青い春

青い春

koku04.JPG 2002年公開   83分   監督・脚本:豊田利晃
原作:松本大洋「青い春」より「幸せなら手をたたこう」
<出演>九條:松田龍平  青木:新井浩文  雪男:高岡蒼佑  木村:大柴裕介  大田:山崎裕太  吉村:忍成修吾  野球部一年生:塚本高史  売店のオバサン:小泉今日子  花田先生:マメ山田

<物語~「この映画がすごい!」他より>
 屋上の柵の外に立って手を叩いた回数を競うベランダゲーム。朝日高では最も多く手を叩いた者が学校を仕切ることができるという伝説があった。今年の勝者は、新記録8回を打ち立てた九條。しかし、彼はあまり気のない様子を見せる。むしろ、九條についてまわる幼なじみの青木のほうが、天下をとったかのようにはしゃいでいた。
 まったりと新学期を迎えたかに見えた九條をはじめとした不良集団であったが、やがて次々に歯車が軋みはじめる…。

 とてもクールで、かっこよくて、イタイ映画である。
 まぁ、原作が松本大洋の「不良マンガ」なのだから、当然といえば当然かもしれないけれど。

 九條を演じた松田龍平の、あの存在感はいったいなんだんだろう? クールで、だけど冷酷なわけではなくて。感情を抑えているわけでもない。何事にも無関心な様子で、まるで神のように、学校を一番高い屋上から見下ろす九條。無表情に、淡々と、青木に嫌がらせをした下級生に向かってバットを振るう姿も、妙にハマッている。一見、他の役者たちの中に埋もれてしまいそうでありながら、決して埋もれてしまうことがない。
 ベランダゲームで手を叩く時も、彼の口からは「怖い」という言葉が聞かれることはない。表情があるようで、ない。無関心なようで、実は結構熱くなる面も持ち合わせている。そんな複雑な九條を、松田龍平は自然に演じていたように思う。

 この映画で最も印象的なのは、校舎の周囲に咲き誇る満開の桜である。そういえば、松田龍平のデビュー作である『御法度』では、彼は桜に例えられていた。つくづく、桜に縁のある役者だなぁ、とファンは思ってしまうわけで。
 桜という花は、満開に咲き乱れた時の絢爛豪華さもさることながら、散っていく姿も潔さや美しさを感じさせる花である。甲子園へ行くという夢が破れ、ヤクザになるために柵を乗り越える者も。ある日突然思い立って友人を刺し殺し、警察に連行されていく者も。満開の桜は、学校という「天国」から去っていく彼らの散り際を象徴しているようでもある。

 この映画の一番の見所は、親友である九條に突き放された青木が、アイデンティティの崩壊と共に暴走し、九條と対立していくその二人の関係である。誰よりも意識し、尊敬していた九條から無視され、突き放され、見放されて壊れてしまった青木は、見ていてとても哀れだ。それまで誰よりも依存していた友人の影を、学校から、自分の中から全て消し去ってしまおうとするかのような彼の行動。あそこまで極端なことはしないだろうが、誰しも似たような経験はあると思う。
 これは全くの余談だが、九條と青木が互いの髪を掴んで殴りあうシーン。あそこは、どちらも本気で相手を掴んで殴っていたそうだ。ファンとしてはつい、「顔はやめて、顔は(>_<)!」と思ってしまうのだが(苦笑)。そんな二人の気迫も、よく表れていたと思う。

 また、この映画。ミッシェル・ガン・エレファントの音楽がとても効果的に使用されている。それが、この映画のかっこよさをより一層引き立てる。「かっこいい」のは、松田龍平を筆頭とした、現在注目されている若手俳優ばかりではないのだ。

 私としては、あくまでも松田龍平ファンであるので、ついその視点で見てしまうのだが…。彼が最も得意としているサッカーテクニックも堪能することができるし、ニッコリ笑顔で女の子に手を振る姿も見られるし、時にはクールに時には熱く暴力を振るう姿も見られるし。何よりも、念願の学ラン姿が堪能できる! という意味で、松田龍平ファンには必見の映画である。
 そして彼は、やはり他人から求められ、他人を見下ろす役が似合っているように思う。人によっては「気持ち悪い」とさえ言われるその目は、やはり独特の色気を湛えているのだろう。

 この映画、一番印象に残るのは九條の「咲かない花も、あるんじゃないですか」というセリフである。将来への見通しも立たず、特に夢もない。自分が「咲かない花」なのかもしれない、という不安は、少なからず学生時代に抱える漠然とした不安に通じるものがある。そんな九條に対して、花田先生は「花は咲くものです」と反論する。しかし、花は咲いても必ず散っていく。そんな、ある種の無常さも、学校を取り巻く満開の桜は象徴しているように思えてしまう。

 「青い春」は、九條の視点で見るか、青木の視点で見るか、人によって分かれると思う。九條の視点でこの映画を観た私は、ラストの喪失感に苛まれる彼を思って号泣した。九條に反発し、暴走せざるをえなかった青木の姿にも。
 凄惨な暴力やリンチのシーンがあるから、という理由ではなく、どこか自分を投影して彼の痛みに共感するという意味で、この映画はイタイ。自分の思い通りにならない友人をもどかしく思い、不器用な接し方しかできない彼らは、とても哀しい。
 時間は83分だけれど、その中で語られている内容は3時間分くらいある。そんな映画です。

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