戯水蓮花~Another story
失礼します、と前置いて紫龍は教皇の執務室に足を踏み入れた。
その次の瞬間。
彼は固まった。
「………!?」
手にしていた袋を取り落とさなかったのは、さすがだった。
それ以上部屋に入ることもできず、かといって騒がしく引き返すこともできず。
紫龍はドアを開けたままで、呆然と立ち尽くした。
教皇の法衣に身を包んだシオンが、椅子に腰かける童虎に覆いかぶさるように口づけていたのである。
シオンの長い髪が、童虎の頬にかかる。その髪をかき上げて、童虎はさらに深く口づける。
「ん………っ、シ…オン……」
唇が離れたと思うと、師がシオンを呼ぶ声が紫龍の耳に届く。
聞いたことのない声。
深みのある童虎の声が、甘く、なまめかしく上ずっていた。
幾度となく重ねられる唇。
時に貪るように、時に軽く触れるように。
合間に互いを呼び合う声は、いつも紫龍や聖闘士たちに語りかける声とはまるで違っていた。
どれほどその場に立ち尽くしていたのか。
シオンの長い指が童虎の服にかかり、襟元の留め具を外した。
唇を重ね合ったまま、慣れた手つきで童虎の留め具を外し、童虎の肌に指を滑らせる。
「ぁ……ダメ、じゃ。こんな……っ」
「先に仕掛けてきておいて、今更何を言う?」
「誰が――……っ」
「誘うような、物欲しそうな目で私を見たのは、お前の方だ、童虎」
話すシオンの唇が、童虎の首筋を辿る。
「あ……っ」
童虎が甘い声をあげたその瞬間。
紫龍は弾かれたように我に返った。
そしてできるだけ音を立てないように、二人の邪魔をしないように細心の注意を払って踵を返し、ドアを閉めた。
ドアを閉めて、二人の声も息遣いも聞こえないのを確認して。
紫龍は全力で駆け出した。
その日、4日ぶりに聖域に帰還したシュラは、任務完了報告のために教皇の間を訪れていた。今は教皇補佐の一人として教皇の間に詰めている双子座のサガから、教皇シオンが執務室にいると聞かされたシュラは、謁見の間の奥にある執務室へ向かうべく廊下を歩いていた。
……のだが。
前方から突進してくる小宇宙を発見して、歩みを止めた。
覚えのありすぎるほどに覚えのある小宇宙。持ち主を好きか嫌いかと問われれば、「好き」と即答する相手。
猪突猛進とはこのことを言うのか、と感心してしまうほど真っ直ぐに、その小宇宙はシュラに向かって突進してきた。音速に近い速度で。
黄金聖闘士として、光速の動きを標準装備で身につけているシュラは、その動きを瞬時に身切った。そして彼を傷つけることなく、自分も被害を被ることなく、彼の動きを止める方法を取るべく動いた。
「紫龍」
そっと呼びかけて、紫龍のスピードを殺して彼を腕の中に抱き止めた。
激突することもなく全力疾走を止められた紫龍は、一瞬何が起きたのかわからない、という表情をした。日頃は穏やかな微笑か、真面目な表情を崩さない紫龍が見せた素顔に、シュラは心の中でニヤリと笑った。
「どうした? そんなスピードで走ったら危ないだろう。柱に激突するか、誰かにぶつかりでもしたら大変だ」
柱にぶつかろうものなら、確実に柱は折れて紫龍に打撲の跡が残る。
もし人にぶつかれば、シュラのような聖闘士ならばそれほど問題はないが、侍女や下男にでもぶつかろうものなら、確実に相手が吹っ飛ばされてしまうだろう。
そう続けて、シュラは尋ねた。
「何かあったのか? お前がそんなに慌てるなど、尋常じゃない」
「あ、シュラ……」
尋ねられて、紫龍はようやく自分がシュラに抱き止められたことに気づいた。
「執務室から出てきたようだが、シオン様や老師に何かあったのか?」
「………っ」
シオンと童虎の名を聞いて、紫龍はあっという間に耳まで赤くなるほどに赤面した。
「紫龍?」
「あ、あの……、その……っ」
尋ねられた紫龍は、完全にうろたえてまともに言葉を継げない状態に陥った。
