ハリー・ポッター
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テニプリ
特別番外編:最強王者立海見参!〜試合編 5

 試合開始から、すでに1時間が経過していた。

 グリフィンドールが100点差に追いついてからは、お互いに一歩も引かない、一進一退の攻防が続いていた。

「桃!」

「了解っす!」

 分裂している菊丸をブラインドにして、後ろから桃城が飛び出す。と同時に、菊丸がパスを出した。そのパスを受けて、桃城がゴールの遙か上空から箒を回転させてクアッフルを打ち落とす。

「無駄だ!」

 しかし、桃城のシュートは競技場を駆け抜ける一陣の風のような動きを見せる真田によって、ゴールを阻まれた。

 真田が弾き返したクアッフルを受け取って、今度はダームストラングが攻めてくる。

「はっ!」

 仁王からパスを受けた柳生が、箒を素早く回転させてクアッフルを打つ。まるで針穴に糸を通すように、周囲にいる選手たちの間を縫って、超高速のクアッフルが一直線にゴールへと向かっていく。

 クアッフルは、柳生が打ったと思った次の瞬間には、右側のゴール前に飛んでいた。

「……」

 柳生のレーザービームを見切った手塚が、眉間に軽くシワを寄せて無表情を崩すことなく、クアッフルを箒で打ち返した。が、そのクアッフルは来るべきチャンスを狙ってゴール前に詰めていた丸井の正面に飛んでしまった。

「ビンゴ♪」

 声を弾ませながら、丸井は手塚が弾き返してきたクアッフルを軽く打ってゴールを狙った。クアッフルは左側のゴールポストに向かって飛んでいった……かに見えたが、途中で軌道を変えて手塚の正面へと飛んだ。まるで、吸い寄せられるかのように。

「何!?」

 クアッフルを打ち返された丸井に代わって、今度は仁王がゴールラインから中へ飛び込んでいく。

「甘いぜよ!」

 しかし、仁王が打ったクアッフルも、また吸い寄せられるように手塚の前へと飛んでしまった。

「手塚ゾーンか」

 回転をかけられたクアッフルは、全て手塚の元に戻っていく。

 手塚の必殺技である手塚ゾーンによって、立海はゴールを割ることができなくなっていた。

「完全に見切ったみたいだね、手塚も」

「ああ、そうみたいだな」

 不二と河村が、グリフィンドールの観客席で頷きあう。

 好セーブを連発する両キーパーに、観客席からも惜しみない拍手が贈られていた。

 他のポジションにいる選手たちが一進一退の攻防を繰り広げている時。リョーマと切原、二人のシーカーの間でも火花が散っていた。

「ねぇ、まだスニッチ見つけらんないの?」

 試合時間が進むにつれて、目が充血してきた切原を挑発するように、リョーマが尋ねる。

「そういうお前はどうなんだよ、越前リョーマ」

 すると、切原も挑発し返してくる。

 そんなやり取りを繰り返しながら、スニッチを探しつつ競技場内を飛び回っていた。その時、突然切原がふい、と飛ぶ方向を変えた。

「!?」

 切原の姿が消えた横から、リョーマめがけてブラッジャーが飛んできた。近くにいるリョーマに攻撃をしかけようとするブラッジャーから、リョーマはかろうじて逃げた。

(もしかして、また……?)

 リョーマの頭に、以前ブラッジャーに追い回された記憶が蘇った。スリザリンと試合をした時、2つあるブラッジャーのうちの1つがリョーマ一人を追い回したのだ。そういった魔法をかけられて。

 しかし、リョーマがかわしたそのブラッジャーは、ちょうど近くを通りかかった丸井に向かって行き、ジャッカルによってグリフィンドール陣地へと打ち返された。

(なるほどね。前みたいなコトにはならない、ってワケ)

 ブラッジャーをやり過ごすと、今度は切原がチャージをかけにきた。折しもダームストラングゴールの前で競り合いが続いていて、審判であるフーチ先生の目はシーカー二人には向いていなかった。

 それをいいことに、切原は肘でリョーマを小突いてきただけでなく、足で膝を蹴り上げてきた。

「にゃろう」

 負けじとリョーマも肘を出して小突き返す。その肘が切原に届く直前、切原は再び突然飛んでいるコースを変えた。

「っ!?」

 そこへまた、ブラッジャーがリョーマに向かって飛んできた。

「あの切原ってヤツ、やるじゃねぇの」

 実況席から試合展開を見ていた跡部が、思わずといった様子で呟いた。

「何がだい、跡部君?」

「アイツ、競技場内を見渡して冷静に判断してやがる。越前をブラッジャーのコースに誘い出したり、審判の見てねぇところでチャージかけたりしてな」

「ふーん、さすが幸村君の代わりってコトかな?」

「だろうな」

 跡部と千石が口々に言い合う中で、幸村は静かに微笑していた。

 切原は、審判が見ていたら確実にファウルを取られる行為を、審判の見ていない隙を狙ってリョーマに仕掛けてきた。一歩間違えば、ケガをするスレスレのファウルを執拗に仕掛けてくる切原に、次第にリョーマの苛立ちも募っていった。

