恋愛写真

恋愛寫眞

koku04.JPG 2003年公開    111分   監督:堤幸彦
<出演>里中静流:広末涼子  瀬川誠人:松田龍平  アヤ:小池栄子  カシアス:ドミニク・マーカス  白浜:山崎樹範  みゆき:西山繭子  関口:高橋一生  コインランドリーの女:岡本麗  社長:大杉漣
<物語~「恋愛寫眞」パンフより>
 カメラマンの瀬川誠人は、里中静流と名乗っている。……かつて、誠人には静流という恋人がいた。これは、誠人と静流の物語だ。

 大学時代。誠人は静流と会った。はじめて会った彼女は、全身真っ黒な服を着て、ミステリアスで、エキセントリックな女の子だった。誠人は、彼女の自由奔放な行動になぜかどんどんあ巻き込まれていってしまう。学内では彼女は有名人で、悪い噂もたっていたが、誠人は静流に惹かれていく。一方静流も誠人に心を許すようになり、やがてふたりは一緒に暮らし始めた。
 静流は好んで“WONDER”という言葉を使った。ドキドキしたときの気持ち。彼女はいつも“WONDER”を探していた。カメラマンを目指す誠人に影響を受けた静流は写真を始め、めきめき腕をあげていく。ふたりで応募した雑誌の新人賞を受賞したのも静流だった。苛立つ誠人に、静流は「一緒のものを見たかっただけ」と哀しい顔をして、去っていく。「プロのカメラマンになるまで待ってる」という言葉を残して――。

 静流が誠人のもとを去ってから3年。静流が死んだという噂が入ってきた。動揺する誠人のもとに、当の本人・静流からの手紙が届く。カメラマンとして自立はしたものの、やはり理想と現実のギャップに悩んでいた誠人は、静流のことを忘れられなかった。手紙の消印はニューヨーク。ギャラリーで個展を開くので、ぜひ来てほしいと書いてある。
 静流は生きているのだろうか?
 誠人は、ニューヨークに向かった。

 真冬のニューヨーク、誠人は静流を探す。手がかりは、彼女が送ってきた写真に映っている風景だけだ。無謀な捜索を続ける誠人に、心強い味方が現れる。牧師のカシアスと、静流の友達でダンサーを目指しているアヤだ。彼らの手を借りて、誠人は静流に近づいていく。
 やがて、誠人の前に立ちはだかったのは、思いもかけない真実だった。
 静流は、今もどこかで生きているのだろうか?
 そして、誠人と静流は、もう一度出会うことができるのだろうか……?

 男の子の視点から見た恋愛物語。だけど、一筋縄ではいかない。でもやっぱり、ラブストーリー。
 っていう映画でした。でもって、すんげぇ泣きました。
 監督が「ケイゾク」や「溺れる魚」や「池袋ウエストゲートパーク」の堤幸彦監督ですから。王道ラブストーリーなんだけど、ミステリーな部分もあって、笑える場面もかなりあって、エスプリが効いていて、コラージュのような映像がとてもオシャレで。
 過去の堤作品を知っている人が観たら、「ああ、なるほどねぇ」的なお遊び要素もたっぷりでした。そして、最後の大どんでん返しもあったりして。ヤラレタ、って思いました。何が?と思われた方は、ぜひとも劇場で(あるいはレンタルで)確かめていただきたいですね(笑)。

 で、この映画。何がいいって、主演の二人がいい。
 広末涼子は「どーしたの?」ってくらいかわいくて、誠人を振り回す自由奔放な感じがよく出てて。感受性先行型の女性って、こんな感じよね、っていう。
 そして、松田龍平君ですよ。もう成人したから、“さん”付けにするべきかしら? でも、呼びなれているので君で。この映画は男の、つまり誠人の視点から描かれるラブストーリーなんですが、かなり共感できるんですよね、誠人に。恋人に先を越されて苛立ったり、素直になれずに別れてしまったり。でも忘れられなくていきなりニューヨークに飛んじゃって、そこで静流が撮った写真や、出会った人たちを通して成長していったり。
 ダメ男から成長していくその過程を、龍平君は見事に演じてくれていました。途中までずーっと抑えた演技をしていて、あるきっかけで急に表情が出てくる。その表情が変わる瞬間が、とても印象的でした。本人も、そのシーンが好きだと話していたようですが。
 そしてやはり、あの目ですよ。カメラのファインダーを覗き、狙いを定める目。目力の強さは、デビュー作から際立っていた彼ですが、今回カメラマンの役はまさにピッタリというか、ナチュラルで感性豊かなんだけど、まだ開花しきっていない様子がよく出ていたと思います。