パニック状態に陥った紫龍を、シュラは初めて見た。
「今は、ダメでっ!」
「何を言ってるんだ? シオン様の執務室で何かあったのか?」
「何って、その………」
顔から湯気が出そうなほどに赤くなった紫龍が、口をパクパクさせる。
「シオン様にセクハラでもされたか?」
「俺じゃなくて、老師がっ!」
シュラの問いかけに、紫龍はそう口走った。
(なるほどな)
大方、シオンと童虎のラブシーンでも目撃したんだろう。
シュラはそう予測した。
「シオン様と老師はお取り込み中、というわけか。お前、運悪くその場に居合わせたんだな」
「………」
確認するように言うと、紫龍は呆然とシュラを見上げてきた。
「どうしてわかったんだ?という顔だな、それは」
「どうして……」
重ねて「どうしてわかったんだ?」という顔をする紫龍に、シュラは思わず笑みがこぼれた。
「顔にそう書いてある。お前も相当混乱しているようだしな。シオン様と老師のご関係も、黄金聖闘士の中で知らない者はいない。となれば、だいたい想像はつく」
シュラにそう言われて、少し落ち着いたのか。紫龍の顔から赤みが引いた。
「今お邪魔するのは、あまりに無粋が過ぎるというものか。仕方ないな」
紫龍を抱き止めていた腕を解いて、シュラは廊下を引き返した。
「あの、どこへ……?」
尋ねてくる紫龍に、シュラは足を止めて答えた。
「サガの所だ。シオン様は俺の報告を聞くどころじゃないだろうからな」
「あ……」
「お前も老師に用事があったのなら、サガに言付けておくといい」
「……そうします」
シュラに促されて、紫龍はシュラについて歩き出した。
紫龍は老師に渡さなければならない袋を、シュラはシオンに提出しなければならない報告書をサガに託して教皇の間を出た。
天秤宮へ下りる紫龍と、磨羯宮へ下りるシュラ。十二宮の最奥にある教皇の間から下りることに変わりはなく、方向も一緒の二人は、斜面に沿って作られている階段を並んで下りていた。
「さっきはありがとう、シュラ」
双魚宮を抜け、宝瓶宮へ下りる階段に差しかかった時、紫龍はぽつりと言った。
「シュラが来てくれて良かった。俺一人だったら、サガに預けるなんて考えもしなかったと思う」
師である童虎に渡さなければならない袋を抱えたまま、シュラが言ったとおりに紫龍は猛スピードで12宮を駆け下りていただろう。自分が帰るべき天秤宮をも通り過ぎて、一番下の白羊宮まで駆け下りてしまったかもしれない。
そう言うと、シュラは軽く苦笑した。
「お前はああいうことには免疫がないからな。誰が見るかわからないから、執務室では慎んでくれとサガも再三進言しているらしいが……シオン様が耳を貸すはずがない」
シュラの言葉に、紫龍は深々と頷いた。
「老師と二百数十年も離れて過ごしておられたことを思えば、お気持はわからないでもないがな」
前聖戦時からの無二の親友だと童虎から聞かされたいたシオンが、実は恋人だったと紫龍が知ったのは、つい最近のことだ。シオンの補佐として教皇の間に詰めている童虎が、夜になっても天秤宮に戻らないことが何度もあった。だが、紫龍はそれを仕事が忙しいか、あるいはシオンとの話が尽きずにそのまま泊まり込んでいるのだと思い込んでいたのだ。
だが、その認識は間違っていた。
「でも、老師も嫌がっておられるようには見えませんでした」
「それはそうだろう。いくらシオン様といえど、老師がお許しにならなければ執務室で……なんてことにはならん」
「そう、ですよね……」
シュラに指摘されて、紫龍は俯いて足元の階段を見下ろした。シュラと話している間にシオンと童虎がキスを交わしていた場面をうっかり思い出して、頬が熱くなるのを自覚した。
(老師が、あのような……)
聖闘士として、人として今まで育ててくれた童虎が、急に遠い存在になったような気持ちになる。
