ハリー・ポッター
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特別番外編:最強王者立海見参!〜試合編 1

 午後1時前。

 ホグワーツのクィディッチ競技場は、グリフィンドール対ダームストラングの試合を見ようと、全校生徒が集まって観客席を埋め尽くしていた。

「常ー勝ー立海! レッツゴー、レッツゴー、立海!」

「立海! 立海! 立海!」

 ゴールポスト後方の一角を埋め尽くしたダームストラングの応援団の声援も、試合前から最高潮の盛り上がりを見せていた。

「……で、何で俺様が実況なんざしなきゃならねぇんだ? なぁ、樺地?」

「うす」

 そんな中、実況席で呟かれた跡部の愚痴は、マイクによって競技場中に響き渡った。いつものように、跡部の斜め後ろでは、樺地がいつでも跡部に応えられるようにスタンバイしていた。

「それに、何で解説席にお前らが座ってんだ、あぁん?」

「ラッキーカラーの黄色をつけてクジ引いたら、当たっちゃったんだよね。ホグワーツサイドの解説は、この俺、ラッキー千石がやっちゃうよ」

 跡部に睨まれても全く気にする様子もなく、隣の解説席で千石が飄々と話した。

「ダームスラトングサイドからは、俺が解説します。5年の幸村精市です、よろしく」

 千石に続いて幸村が口を開くと、女子生徒たちから黄色い歓声が飛んだ。

 実況と解説の自己紹介が終わった所で競技場に選手たちが姿を見せると、声援が更に大きくなった。

「宜しく」

「悔いのない試合をしよう」

 リョーマたちがポジションに着くと、真田と手塚がグラウンドの中央で握手を交わした。

「正々堂々と戦うんですよ」

 審判を務めるフーチ先生が笛を吹いて、クアッフルを投げ上げた。

「先手必勝だっ!」

 投げ上げられたクアッフルに突っ込んだのは、桃城だった。フーチ先生の手を離れて上に上がりきる前のクアッフルを引っつかんで、立海ゴールへと突進する。その桃城に、菊丸と大石も続いた。

(試合の主導権を握るには、奇襲をかけるしかない)

 今朝の最終ミーティングで打ち合わせたことを、実行しようとしていると、リョーマは3人の後姿を見送った。

「英二先輩!」

「ほいほーい!」

 菊丸がアクロバティックで予測のできない動きをし、マークにつこうとする立海のチェイサー、仁王を翻弄する。同時に、桃城はクアッフルを奪おうとチャージをかけてくる柳生を警戒して飛びながら、大石とパスをつないだ。

「あれ……? 青学のオモシロ君と大石君を追いかけてるのは二人だけで、一人は何もしてないみたいだけど?」

 千石が思わずといった様子で口にした通り、残る一人、丸井ブン太はガムを噛みながら傍観しているだけだった。

「丸井君は攻撃専門のチェイサーなんだ。ああやって、来るべきチャンスを待っているんだよ」

「それじゃぁ、うちのジローと変わんねぇじゃねぇか。なぁ、樺地」

「うす」

 千石に答える形でフォローした幸村に、跡部はうんざりした様子で呟いた。

 最初のシュートを狙いに菊丸がゴールに近づくと、仁王と柳生は互いにアイコンタクトを取っていつでも攻撃に転じられるように、と大石や桃城から少し距離を取り始めた。

「まずは10点もーらいっ!」

 菊丸は変則的な動きをして、完全にゴールを守る真田の逆を突いて、クアッフルをゴールへと投げ入れた。しかし、ほんの一瞬の間に、菊丸の前には真田が立ちはだかっていて、惜しくもゴールはならなかった。

