ハリー・ポッター
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特別番外編:最強王者立海見参!〜歓迎会編

 3月3日。

 その日は、晴れているけれど寒い1日だった。

 ホグワーツ城の前にある湖に、引き上げられた難破船のような船が現れた。

 骸骨を思わせるその船は、窓から薄明かりが漏れていて、不気味な雰囲気をかもし出していた。

 不気味な船からは、毛皮のコートや真紅のローブを着た生徒が何人も降りてきて、リョーマたちホグワーツの生徒は全員、城の入り口で彼らを出迎えた。

「あれ、乾は?」

 各寮の寮監が生徒たちを整列させた時には確かにいたはずなのに、ひと際背が高くて目立つはずの乾の姿が見えなかった。

「そういえば、手塚もいないみたいだけど?」

「乾を探しに行ったんじゃない?」

「ああ、そうかも」

 大石や菊丸、不二たちが口々に話すのを聞きながら、リョーマは近づいてくるダームストラングの生徒を見た。

「あれが立海か……」

 誰かが、感慨深げに呟くのを、リョーマは耳に挟んだ。

 ダームストラング校の代表選手と応援の生徒たちは、痩せた背の高い、短い銀髪で、貧相な顎に先の縮れた髭をつけた魔法使いに率いられていた。

「ダンブルドア!」

 先頭にいたその魔法使いは、ダンブルドアの姿を見て、親しげに話しかけてきた。

「やあやあ、しばらく。元気かね?」

「元気いっぱいじゃよ、カルカロフ校長」

 耳に心地よく、上滑りに愛想のいいカルカロフと、ダンブルドアが両手で握手する。

 ダンブルドアに案内されて、城の中に入って行くダームストラングの一行を見て、生徒たちは口々に呟いていた。

「おい、見ろよ。あれ、アイルランド代表の幸村だぜ?」

「真田もいるぜ」

「あれ、柳じゃねぇか?」

 ダームストラング一行の後について、ホグワーツの学生が、整列して石段を上がる。

 玄関ホールを横切り、大広間に向かう途中。リョーマは立海の選手を見ようと、爪先立ちでピョンピョン飛び上がっている葵剣太郎を見た。また、何人かの女子学生が、サインをねだろうと歩きながら夢中でポケットを探っていた。

「知ってるか、越前? ダームストラングって、純血の魔法使いや魔女しか入学できなくて、闇の魔術を教えてるんだぜ」

 知った顔で話しかけてきたのは桃城だ。

「それ、乾先輩から聞いたんすか?」

「う……なんでわかったんだよ?」

「普通わかるっすよ、それくらい」

 グリフィンドール生が口にする噂話や、ちょっとしたニュースは、そのほとんどの出所が乾である。ということは、グリフィンドールの寮生ならば誰でも知っていることである。

 ダームストラングの生徒たちは、数人ずつに分かれて、思い思いのテーブルについていた。

 リョーマたちがグリフィンドールのテーブルにつくと、教職員テーブルに近い方に柳と柳生が座っていた。

 柳生はともかくとして、柳はナショナルチームに選ばれ、ワールドカップにも出場している有名人だ。他のグリフィンドール生は、少し間を空けて座りつつも、何人かがサインをねだるために柳を囲んでいた。

 他のテーブルは、と見渡すと、ハッフルパフのテーブルには切原と真田が。レイブンクローのテーブルにはジャッカル桑原と仁王が。スリザリンのテーブルには幸村と丸井が座っていて、やはり同じようにサインをねだる生徒たちに囲まれているようだった。

