プレゼント(海堂×乾)
地区予選のレギュラーを決める校内ランキング戦に向けての練習メニューを渡し、それを組んだ理由や練習法を説明する合い間に、先輩が尋ねてきた。
「そういえば、海堂は誕生日が近いんだったな。何か欲しいもの、あるか?」
「欲しいものって……プレゼント、くれるんすか?」
「ああ。だって、誕生日だろ? 何でもおねだりしてくれて、いいよ」
「本当に何でもいいんすか?」
屈託のない様子で、口元を微笑の形に引き上げる先輩に、俺は念を押してみた。
乾先輩は察しがいいように見えて、実はかなり鈍い。
俺が先輩を好きだと気づいて、付き合うようになるまでも、かなりの紆余曲折を経た。
その間に一つ学んだこと。
それは、この人は色恋沙汰にはとことん疎い。
かなりの野暮天だ、ということだった。
この人、本当に意味わかって言ってんのか?
……多分、何で俺がそうやって念押してるのか、わかってねぇんだろうな。
思いながらため息をついて、俺は先輩を見上げた。
悔しいけれど、俺は先輩よりずっと背が低い。
いつか絶対ぇ追い抜いてやる。
そんな決意も虚しく、先輩はまたこの春になって身長が伸びたらしい。
俺と先輩の身長差は、また開いてしまった。詳しい数字は、俺は先輩じゃねぇからわからねぇけど。
「そんなに念を押すなんて、ヘンなヤツだなぁ、海堂。間違っても、特製野菜汁なんて飲まさないから、心配しなくていいよ。で、何が欲しいんだい?」
先輩の言葉を聞いて、俺は小さくため息をついた。
やっぱり、この人は全然わかってねぇ。
でもそういうトコをひっくるめて、この人を好きだと思ってるんだから、俺も相当ヤキが回ってる。
「本当に何でもいいんだな?」
「いいよ」
さらに念を押した俺に、あっさりと返事をする先輩に、俺ははっきりと言ってやった。
「だったら、俺はアンタが欲しい」
「そう、俺でいいんだ? ……えっ!?」
はっきりと言われて、やっとわかったらしい。
先輩は見る見るうちに頬を真っ赤に染めた。
本当に鈍いな、この人は。
顔には出さないように苦笑して見つめ返すと、先輩は困ったように眼鏡のブリッジを押し上げた。
ズレてもいないのに、そうやって眼鏡を触るのは、照れている時の先輩のクセだ。
俺は先輩ほどのデータマンじゃねぇけど、それくらいのことはわかるようになってた。
「あの……それってつまり……」
「俺と先輩って、恋人同士っすよね?」
「う、うん……そうだけど……」
「付き合い始めて、どれくらい経ったか、わかってるっすよね?」
「それは……5ヶ月と13日だけど……」
「何回キスしたか、覚えてるっすか?」
「えっと……103回?」
何事も数字に置き換わるこの人は、付き合ってる日数とか、キスした回数はちゃんと覚えてる。
だったらもう一つ、その数字に加えてほしいと思った。
「俺は、初Hの相手は先輩がいいっす。先輩は、俺じゃイヤっすか?」
「え、と……」
ますます困ったような顔をして、先輩は眼鏡や顔や頭…あちこちを掻いたり擦ったり。
そんなことを繰り返した。
手塚部長ほどじゃないけど、いつもポーカーフェイスな先輩が、隠せないほどに照れている。
鈍くて疎いけど、反応はストレートで。
たまらなくかわいい、と思った。
「答えは、今すぐじゃなくていいっす」
「海堂……」
「でも、今度のランキング戦で俺がアンタに勝ったら、本気で考えてくれ」
「海堂………わかったよ」
逃げ道を用意した俺に少し安心したのか、先輩は軽く笑った。
「だけど、簡単に俺に勝てると思うなよ」
「わかってるっすよ」
手塚部長や不二先輩とは全然違う意味で、この人はうちの部で一番怖い存在だ。
部長に呼ばれて俺から離れていく一瞬に見せた不敵な微笑に、俺は改めてそれを思い出していた。
上等じゃねぇか。
絶対ぇ勝ってやる。
その後姿に向かって、俺は心の中で叫んでいた。
Fin