「朝ですよ、シュラ」
 起こしてくれる声が心地よくて、つい眠ったフリをする。
「早く起きて下さい」
 日常的に普通に交わされるひと言。
 そんな何気ないひと言をかけられるのが、何よりも幸せだと思える。
 心から愛する者を得て、共に過ごす。
 闘いに明け暮れ、血を流す自分には無縁だと思っていた日々が、当たり前のように続くことに無上の喜びを感じる。
「朝ご飯、冷めてしまうぞ」
 なかなか起きようとしない俺に、痺れを切らしたように言ってくる紫龍の声が、少し呆れたような怒ったような声になる。
 そんな声もまた、心地いいと思ってしまう。
「シュラ……?」
 様子を伺うために顔を覗き込んでくる彼を、そのまま引き寄せてやろう。
 悪戯心が湧いて、俺はその瞬間を待った。
 引き寄せた時の、戸惑いと喜びが入り混じったような顔を見るために。
「そろそろ起きないと……」
 彼の小宇宙と気配が、俺のすぐ傍まで近づいてくる。
 俺ならばキスで起こすんだが、紫龍はそういうことができる性質じゃない。
 思っていると、俺の肩に紫龍の手がかかった。
 そのまま揺さぶられるか?
 と思ったその時だった。
「……!?」
 紫龍の長い髪がサラリとベッドに流れ落ちてきたと思ったら、額に柔らかい彼の唇が押し当てられていた。
「し、りゅう……?」
 思わず目を見開いた。
 俺を見下ろしていた紫龍と目が合う。
 してやったり、といった様子で微笑している彼と。
「やっぱり起きていたんだな、シュラ」
 お見通しですよ、と言わんばかりの口調だった。
「バレてたか」
「当然でしょう。寝起きのいい貴方が惰眠を貪るなんて、ありえない」
 伊達に俺の恋人をやっているわけではない、ということだ。
「それで先手を打ったつもりか?」
 俺の思考を読んで、引きずられる前に行動に移した、というのは彼にしてみれば相当な進歩だ。
 こみ上げてくる微笑を、俺は抑えることができなかった。
「だが、まだまだ甘いな」
「え、ちょ、っと……シュラッ!」
 こうして俺に近寄ればどういうことになるのか、想像できないわけではないだろうに。
 俺は紫龍の背中と腰に腕を回して、ベッドへ引きずり込むのと同時に態勢を入れ替えて自分の下に組み敷いた。
「こんな朝から、何を考えて……っ!」
「決まっている。お前のことだ」
「……」
 言葉に詰まった紫龍の隙を衝いて、俺は自分の唇で彼の唇を塞いだ。
 最初は触れるだけだったキスを、次第に深くしていく。
「朝ご飯、冷めるから……」
「温め直せばいいだろう」
 朝食よりも何よりも、今は紫龍が欲しい。
 起き抜けに恋人を貪る。
 そんな朝があってもいいだろう。
 俺は自分の欲求に従った。
 紫龍の抵抗が止んで、唇の端から漏れる吐息が甘く溶けてしまうように、と。


Fin

written:2008.09.28



23日にパラ銀&紫龍受けお茶会+カラオケ大会に参加させていただきました。
その席で、某様よりスケブを依頼されまして。せっかくなので、ただ名前を書くだけというのではなく、ちょっとしたSSを…と思って書いたのが、この話の冒頭部分でした。
帰宅してから下書きしたメモを見て、せっかくだから完成させて、お茶会でご一緒した皆様に感謝とお礼の気持ちを込めて差し上げよう、と思って書き上げることに致しました。

……全部書き上げてから、そういえば「牧神の午後への前奏曲」でも似たようなシチュエーションの話を書いたよな、と気づいたおバカです(滝汗;)

この作品、お茶会でご一緒させていただいた皆様には、お持ち帰り&転載フリーとさせていただきます。拙い上に短い作品ですし、お目汚しになってしまうように思いますが、もらっていただけましたら幸いです(^^)
皆様には本当にお世話になりました。
楽しいひと時を過ごさせていただけて、心より感謝しております。
また機会がありましたら、参加したいと思っております。その時は構ってやっていただけると嬉しいです。


<以下、後日の追記>
この話を書いてアップしましたところ、お茶会でお隣同士になりましたアオイトリの浅川麻菜さんが、なんと。
このSSにインスピレーションを得て、山羊龍絵を描いて下さいましたっ!
挿絵をいただいてしまったようで、嬉しいやら勿体ないやら申し訳ないやら……でもとぉっても嬉しいっ!p(>_<)q
ということで、さっそく背景に入れさせていただきました♪
が…やっぱりじっくりたっぷり見たいよね、ということでいただき物ページに展示致しました。こちらでご覧くださいませ(^^)

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