ハリー・ポッター
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テニプリ
特別番外編:最強王者立海見参!〜試合編 2

 一度は地面に落ちた菊丸は、何事もなかったかのように箒にまたがり、上空へと舞い上がった。

「何にしても、大事に至らなくてよかったですね」

 戻ってきた菊丸に、紳士・柳生が声をかける。

「そう、怖いのはこれから……」

 が、柳生に続いてそう呟いた仁王を、大石がキッ、と睨みつけた。

「大石……怒ったら奴等の思うツボだよん。ほいっ、深呼吸、深呼吸」

 そんな大石を、菊丸がたしなめる。

「10点取られちゃったからね、取り返さないと」

「そうっすね。英二先輩の言うとおりっす」

 菊丸と桃城は、完全に気持ちを切り替えていた。

「あの真田から、どうやってゴールを奪うか、ってことっすね」

「そうそう。頑張らなきゃね、大石」

「あ、ああ」

 菊丸に笑いかけられて、大石は何とか頷いた。

(英二の言うとおりだ。今は、仁王に腹を立てている場合じゃない。俺たちが点を取らないと、手塚がもっと苦しくなる)

 大石は思い直していた。

「よし、俺たちで点を取り返そう」

「っすね」

 青学のチェイサー3人は、フォーメーションを整えて立海ゴールへと攻め込んで行った。

 それを見送りながら、乾はブラッジャーを立海サイドへ打ち込むことで3人を援護しようと、棍棒を握り直した。

「俺たちも負けていられないな、海堂」

「っす」

 声をかけられた海堂は、ふしゅー、と息を吐き出した。

「期は熟……」

「『期は熟した』……とお前は言う」

 乾が呟きかけたところを、柳が先取りした。

 自分が言わんとしてたことを先に言われてしまった乾は、ただ黙って頷いた。

「な、何であの人乾先輩のセリフわかったんだ!?」

 ザワついた競技場の中で、堀尾の声だけが何故か異様に響き渡った。

「別に驚くことじゃないよ。蓮二とは昔からの知り合いでね、お互いを知り尽くしている。だから……ローブのボタンを留めなおしていないかい? 100%の確率でね」

 それが耳に届いた乾は、律儀にも堀尾の近くまで行って解説した。堀尾が柳の方を見ると、ジャッカルと海堂がブラッジャーを打ち合っているのをいいことに、柳は棍棒を脇に抱え、ローブのボタンを止め直していた。

「あっ……本当だ!?」

「凄いよ乾先輩も!」

「データで負けてらんないもんねっ!」

 堀尾とカチローとカツオ、1年生3人組の声援を受けて、乾は競技場のほぼ中央へと移動した。

「蓮二、この勝負……」

「『勝たせてもらうよ』…と言う」

「勝たせてもらうよ!」

 柳が口にしたとおりの言葉を言いながら、乾はブラッジャーを立海陣地へと打ち返した。

 と思った瞬間、柳がブラッジャーを打ち返す。が、そのブラッジャーは競技場から大きく飛び出して行き、やがて戻ってきた。

「み、見えたか今の……」

 二人が打ち合ったブラッジャーのスピードがあまりに速く、見えない観客が続出していた。

「へぇ、あれが柳の幼馴染、乾君か。あの柳と互角に打ち合うなんて、なかなかやるな」

 感心したように呟いたのは、解説席に座っている幸村である。

「そういえば、柳君は1年の時に少しだけホグワーツに通ってたんだっけ。跡部君、覚えてる?」

「ンなもん、覚えてるわけねーだろ。あんなヤツ、俺様の眼中にはなかったからな」

 千石に尋ねられて、跡部はそう吐き捨てた。

「パワーが付いたな、貞治」

「次…いくぞ」

 乾は、再び菊丸を妨害しようと不気味な動きを見せる仁王を邪魔するべく、狙い済ましたようにブラッジャーを打ち込んでいった。が、それは柳がコースを読んでいて、仁王の手前で逆に打ち返してきた。

