ハリー・ポッター
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テニプリ
特別番外編:最強王者立海見参!〜試合編 4

 競技場は騒然となった。

 試合中に選手が入れ替わっていたなど、前代未聞の出来事だったからである。

「いいんすか、あれ!?」

「……少なくとも、選手が入れ替わっていてはいけない、というルールはないよ」

 悲鳴のような声で尋ねてくる堀尾に答えたのは、河村だった。

「同じチームのレギュラー同士で入れ替わっていたのなら、特に問題はないはずだからね」

 河村に続いたのは、不二だった。

「でも、とんでもないことしやがるな、ヤツらは……」

「プレーにも影響が出るだろうね」

 唸るように呟くハグリッドに、不二も頷いた。

 ダームストラングが10点を追加したことで、試合は一度小休止していた。

「もういいでしょう!」

 苛立ったように言いながら、仁王の髪形をした柳生が、仁王から眼鏡を奪い取るようにして手にし、顔にかけて髪を戻す。柳生に眼鏡を取られた仁王は、後ろ髪の一部をまとめて、束ねた。

(迂闊だった……俺のデータよりレーザーのスピードが若干遅く、気になっていたが。まさか仁王が今まで柳生に成り済まし、レーザービームを打っていたなんて……)

 それを見ながら、乾は半ば呆然としていた。

 いや、呆然としていたのは乾だけではない。チェイサーとして、仁王や柳生をマークしていた菊丸や大石は、愕然として真っ青になっていた。

「見てみんしゃい、あの顔」

 青学選手の様子を見て、仁王が不敵に笑いながら柳生に話しかける。

「2つのレーザーは、もう止められねぇ」

 切原が勝ち誇ったように宣言した。

 その言葉どおり、大石や菊丸の動きが目に見えて鈍くなった隙を突いて、ダームスラトングがさらに5つのゴールを奪い、160−10まで得点差が開いてしまった。

「これ以上離されると、越前がスニッチを捕まえて試合終了になっても、グリフィンドールに勝ちはねぇ。さあ、どうするよ、手塚?」

 実況席にいる跡部も、珍しく青学を心配し始めていた。

「っていうか、そんなことまでしなくても、ダームストラングって強いんじゃないの?」

「念には念を入れて、相手に敬意を表して全力で叩き潰す。それが、俺たち立海だよ」

 千石の突っ込みに、幸村は綺麗な微笑を浮かべて空恐ろしいことを口にした。

 仁王の策略に掛かったことで、グリフィンドールのチェイサーたちは完全に連携プレーができなくなっていた。

 そしてビーターの乾もまた、海堂が立ち直っていないために一人で柳を相手に奮闘していた。

「ぐおおおおーっ!」

 乾の口から出てくるのは、相手の動きを分析するデータではなく、ただひたすらブラッジャーを追いかける叫び声だけである。箒で宙を飛んでいるにもかかわらず、ドドドという擬音が聞こえてきそうな必死さだった。

「乾が……データクィディッチを捨てた……」

 不二がいつもは閉じているように見える瞼を開いて、小さく呟いた。

 容赦なく攻め立ててくる柳に対抗して、乾は必死の形相でブラッジャーを追いかけ、打ち返す。

 その姿が、仁王と柳生の入れ替わり作戦のショックを少しずつ、和らげていった。

「頭で考えるよりも先に、身体が反応してるって感じだね」

 不二に同意するように、河村が感心したように呟く。

「ぬあああーっ!!」

 やっと追いついた、といった様子でブラッジャーを打ち返した乾は、飛ぶスピードを緩めることもできず、観客席から長く垂らされた幕に横倒しになるように突っ込んだ。そのまま幕に巻き込まれるようにズルズルと地面に落ちた乾の横には、顔から外れた眼鏡が落ちていた。

「乾先輩、いったぁーっ!」

 立ち上がって再び箒にまたがろうとした乾の近くを、ジャッカルが打ったブラッジャーが通りかかった。ブラッジャーには、一番近くにいる選手を攻撃するような魔法がかけられている。