「あれ、どこ行ってたんだよぉ、乾ぃ。さっきいなかっただろ?」

「ああ、ちょっと用事を思い出したんでね」

「それで、手塚が探しに行ってたの?」

「そんなところだ」

 遅れて大広間に入ってきた乾と手塚に、菊丸が声をかける。二人は空いている席を探して、柳と柳生の方へ近づいていった。

 その時である。

 サインをねだられていた柳が、急にそれを断ってすくっと立ち上がり、乾に話しかけた。

「久方ぶりだな、貞治」

「……4年と2ヶ月と14日ぶりだよ」

 二人の会話を聞いたグリフィンドール生たちは、一斉にざわついた。

「ここも、あの頃から変わっていないようだな」

「そうだな」

 淡々と返事をして、乾は柳の隣に座った。その横に、手塚も着席した。

「あの二人、知り合いなんすか?」

 話している内容までは聞き取れなかったが、話し込んでいるらしい柳と乾を見て、興味津々といった様子で桃城が大石に尋ねていた。

「ああ。あの二人は、ホグワーツに入る前に、同じジュニアのクィディッチチームに所属して、コンビを組んでいたんだ」

「そうなんすか?」

「あ、その話は俺も知ってるよん。あの二人、ジュニアのイギリス代表になってたこともあるんだにゃ」

 大石が桃城に答えるのを聞いて、菊丸も口を挟んでくる。

「柳君は最初、ホグワーツに入学したんですよ」

 そこへ更に割り込んできたのは、7年生の大和だった。

「ええ!?」

 それを聞いて、桃城が少し大げさに驚いてみせた。

「乾君とは双子の兄弟のように仲が良かったんですが、1年生のクリスマス休暇で実家に帰って、それきりホグワーツには戻って来なかったんです。実家の都合でダームストラングに転校した、という事情だったそうですが」

「へぇ、そうだったんだ」

 大和が話すのを聞いて、リョーマは久しぶりに乾が試合に出てくる理由を理解した。

 全校生徒が大広間に入り、それぞれの寮のテーブルにつくと、教職員が入場し、一列になって上座のテーブルに進み、着席した。

 他の教職員が着席する中、ダンブルドアは一人だけ立ったままだった。

 大広間が水を打ったようになった。

「こんばんは。紳士、淑女、そしてゴーストの皆さん。そしてまた、今夜はとくに、客人の皆さん」

 ダンブルドアは、それぞれの寮のテーブルについているダームストラングの学生と、隣に着席しているカルカロフ校長に向かってニッコリと笑いかけた。

「ホグワーツへのおいでを、心から歓迎致しますぞ。短い間ではありますが、本校での滞在が、快適で楽しいものになることを、わしは希望し、また確信しておる」

 ダンブルドアの言葉に、ハッフルパフのテーブルについている切原が、明らかに嘲笑と取れる笑い声を上げた。そして、隣にいる真田に叱られていた。

「誰もあんなヤツ、引止めねぇよ。なぁ?」

「ああ」

 それを見て、荒井と林が小さく言い合った。

「明日の親善試合を前に、今夜は記念のダンスパーティが開かれる」

 ダンブルドアが続けた。

「さあ、それでは、大いに飲み、食い、かつ寛いで下され!」

 ダンブルドアが着席した。

 目の前の皿が、いつものように満たされた。

 ダームストラングから客人が来ているためか、豚肉の黒ソーセージや、牛肉と野菜をパプリカで味付けしたシチューなど、いつもとはちょっと違うメニューが出されていた。

 食事が終わりかけた頃、桃城がリョーマに話しかけてきた。

「おい越前。お前、今夜のダンスパーティで最初に踊る相手は決まってんのか?」

 夜に行われるダンスパーティでは、クィディッチの代表選手が最初に踊る、という決まりになっていた。そのために、この2週間ほど、毎晩クィディッチの練習とは別に、リョーマたちはダンスの練習もさせられたのである。

「一応。そういう桃先輩は、どうなんすか? やっぱり、ハッフルパフにいる橘さんの妹なんすか?」

 興味津々といった様子で尋ねてくる桃城に、リョーマは逆に尋ね返した。すると、桃城は急に口ごもった。

「そ、それは……」

「桃城君」

 そんな桃城に、女生徒の高い声がかかった。さっきリョーマが口にした、ハッフルパフのクィディッチチーム部長、橘桔平の妹、杏である。兄にはあまり似ておらず、大きな目をした彼女は、桃城にデザートのマフィンを手渡しながら話しかけた。

「ダンス、ちゃんと練習した?」

「お、あ、ああ……」

「ちゃんとリードしてね、楽しみにしてるから」

 そう言ってニッコリと桃城に笑いかける橘杏の後ろから、悲鳴のような声が響いてきた。

「杏ちゃん! なんで……なんで、そんなヤツと一緒に……」

 見ると、ハッフルパフの神尾が、桃城を思いっきり指差して叫んでいた。

「そんなヤツとは何だよ、神尾! だいたい、人を指差すんじゃねぇ!」

「お前は黙ってろ、桃城! 杏ちゃん、まさか、こんなヤツと踊るなんて言うんじゃ……」

「うん、そうだよ」

「杏ちゃーん」

 笑顔全開で肯定され、神尾は泣きそうな情けない声を出した。

(これは……さっさと逃げた方がいいかも)

 リョーマは、泥沼の三角関係状態の桃城たちからそっと離れた。






というわけで、歓迎会編でございました。
やっと、立海の皆さんが登場して参りました〜♪
(前回は、乾さんのノートを使っての解説でございましたから…;)。

今回は、4万5千ヒット超え御礼ということで、ダンスパーティ編と合わせてアップしております。
引き続き、お楽しみ下さいませ(^^)。





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