「ウソだろ? 今、完全に逆を突いたのに……」

「疾きこと風の如し」

 呆気に取られる菊丸に、真田が短く呟く。それを聞いて微笑したのは、解説席にいる幸村だった。

「真田が最初から"風"を出すなんて……。あの青学のチェイサー…菊丸君でしたっけ。なかなかやるね」

「"風"……? まさか、"風林火山"かよ」

「そう、立海とアイルランドのゴールを守り、鉄壁と呼ばれる真田の必殺技。"風林火山"の一つ、"風"だよ。菊丸君はアクロバティックな動きとスピードが売りのようだから、"風"で対応したんだろうね」

 跡部に尋ねられて、幸村が答えた。

「おや、立海の攻撃が始まるみたいだよ」

 真田からクアッフルのパスを受けたのは、柳生だ。柳生はクアッフルを脇に抱え、乾が絶妙のコースで打ち込んできたブラッジャーをかわし、手塚が守るグリフィンドールゴールへと向かって行く。

「そうはさせないにゃ!」

 真田にゴールを阻まれた菊丸は、柳生を追い始めた。同時に、菊丸をサポートしようとしていた桃城も反対方向から柳生を追う。大石は攻撃になると力を発揮する丸井をマークしていた。

(立海は恐らく、俺たちの情報を詳細に調べ上げてくるだろう。こちらも、相手選手のデータを把握しておく必要がある)

 今日の試合は、相手が強豪ということも影響しているのか、全員が立海選手のデータを頭に叩き込むように、と乾から徹底された。

 それはシーカーのリョーマも、チェイサーの菊丸たちも例外ではなかった。

「今度は立海の攻撃か……。大丈夫かな」

「手塚なら大丈夫だよ、タカさん」

 グリフィンドールサイドの観客席で、今日は控えに回っている河村と不二が囁きあう。

 クアッフルを持った柳生が青学陣地に入った時、突然仁王が不穏な動きを見せた。柳生からクアッフルを奪おうとする菊丸の視界を遮るように飛び始めたのである。

「英二先輩!」

「桃、お前はそのまま柳生を追って!」

「はい」

 フォローに入ろうとした桃城を、菊丸が制した。

(こいつ、さっきからジャマだなぁ)

 菊丸は何とかして仁王を出し抜こうとした。が、仁王はまるで後ろが見えているかのように、菊丸の動きをジャマしていた。

(だったら……)

 不意に、菊丸のスピードが上がった。

「き、菊丸先輩が二人いる!?」

 グリフィンドールの観客席が沸いた。菊丸が飛ぶスピードを上げた途端に、フィールド上に菊丸が二人出現したのである。

「英二……最初からアレを使うとはね」

 驚きを隠せない様子のグリフィンドール寮生の中でただ一人、不二だけが全てを理解するような微笑を浮かべていた。

「アレって、何すか、不二先輩?」

 堀尾に尋ねられて、不二はふふ、と笑って答えた。

「英二の新しい飛行術だよ。あまりに移動が速いから、残像が残って見えてしまう。それで、あたかも英二が二人いるように見えるんだよ」

 不二の視線の先では、今にも菊丸が仁王を抜き去ろうとしていた。

(チョロイよ)

 菊丸は仁王の上へ出て、前方に柳生の姿を捉えた。

「さあ、見ぃーえた」

 しかし次の瞬間。

 競技場は静まり返った。

「え、英二!?」

「英二ぃーっ!」

「菊丸先輩っ!?」

 その次の瞬間、グリフィンドールの観客席は騒然となった。

 菊丸が仁王をかわしてフリーになった瞬間、まるで狙いすましたように立海のジャッカルが打ち込んだブラッジャーが菊丸の頭を直撃したのである。

 菊丸は箒から投げ出されるようにして、地面に落ちた。

「英二!?」

「どこ見てんだよ。試合は続いてるぜ」

 菊丸を心配して気を逸らした大石に、丸井はそう言い残して余裕の表情でゴールに向かって行く柳生に続いた。

「あのヤロウ!」

 桃城は仁王を睨みつけながらもただ一人、クアッフルを持った柳生を追い続けた。が、柳生が丸井にパスを出してもそれをカットすることは叶わなかった。

「気の毒ですが、これが勝負というもの」

 桃城のチャージなど全く効かない、といった様子の柳生は涼しい顔で冷酷とも取れる言葉を発した。

 一方、柳生からパスを受けた丸井は箒を回転させ、クアッフルをゴールに向けて打った。

 丸井が打ったクアッフルには手塚が反応していたが、クアッフルは手塚の頭上を越えてゴールの輪に当たった。

「何だ、フレームじゃん」

 グリフィンドールの観客席で堀尾がホッと胸を撫で下ろしている時、スリザリン生が集まっている観客席では、珍しく起きている3年生の芥川慈郎が目をランランと輝かせていた。

