高砂

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高砂



 満開の桜が散り始める春。
 神奈川のとある街にある真田邸では、祝い事が行われていた。
「早いの、参謀と勝負師」
 立派な床の間と違い棚が設けられた広間には、祝いの膳が置かれて招待客が続々と集まってきていた。暖かな陽気を部屋に取り込むかのように障子は外され、代わりに鴨居から真田家の家紋が入った幕がかけられていた。
 上座に近い場所に設けられているのは、友人たちが座る膳である。
 四角い黒縁の眼鏡をかけた短髪の青年に、銀髪で後ろ髪の一部を長く伸ばした青年が声をかけて、隣に座り込んだ。
「やあ、仁王。それに柳生も」
「こんにちは、乾君」
 乾は顔を上げて、銀髪の仁王に応え、仁王と連れ立って入ってきた縁なし眼鏡で薄茶色の髪をした青年、柳生にも声をかけた。
 上品な顔立ちをした柳生は、軽く微笑して応えると仁王の隣に座った。座ってしまってから、柳生はふっと苦笑した。
「っと、もう柳君でしたね、そういえば」
「いいよ、乾で。最近はみんな“柳”って呼ぶから、乾って呼ばれるとちょっと嬉しいんだ」
「そうですか?」
 言いながら乾はクスクスと笑う。つられて、仁王も柳生も笑った。
 3人とも、揃って上等なスーツに身を包んでいる。
「ふ、相変わらずだな」
「お前さんもな、参謀」
 仁王に声をかけられたもう一人の青年が、乾の右隣から声をかけてきた。目を閉じているのかと思うほどに、細い眼をした青年である。こちらは、3人とは違って家紋入りの黒羽二重という和装である。
 声をかけられた仁王は、ニヤリと笑って柳に応えた。
「それにしても、桜舞い散る春に祝宴とは、おめでたいことですね」
「うん。真田の家って、庭に大きな桜があるから、花見にも最適だしね」
 お膳の前に座った柳生は、はらはらと風に乗せて花びらを散らす桜を見て、感に入ったように呟いた。乾が同意すると、仁王は腕組みをして続けた。
「めでたい酒は、何度呑んでも飽きんからの」
「くれぐれも、澱酔して柳生に介抱させるようなみっともない真似はしないことだ、仁王」
「柳君の言うとおりですよ、仁王君」
 柳と柳生、二人にたしなめられて、仁王はふっと苦笑した。
「安心せい。お前さんたちの時みたいなことにはならんよ」
「俺と蓮二の時は、無礼講って感じだったからね。今日は大丈夫なんじゃない? なんたって、真田と幸村なんだし」
「それもそうですね」
 クスクスと忍び笑うような声が、続々と招待客が集まってざわつく広間に広がった。
「でも、これで立海四天王が全員既婚者になる、っちゅーわけか」
「それも、勝負師と参謀、部長と副部長、という組み合わせで」
 宴が始まる前だというのに、すでに足を崩して胡坐を組んでいる仁王と、すっきり背筋を伸ばして正座している柳生が感慨深そうに呟いた。
 言われた乾と柳はお互いに顔を見合わせて、クスリと笑う。二人の左手の薬指には、プラチナ製でお揃いのマリッジリングが輝いていた。
 今日の祝宴が行われるちょうど1年前。
 立海大附属高校で“参謀”“勝負師”と謳われ、全国大会三連覇を成し遂げた原動力にもなった二人、柳と乾が結婚した。中学では別々の学校で活躍していた二人だが、小学生時代からダブルスを組んでいた柳と乾は、プレースタイルも同じで幼馴染で、その上恋人同士という間柄だった。
『青学から来ました、乾貞治です。よろしく』
 高校に進学してから最初の部活時間に、そう自己紹介した乾を見ていた柳の顔が、見たこともないほどニヤけていたことは、皆の記憶にしっかりと刻み込まれている。
 彼らが中3だった時の関東大会決勝戦で柳を破り、立海の関東17連覇を阻むきっかけを作った乾が立海の戦力に加わることで、立海の戦力は磐石のものとなった。
部長として部を率いていく穏やかな智将であり、今日の花嫁でもある幸村。
 副部長として幸村を支える厳格で勇猛な剛将であり、今日の花婿である真田。
 豊富な情報量と確かな分析力、明晰な頭脳でチームの要となり、シングルスはもちろんのこと、乾とダブルスを組んだら無敵という参謀の柳。
 柳同様に明晰な頭脳を備え、情報収集能力では柳をも越えると言われ、冷静かと思えば時に大胆な戦術に打って出る勝負師の乾。
 彼らは立海四天王と言われ、大学生になった今でも、他校から畏怖の目を向けられている。
「チームメイトより参謀を選んだ、っちゅーことといい。学生結婚を選んだ、っちゅーことといい。お前さんの決断力も大したもんじゃな、勝負師」
