スーパー狂言 クローン人間ナマシマ

スーパー狂言 クローン人間ナマシマ

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(2003年4月4日 岸和田市立浪切ホール)

【演目】
●ミュージカル仕立狂言 妙音へのへの物語
演者:左近丸=茂山正邦   右近丸=茂山宗彦   今出川中納言=茂山逸平  福富織部=丸石やすし   藤太=茂山あきら   おくま=茂山茂
物語:京の町に〔曲屁〕(「おなら」の曲芸で、様々な音色を出し、音楽を演奏するという珍なる芸能)を得意とする福富織部という人物がいた。彼は貴族の家へ招かれて曲屁を披露しては褒美をもらい、いつしか「福富長者」と呼ばれるようになっていった。その織部の隣の家に、藤太とおくまという夫婦が住んでいた。おくまは織部の成功を見て、藤太に織部の芸を習わせ、自分たちも織部のように裕福になろうと企む。織部は隣のよしみで仕方ない、と藤太に条件付で芸を教えるのだが…。


●スーパー狂言 クローン人間 ナマシマ   原作:梅原猛
演者:メリケン国グランドリーグのスカウト=茂山千五郎   東京ジャイガンツ・マツキ選手=茂山茂  東京ジャイガンツ・キヨウミ選手=茂山宗彦   東京ジャイガンツ・タカガワ選手=茂山逸平  東京ジャイガンツの社長=茂山七五三   キートン博士=茂山千之丞  キートン博士夫人=茂山千三郎   東京ジャイガンツ・ナマシマ監督=茂山千作  クローン・ナマシマ選手1=茂山宗彦   クローン・ナマシマ選手2=茂山茂  クローン・ナマシマ選手3=茂山逸平   クローン・ナマシマ選手4=茂山童司  クローン・ナマシマ選手5=丸石やすし   クローン・ナマシマ選手6=松本薫  クローン・ナマシマ選手7=佐々木千吉   東京ジャイガンツ・ハラハラ監督=松本薫  キートン博士のクローン人間=茂山あきら   鬼=茂山正邦
物語:名門プロ野球チーム、東京ジャイガンツにはマツキ、キヨウミ、タカガワという主砲が揃っていたが、メリケン国グランドリーグに相次いでスカウトされる。困ったジャイガンツ社長は知り合いのキートン博士の言葉に乗り、クローン人間製造を依頼する。それは、かつての名選手ナマシマ前監督のクローンだった。ピッチャー、キャッチャーを除く7人の、若き日の最強の4番打者、ぴちぴちのスーパースターの復活。果たしてその顛末は…。

 ウワサには聞いていたものの、観たことがなかった「ナマシマ」。ついに観ることができました。
 これが上演された大阪府岸和田市の浪切ホール。舞台下手側に長い花道がついていて、私が座った席は、その花道のすぐ脇という絶好の場所でした。私のすぐ横で茂さんが演技をしたり(すぐ側で聞くと、本当に迫力あります、彼の声)、舞台から下りていく茂山一門全員が見られたり…と、とても美味しい思いを致しました。「ナマシマ」では鬼役ということで、面をかけた正邦さんが花道から下がって行かれたのですが、やはり面をかけての演技はとても体力を消耗するようですね。面の下から荒い息が聞こえてきました。

 「妙音へのへの物語」は、「おなら」の曲芸を扱ったお話。ということで、尺八でそのおならの音楽を表現し、織部が客席にお尻を向けて、曲をひねり出している様子を演じるのですが(笑)。ぷり、ぷり、ぷり、と動く丸石やすしさんのお尻、観ていてとても面白くて、大笑いしてしまいました。
 中納言に扮した逸平さんも、おっとりと貴族らしくということで、高くゆっくりした声で話すのですが、これがまたなんとも言えず、面白い(笑)。織部に「芸を見せろ」と要求しておきながら、いざ芸を始めようとする織部に向かって、「臭いは…どうなのじゃ?」と尋ねるなど、高貴な方なんだけど、とぼけていて面白い。いやいや、さすがです。ちなみに、その織部の屁。無味無臭で地球環境にも優しいそうです(笑)。
 そしてこの狂言では、久しぶりに茂さんの“わわしい女”が観られました。ダメな夫の尻を叩いて織部に芸を習えと言い、習ってきたら今度は「さっさと貴族の家へ披露しに行け」と言い。挙句、織部から「絶対に守れ」と言われた約束事まで破らせる(笑)。本当に、彼の演じる“わわしい女”はどこか滑稽で、憎めないんですよね。

