オリエンタル・シャンゼリゼつづき

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オリエンタル・シャンゼリゼ つづきでちゅわv



 半ば強引に押し切られる形で、俺は蓮二の家に泊まることになった。
 お互いの両親や祖父母が納得するような理由を考えろ、と蓮二には言ったものの。俺の親も蓮二の親も、「テニス」と「データ」の二言を持ち出せばすんなり納得する思考回路になっているようだった。
「あのさぁ、蓮二?」
「何だ、貞治」
「俺、蓮二の部屋に泊まることは了承したけどさ」
「ああ」
「……何でこんな着物を着せられなきゃならないわけ?」
「日本人なんだから、正月くらい着物を着てもいいだろう。お前はこういう機会でもなければ、着ないだろう?」
 確かに、蓮二の言うとおりなんだけど。でも、だからって自分の和箪笥から何枚も着物を取り出して。
(お前にはこの青が似合いそうだな。とりあえず、今着ている物は下着を除いて全部脱いでもらおう)
 なんて言い出すんだから。
「ちょっと、苦しいんだけど」
「これくらい締めていてちょうどいい。お前は着物に慣れていないからな。それに、着物の紐は体に馴染んでくるから、少しきつめにしておいた方がいいんだ」
 さすがに袴を穿け、とは言われなかったけれど、青学のレギュラージャージを思わせる青い織物の着物に同色の羽織を着せられて、俺は蓮二が自分で着物を着るのを眺めていた。
「……慣れてるね、蓮二」
「女性物と違っておはしょりを入れる必要もないからな。着物を着ることそのものは、あまり難しいことじゃない。慣れれば5分あれば着られる」
「ふぅん。で、これも仕立てたの? 高かったんじゃない?」
「お年玉代わりだそうだ」
「なるほどね」
 蓮二が着終わるのを待って、二人揃って階下の居間へ下りると両方の親と祖父母と、蓮二のお姉さんに大喜びされて、ついでにデジカメで何枚も写真を撮られてしまった。
 今までも、毎年盆と正月にはこっちへ来て会っていたけれど、こういう仲になってからは初めての正月だ。だからなんだろう。蓮二が俺に着物を着せたがったのは。
 でも着慣れている蓮二ならともかく、着物に袖を通したのは七五三以来じゃないか、という俺にとっては着物を着たまま、それも蓮二の物を着たままで夕食を・・・・・・というのはいつになく緊張した。もし汚してしまったら、と思うと気が気じゃなかった。
「……疲れた、といった表情をしているな」
「当たり前だろ、慣れない物着てるんだから。もし汚したらって思うと気が気じゃなかったよ」
「だろうな。だが、そうやっていつになく緊張しているお前は、そう見られるものではないからな」
 俺の親と祖父母を送り出して、俺だけが柳家に残って。もういい加減疲れたから脱ぎたい、と言ったのだけれど、蓮二はもう少しそのままでいろ、と言って聞かなかった。
「悪趣味」
「何とでも」
 パソコン作業をしている時とは全く質の違う凝りが、全身に広がっているような気がする。そんな俺とは対照的に、蓮二は涼しい顔して悠々とお茶を飲んでいた。
「……どうした?」
「こんなの着てるから、肩とか背中とか、凝ったみたいだ」
「そうか。だったら、そろそろ脱がせてやるか」
 蓮二があんまり素直に頷いたものだから、俺はもう得心がいったんだな、と解釈した。が、次の瞬間にはその判断が間違っていたことを俺は思い知らされた。
「……蓮二?」
「何だ?」
「何してるの?」
「だから、脱がせてやる、と言っただろう」
「それって、こういう意味だったわけ?」
「相変わらず抜けているな、お前は」
 聞き返した俺にため息をついて、蓮二はさくさくと俺の羽織を脱がせて畳に落とし、帯も解かずに合せた襟から手を忍び込ませてきた。
「俺達はもうただの幼なじみじゃない。何度も頭と体に教え込ませてきたんだが、まだ理解できていないようだな、貞治」
 首にぴったりと沿わせて着付けられていた襟が緩む。緩んであらわになった首に、蓮二の吐息がかかる。
 いつもとは雰囲気が違うからか、首にかかる吐息が熱く感じられた。
「――っ……」
 蓮二の少し乾いた唇が首に押し当てられて、ほぼ同時に冷やっとした指が肌に触れて、俺は思わず息をのんだ。
 畳の上に押し倒されて、蓮二が覆い被さってくる。ぐっと襟を押し広げてはだけた胸にしゃぶりつきながら、蓮二は右手を下肢に伸ばして裾を割り、下着の上から俺に触れてきた。
 蓮二とこういうことをするのは、まだ片手の指で充分数えられるほどの回数だ。でも蓮二の言葉通り、蓮二がどんな風に俺に触れるのか教え込まれている体が、今日はいつになく性急だと訴えていた。
「れ、蓮二……?」
 いつもは腹が立つくらい冷静に俺を煽るくせに、余裕がない蓮二に俺は少し戸惑った。けれど戸惑いを覚えながらも、蓮二に馴らされた体は容易にそれを受け容れて、熱くなり始めている。
 でも、このまま帯も解かずにただ着物をはだけるだけで事に及べば、皺になって汗や体液で汚れる確率100%だ。さすがにそれはまずいだろう。っていうか、後でどう言い訳するんだよ?
 半ば喚くようにそう言うと、蓮二は思い出したように顔を上げて、瞼の奥から俺を見下ろしてきた。
「確かに、お前の言う通りだな」
 そしてそう言うや否や、蓮二は俺の帯を解いてその端を掴み、そのままくるりと俺を横に転がした。
「え……? ちょっと、蓮二?」
 一回転させられて再び仰向けになって、蓮二はするすると帯を手繰り寄せて文机の上に置き、空いたスペースに手際良く布団を敷いて、俺を見下ろしてきた。
「ふむ……そうやって長着だけはだけた姿というのも、なかなかそそるな」
「蓮二、今の発言ってかなりオヤジ入ってるよ」
 からかうつもりでそう言うと、蓮二は口の端を少し上げて微笑した。
「時々はこういうのも悪くない、と言っているだけだ」
 ぬけぬけとそう言って蓮二は襦袢に巻いていた紐を解いて、着物と襦袢はそこに置いたまま、俺の体だけを抱き上げて布団の上へ移動させた。洗濯されて清潔なシーツが背中に触れる。ぬくもりが全くないそれに、体が驚いて少し震えた。
「寒いと感じるのは今だけだ。すぐに熱くなる」
 そんなことを言いながら、蓮二は俺の腰に巻きつけていた裾避けも取り払って、下半身も布団の上へ移動させた。そして俺が脱ぎ捨てた着物の上に自分が着ている着物をさくさくと脱いで、もう一度俺に覆いかぶさってきた。
「これで、文句はないな」
「文句……って、何言って―――っ!?」
 一瞬俺の思考回路が鈍った隙に眼鏡を取って、蓮二が荒々しく口付けてきた。
 俺にキスしながら、蓮二の手が胸や下肢に絡みついてくる。太ももの辺りに、下着の上からでもはっきりわかる蓮二の熱が当る。
 確かに、着物のままじゃヤダ、とは言ったけど……。
 いつもと雰囲気が違うからって、これじゃぁまるで……。
 考えようとしたけれど、もう全然思考がまとまらなくて、俺は目の前の快感に負けてしまった。


Fin

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