「右やや低めのショット…角度は30°ってトコか」

 しかし乾もそれを読んでいて、柳が打ち返してきたコースに回りこんでいた。

「うむ、寸分の狂いもない」

 乾と柳の間では、お互いに一歩も引かない打ち合いが始まっていた。

「へぇ、なかなかやるじゃねぇか、アイツ。テメーはどうかな?」

 それを横目に見ていたジャッカルが、海堂に不敵な視線を向けた。

 試合開始から5分の間、海堂は何とかして仁王と柳生の邪魔をしようと立海陣地にブラッジャーを打ち込んでいたが、全てジャッカルによって阻止されていた。

「体力勝負は、俺のナワバリだ」

 縦に大きくカーブを描き、思いがけない角度で飛んでくる海堂の通称スネイクショットを、ジャッカルは楽に移動して打ち返してくる。

「くそーっ、海堂先輩がブーメランスネイクを打てたら、あんなヤツに取られたりしないのに」

 観客の中にいても、とびきり目立つ堀尾達1年生トリオの声は、競技場まで届いていた。

「何? そんなのあんだ。じゃぁ、それ打たせてやるよ」

 それを聞き止めたのは、先取点を奪った丸井だった。そして噛んでいたガムをプクーとふくらませながら、続けた。

「ただし、キッチリ返すぜ。……ジャッカルが!」

「おい、俺かよ」

「ったりめーだろ。俺はチェイサーなんだからな」

 相変わらず、攻撃は仁王と柳生に任せて、自分は来るべきチャンスを狙っている丸井は、フラフラと上空を飛び回っている。今は、ジャッカルにちょっかいを出そうと、その周りを飛んでいるようだった。

「何だと、コラ!」

 丸井の挑発に、海堂は完全に頭に血が上ったらしく、ふしゅー、と息を吐き出しながら丸井をギラリと睨みつけた。

「オラァ!」

 気合一閃、ブラジャーを打ち込む海堂を見て、丸井が苦笑した。

「そんな怒るなって」

「さあ、打って来い!」

 丸井の挑発に、ジャッカルも乗った。海堂が横の軌道を描いて選手たちの進路を阻み、時には一度競技場の外を通ってまた戻ってくるブーメランスネイク。ジャッカルが打ったのは、そのブーメランスネイクを打つのに絶好のチャンスボールだった。

「あんまり海堂薫をナメんじゃねぇ!」

 海堂はジャッカルと丸井の挑発に乗せられて、棍棒を振りかぶった。

 それを見ていた乾が、柳との打ち合いから一瞬気を逸らして海堂に向かって叫んだ。

「やめろ、海堂! 打つな!」

「もう遅い、貞治」

 乾の制止をあざ笑うかのように、柳が微笑を浮かべた。

「吠え面かいてろ!」

 乾の叫びも虚しく、海堂は大きく横にカーブを描くスネイク、ブーメランスネイクを打った。その軌道は横に大きくカーブを描き、立海サイド、真田の後ろにあるゴールポストを囲むように回って、再び競技場へと戻ってきた。

「海堂君のポール回しが入る確率…92%」

 その軌道を全て計算しているかのように、柳が呟く。

 同様に、ジャッカルもまた、どこに戻ってくるかわかっていたかのように、ブーメランスネイクの軌道に回りこんでいた。

「確かに柳の言うとおり、いい打球打つじゃん」

「バカな、まさか――」

 ジャッカルを見て、海堂は絶句した。

 棍棒を振りかぶって、海堂がブーメランスネイクを打った軌道を逆に辿るように、ジャッカルはブラッジャーを打ち返してきたのである。

(海堂、ポール回しを打つための特別メニュー、やってみるか?)

 試合で偶然、夢中で棍棒を振った結果打てたポール回しを完璧に会得するべく、乾が海堂に誘いかけてきた言葉を、海堂はその軌道を見送りながら走馬灯のように思い出していた。

 筋力トレーニングはもちろんのこと、ブーメランスネイクを完璧に打つために、どのように棍棒を振ればいいのか。乾は理論的に、経験的に海堂に教えてくれた。自分の勉強の合い間を縫って。

(何すか、これ?)

(手ぬぐい、というらしい。ここから遙か遠くにある、日本という国で使われている、タオルみたいなものだよ)

 一枚の布を持って、乾はまだ水温も低い湖の浅瀬に入って、海堂にも入ってくるように促した。

(ここで、素振りをやってみるといい)

 海堂は言われたとおり、浅瀬に入って乾から手ぬぐいを受け取り、素振りを始めた。しかし。

(この長い手ぬぐい、水を吸って相当重くなってやがる。振り抜けねぇ)

(どうした、海堂。それは手首のスナップだけじゃ振り抜けないだろう)

 そこにブーメランスネイクを完成させる鍵がある。

 乾にそう言われた通り、海堂は毎日浅瀬に入って特訓を続け、1週間で倍の長さの手ぬぐいを使って振り抜けるようにまでなった。その結果。

(濡れた手ぬぐいを振り切るためには、手首だけでなく肩から全体を使い、無駄な力をどこにもかけず、自然の力に体を預けるかのごとく、無心で振り抜く!)