「そんなご大層なことじゃないよ。単に、蓮二と離れてるより、一緒にいる方が自然だと思っただけのことだから。それに、高校の時から蓮二の家に下宿してたからね。ただ籍を入れただけ、っていう感じかな?」
 乾は口元を微笑の形に引き上げて、仁王にそう答えた。
 実の所、エッチ真っ最中の場面を柳の母親に見られ、そういうことならちゃんと籍を入れろ、と叱られたことが原因だったのだが。それは柳と乾の二人しか知らないことである。
「どもっすー。あれ、丸井先輩とジャッカル先輩、まだ来てないんすか?」
 柳と乾がひっそりと目で笑い合った時、ドカドカと騒がしい足音と共に、クセのある黒髪の青年が姿を現した。彼らの1年後輩で、エースとして活躍する切原赤也である。
「おう、切原か」
「赤也、ネクタイが緩んでいるぞ。ちゃんと締めておけ」
 スーツを少し着崩している切原を見て、柳は眉をひそめた。が、切原は堪えた様子もなく、ヘラッと笑って言い返した。
「んな細かいこと言わないで下さいよぉ、柳先輩。いいじゃないっすか」
「俺達はいいけど、真田がうるさいと思うよ? たるんどる魔人だからね、あいつ」
「乾さんまで、勘弁して下さいよ」
 切原は仁王の向かいにある膳の前に座りながら、一応ネクタイに手をかけて直していた。
「やっほーいっ! うわ、みんな早いじゃん?」
「君が遅いんですよ、丸井君」
「いーじゃん、時間には間に合ってるんだからさ」
 切原に続いて入ってきたのは、赤茶けた髪をして軽い口調で話す丸井ブン太だった。髪色に合わせたのか明るい色のスーツを着ている彼は、苦言を呈する柳生にブーブー文句を言いながら、切原の隣に座った。
「ジャッカルはどうした?」
「受付けで手間取ってるみたいだった。ここの芳名帳って毛筆で縦書きだったじゃん? アイツ、今の住所横文字だからさ」
 一人で入ってきた丸井に柳が尋ねると、丸井は肩をすくめて答えた。
「助けに行ってあげた方がいいんじゃない、蓮二?」
「祝い事の芳名帳だぞ、自分で書かなければ意味ないだろう」
「でも、毛筆は得意分野だろ、蓮二?」
「……貞治が言うなら、仕方ないな」
 乾に説得され、柳がしぶしぶといった様子で立ち上がろうとした時。戸惑ったような顔をした、茶褐色の肌で剃髪の青年が入ってきた。体力勝負なら誰にも負けないという真面目な仕事人、ジャッカル桑原である。高校を卒業してからは、父親の仕事の都合でブラジルに戻っている。
「ったく難儀な家だな、ここは」
「よう、ジャッカル。ずいぶんと苦労したようじゃの」
 純和風の数寄屋造りで、家構えはもちろんのこと、しきたりまで純和風を守り通している真田家は、ブラジル人とのハーフで洋風に慣れきっているジャッカルには戸惑うことばかりだったらしい。
「毛筆でアルファベット書けなんて、ムチャだぜ」
「修練が足らんな。情けないぞ、ジャッカル」
「るせぇよ、柳。俺はてめぇや真田と違って、習字なんてほとんどやってねぇんだからな」
 容赦ない柳の言葉に猛然と抗議して、ジャッカルは丸井の隣に座った。もちろん、正座ではなく仁王同様、いきなり胡坐である。
「そういや、来る途中で真田と幸村に会ったぜ」
「そーそー。ちょーど近くの神社から出てきたトコに、バッタリ」
 思い出したように話し出すジャッカルに、丸井も同調した。
 何でも、真田邸から近い所にある神社で式を挙げ、出てきたところで鉢合わせたらしい。
「へぇ? 幸村部長、やっぱ白無垢だったんすか?」
「当然だろう。神式だからな」
「あ、それもそうっすね。へへっ」
 身を乗り出して興味津々、といった様子で尋ねる切原に冷たく答えたのは、柳である。切原と柳のやりとりを見て軽く微笑いながら、柳生がポツリと呟いた。
「綺麗だったんでしょうね、幸村部長の白無垢姿」
「うん。乾の時も綺麗だったけどなー。幸村は幸村で可愛かったよ」
「ふ、まぁ貞治には及ばんだろうがな」
「蓮二……それ、真田の前では言うなよ」
 柳生に応える丸井に、柳が得意げに言い放ち、乾が苦笑しながら嗜めた。
「まぁ、どっちにしてももうすぐ見られるじゃろ」
「それもそうだな」
 仁王とジャッカルが場を収めた時。神社から移動してきた真田・幸村両家の親戚が続々と居間に集まってきた。親類縁者が勢揃いして、全員が膳の前に座ると、ようやく今日の主役の登場と相成った。
 感無量といった様子で和服に身を包んだ真田と、穏やかな顔立ちをした真田の母親に手を引かれた白無垢の幸村が、姿を見せたのである。綿帽子を頭からかぶり、俯き加減になっているために幸村の表情はよく見えなかったが、チラリと見えた限りでは幸せそうだ、と柳や乾たちテニス部の仲間たちは思った。
 真田の祖父から神前式の報告があり、真田と幸村が盃を交わす。
 その時、めでたい祝いの門出にと、柳が二人に唄を捧げた。

