tomorrow

  • koi02.jpg

   

tomorrow(子柳+子乾)


明日
君がいなきゃ

今日、俺は初めて蓮二と試合をした。
明日の試合に向けて練習した後で、蓮二から言い出したことだった。
(そう言えば俺達、まだ一度も対戦したこと無いな)
(……どうしたんだ、急に?)
(貞治…今からここで勝負してみないか?)
今まではずっと、同じコートで試合していた蓮二と。
練習以外で、初めてネットを挟んで向かい合った。
蓮二が打ってきた球種やコース。
俺が打ち返した球種やコース。
それからスコア。
一つ一つ思い出しながら、俺はノートに書き付けていった。
蓮二が俺に教えてくれた通りに。
蓮二専用に作ったこのノートは、今まで取ってきたデータで少しずつ埋められていって。
今では、ノートの3分の1くらいまで埋まっている。
「第9ゲームは、俺のサーブで、ブレイクされて4-5っと……」
そこまで書いて、俺は手を止めた。

ここから先のデータは、ない。

次のゲームを蓮二が取ったら、蓮二の勝ち。
(いくぞ貞治、覚悟!)
蓮二がサーブを打とうとした時。
練習時間は終わってるぞ、と俺達はコーチに叱られてしまって。
俺と蓮二はコートから追い出されてしまった。
途中やめになってしまったけど、この試合はまだ続きができる。
だって。
(さっきの続き、今度の大会が終わったら絶対にやろうな)
って、俺は蓮二と約束したから。
明日の大会も、二人で出たら怖いものなんてない。
 俺と蓮二で組めば、いつか世界だって相手にできるくらい、強くなれるはずだから。
こんなことを蓮二に言ったら、きっとこう言われるんだろうな。
「確かに俺達は強くなってるけど、油断は禁物だ、博士」
って。
そう思って、俺は少し笑った。

明日の試合、どんな対戦相手が出てくるんだろう。
蓮二はどんな作戦を立てるんだろう?
俺はどれだけ相手の裏をかけるんだろう?

蓮二と途中で作戦会議をするために、ノートと鉛筆を入れて。
俺達は決勝まで行くから、タオルも1枚や2枚じゃ足りないし。
ドリンクは冷蔵庫の中だから、明日忘れないように取り出して。
テニスバッグに必要な物を全部詰め込んで。
もう寝なきゃいけない時間だったけれど、明日のことを思うと楽しくて仕方なくて。
俺は部屋の窓を開けて、星空を眺めていた。
明日もまた、蓮二とテニスができる。
明日も、また。

明日

君がいなきゃ

困る

だって、一緒にテニスできないだろ?
大会にだって出られないし、優勝もできないだろ?
俺達はずっとパートナーだって、約束したんだから。
ね、蓮二?

◇◆◇

明日

君が………

◇◆◇

「コーチ、蓮二は……?」
次の日、俺は大会の会場に行った。
約束の時間は、もう30分も過ぎているのに。
いつもあんなに時間にうるさいのに。
あと15分でエントリーできなくなるのに。

蓮二が来ない。

蓮二がいなきゃ、大会に出られないのに。
蓮二がいなきゃ、優勝できないのに。
蓮二がいなきゃ、昨日の試合の続きだってできないのに。
「もう少し、待ってみるか。何かあって遅れてるのかもしれないしな」
コーチに言われたとおり、俺は待った。
待ったけど、やっぱり蓮二は来なかった。
俺達はエントリーできなかった。 
「貞治、また次の大会があるから……」
コーチの言葉なんて、耳に入ってなかった。

一緒に大会に出ようって言ったのに。
優勝しようって、試合の続きもしようって言ったのに。
約束したのに。
なんでだよ、蓮二?
目の奥がツンとなって、思わず駆け出していた。
俺、何か蓮二にひどいこと言ったかな?
何か嫌われるようなこと、した?
蓮二?

………

呼びかけたら、いつも応えてくれたのに。
微笑ってくれてたのに。
側にいなくても、蓮二がどう応えてくれるか、わかっていたはずなのに。
呼んでも呼んでも、蓮二は応えてくれなくて。
微笑ってもくれなくて。

(またな、貞治)

あれは、また明日会おうっていう意味じゃなかったんだ?
「蓮二……応えてよ………」
頭の中に浮かぶ蓮二の顔が、ぼやけて、滲んで見えなくなった。
普通に息ができなくなって、しゃくりあげた。
メガネを押し上げて、目元をぬぐったら手がぬれた。
ぬぐってもぬぐっても、涙が止まらなかった。
もう会えないとか、そんなことないよね?
今日は、たまたま風邪引いちゃったとか。
そういうことだよね?
明日、学校が終わってスクールに行ったら、また会えるよね?
だって……。
蓮二がいなきゃ、俺は……。


明日

君がいなきゃ 困る

困る



Fin


inserted by FC2 system