 海堂はブーメランスネイクを完璧に打つためのコツを、その体で覚えたのである。

 苦心して見につけたその必殺技が、いとも簡単に、全く同じコースで自分の所に返ってくるそのわずか数秒の時間が、海堂には異様に長く感じられていた。

「ジャッカルのポール回しが入る確率、100%」

「やはり、蓮二……か……」

 柳が呟くのを、乾は苦々しい思いで聞いていた。

 そして、ブラッジャーが猛スピードで向かってくるにもかかわらず、一歩も動けない海堂をカバーすべく、乾は高速移動してブラッジャーを打って競技場の外へ出した。

「海堂……」

 観客席で戦況を見守っていた河村が、ポツリと海堂を呼んだ。

「どうやら立海は、僕たちの情報をしっかり把握してきているようだね」

「うん、そうみたいだね」

 河村が呟くのを聞いて、不二が確認するように話し始めた。

「海堂を煽って、得意のブーメランスネイクを敢えて打たせ、それをそっくりブーメランで返す。海堂は自分が培ってきたクィディッチを根底から覆されてしまった」

「いかに精神力が強い海堂でも、冷静にプレーするのは困難だろうな」

 呆然として絶句するグリフィンドールの応援席で、河村と不二の二人だけが会話を続けていた。

「これが世界レベルのクィディッチ、ってことなんだろうね」

「うん。柳と真田はもちろんだけど、他の選手たちもかなりレベルが高いよ」

 不二の言葉に、河村が頷く。

「相手チームのビーター、柳は世界クラスの選手だ。昔の相方とはいえ、海堂のフォローをしながらプレーするとなると……」

「さすがの乾でも、厳しいものがありそうだね」

 河村の言葉を引き継ぐ形で、不二が呟く。その言葉どおり、乾は呆然として動きが鈍っている海堂の分までブラッジャーを打ち返していた。

 しかし、厳しいコースを突いてくる柳と、どこに打っても追いついてくる底なしの体力を持ったジャッカルの前に次第に追い詰められ、グリフィンドールの攻撃の援護と司令塔の役割までは果たせずにいた。

 味方の援護がフルに働かなければ、どんなに手塚が一人で、ゴール前で奮闘しても点を取られてしまう。

 海堂の動きが悪くなってから、グリフィンドールは5回ゴールを割られ、60−0とリードを許していた。

「あれも、作戦ってワケ、幸村君?」

「そうだね。柳のデータと戦略は完璧だから。これで海堂君は堕ちた。次は、乾君かな?」

「さすがに怖いね、世界のトップ選手は」

 解説席にいる千石の問いかけに、幸村は綺麗な微笑を浮かべた。

「あそこにいられないのは本当に残念だな」

 競技場の中では、立海の真田が桃城のゴールを阻んでいた。

「なんだ、楽勝じゃん?」

 試合が始まってから、行方が全くわからないスニッチを探しながら、戦況を見守っていた切原が嘲笑するように呟いた。

「このままチャッチャと勝っちゃいましょうよ。ねぇ、幸村部長?」

「そのためには、君がスニッチを捕まえないとね、切原」

 競技場を上から見下ろす観客席まで上がって、切原は解説席に座る幸村に話しかけていた。

「先輩たち、奴等に見せ場作りすぎなんすよ」

 そう呟いて、切原は幸村の側を離れた。

「ったく、情けねぇなぁ。ホグワーツのリーグトップていうから、どんなモンかと思ったけど。雑魚ばっか。本当のクィディッチしてるのって、あのゴールにいるキーパーくらいじゃん?」

 切原は、わざとリョーマに聞こえるように呟いて、グリフィンドールのゴールを守っている手塚を指差した。

「ねぇ、そこのアンタ。切原とかいったっけ?」

 競技場の中で、超高速移動する小さなスニッチを見つけよう、と目を凝らしていたリョーマは切原の言葉を聞き捨てることができなかった。

「俺に本当のクィディッチって奴、教えてくれない?」

 観客席と同じくらいの高さにいる切原を、リョーマは下から見上げながら挑発した。

「高くつくかもよ。越前リョーマ」

 切原は、蔑むようにリョーマを見下ろした。







特別番外編の試合編。
ようやく海堂ブーメラン返しで大打撃!まで参りました。
書いていて気がついたのですが、この話の展開って、海堂君にとってはもちろんのこと、
乾さんにとってもかなりの精神攻撃になるんですよねぇ。
……恐るべし、マスター柳!(戦慄)

果たして、次回で試合が終わるのかどうか、私にもまだわからないのですが(苦笑)。
よろしければ、お付き合い下さいませ(^^)。







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