(ああ、もう……ホントうっとおしいな、この人)

 再び切原が飛ぶスピードを合わせてリョーマの隣に並んだ時、リョーマは心の中でそう呟いた。

「お前、今までかわせただけでも褒めてやるよ」

 そしてまたもや、ジャッカルが打ったブラッジャーの軌道上にリョーマを誘い込み、自分だけ避けてブラッジャーにリョーマを攻撃させようとした。

「これで、その左腕は終わり!」

 今度は、切原もブラッジャーが自分に向かってくるギリギリのタイミングを見計らって避けたために、リョーマはまともにブラッジャーに襲われそうになった。

(く、くそう……)

 その瞬間、リョーマの中で、何かが弾けた。

「リョーマ君!?」

「越前!?」

 誰もが、ブラッジャーに腕を直撃されるリョーマの姿を想像した。

 が、リョーマは信じられない動きを見せた。

「バカな……いくらニンバス2003でも、あんなスピードは出せねぇハズだ!」

 実況席で、跡部が呆然と呟いた。

 グリフィンドールとダームストラング、それぞれの応援で沸き返ってきた競技場が、静まり返った。

「速いねぇ、越後屋君。あんなスピードで飛べるなんて、驚きだなぁ」

 千石が相変わらずリョーマの名前を言い間違えても、突っ込みを入れる者はいなかった。

 間一髪でブラッジャーを避けたリョーマは、動体視力に優れた者がかろうじて姿を確認できるほどの速さで飛び、一気に観客席と同じくらいの高さまで飛び上がった。

 観戦する生徒や教員たちは万全の防寒態勢を取っている中でも、競技場の中を飛び回っている選手たちは汗をかいている。リョーマも例外ではなかったのだが、その汗が完全に引いていた。

 そしてリョーマはとても冷めた目で下にいる切原を見下ろすと、日常使っているのとは全く違う言葉で話し出した。

「You still have lots more to work on…」

「越前……」

 そんなリョーマを見上げながら、手塚が呟くように呼んだ。

「何て言ったんだ、越前?」

「『まだまだだね』……そう言ったんだ」

 わけがわからない、といった様子で尋ねる河村に、不二が答える。その不二も、いつも閉じている瞼を見開いて、顔には冷や汗が浮かんでいた。

「リョーマ君、いつもと全然雰囲気が違う……」

「どうしちまったんだ、リョーマ!?」

 カツオとハグリッドが口々に言い合う。

「……なるへそ」

 リョーマの言葉を聞いて沈黙していた切原が、ポツリと呟く。

「切原、わかってないね」

「ああ、わかってねぇな、あの様子じゃ」

 それを聞きつけた幸村と跡部が、すかさず突っ込みを入れた。

 リョーマの耳には、そんな外野のやり取りは聞こえていなかった。頭の中にあるのは、ただ勝ちたいという思いと、スニッチを捕まえたい、という思いだけだった。

 観客席の高さから、猛スピードでリョーマが地面へ向かって突っ込んでいく。

「は、速い!? ――でも、俺の方が速いぜ!」

 切原はリョーマを追い抜く勢いで、リョーマに続いた。

 先だってリョーマが見せた、ウロンスキーフェイントかもしれない。それだけは、切原も警戒していた。そのために、リョーマが地面スレスレの所で突然箒の柄を上にして軌道を変えても、切原はついて行った。……が。

「何っ!?」

 リョーマは切原を振り切って、瞬きするほどの短い間に、競技場を1周していた。

「Nobody beats me in quidditch」

 スニッチもかくや、といったほどのリョーマの動きに、誰もが圧倒されていた。

 リョーマの飛び方は、切原を完全に圧倒していた。

 競技場を旋回したかと思うと、リョーマは競技場の遙か上空まで急上昇して、観客席に向かって突っ込んでいく。そして観客に激突する、と思われた寸前でピタリと止まって向きを変えた。