幼い頃、聖闘士になる修行をするために五老峰を訪れた時は、老人の姿だった童虎。それが実は仮の姿だったと知って、童虎本来の姿を目にした時に感じた驚きと戸惑い。あの時からずっと拭えずにいた違和感。6年間ずっと弟子として傍に居たのに、師として慕っていたはずの童虎のことを何一つわかっていなかったという事実。
童虎にとってシオンがどんな存在なのか、実際に目にしたことで紫龍は思い知ったのだ。
「老師のあのようなお顔、初めて見た」
あんな声で誰かを呼ぶのも、初めて聞いた。
「俺の知らないお姿を、シオン様にはお見せになるんだ……」
思わず呟いた紫龍に、シュラは小さくため息をついた。
「それはそうだろう。恋人だからな」
「え?」
シュラの言葉の意味がわからずに、紫龍は彼を見上げた。
「誰よりも愛する相手を前にしたら、その相手にしか見せない顔や姿になるのは当然だ。想いの詰まった声で相手を呼べば、他の者は聞いたこともないような声にもなる。老師もシオン様も、それだけお互いを想い合っておられるということだ」
語るシュラの表情が、いつになく優しい。
ふいに思ったことを、紫龍は口にする。
「シュラにも、いるのか? 誰よりもその人のことを想う、そんな相手が」
「何故そう思う?」
問いかけたはずが、逆に問い返された。
「それは……俺にはさっぱりわからないのに、よくわかっているようだから。その、老師とシオン様のことも。それに……」
「それに、何だ?」
一度言葉を切った紫龍は、シュラに促されて続けた。
「今、シュラがとても優しい顔をしたから、何となくそう思った」
「……誰よりも愛しく思う相手、か」
独り言のように呟いて、シュラはフッと苦笑した。その横顔がとても切なげに見えて、何故か胸が苦しくなる。
「俺はお前よりも歳を重ねている分、それなりに恋愛の経験もある。今までにも、そういう相手がいたこともある」
シュラにも、あんな風に抱き合ったりキスをしたりする相手がいた。いないはずはないだろう、と理屈ではわかっているつもりでも、実際にそう聞かされると何故だか辛かった。
「お前の言う通りだ、紫龍。俺には今、誰よりも愛している相手がいる。傍にいて言葉を交わせるだけでも幸せだと思うが、それでは足りない。本当はその人を今すぐにでも抱きしめたい、俺のものにしたいと思っている」
「片思い、なのか?」
「ああ、残念ながらな」
好きな相手のことを語るシュラは、きっと日頃の厳しい顔つきからは想像できないほどに優しい表情をしているんだろう。そう思うと、顔が上げられなかった。鼻の奥がツンとなって、涙がこぼれそうになる。
(どうして、こんな……?)
思った時には、視界が揺れていた。足元の石段が滲んで、目から雫がこぼれ落ちる。
(何故、涙など……!?)
一段、また一段と下りる階段を先導するように、一滴、また一滴と涙が落ちる。
止めようと思っても、止まるものではなかった。
シュラに気づかれたら、不審に思われる。
焦れば焦るほど、感情と体は紫龍の制御を離れる。
息を吸おうとすれば、しゃくり上げてしまう。
「………っ」
「紫龍?」
怪訝な声に呼ばれて、紫龍は思わず足を止めてしまった。シュラが気遣ってくれるのは嬉しいけれど、その心は自分以外の人間に向いている。そのことが、どうしようもなく辛かった。
「紫龍、どうした!?」
「変だ、俺……老師の、あんなお姿を見たからかもしれない」
口早に言って、紫龍は駆け出した。シュラの傍にいるのが、居たたまれなかった。
けれど、動きは黄金聖闘士であるシュラの方が遥かに速い。あっという間に追いつかれて、紫龍は腕を掴まれた。
「待て、紫龍」
「離してくれ、シュラ。俺のことなど放っておいてくれ」
「放っておけるか、そんなに泣いてるのに」
何とかしてシュラから逃れようとしても、両腕を掴まれて動きがままならない。紫龍は涙顔でシュラを睨み上げた。
「っ!?」
