演目が「高砂」と「千鳥」で、狂言が茂山七五三一家ということで、観に行って参りました。
「高砂」は「たかさごや~」から始まる、お祝いの席で謡われることの多い有名な曲なのですが、実際に見るのはこれが初めてでした。
上演されたのが、演劇用に作られたホールでよく音が響くということもあって、大鼓の音がカーン!と心地よく響いていました。
「千鳥」は、主に逸平&宗彦兄弟のやりとりが中心になっている演目でした。何とか金を払わずに酒を持っていこうと、あれこれ画策する太郎冠者と、それを阻止しようとする酒屋の主人とのやりとりがとても面白くて。逸平ちゃん扮する太郎冠者の、企みがバレた時のボケっぷりもかわいらしくて、それを止めるために突っ込む宗っちゃんお突っ込みも絶妙で。笑い声が絶えない演目でした。
それにしても、逸平ちゃん。この年の6月に難局「釣狐」を披いたことも関係しているのでしょうか。声の通りがとても良くなっていて、演技も上手くなっているなぁ、と思いました。なんとも愛嬌のある容貌といい、仕草といい。絶妙なボケっぷりといい。将来、千作爺ちゃん並、いや越えるほどの役者になってくれたらなぁ、とますます期待が膨らんでしまいました。人間国宝は野村萬斎さんに譲るかもしれませんが、お笑い大王にはなれるかもよ?と思う、今日この頃(^^)。
「藤戸」は、ホールのある倉敷にちなんだ演目です。お祝い事には向いていないのですが、地元ネタということで、選ばれたようです。倉敷市は藤戸をはじめ、源平合戦の古戦場があちこちにあるのです。…それ絡みの心霊スポットもあるようですけど(苦笑)。この「藤戸」に関しても、実際にその地へ行くと、佐々木盛綱に息子を殺された母親が「佐々木憎けりゃ笹まで憎い」と言って、笹を全て刈ってしまった。という謂われのある、“笹なし山”というのがあります。
…と、余計な話をしました(^_^;)。この「藤戸」という演目。全体的には、とても静かで。でも激しい曲でした。シテも、前半部分では老女ということもあって、ほとんど動かないのです。ただ面をかけて、じっと正面を見据えているだけ。でも、動かないシテの全身から、息子を殺された恨みを切々と語る老婆の悲しみが伝わってくるのです。そして動かないからこそ、時折顔を覆うような仕草にドキッとさせられる瞬間があって、より悲しみが増すような気がしました。
七五三さんの解説もかねたアイをはさんで、後半には、老婆を演じたシテが漁師の亡霊となって盛綱の前に現れます。この漁師も、理不尽に殺された恨みを盛綱に訴えるのですが、その動きがこれまた静かであまり動かないのです。けれど、あまり動かないからこそ、最後に彼が再現する殺人の場面がより一層残酷に、そして哀しく心に迫ってくるような気がしました。
この演目は、本当に“能動的に”観ていないと、眠っていたりぼんやりしているとわからない演目でした。まぁ、私は今回、舞台の真正面に座っていたのでちゃんと起きていたのですけど。それでも、鼓と謡の声があまりに心地よくて、時々目を閉じてました(苦笑)。横の方には、寝息たててる人もいたなぁ(苦笑)。しかし、何が許せないって、途中でケータイの着メロが鳴ったこと! せっかくの、激しい悲しみを描く静寂な世界が、ぶち壊しになるわけですよ。あれってホント、演者に対しても、周りの観客に対しても、失礼極まりないですよね。っていうか、電源切るの忘れるんなら、持ってくるんじゃねぇよ、あ~ん?って感じでしょうか。演目はとても良かったのですけれど、その1点がとても残念でした。