「あれは、俺様の……!?」

 そんなリョーマの動きに、跡部が自分の目を疑うような表情を見せた。

「今のって……跡部君の得意技だよね?」

「ああ、俺様の美技だ。それだけじゃねぇ。アレを見てみな」

「……」

 跡部の言葉に反応した千石に、跡部は競技場を指差して促した。リョーマは、今度は切原と全く同じスピードで、ピタリと横に張り付くようにして飛び始めた。

「あれは、お前の戦術だったハズだな、千石よぉ」

「うーん、そうみたいだねぇ」

 相手のシーカーにスニッチを探させて、横からスニッチをかっさらう、千石のやり方である。

「アイツ、今までに対戦した相手の飛び方をしてやがる」

「なるほどね……まさか、アレを扱える選手が、こんな所にいるなんて思わなかったな」

 跡部と千石が話すのを聞いて、幸村が何か思い当たる節があるような、けれど信じられないといった様子で呟いた。

「アレってのは、何だよ?」

「俺たちはそれを、『無我の境地』と呼んでいるんだけどね」

「『無我の境地』?」

 オウム返しにしてくる跡部に、幸村は軽く頷いて続けた。

「自分の心が無になった時、ほとんど無意識に、自分の体に刻み込まれたいろいろなプレーを繰り出すことだよ。それは自分の限界を超えて、想像もつかないほどの力を出すことができる」

 幸村の言葉に、跡部も千石も口を挟まなかった。

「俺それを意識的に扱える人間を、二人知ってる」

「二人?」

「うん。今、あそこでプレーしている立海のキーパー、真田と。そして……俺だよ」

 話しながら、幸村は綺麗に微笑した。

「なるほど……グリフィンドールに『無我』を発動する人間がいるとはな」

 仁王や柳生、そして丸井がグリフィンドールのゴールに攻め込んで行くのを見ながら、真田は呟いた。そして一度目を閉じて呼吸を整えると、再び目を見開いた。

 真田の周囲の空気が、変わっていた。

「我が心、すでに『無』なり」

 真田の視線の先では、柳生のパスをカットした大石が、菊丸と共に『大石の領域』を発動させながらダームストラングのゴールに向かってくる姿が見えていた。

「お前たちには、もう1点たりともゴールは割らせん」

 リョーマに触発されたのか、スピードを上げてダームストラングゴールに向かってくる大石と菊丸に、柳生と仁王は取り残されていた。

「英二!」

「菊丸バズーカ!!」

 大石がパスを出し、右から声が聞こえてきたと思うと、左からクアッフルが一直線に真田に向かって来た。

「入った!」

 グリフィンドールの観客席にいる誰もがそう思った瞬間、真田はまるで瞬間移動したかのようにクアッフルの軌道上にいた。

「ゴールはさせん!」

 真田は勢いよく箒を回転させて、クアッフルを打ち返した。

「!?」

 打ち返されたクアッフルは、周囲の大石や菊丸をなぎ倒さんばかりの勢いで、グリフィンドール陣地へ向かっていった。後ろに詰めていた桃城も、クアッフルに触れることすらできず、真田が打ったクアッフルは全くスピードが衰えることなく、手塚が守るゴールまで飛んだ。

 真田が打ち返してきたクアッフルを捕らえようと、手塚は手を伸ばした。が、クアッフルは少し軌道を変えたものの、手塚の手を弾き飛ばさんばかりの勢いで、右側にあるゴールに吸い込まれていった。

 その瞬間、180−80のままで保たれていた均衡が崩れた。

「侵掠すること火の如し」

 ゴールに吸い込まれるクアッフルを見て、真田が勝ち誇ったように呟いた。

「手塚!?」

 ダームストラングに点が入ったことで小休止した時、抱え込むようにして手を押さえる手塚の元に、乾と大石が飛んできた。

「大丈夫か、手塚?」

「少し痺れただけだ。心配ない」

 問いかけてくる乾に、手塚はいつもと変わらない表情で言い返した。

「あんなのを取ろうとするなんて、ムチャだ」

「試合は? 続けられそうかい?」

 心配そうな顔をする大石をよそに、乾が問いかける。手塚は手を握って開く動作を何度か繰り返して、様子を見た。

「大丈夫だ」

「だったらいいけど……」

「それにしても、反対側のゴール前からクアッフルを打ち込んで、ゴールさせるとは……。やはり、只者じゃないな。立海の真田弦一郎」

 しみじみと呟く乾に、手塚も黙って頷いた。

「越前もどうやら急に様子が変わったようだし……。今日の試合はいつ終わるか、俺にも読めない。恐らく、蓮二もそう思っているだろう」

 言いながら、乾は上空にいる柳を見上げた。

「だが、全力で行かなければ、立海には勝てない」

「そうだね。俺も、できる限り守備のサポートに回るよ」

 声をかけあって、手塚と乾、大石は自分のポジションへと戻って行った。

 試合が再開した時。

 観客たちは、競技場のどこを見たらいいのかわからない、といった様子だった。

 海堂とジャッカルの間では、息もつかせないほどのブラッジャーの打ち合いが続いていた。海堂がスネイクでブラッジャーを打てば、ジャッカルが追いついて返してくる。そんなラリーの応酬が展開されていた。