 ブラッジャーは、すぐ側にいる乾に攻撃をしかけようと、突然軌道を変えた。

「先輩っ!」

 乾に攻撃しようとしたブラッジャーを、間一髪で弾き飛ばしたのは、海堂だった。

「海堂……?」

「大丈夫っすか、乾先輩?」

「あ、ああ……幕に巻き込まれたお蔭で、ケガはないみたいだよ」

 ローブについた砂埃を払って立ち上がる乾に、海堂は地面に落ちていた眼鏡を拾って差し出した。

「海堂?」

「すみませんっした。俺のせいで、こんな……」

「……気にするな」

 謝罪の言葉を口にする海堂に、乾はほんの少し笑って見せた。

「あれも、蓮二の作戦の一つだろうからね」

 海堂から眼鏡を受け取ってかけ直しながら、乾は続けた。

「その様子なら、もう大丈夫みたいだな」

「乾先輩……」

「体力勝負は得意なだけあって、あのジャッカル桑原…守備範囲が広くて、かなり厄介な存在だ。でも、お前の精神力があれば、負けないだろう」

 乾は箒にまたがって、地面を蹴って飛び上がりながら海堂への指示を続けた。

「俺は蓮二を引き受ける。だから、お前はジャッカルを頼む」

「わかったっす」

 頷いた海堂は、ジャッカルが打つブラッジャーのコースに回り込もうと、飛んでいる方向を変えた。

 上空へと舞い戻ってきた乾は、棍棒を握り直して、柳に向き直った。

「このまま行けば、俺たち立海の勝ちだ」

「俺は絶対に負けない」

 早くも勝利宣言をする柳に向かって、乾も負けじと言い返した。

 その乾の言葉を聞いて、柳はカッと目を見開いた。

 柳は思い返していた。自分と乾がまだホグワーツに入る前、ジュニアの代表選手として活躍していた頃。この試合のように、相手チームに大量得点を許したことがあった。その時の得点差は、今と同じ150点。

(あの試合……貞治が地面に落ちて箒が壊れ、試合続行不可能になって途中で他の選手に交代した。違う…それだけではない。この試合展開は……まさか)

 思い出しながら、柳は愕然とした。

「貞治……お前ワザと……」

「俺がお前と組んでビーターとして出場した最後の試合。ここからが本当の勝負だったハズだな」

 青ざめる柳に向かって、乾は平然と言い放った。

「データを捨てただと? 捨てたどころか俺さえも忘れていた」

 柳はジャッカルが拾い損ねたブラッジャーを、ガッと打って追い払いながら続けた。

「あのときのデータ通りに俺たちは動かされていたと言うのか!? あの時と全く同じゲーム展開になるように!」

「だがそれもここまでだ……」

 言いながら、乾は眼鏡のブリッジを指で押し上げた。

「蓮二、ここから先のデータは無い。決着をつける!!」

「返り討ちにしてやるぞ、貞治っ!!」

 乾と柳、二人のビーターの打ち合いが再び始まった。

 もう一方のビーター海堂は、守備範囲の広いジャッカルと打ち合っていた。

(やっぱ俺にはコレしかねぇか)

 海堂は棍棒をしっかりと握り直し、長いリーチで棍棒を振る遠心力を活かし、横へ大きくカーブする軌道でブラッジャーを打ち返した。

「懲りねぇな、利かないぜスネイクはよ!」

 対するジャッカルも、海堂のスネイクの軌道上に回り込んで打ち返してくる。どこへ打っても、ジャッカルは追いついて返してきた。

「へぇ……『4つの肺を持つ男』と異名を持つジャッカルに、持久戦を挑んでくるなんて。面白いな、このチームは」

「ジャッカル君も、このガチンコ勝負を真っ向から受けて立ってるみたいだね」

「ジャッカルは持久力には絶対の自信を持っているから。プライド、だろうね」

 ビーターの二人が完全に調子を取り戻したことで、青学のプレーに活気が戻ってきた。その様子を見ても、解説席にいる幸村は余裕の微笑を崩さなかった。

「海堂は立ち直ったみたいだね」

「そうだね。後は、英二や大石たちか……」

 観客席からは、不二と河村が戦況を見守っていた。海堂と乾のプレーに触発されたとはいえ、まだ大石や菊丸は完全に、仁王と柳生が入れ替わっていたショックから立ち直っていない様子だった。ただ一人、桃城だけが、何とかして二人の分までカバーしようと奮闘していた。しかし、それでも。