 今回、龍平君ファンとしては何が嬉しかったって、彼の肌の露出が多かったことです(笑)。って、変態か、ってコメントなんですけどね。上も下も、脱がしてくれてありがと~、堤監督(はぁと)。状態でした。思えばね、『御法度』の時は、はだけた着物の襟元からビーチクが見えただの、見えなかっただの。そんなことでファン同士、大盛り上がりしたもので。それを思えば、今回の露出度の高さは、最高記録でございました。
 そして、笑ったり泣いたり怒ったり。ここまで感情を表に出す役も、今までになかったんじゃないかと思います。『走れ! イチロー』も、普通の男の子を演じていたんですが、それ以上に、今回の誠人はナチュラルで、ニューヨーク着いた途端に「さみ~!」って叫んだり、殴られて「ついてねぇ~」って情けない言葉を口にしたり、といろいろな顔が見られて、幸せでした。そして、やっぱり、上手くなってます。
 また、今回は英語でのセリフが多かった彼。まず、セルフナレーションが英語ですからね。それも、バカ丁寧なクィーンズ・イングリッシュ。残念ながら、どこがどう丁寧で、ニューヨーカーたちがどうブロークンなのかまでは、聴き取るだけの語学力がないのですが(苦笑)。それでも、全編を通しての英語のセリフと、それを使ってのお芝居というのは、本当に大変だったのではないかと思います。ロケ先のニューヨークも、とても寒かったということですしね。

 本当に、龍平君がいいなぁ~。と思える、ファンとしてはとても嬉しい映画でした。あ、もちろん、映画そのものもいい話で、切なくて、これを書きつつ思い出すだけで泣き出しそうになってしまったりするんですけどね。不器用なんだけど、静流を思いやって発せられる言葉とか、ニューヨークで静流の行動を追体験するシーンとか、本当に良かったです。

 あと役者さんで注目したいのは、やはり小池栄子。ニューヨークでの静流の友人ということで、彼女は物語の鍵になる人物なんですが、彼女の演技も光ってました。
 そして、これが映画初出演だという山崎樹範。声だけは、毎週「テニスの王子様」で聴いてたんですけどね。誠人の同級生で、「アンアンに投稿する写真だから」と女の子を騙して誠人に写真を撮らせ、実はアダルト雑誌に投稿してて、それがバレて銅像に括り付けられちゃったり。のっけから龍平君に殴られたり、コミカルな役だったのですが(どことなく堀尾と重なってしまって、やっぱりその路線か?なんて思ってしまったものです)、いい味出してました。
 でもって、大杉漣さん。ものすご~くチョイ役なのに、異様な存在感があるのは、やはりさすがでございます。

 全体として、誠人がニューヨークに飛ぶまでがちょっと長いかな?という印象はありましたが、それでもミステリーやサスペンス、ハードボイルドや笑いといった、いろいろな要素が詰め込まれていて、観ていて飽きることはありませんでした。映像そのものも、カメラが連続でシャッターを切るようなコマ送り映像があったり、写真を撮った時に偶然入ってしまう光が映像にも入っていたり。そのあたり、16mm、8mm、ビデオ、スチール、ポラロイド、デジカメ等等、様々な形式やアングルで撮影されたという特徴や、主人公の二人がカメラマンであるといった設定も、よりよくわかるようになっていたように思います。
 あと、忘れてはいけないのが、9・11。
 この事件のために、撮影が延期され、制作期間が足掛け3年になってしまった。という経緯があるらしく、物語の中でも、誠人がラウンド・ゼロを訪れるシーンが出てきます。そこで、「うわー、すごーい」と言いながら、ピースをして写真を撮る日本人カップルが出てくるんですが、あの事件をただのイベントとしてしか受け取れない人も、実際にいるんだろうなぁ。でもって、実際に結構大勢の日本人が、そうやって写真に映ってるんだろうなぁ、と思うとなんだか哀しい気持ちになりました。

 まっすぐで、だからこそ不器用で、離れていても切れることのない二人の絆に、それを追い求めながら成長していく誠人の姿に、そして二人を待っている真実に。かなり泣かされました。いい映画でした。
 そして、この映画で更なる成長を遂げた松田龍平君に、惚れ直しました。

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