 乾と柳の間でも、手に汗握る駆け引きが続いていた。お互いに相手の手の内を読みながら、片や攻撃してくる相手チームのチェイサーの邪魔をしようとし、片やそれを阻止する。お互いに譲らない熱の入ったプレーが繰り返されていた。

 チェイサーたちも、グリフィンドールは『大石の領域』と分裂する菊丸を中心に攻撃を組み立ててダームストラングを攻め、一方のダームストラングも真田の強烈なショットや丸井の妙技を組み合わせてグリフィンドールに揺さぶりをかけてきた。

 手塚と真田の両キーパーも、好セーブを連発して、なかなか相手に得点を許さなかった。特に手塚が真田の強烈なショットをキャッチした瞬間は、競技場の盛り上がりは頂点に達した。

「ついに止めたよ!」

「さすが手塚だね」

 グリフィンドールはもちろんのこと、他の寮生たちからも手塚に賛辞が送られていた。

 しかし、総合力で勝るダームストラングがじわじわと押し、点差は140点まで開いてしまった。

「今のうちに越前がスニッチを捕まえたら、青学の勝ちだ」

 実況席で跡部が呻くように呟いた。試合状況を伝える跡部たちも、次第に口数が少なくなっていた。

 その瞬間、全く先の読めない軌道で競技場内を飛び回っていたリョーマが、突然箒の向きを変えた。まるで何かに向かっていくかのように、一直線に飛び始める。

「まさか、見つけたのか!?」

 真っ先に気づいたのは、ワールドカップで優勝したチームのシーカーでもある幸村だった。

 リョーマのスピードについていけなくなっていた切原は、完全に取り残されていた。

(ちくしょー。追いつけねぇ!)

 リョーマがスニッチを見つけたことは、誰の目にも明らかだった。利き手で箒を操りながら、猛スピードで飛びながらも右手を必死で前方に伸ばしている姿が、千石や菊丸並に動体視力のいい生徒がかろうじて捉えることができた。

 リョーマの右手が、何度か空をかいた。

 その瞬間、リョーマの下方では立海の仁王と柳生、そして丸井の3人が青学ゴールに総攻撃を仕掛けていた。仁王と柳生、二人が打つレーザービームで青学ゴール前まで詰め、最後に丸井が妙技を繰り出してクアッフルをゴールに叩き込もうとしていた。

 一度柄を両手で握って箒を安定させ、更にスピードを上げたリョーマが、今度は左手を前に伸ばす。

 丸井が手塚の逆を突いて右側のゴールポストにクアッフルを当てる。

 リョーマの左手が何かを握りこむ仕草をする。

 ゴールポストに当たったクアッフルがポストを伝って向きを変え、ゴールの中に吸い込まれる。

 ピーーーッ!!