高砂や この浦舟に 帆を上げて
この浦舟に帆を上げて

 おめでたい謡として結婚式にはかかせない謡曲、『高砂』である。いわれによれば、室町時代に能を完成させた世阿弥元清の作であり、夫婦愛や長寿の理想を表しているらしい。
(そういえば、これって……俺と蓮二の時に、真田が謡ってくれたんだよな)
 朗々と響く柳の声を聞きながら、隣にいる乾は思い起こしていた。
 柳と乾の式は、今日の二人と違って洋装での人前式だった。白無垢も試着したのだが、あまりの重さに乾が根を上げて写真だけ、と相成ったのである。中学時代に乾と共に全国大会を戦った青学の仲間と、今日も集まっている立海のレギュラーたちが勢揃いした披露宴で。真田がめでたい席だから、と謡ったのもこの『高砂』だった。
(意趣返し、ってことかな?)
 乾の前では練習している様子など見せなかったのだが。隠れて練習していたんだな、と考えて乾はクスリと微笑した。

月もろともに 出汐(いでしお)の
波の淡路の島影や 遠く鳴尾の沖過ぎて
はやすみのえに 着きにけり
はやすみのえに 着きにけり

四海(しかい)波静かにて 国も治まる時つ風
枝を鳴らさぬ 御代なれや
あひに相生の松こそ めでたかれ
げにや仰ぎても 事も疎(おろ)かやかかる
代に住める 民とて豊かなる
君の恵みぞ ありがたき
君の恵みぞ ありがたき

 真田と幸村が盃を交わすのを見届けて、真田の祖父が「どれ、一指し舞おうかの」と立ち上がり、柳の謡に合わせて扇子を手に舞い始めた。
 真田家での祝言は、おめでたムードが最高潮に盛り上がっていた。


