュラが挿入しやすいように。
「いい子だ、紫龍」
 優しく囁く声も、濡れていた。
 湯に濡れた床の上に膝をついた紫龍の秘所を覆う襞に、先ほど紫龍に愛撫されてすっかり膨れ上がった陰茎を押し当てて、擦りつける。すると、紫龍は早く、と促すように軽く腰を揺らした。
「そう強請るな。挿れてやる」
「あ……あっ、――……んっ」
 ゆっくりと、シュラは紫龍の中に自分を埋め込んでいった。湯につかっていたせいでもあるのだろう、いつもより熱い内襞が待ちきれなかった、とでも言うようにシュラに絡みついてくる。
 最も鋭敏な場所が包まれる感触に酔い、衝き動かされるままに、シュラは腰を動かし始めた。
「あっ、あ……あ、あっ! ……んぁっ!」
 シュラが引き抜いた楔を打ち込むたびに、紫龍は体を震わせて声を上げた。
 浴室の中に、湯が流れる音と、睦み合う二人の吐息と肌がぶつかる音、そして紫龍の喘ぎ声が広がる。
「紫龍、紫龍……愛している、お前だけを」
「シュラ……ッ、あ、あっ! 俺、も……貴方、だけ……っ!」
 ひときわ深く感じる場所を抉られて、紫龍の腕から力が抜けた。体を支え切れなくなって、ガクリと肘を曲げて腰だけを高く突き出す格好になる。
「――……っ、紫龍……」
 同時に中にいるシュラを強く締め付けて、シュラに強烈な刺激を与えていた。
 先ほどは一度堪えた射精感に襲われ、促されるままに、シュラは紫龍の突き出た双丘を掴んだ。一層激しく、速く、紫龍の奥まで突き入れた。
「あ、ああっ! シュラ、シュラァ……ッ!」
「く……んっ、紫龍――……っ!」
 そして、紫龍が床に精液を撒き散らした瞬間。
 シュラは紫龍の中から己を引き抜いて、濡れた髪が張り付いた昇龍の浮かぶ背中に樹液を吐き出した。



「……酷いぞ、シュラ。せっかく洗ったのに」
 シャワーでシャンプーを洗い流してやるシュラに、紫龍は軽く異議申し立てをしてきた。
「だから、体も髪も俺が洗ってやると言っただろう?」
 だがその程度のことで堪えるシュラではない。紫龍の髪が絡まないように、丁寧に洗い流してやりながら、しれっと言い返した。
「あとでちゃんと、髪も乾かしてやるからな」
 かくしてシュラは、その日の本来の目的を無事に果たしたのである。


Fin

written:2008.09.22





こちら、FC2にお引っ越ししてからのサイトで4000番を踏んで下さった、河野拓海さまからのリクエストによる作品です。
河野さんからのリクエストは要約しますと「山羊龍で、しょーもないことで嫉妬するシュラ。Hレベルは最高クラスで」ということでした。
……山羊さま嫉妬。そしてエロ。
どーするよ!?
ということで考えました作品です。

課題その1:嫉妬するお相手は年中組の他の二人とか、ムウ様とか、童虎たんとか、いろいろ考えたんですけど。ムウ様や童虎たんには太刀打ちできんだろう、ということで青銅ズに決定しました。

課題その2:Hレベル最高クラス。……エロは苦手や、と話している私にこのリクですよ。鬼のようなリクエストですよ(涙) エロ最高レベル……ということで考えたのが、所謂「外出し」
ま、たまにはね(笑)

いただいたリクエストを、何とかパラ銀でお逢いするまでにはお送りしたいなぁ、と思っておりまして。書き始めたのが20日の夕方で、送りつけたのがホントに直前の22日日付変わってすぐ(=書きあがった直後)でした。この話、話の骨子は結構前に出来てたんですが、勢いで書かなきゃダメな話だろうなぁ、と思ったもので、ギリギリまで引っ張っていたのです。
間に合ってよかったです(^^)
ちなみに、このお話のタイトルは、アコーディオニストcobaさんのアルバム収録曲からいただきました。「ハートにご用心」ちょっと思わせぶりなタイトルでしょう?(^^)



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