 フーチ先生の吹く笛が鳴る。

 それらは、ほぼ同時に起きた、一瞬の出来事だった。

「か、勝ったのか……?」

 グリフィンドールとダームストラング。

 それぞれの応戦席が、自分のチームの勝利を確信できずに静まり返った。

「250−250! 両者引き分け!」

 静寂の中、フーチ先生がそう宣言する声が、競技場に響き渡った。

「引き分け……?」

「越前がスニッチを捕まえるより、丸井のシュートが決まる方が、ほんの少し早かったんだろうぜ」

「まさか、立海が勝てなかったなんて……」

 千石と幸村が信じられない、といった表情を浮かべる中、跡部だけが冷静だった。

 フーチ先生の声を聞いて、死闘を繰り広げた両チームの選手たちを讃え、大歓声が沸き起こった。

「ゴーゴー! 立海!!」

「フレー! フレー! セ・イ・ガ・ク!!」

 両チームへの声援が響く中、競技場内に散らばっていた選手たちが地上へと降りてきた。競技場の中心に引かれた線を挟んで、両側に選手たちが一列に並ぶ。

「なかなか有意義な試合だった」

「そうだな。いい試合だった」

 選手を代表して、真田と手塚が握手を交わす。それを合図に、他の選手たちも思い思いに握手を交わし合った。

 その中、リョーマだけは途方に暮れたように突っ立ったまま、誰とも握手を交わそうとしなかった。

「越前リョーマ、お前は……」

 リョーマに声をかけようとしてきた真田にも、リョーマは反応しなかった。

「おい、どうしたんだよ、越前?」

「どうしたんだ、越前は?」

 桃城と乾が心配そうに見守る中、リョーマは突然前のめりに崩れた。とっさに手を伸ばした真田が、リョーマを抱きとめた。

「越前!?」

 目を閉じているリョーマの周りに、選手たちが次々に集まってきた。

「おチビ? あれ、おっチビ?」

 菊丸が心配するというより、好奇心に駆られて、といった様子でリョーマの様子を窺う。その時、リョーマの寝息が聞こえてきた。

「ええ!? 寝ちゃってんのぉ!?」

「この者は無我の境地になっていたようだからな。自分の体力や能力の限界を超える力を発揮してただけに、疲労も大きい。そのためだろう」

 心底驚いた様子の菊丸に、真田が説明する。

「うちの部員が、すまない」

 真田の腕を借りて眠っているリョーマを、手塚が引き取った。

「越前が起きたら伝えておいてくれ。またどこかで、試合をしようと」

「ああ、わかった」

 頷いた手塚に、真田は背を向けた。再び箒にまたがる真田に倣って、ダームストラングの選手たちは全員が箒にまたがって、声援に応えるべく観客席まで飛び上がって競技場を1周した。

「俺たちは、越前を医務室に送り届けるのが先だな」

「ああ」

 グリフィンドールの選手たちは、手塚の魔法でリョーマを浮かせ、全員が歩いて競技場を後にした。

 選手たちが全員競技場から姿を消しても、声援はいつまでも鳴り止まなかった。





「なんだか、終わってみるとあっという間だったね」

「そうだな」

 交流試合が終わった翌日、ダームストラングの選手たちはホグワーツを後にした。

 彼らを迎えたときと同様に、ホグワーツの生徒たちは全員が玄関に出て、ダームストラング一行を見送った。

 試合直後に眠ってしまったリョーマが目を覚ましたのは、全生徒たちが朝食を終えた後のことだった。

「試合、結局引き分けたんすよね?」

 ダームストラングの、ガイコツのような船が湖に立ち込めた霧に同化するように消えていくのを見守りながら、リョーマは隣にいる桃城に問いかけた。

「だな。でも、あの立海相手に引き分けたってだけでも、快挙なんだってよ」

「って、乾先輩が言ってたんすね」

「……まぁな」

 リョーマに突っ込まれて、桃城はバツが悪そうに頭をかいた。

 ダームストラングの船が完全に湖から消えたのを見送って、ダンブルドア校長が全生徒に声をかけた。

「今日は特別に授業はお休みじゃ。グリフィンドールの選手は特に、ゆっくり休んで疲れを取るがよい。明日からはまた、授業が目白押しじゃからの」

 ダンブルドアを先頭に、生徒や先生たちが次々に城内へと戻っていく。

「チェッ、交流試合っていうなら、もうちょっと休ませてくれてもいいのに」

「そうもいかんやろ。全然進んでへん授業もあるしな」

「どうです? この休みを有効活用するという意味で、僕とチェスで勝負する、というのは……って、なっ!?」

「ねぇ、裕太。今日は一緒に母さんや姉さんに手紙を書かないかい?」

「お前また無視されてるだーね」

「ふむ、今回の立海戦でまたいいデータが取れた。次の練習メニューは……」

 玄関前やホールが騒がしくなる中で、リョーマも生徒たちの流れの中に飲まれるように城の中に入って行った。

 大きな木の扉をくぐる寸前。

 リョーマはもう一度だけ、ダームストラングの選手たちが去っていった湖を振り返った。

(結構楽しい試合だったかも)

 そんなことを思いながら。



Fin







終わった〜〜〜っ!!
やっと書き終わりました、特別番外編、対立海戦。
いやぁ、書き始めてみたら長かった(感涙)。
でもどうにか、ここまで書き上げることができました。

原作では見事、青学が勝つ確率2%という逆境を跳ね返して勝利しましたが、
こちらでは私の独断と偏見で試合結果を左右することができる!
というワケで、引き分けということに致しました。
テニスでは勝ち負けはっきりしますけど、クィディッチならば、こういう結末もアリかなぁ、と。
……さて、皆様の予想は当たりましたでしょうか?

次回からは、また本編のお話に戻ります。
リョーマ班の話はある程度進めましたが、皆様そろそろ手塚班も気になりますよね?
フフフ。







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