ベッドの密約

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ベッドの密約(忍足×跡部)


「……はぁ………っ」
 放出の名残で、息は乱れ、汗が止めどなく流れ出ていた。
「気持ち…良かった、やろ?」
 尋ねてくる相手も、まだ息が乱れていた。もともと声が低く、吐息混じりにまったりとした話し方をする男だが、情事の最中や後に聞くには、色気がありすぎる。反則だ、と跡部は思っていた。
「俺が嘘言うてへんって、わかってくれた?」
「……まぁな」
(ええ思いさせるって、保証するで。俺、上手いし)
 自分を誘う時に、自信満々といった様子で忍足はそう言った。いったいどこで覚えてきたのか、などと無粋なことは聞かなかったが、自分で言うだけのことはあって上手かった。
 気持ちよかったか、と問われれば、素直に頷くしかない。
 どう取り繕おうと、自分がどれほど乱れて、あられもない声を上げて忍足の愛撫を強請ったか、全て知られてしまっているのだから。

 氷帝の天才にして、曲者。

 そんな異名を取るこの男が跡部を誘うのは、これが初めてではない。部活を終えて、偶然二人きりになった時を見計らっては、何度も誘われていた。もちろん、その度に酷い言葉を浴びせて断わってきたのだが、忍足には通用しかなかった。
(別に、俺と付き合うてくれとか言うてるわけちゃうねんで。1回エッチしよ、て言うてるだけやん)
(跡部とエッチしたら、気持ちええやろうな、て思うんやけど)
(俺ら、多分相性ええで)
 眼鏡の奥で、何か隠し持っているような不敵な微笑を浮かべて。忍足は何度も跡部を誘った。
 その日も、いつものように突っぱねてやろうと思い、跡部は言い放った。
(ふざけたことほざくんじゃねぇよ。俺はてめぇのことなんざ、何とも思ってねぇんだよ)
 すると、忍足はけろっと言ってのけた。
(俺、跡部のこと好きなんとちゃうよ。ただ、跡部とエッチしたら気持ち良さそうやから、試してみようか、て言うてるだけや)
 あっさりと体だけが目当てだと言われて、跡部は拍子抜けした。
(跡部、ええ体してそうやし、感度良さそうやし。どんな顔してイクんか、見てみたいやん)
 これだけオープンにされると、もうそれは下心とは言わないのだろう。跡部が何となく思っている隙に、忍足はキスを掠め取った。強引に唇を割って舌が入り込んできて、不躾に跡部の口内を犯していく。
 存分に跡部を味わった後で、もう一度エッチしよ?と言ってきた忍足に、つい弾みで頷いて。その結果が、これだ。
 日頃テニスやトレーニングで鍛えているものの、こういう時に使う体力はまた別物だということを、跡部は学んでいた。
「…………で、てめぇはどうなんだよ」
「何が?」
「これで満足かよ」
「ああ、そういうことか。………そうやな、やっぱ跡部、ええ体してるわ」
 跡部の中で欲望を吐き出してからも、忍足は一向に跡部から離れようとしない。髪を撫でたり、額や頬に羽のように軽いキスを降らせたり、と跡部に触れるのをやめなかった。
「なぁ、跡部」
「なんだ」
「これからも、時々こうやってエッチせぇへん?」
「……………調子に乗ってんじゃねぇよ」
 まだ体力が回復していないせいか、言い返す口調にはいつもの勢いがなかった。
「俺とのエッチ、気持ち良かったんやろ? だったら、1回だけで終わりて、ちょっともったいないと思えへん? 今日みたいに、気ぃ向いたらエッチするだけやし、ええやろ?」
「………先のこと話す前に、いい加減俺から離れろよ」
「つれないなぁ。せっかく気持ちいいエッチした後やのに」
 淡白だの冷たいだの、そんなセリフを吐く忍足をよそに、跡部は忍足の下から抜け出そうとした。が、まだ跡部の中には忍足がいて。繋ぎ止められたままの体では、思うようにならなかった。
「………離れろ」
「いやや。せっかくつながったのに、もったいない」
 わざとそっけない言い方をしても、忍足は駄々をこねるように言い返してきた。それどころか。
「それに、跡部かてもっと、って言うてたやん」
 無我夢中で我を忘れている時に口走った言葉を盾に、忍足はもう一度キスをしてきた。
「ばっ! やめ……てめ………っ!」
 跡部より若干身長が高く、筋肉質であるというその体格差を利用して、忍足は跡部を押さえつけて深く口内を探ってきた。同時に、熱さを取り戻してきた自身で改めて跡部の奥を貫いて、腰をグラインドさせる。
 それだけのことで、背中から脳髄へと一気に快感が駆け抜けていった。
「あっ! や、やめ………っ!」
「ほら、ちょっと刺激しただけやのに、こんなに感じてるやん? これでも、今回だけで終わりや、て言えるか?」
 半ば脅迫めいた忍足の言葉に何か言い返そうとして。
 言葉を紡ぎ出すはずの唇からは、快感を訴える喘ぎ声が。
 反論を考えようとする思考回路は、目の前の快感に負けた。



Fin




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