 「クローン人間 ナマシマ」は、梅原猛さんが原作とあって、クローン人間への風刺がピリリと利いた、珍しくダークな狂言でした。最後に全員での附祝言があったのは、そのせいなのかなぁ、と思ったのですが。作られたのが去年だったでしょうか。なので、時間設定は名選手を揃えながら巨人が優勝できなかった、2001年のシーズン後、ということになっていました。だから、マツキ選手がいるんですね(笑)。
 しかしダークといっても、そこは狂言ですから。面白いのはとぉっても面白かったです。
 マツキ・キヨウミ・タカガワの3人に扮した茂・宗彦・逸平各氏はちゃーんとモデルになった選手のモノマネをしてました。話し方はもちろん、バットの構え方なんかも、そっくり。特にキヨウミ選手は、岸和田が地元ということで、「地元か。懐かしいな。開幕狙っててんけどな、間に合えへんかった」なんて言ってくれまして(笑)。サポートに出てきた後見さんを捕まえて、頭を抱えてゲンコツでグリグリと…とイジめておられました。いやぁ、初めて観ましたよ。演者が後見さんをイジめるの(笑)。
 そして、「どーしてこの人ってば、妙な日本語を話す外国人、こんなに上手かな?」と思うのが、千五郎さん。先の『唐相撲』の通辞もそうだったんですけど、今回のスカウトも、とても面白かったです。この演目を始める前、千五郎さんが花道で「これは一昨年の話だと思って下さい」と一言お話されて。それから舞台に上がられて、「ワタクシはメリケン国はグランドリーグの、スカウトでござぁる。早い話が、人買いでござぁる」と、妙なイントネーションで話し始めたものですから、つい大笑いしてしまいました。
 この狂言で、もう一つ。初めて観たよ、と思ったのが、囃し方さんがハッピを着たこと。クローン・ナマシマ選手たちが「私が4番サードだ!」諍いを始め、それをスカウトが「一人2億で買いまぁす」と引き取ることになり、スカウトされかかった主砲も戻ってきたということで、全員で東京ジャイガンツの応援歌を歌うんですが…。その応援歌、「巨人の星」の主題歌の替え歌で、客席もあらかじめ配られていたメガホンを用意し、大合唱と相成ったわけですが。その時に、囃し方さんたちもジャイガンツ色のハッピを着ていました(笑)。

 まぁ、普通なら、ここで「めでたし、めでたし」で終わるわけですが。今回はさらにおまけがありました。そこが、この狂言の“そら恐ろしさ”を表しているんですけど。ナマシマ選手のクローンを作ったキートン博士。なんと、クローンを作るときに、過って自分の髪の毛を1本だけ、試験管に入れてしまったんですね。で、出来上がったのがキートン博士のクローン。本物とクローンの対決、という場面が描かれます。
 夫人もクローンに取られ、追い出されてしまう本物のキートン博士。そんなクローンと夫人の後ろに現れる鬼。“悪”を彷彿とさせる演出で、ダークな印象を受けました。

 それにしても、この狂言でキートン博士夫人を演じた千三郎さんがお召しになっていた着物。黒地に金糸・銀糸・ラメの糸で刺繍がしてあるという豪奢なものでした。まぁ、モデルが「何とかチーの人」なので、納得といえば納得できるんですけど(苦笑)。
 今回は、尺八で曲屁を演奏したり、BGMをつけてみたり。大鼓でボールを打つ音を出したり。と、囃し方の楽器を効果音として上手く利用されていました。狂言界の奇才・千之丞ならではの演出、といったところでしょうか。

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