「で、出た…妙技……」

 そのままフレームを転がって地面に落ちるか、あるいは手塚にキャッチされるかと思われたクアッフルは、突然軌道を変えてゴールへと吸い込まれていった。

「綱渡り……どう、天才的?」

 ゴールを決めた丸井は、自分に追いついてきた桃城に向かってウィンクを飛ばした。言いながらVサインを横にして、目の斜め下に当てた。

「せっかくだから、俺の天才的妙技、たっぷり見ろよ」

「……」

 桃城はただ呆然と、丸井の妙技が炸裂したゴールを見つめていた。

(氷帝の芥川慈郎が憧れているという、ボレーの天才選手だ)

 真っ白になりそうな桃城の頭の中で、丸井についてそう話していた乾の言葉が何度も繰り返された。

(とんでもねぇなぁ、とんでもねぇよぉ。でも、絶対に止めてやる)

 桃城はそう決意していた。

 立海に先制を許したのを受けて、実況席では樺地がダームストラングに10点を加えた。それを横目で見ていた跡部が、すかさず手塚に苦情を申し立てていた。

「ケッ、何してやがんだ、手塚よぉ。まんまと先制されてんじゃねぇぞ」

 プレーが中断したことで、グリフィンドールの選手たちは地面に落ちた菊丸の周囲に集まっていた。

「大丈夫なのか、英二は?」

 心配そうな大石に、菊丸の様子を見ていた乾が答えた。

「とっさに急所は外したらしい。まともにブラッジャーを頭に食らったら、試合どころじゃなくなってるからね。どこも折れてはいないみたいだけど……軽い脳震盪を起こしているようだ」

「そんな……」

 呆然とする大石の頭上から、ポツリと声が聞こえてきた。

「残念…無念…また……来週」

 菊丸をしつこくマークし、落下のきっかけを作った仁王である。

「キサマ、わざと英二に!?」

 温厚な大石が、珍しく仁王に食ってかかる。が、手塚に止められた。

「やめろ大石、あれは事故だ」

「だけど、手塚!」

「やめるんだ」

 納得できない、といった様子の大石を、手塚が一喝した。

「審判のフーチ先生が、あれは事故だと認めている。それに抗議すれば、下手をすれば退場処分だぞ。ここは堪えるんだ」

「手塚の言うとおりだな。それより、どうする? 不二を呼ぶかい?」

 乾に尋ねられて、手塚はグリフィンドールの観客席を見上げた。その視線に気づいた不二は、大丈夫、といった表情で首を横に振った。

「その必要はなさそうだ」

 一度競技場の外へ運び出されようとした時、気を失っていた菊丸がその手を振り払い、地面に手をついてクルリとバック転を決めた。

「英二!」

「菊丸せんぱぁーいっ!」

 起き上がった菊丸を見て、競技場は再び沸き立った。

「大丈夫なのか、英二?」

「俺たち、負けてらんないじゃん?」

 話しかけてくる大石に、菊丸が戦闘モードの鋭い視線を向けた。そして、頭上で制止している仁王を見上げて、菊丸は宣言した。

「この菊丸様のアクロバティックで成敗しちゃる!」






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今回、小出しにするような形になってしまって申し訳ありません(平謝り)。
私事で申し訳ないのですが、かなりショックなことがありまして、
8月17日の段階ではここまでが精一杯でした。

この試合、理屈じゃないです(汗;)。


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