ウワサには聞いていたものの、観たことがなかった「ナマシマ」。ついに観ることができました。
これが上演された大阪府岸和田市の浪切ホール。舞台下手側に長い花道がついていて、私が座った席は、その花道のすぐ脇という絶好の場所でした。私のすぐ横で茂さんが演技をしたり(すぐ側で聞くと、本当に迫力あります、彼の声)、舞台から下りていく茂山一門全員が見られたり…と、とても美味しい思いを致しました。「ナマシマ」では鬼役ということで、面をかけた正邦さんが花道から下がって行かれたのですが、やはり面をかけての演技はとても体力を消耗するようですね。面の下から荒い息が聞こえてきました。
「妙音へのへの物語」は、「おなら」の曲芸を扱ったお話。ということで、尺八でそのおならの音楽を表現し、織部が客席にお尻を向けて、曲をひねり出している様子を演じるのですが(笑)。ぷり、ぷり、ぷり、と動く丸石やすしさんのお尻、観ていてとても面白くて、大笑いしてしまいました。
中納言に扮した逸平さんも、おっとりと貴族らしくということで、高くゆっくりした声で話すのですが、これがまたなんとも言えず、面白い(笑)。織部に「芸を見せろ」と要求しておきながら、いざ芸を始めようとする織部に向かって、「臭いは…どうなのじゃ?」と尋ねるなど、高貴な方なんだけど、とぼけていて面白い。いやいや、さすがです。ちなみに、その織部の屁。無味無臭で地球環境にも優しいそうです(笑)。
そしてこの狂言では、久しぶりに茂さんの“わわしい女”が観られました。ダメな夫の尻を叩いて織部に芸を習えと言い、習ってきたら今度は「さっさと貴族の家へ披露しに行け」と言い。挙句、織部から「絶対に守れ」と言われた約束事まで破らせる(笑)。本当に、彼の演じる“わわしい女”はどこか滑稽で、憎めないんですよね。
「クローン人間 ナマシマ」は、梅原猛さんが原作とあって、クローン人間への風刺がピリリと利いた、珍しくダークな狂言でした。最後に全員での附祝言があったのは、そのせいなのかなぁ、と思ったのですが。作られたのが去年だったでしょうか。なので、時間設定は名選手を揃えながら巨人が優勝できなかった、2001年のシーズン後、ということになっていました。だから、マツキ選手がいるんですね(笑)。
しかしダークといっても、そこは狂言ですから。面白いのはとぉっても面白かったです。
マツキ・キヨウミ・タカガワの3人に扮した茂・宗彦・逸平各氏はちゃーんとモデルになった選手のモノマネをしてました。話し方はもちろん、バットの構え方なんかも、そっくり。特にキヨウミ選手は、岸和田が地元ということで、「地元か。懐かしいな。開幕狙っててんけどな、間に合えへんかった」なんて言ってくれまして(笑)。サポートに出てきた後見さんを捕まえて、頭を抱えてゲンコツでグリグリと…とイジめておられました。いやぁ、初めて観ましたよ。演者が後見さんをイジめるの(笑)。
そして、「どーしてこの人ってば、妙な日本語を話す外国人、こんなに上手かな?」と思うのが、千五郎さん。先の『唐相撲』の通辞もそうだったんですけど、今回のスカウトも、とても面白かったです。この演目を始める前、千五郎さんが花道で「これは一昨年の話だと思って下さい」と一言お話されて。それから舞台に上がられて、「ワタクシはメリケン国はグランドリーグの、スカウトでござぁる。早い話が、人買いでござぁる」と、妙なイントネーションで話し始めたものですから、つい大笑いしてしまいました。
この狂言で、もう一つ。初めて観たよ、と思ったのが、囃し方さんがハッピを着たこと。クローン・ナマシマ選手たちが「私が4番サードだ!」諍いを始め、それをスカウトが「一人2億で買いまぁす」と引き取ることになり、スカウトされかかった主砲も戻ってきたということで、全員で東京ジャイガンツの応援歌を歌うんですが…。その応援歌、「巨人の星」の主題歌の替え歌で、客席もあらかじめ配られていたメガホンを用意し、大合唱と相成ったわけですが。その時に、囃し方さんたちもジャイガンツ色のハッピを着ていました(笑)。
まぁ、普通なら、ここで「めでたし、めでたし」で終わるわけですが。今回はさらにおまけがありました。そこが、この狂言の“そら恐ろしさ”を表しているんですけど。ナマシマ選手のクローンを作ったキートン博士。なんと、クローンを作るときに、過って自分の髪の毛を1本だけ、試験管に入れてしまったんですね。で、出来上がったのがキートン博士のクローン。本物とクローンの対決、という場面が描かれます。
夫人もクローンに取られ、追い出されてしまう本物のキートン博士。そんなクローンと夫人の後ろに現れる鬼。“悪”を彷彿とさせる演出で、ダークな印象を受けました。
それにしても、この狂言でキートン博士夫人を演じた千三郎さんがお召しになっていた着物。黒地に金糸・銀糸・ラメの糸で刺繍がしてあるという豪奢なものでした。まぁ、モデルが「何とかチーの人」なので、納得といえば納得できるんですけど(苦笑)。
今回は、尺八で曲屁を演奏したり、BGMをつけてみたり。大鼓でボールを打つ音を出したり。と、囃し方の楽器を効果音として上手く利用されていました。狂言界の奇才・千之丞ならではの演出、といったところでしょうか。