見上げたシュラの顔が、思った以上に近くにあった。
時に皮肉な微笑で歪み、時に辛辣な言葉を語り、時に柔らかな笑みを浮かべる形の整った唇が、紫龍の目に飛び込んでくる。
思考が、止まった。
衝動のままに、紫龍は動いた。
触れたい。
もっと、この人に。
童虎がシオンにそうしたように。
紫龍は少し体を伸ばして、シュラの唇に触れた。
自分の唇で。
ただ触れるだけの、拙いキス。
初めて触れる唇は、思っていたよりずっと柔らかい。
口づけて、初めて気がつく。
誰よりも、この人が好きだ、と。
触れていたのはほんの数秒だった。
初めてのキスは、それが精一杯だった。
紫龍の腕を掴んでいたシュラの手から力が抜けて、腕が自由になる。
「ごめんなさい」
唇を離して思わず零れたのは、告白の二文字ではなく謝罪の言葉だった。
「すまない、こんな……あなたには、他に好きな人がいるのに」
まともに顔を上げられなくて、けれどシュラから離れるのも嫌で、本当はもっと触れていたくて。
紫龍はシュラの広い胸にすがった。
厚い筋肉に覆われた逞しい胸。
自分よりも高い体温。
自分とは全く違う体臭。
こんなに近く触れることができるのに、何一つ自分のものにはならないという絶望と。シュラが好きだと気づいた喜びに、心が引き裂かれる。
「けれど、俺は……俺は、あなたが好きだ」
引き裂かれた心は、血ではなく涙を流した。堰を切って溢れ出した感情は、止める術もなく眼から流れ落ちていく。
シュラのシャツを濡らして、汚してしまうと頭のどこかで考えながらも、止められなかった。
「どうしても抑えられなくて、俺は……っ!?」
勢い余って顔を上げた瞬間、眼尻に落とされたシュラの唇の感触に。
紫龍は息を呑んだ。
紫龍の唇が触れた瞬間、シュラの時間が止まった。
ありえない、と思っていたことが現実になった瞬間。
驚きと喜びは、過ぎると思考も体の機能も、何もかもをストップさせるのだと知った。
紫龍の腕を掴んでいた手から、力が抜ける。
「ごめんなさい」
謝る必要などないのに、唇を離して最初に紫龍が口にしたのは謝罪の言葉だった。聞きたいのは、もっと違う言葉だった。
紫龍がシュラの胸にすがってくる。
口づけられて、これほどまでに嬉しいと思った相手が今までにいただろうか。
紫龍の涙が胸を濡らすのを感じながら、シュラはようやく動き出した頭で考える。
「俺はあなたが好きだ」
はっきりと告げられて、紫龍が涙に濡れた顔を上げた。
彼の声で、彼の口から聞きたいと、狂おしいほどに欲した言葉。
シュラのために流す涙に彩られた表情。
その美しさに魅入られ、シュラは眼尻に唇を寄せて涙をぬぐった。
「っ!?」
シュラが誰よりも愛しているのは自分ではない、と思っている紫龍が息を呑んだ。
「シュ、ラ……?」
信じられないといった声音でシュラを呼ぶ紫龍の唇に、シュラは深く口づけた。
シュラにすがっていた体を更に引き寄せて、強く抱き締める。
ずっと思い続け、けれど触れることは叶わないと思っていた唇の感触を確かめるように、何度も口づける。
「……っ、ん………」
鼻に抜けるように漏れた紫龍の吐息が耳をくすぐる。
「愛している」
募り募った想いを伝える声が掠れる。
告げられた紫龍が、驚いたようにシュラを見上げてくる。
「誰よりもお前を愛している。お前の全てが欲しい、紫龍」
他の誰でもない、紫龍が欲しいのだと。
シュラは改めて告げた。
「シュラ……ッ」
泣きやんでいた紫龍が顔を歪ませる。
先ほどとは別の涙が、紫龍の目に溢れて零れ落ちる。
「そして俺の全ては、お前の物だ、紫龍」
「……っ」
シュラを呼ぼうとした唇は、形作られただけで声を発することはなかった。代わりに嗚咽がその唇から洩れて、紫龍はシュラに抱きついてきた。
「紫龍……」
抱きついてきた紫龍を受け止めて、滑らかな髪に指を通して撫で下ろす。