「みんな、今日はありがとう」
 宴も終わり、日が傾きかけた真田家の門前で。招待された立海メンバーたちは、白無垢から普段着に戻った幸村から見送りを受けた。もちろん、隣には真田もいる。二人とも、幸せそうだった。
「いい式だったよー、幸村。って、もう真田だっけ?」
「ふふ、いいよ幸村で」
 口に出してから気づいて言い直した丸井に、幸村はクスリと笑う。
「そうっすよねー。いきなり真田さんってのも何かヘンっすよねー。乾さんだって、まだ俺たち乾さんって呼んでるし」
「かといって、精市さん、というのも妙ですしね」
「乾にしても、ヘタに貞治なんて呼んだら、達人から睨まれるからの」
「って、もう睨まれてるぜ、仁王」
 切原や柳生、仁王とジャッカルら独身組が、揃って既婚者組をからかう。
「真田とケンカしたら、いつでも家に来てくれていいからね、幸村」
「うん。乾も、柳にイジめられたら家に逃げておいでね」
 ひがみも若干混ざっている彼らのからかいは旦那に任せ、幸村と乾は嫁同士ですっかり盛り上がっていた。
「だけどよく辛抱してたよね、幸村」
「何がだい?」
「白無垢って重かったでしょ? 布団肩からかけてるようなものだし」
「確かに、脱いだ時はちょっとホッとしたけど。でも大丈夫だったよ」
「さすがに根性あるね、幸村。俺は全然ダメで、結局写真だけにしちゃったからなぁ」
 ポリポリと頭をかきながら苦笑する乾に、幸村は微笑した。たおやかでか弱いように見えて、実の所常勝立海を率いる主将として誰よりも強い幸村。彼らしいな、と乾は心の中で思っていた。
「でも、乾のウェディングドレス、綺麗だったよ。柳もデレデレだったし」
「そーそー、鼻の下伸びまくってたっすからねー、柳先輩」
 旦那二人を見限ったらしい独身組が、今度は嫁二人に絡んできた。切原に続いて、仁王や柳生も集まってくる。
「今日の真田も見物じゃったがの。照れ隠しで仏頂面になっとったようじゃが」
「そうですね。部活中では、あんな幸せそうな顔は拝めないでしょうから」
「いーなー、結婚かぁ。俺もしたいなぁー」
「ってお前、相手いるのかよ?」
「そ、それはこれから探すんだよっ! 悪いか?」
 丸井とジャッカルが言い合いを始めるのを見て、クスクスと笑う幸村に、仁王が少し下卑た笑いを口元に浮かべて問いかけた。
「で、新婚初夜を迎える今の気持ちはどうなんじゃ、花嫁?」
「に、仁王君。そういう質問は……」
「とか言いつつ、お前も知りたいじゃろうが?」
「そ、それは……。興味がない、わけではありませんが」
「それってある、って言ってるのと同じっすよ、柳生先輩」
 そんな仁王を止めようとする柳生も、立海の詐欺師と暴れん坊に詰め寄られてタジタジの様子だった。皆が興味津々といった様子で幸村に視線が集まる中、乾の爆弾発言が炸裂した。
「俺と蓮二の時は形だけだったけど、幸村と真田の場合は正真正銘、今夜が初夜なんだよなぁ」
「こ、こら、貞治、それは……」
「あ………」
 慌てて柳が乾の口元を押さえたが、時既に遅し。独身組の愕然とした視線が、幸村と真田の間を何度も往復した。
「正真正銘初夜って………」
「つまり、それは……」
「なんじゃ、お前さんたちエッチもまだだったんかい?」
「でも付き合ってたのって中学の時からっすよね?」
「7年間お預け食らってたのかよ、真田?」
 事情を知っている柳夫妻を置いて、他の独身組の視線が一斉に真田に集中した。真田はわずかに動揺が見られたものの、いつものむっつりとした厳格な表情に戻って、何を言うか、とばかりに反論を開始した。
「真田家では、輿入れしてくる花嫁は白無垢に綿帽子と昔から決まっている。白無垢を着るには、清らかな体でなければならんのだ。それを汚すような真似ができるか」