 仁王と柳生、二人のレーザービームを防ぐことはできず、手塚が守るゴールは手薄になってしまっていた。

 かろうじて仁王のレーザーは止めたものの、柳生のレーザーには手が出ずにゴールを割られてしまった手塚は、短いタイムを取った。

「相手の裏をかくのも戦術とはいえ、とんでもないペテンに引っかかったものだな」

「……」

 責めるでもなく、怒るでもなく。淡々と話す手塚に、大石も菊丸も無言だった。

「お前たちは、このまま終わるつもりか? 大石、菊丸」

「俺に、チェイサーには無限の可能性がある、って教えてくれたのは、大石先輩と英二先輩だったっすよね」

「桃……」

 桃城の言葉に、大石がポツリと呟いた。

「何のためにあのフォーメーションを練習したんだ、お前達は。今ここで使わずに、どこで使うんだ?」

「手塚……」

「乾はこの試合、柳に対応するのが精一杯で司令塔の役目までは果たせない。それは、試合前にアイツが言っていたハズだな」

 手塚に言われて、大石と菊丸は無言で頷いた。

「ならば、お前たちが何とかするしかないだろう。さっき、真田からゴールを奪ったのは、ただのマグレなのか?」

 大石と菊丸は、弾かれたように顔を上げた。

「今……得点差って何点だっけ?」

「170点っす、英二先輩」

「ってコトは、少なくとも3ゴールは奪っておかないと、おチビもキツいってことだにゃ」

「そいうことだな」

 確認するような口調の菊丸に、手塚は頷いた。

「やろう、英二。あのフォーメーションで立海の守りを崩すんだ」

「そだね、大石」

「俺も、サポートするっすよ、大石先輩、英二先輩」

「頼むぞ、桃」

 試合が再開したとき、大石も菊丸も、完全に立ち直っていた。

「俺たちは勝つために来た!」

「そう、勝つしかないっしょ!」

 クアッフルを抱えた菊丸は、すぐに大石にパスをして、自分は大石の後ろに回りこんだ。その後ろから、桃城がついてくる。

 勢いよくダームストラングゴールに攻め込んでくる3人を見て、柳生は感じとっていた。

(今までと雰囲気がまるで違う)

 それは、仁王も同様のようだった。

(さすが仁王君。アナタも感じとったようですね)

 仁王の背中からは、闘志がみなぎっていた。

(いいでしょう。さあ、来たまえ。ワタシも渾身のプレーでキミ達に応えるとしよう)

 攻撃専門の丸井を残し、柳生は仁王と共にクアッフルを奪うべく、先頭を飛んでくる大石に向かって行った。

「英二!」

「ほいっとね!」

 柳生と仁王が挟み撃ちにするように大石にチャージをかけようとした寸前で、大石は後ろにいる菊丸にパスを出した。そのパスを受けた菊丸は目にも留まらぬ高速移動をして、あたかも分裂しているような動きを見せた。

「何だ、あのフォーメーションは!?」

「黄金ペアの超攻撃型フォーメーション、『大石の領域』……」

 椅子から立ち上がりそうになるハグリッドに応えたのは、不二だった。

「そうか、大石と英二はあれを特訓してたんだな」

「うん。守りのエキスパートである大石を軸に、英二を分身させて後ろに据える。そして相手に一番近い場所から状況を判断し、サインを瞬時に送り、大石がゲームメイクするんだ」

 視野の広い大石が菊丸に指示を送り、菊丸が攻撃を仕掛ける。分裂しているように見えるために、相手には菊丸がどこからゴールしてくるかわからない。

 そのフォーメーションが機能して、グリフィンドールは180−80と100点差に詰めてきた。







ま、まだ終わらなかった……っ!!
ここまで書いても、まだ手塚が全然活躍してないっ!!(涙)
さすが王者立海、理屈じゃないですねぇ。
次こそ終わる……ハズですので、結果がどうなるかなど、想像してお待ち下さいませ♪

ふふふ、私は青学好きですが、立海スキーでもありますからねぇ……(ニヤリ)。







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