肩を震わせながら喜びの涙を流す紫龍がどうしようもなく愛しくて、シュラは紫龍の腰を抱いた腕に力を込める。漆黒の絹糸のような髪に顔を埋め、唇を寄せる。
シュラは先ほど自分が紫龍に話した言葉を思い出した。
誰よりも愛する人の前では、その相手にしか見せない顔がある。
紫龍がこんな風に泣くのは、シュラの前だからだろう。
そしてシュラもまた。
このままここで押し倒して貫き通してしまいたいほどの衝動を強力な理性で押し止め、優しく抱き締める相手は紫龍だけだ。
思いがけない形で結実した想い。
泣いている紫龍が落ち着くまで抱き締めている間、喜びがシュラを満たしていった。
今すぐに紫龍の全てが欲しい。
もう少し、この穏やかな時を楽しんでいたい。
相反する衝動と思いがシュラをかき乱す。
「紫龍、このまま俺の部屋に来るか?」
決定権は紫龍に委ねた。
シュラが預かっている磨羯宮はもう、目と鼻の先だった。
「こんな所でいつまでも抱き合っていたのでは、人目につくからな。ここままお前を帰したくはない」
「俺も、シュラと離れたくない」
シュラの本音をわかっているのか、気づいていないのか。
紫龍は真顔で、シュラをノックアウトするには十分な殺し文句を口にした。
思わずうろたえてしまった気持ちを微笑でごまかして、シュラは返した。
「ならば、寄って行け。もっとも、数日の間任務で留守にしていたからな。汚れているかもしれんが」
「構わない」
歩き出したシュラに、紫龍は歩調をピタリと合わせてついてくる。
手を差し伸べると、遠慮したように紫龍が手を重ねてきた。その手をしっかりと取って、シュラは自宮へ向かった。
初めて紫龍と出会った場所へ差しかかった時、二人ほぼ同時に足を止めた。
あの時シュラが切り裂いた地面は、埋められて修繕されている。少しだけ新しい石畳が、それを物語っている。
教皇を殺し、女神の殺害を企て、聖域に偽の教皇として君臨していたサガを断罪するためにやってきた紫龍と対峙した、あの時から。
仲間を先に進ませるために一人シュラの元に残り、敵わない相手と知りながら全小宇宙をぶつけてきた紫龍と戦ったあの時から。
シュラは紫龍に心奪われ、囚われている。
そう告げると、紫龍は驚いたようにシュラを振り仰いだ。
「そう、だったのか……」
「さっき言っただろう? 傍にいて言葉を交わせるだけでも幸せだと思うが、それでは足りない。本当はその人を今すぐにでも抱きしめたい、俺のものにしたいと思っている、とな」
「ああ」
「その通りにしていいか?」
「……」
恥じらう様子を見せながらコクンと頷いた紫龍を、シュラはもう一度抱き締めた。
「ちょ、シュ、シュラ……」
「愛している」
こういうスキンシップには慣れていないのだろう。慌てた様子を見せる紫龍に、シュラの表情が綻ぶ。
もう一度紫龍の唇にキスをして、シュラは紫龍を抱き上げた。
シュラの部屋へと運ぶために。
Fin
written:2009.03.28
紫龍受けのアンソロ「美麗紫花茶」を出すに当たり、「戯水蓮花」というお題をいただいた私。花言葉は「ときめく愛の芽ばえ」
お題をいただいた直後、思いついたのはやはりと言いますか、山羊龍でした。
でも執筆陣を見てみましたら、どうもこれは山羊率が高そうだなぁ、と思いまして。これで自分まで山羊龍を書いたら、「紫龍受けアンソロ」というより「山羊龍アンソロ」になりかねんなぁ。せっかく出すんだからカップリングのバリエーションを増やしたいなぁ。
と思いましたので、書きかけた山羊龍は保留して、別のカプを書きました。
でも、書きかけた山羊龍を完全にボツにしちゃうのは惜しいなぁ~
ということで、救済措置を(笑)
途中で専門学校の試験やらレポート地獄やらがありましたので、間が空いてしまったのですが……ここまでこぎつけました。
しかし、この話。
「出水芙蓉」とか「錦上添花」でもイケそうな気がします(苦笑)