新版 おそれいりますシェークスピアさん

新版 おそれいりますシェークスピアさん。2002

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(2002年12月6日 倉敷芸文館)
脚本:小佐田定雄   演出:わかぎゑふ
シェイクスピア:茂山宗彦   ハムレット:茂山逸平
物語:新作「ハムレット」を執筆中のシェイクスピア先生は、初日が目前に迫っていると言うのに筆が進まない。いよいよ追い詰められた先生が、こともあろうに自作の登場人物に相談をもちかけたところ……。

 大蔵流茂山家の中でも人気の高い、宗彦&逸平兄弟による二人舞台、「おそれいります、シェイクスピアさん」の再演でした。全国でも4ヶ所しか上演されない貴重な舞台を、前から4列目という絶好の位置で見ることができたのは、本当に幸せでした。

 この舞台、始まる前のアナウンスもお二人によるものでした。
「おそれいりますが、……」
 最初だけかと思いきや、「お早めにお席におつき下さい」とか「ケータイやPHSの電源は切ってください」とか、5つも6つも続き、最後の方は「おそれいりますが、」と話されただけでクスクスと笑いが飛び出す始末でした。
 しかし、これだけ「おそれいりますが、」と下手に出て頼んでいらっしゃるにもかかわらず、いたんですよねぇ、ケータイを鳴らすおバカさんが。周りの観客の迷惑になるのはもちろん、演じておられる役者さんに対してもものすごぉく失礼なことだと思うんですけど。本当に、どうにかしてほしいものです。

 と、余計なことを申しました。
 話を舞台の本筋に戻しましょう。
 日頃はこのお二人、大蔵流茂山家の狂言師として、全国津々浦々の舞台に立っておられるのですが、今回はのっけからシェイクスピア劇の有名なセリフから始まります。
「尼寺へ行け。なぜ、男に連れ添うて罪深い人間を産みたがる?」
 逸平ちゃんの熱演です。が、それだけで終わるはずのないのがこの舞台。途中までセリフを言うと、ピタリと動きが止まってしまいます。何故なら、「ハムレット」を執筆するシェイクスピア先生が筆を止めてしまったから。
「あかん、やんぺ」
 シェイクスピアと、劇中にとりあえず登場させられて途中止めにされてしまったハムレット。この二人を、京都弁まじりの関西弁で演じていくのですから、もう場内は笑いの渦が耐えません。ワタクシも、気持ちよく笑わせていただきました。
 今回のこの舞台は、ボケが逸平ちゃんで、突っ込みが宗彦さん。
 登場はさせられたものの、一向に筆が進まないシャイクスピア先生を、ハムレットがどうにかしてノセようと、あれこれ画策していくのですが、これがまた面白い。
 小噺を始めたり、歌舞伎の真似をしてみたり、落語を語ってみたり、はたまた狂言を演じてみたり。
 もともと狂言師としてしっかりした技術を身につけておられるだけに、どれもこれもまたお上手。でもって、小噺に関しては、逸平ちゃんはプロはだし!ということで、ボケもお話も逸品でした。

 どうにかしてシャイクスピアに脚本を書かせようとするハムレットと、脚本をハムレットに押し付けようとするシェイクスピア。このやりとりは、狂言を現代風にして見ているような面白さがありました。
 そして、この二人が演じるということで、当然内輪ネタも飛び出します。
「微妙にハデなのは?」「茂山千五郎」(←今の、茂山家のご当主さまです)
「片山右京モデルの折りたたみ自転車を買ったものの、一度も乗らずに折りたたんだまま自転車になってるのは?」「茂山千五郎」
 かと思えば、この12月で結婚1周年を迎える宗彦さんのケータイに、奥様以外のアドレスが……なんて、暴露話まで飛び出していました。
 そして、やはりこの二人にもネタにされる某和泉流のお騒がせ狂言師(笑)。
「あの人はいじったらいかん、て。“せ”のつくこわーい人が出てくるんやから」
 誰のことを指しているかは一目瞭然で、思わず大爆笑してしまいました。本当、茂山の方々も敵に回しているんですねぇ、彼は。

 登場するのがハムレットとシャイクスピアということで、「ハムレット」以外のシャイクスピア作品の、有名な下りも数々出てきていました。
 「夏の夜の夢」のパックとか(ちゃんと、逸平ちゃんが高い声でかわいく元気に演じてました)。
 「ロミオとジュリエット」のジュリエットとか(最初、オカマ声で「ロミオ」と呼びかけ、「キャラ違う」と突っ込まれてかわいらしく演じてました)。
 「ヘンリー8世」なども出てきていました。次々に変わる劇の場面に合わせて、BGMも「田園」や「ロミオとジュリエット」をはじめとする、さまざまなクラッシックが流れていました。

 そして、忘れてはいけないのが、シェイクスピア先生愛用のゴミ箱“小池さん”。ふたを開けて話しかけると、いつもラーメンをすすっていて、、、って、それ、「ラーメン大好き小池さんかいっ!」と思わず客席から突っ込みたくなる演出になっていました。
 本当に、狂言で鍛えた芸達者振りを存分に見せてくださったこの舞台。
 今回は以前演じたものの再演ということだったのですが、機会があればまた数年後に見てみたいと思う舞台でした。

とりあえず、2002年を締めくくる舞台となったわけなのですが、最後の最後で気持ちよく、楽しく笑わせていただいて。今年は大蔵流茂山家の狂言師には、大いに笑わせていただいた年になりました。
 同じ年代に生まれ、これから徐々に成長していかれる様子を見ることを許されたこの幸運に、心から感謝するとともに、できるかぎり楽しんでいけたら、と思います。

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