「時代錯誤もいいとこじゃのう、真田」
「そうっすよ。だって今じゃ、できちゃった婚で妊娠中とか、子供先に生んじゃったー、なんて子がバージンロード歩くんすよ?」
「それにぃ、男性経験アリって子が、正月に巫女の着物着て神社に立ってるしねー。バイトで」
 真田の反論に、仁王と切原と丸井が呆れ顔で言い返す。
「他の連中がどうであれ、真田家を継ぐ者がそんなたるんだ真似をするわけにはいかんのだ」
「幸村、お前もずいぶん辛抱強いんだな」
「そういう融通の利かない所も含めて、俺は弦一郎が好きだからね」
「これは……アテられてしまいましたね」
 話を振ってきたジャッカルに向かって穏やかな微笑を浮かべる幸村に、柳生も決まりが悪そうに眼鏡のブリッジを押し上げた。
「せっかくの初夜を邪魔するような、無粋な輩にはなりたくないからな。今日のところはこれで引き上げるとしよう」
 昼過ぎから始まった宴は、祝宴の上に花見も加わり参列者は時間を忘れて盛り上がったこともあって、空は東から西に、紺から赤へのグラデーションを描いている。
 解散しよう、と口火を切ったのは柳だった。
「あー、でもなーんかまだ飲み足りないんすよねー」
 祝宴の最中、さんざん日本酒を、それもかなり値段の張る物を飲み散らかした切原がザルっぷりを披露した。懲りない様子の切原に苦笑して、丸井が言い出した。
「だったら、俺らだけでも二次会行く?」
「いいですね、行きましょうか?」
「俺もいいぜ。お前らに会うのも、久しぶりだからな」
「日本酒もええけど、今度はビールじゃの」
 丸井の提案に、柳生もジャッカルも仁王も同意する。
「乾と柳はどーする?」
「うーん、お付き合いしたいトコなんだけど」
 問いかけられて、乾は言いよどんでフッと笑った。
「俺と蓮二、今日が結婚記念日なんだよね」
「あ……そーいえば……」
「柳先輩と乾さんが結婚式したのって、ちょうど1年前だったんすよね?」
 少し照れたような顔で話す乾に、丸井も切原も、ハッと思い出したような顔をした。
「そういうことだ。今日は家族で祝うことになっているんでな。俺と貞治はこれで失礼する」
 柳はこれ以上乾に構ってくれるな、とでも言うかのように乾の肩を抱き寄せて、改めて真田と幸村に向き直った。
「今日は呼んでくれて礼を言うぞ。末永く幸せにな」
「ああ、お前と乾もな」
 手短に決まりどおりの挨拶を交わす柳と真田の横で、乾は長身を折り曲げて幸村に話しかけていた。
「真田が痛くするようだったら、蹴飛ばしてでもちゃんと自己主張するんだよ、幸村?」
「うん、アドバイスありがとう、乾。これからもよろしくね」
「乾…お前、俺を何だと思っているんだ?」
「ふ、人徳の差だな、弦一郎」
 嫁同士のそんな会話を聞いて、真田は苦笑いを浮かべ、柳は軽く冷笑する。
「今日は目出度い日じゃ。パーッと飲むで!」
「度を越さない程度にして下さいよ、仁王君。毎回あなたの介抱をさせられるのはご免です」
「硬いコトはなしっすよ、柳生先輩」
「ちぇ、しょーがないなぁ。独身は独身同士、仲良くしろってことかぁ」
「そういうことだな」
 乾の肩を抱いたままで家路につく柳と、素直にされるがままになっている乾。
 独身同士で街へと繰り出していく5人。
 そんな彼らを見送る、夫婦になったばかりの真田と幸村。
 夜の帳が下りる中、真田家の庭に咲く満開の桜が、彼らを祝福するようにハラリとその花びらを散らしていた。


Fin

written:2004.4.19

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