特別番外編:最強王者立海見参!〜紹介編
2月の初め。
ホグワーツには大激震が走った。
事の発端は、大広間での夕食の席でのことだった。
「今日は皆にいい知らせがある」
長机に食事が並ぶ前に、ダンブルドア校長が口を開いた。
「来月、5年に一度行われているダームストラング校とのクィディッチ交流試合が行われることになった」
ダンブルドアの言葉に、大広間は騒然となった。
ポカン、としているのはリョーマや、あまり魔法界のことを知らないマグル出身者だけだった。
「静まれ! ダームストラングの代表選手は3月3日の午後にホグワーツにやって来て、その夜に歓迎会を開き、翌4日に交流試合を行う」
ダンブルドアから詳しい話を聞かされて、再び生徒たちは大騒ぎになった。
「凄いね、ダームストラングなんて」
「交流試合かぁ。ホグワーツからは、誰が試合に出るんだろうね」
「そりゃ、特別に選抜チームでも作るんじゃねぇの? なんたって、相手はあのダームストラングなんだぜ」
リョーマの横でも、カチローとカツオ、堀尾たちが興奮を抑えられない様子で話していた。
「ダームストラング校からは、最も強い寮のチームがやって来ると聞いておる。そこで、このホグワーツからも、今現在最も強いチームに代表として戦ってもらおうと思っておる」
ダンブルドアが続けた言葉に、大広間は一瞬静まり返った。
「わしの記憶が正しければ、今リーグ戦でトップに立っておるのはグリフィンドールのはずじゃが……」
ダンブルドアが鼻の上にちょい、と乗せた眼鏡の奥からグリフィンドールの長机を見る。大広間の生徒たちの視線は、一斉にグリフィンドールに集中した。
「のぉ、乾君?」
名指しで尋ねられた乾は、得意げに眼鏡をくい、と押し上げて立ち上がった。
「先生のお言葉どおり、今リーグ戦のトップはグリフィンドールで間違いありません」
スリザリンのテーブルで、跡部が「けっ、下らねぇ」とばかりにそっぽを向くのが、リョーマの視界の隅に入った。
「では、グリフィンドールチームの諸君。ホグワーツの代表に相応しい、正々堂々とした戦いを期待しておる」
その日の夕食の席。
グリフィンドールのテーブルでは、交流試合の話で持ちきりだった。
食事を終えてから寮に戻り、早速クィディッチチームのレギュラーたちが集まって緊急ミーティングが開かれた。
「今の段階で、俺達がダームストラングの代表……通称、立海と呼ばれているチームに勝てる確率は……2%だ」
監督生たちは先に知らされていたのか、乾がミーティングの冒頭で口にしたデータに、リョーマたちは愕然とした。
「そんなに強いんすか? ダームストラングって」
桃城に尋ねられて、乾はいつものノートを取り出した。
「ああ。立海にはすでにナショナルチームに召集されている選手が3人いる。そのうちの一人は、病気療養中で恐らく試合には出てこない。だが、残された二人はもちろん、立海は全員が手塚や跡部クラス……あるいは、それ以上の実力を兼ね備えた選手ばかりだ」
「そんな……全員が手塚クラスなんて……」
乾がスラスラと並べるデータに、河村が青くなった。
「恐らく、今全世界の魔法学校にあるクィディッチチームの中で、最強だろう。ダームストラングは、伝統的にクィディッチが強いんだ」
「でも、負けるつもりはないんでしょ、手塚部長?」
乾の横で全く口を挟まない手塚に、リョーマは少し挑発するように尋ねてみた。すると、手塚は深く頷いた。
「もちろんだ。世界最強だろうが、俺たちは絶対に負けない」
「そう来なくっちゃ、っすよ、部長!」
力強い手塚の言葉に、青ざめていたレギュラーたちの顔色が明るくなる。リョーマも、手塚がそう言うなら勝てるのではないか、という気がしていた。
そこへ、乾が眼鏡のレンズを不自然に反射させて、いつものノートを取り出してパラパラとめくり、リョーマたちに見せた。
「というわけで早速、対立海戦に向けて特別メニューを組むから、そのつもりでいてくれ」
そこにはびっしりと、細かい数字や記号が描かれていた。
それを見た桃城が、少し青ざめた表情で乾に話しかけた。
「特別メニューはいいんすけど……」
「ん、どうした、桃?」
「もしかして……また特製ドリンクとか、用意してないっすよね?」
「ああ……今回はスペシャルドリンクを用意しなくても大丈夫かと思ってたんだけど……リクエストがあるなら作るとするか」
「作らなくていい!」
「作らなくていいっす!」
的を外れた乾の発言に、桃城リョーマをはじめ、不二以外の全員がそう叫んでいた。
「で、立海ってどういうチームなのか、聞かせてくれるかな、乾?」
不二に尋ねられて、乾はノートに向かって杖を一振りした。すると、ノートは乾の手を離れて宙に浮き、自動的にパラパラと紙をめくって一人の少年の顔写真が載っているページを探し出した。
「これは……もしかして、あの幸村!?」
そこに映し出された、穏やかな美貌だが、あまり顔色の良くない少年を見て、大石が声をあげた。乾は軽く頷いて、説明を始めた。
「ああ。ダームストラングの、引いては魔法界学生学校最強チームを率いる部長にして、アイルランド代表チーム最年少のシーカー、幸村精市だ」
「そんなに凄い人なんすか、その幸村ってのは?」
乾の説明を聞いて、桃城が問いかけてくる。乾は深く頷いて、写真の隣のページにあるデータを読み上げた。
「幸村精市。3月5日生まれの5年生。身長は175cm、体重は61kg。ポジションはシーカーで、アイルランド代表チームのメンバーでもある。去年行われたワールドカップでは、準決勝でワールドカップの最短試合記録を叩き出した、名シーカーだ」
「………」
乾が淡々と読み上げるデータを聞いて、尋ねた桃城だけでなく、リョーマも沈黙した。
「……が、幸村は今、病気療養中で試合には出てこない。神経系の病気で、最高の魔法薬を持ってしてもなかなか治らない、厄介な病気にかかっているらしいからね」
「なーんだ、それを先に言って下さいよぉ、乾先輩」
「確かに、幸村は出てこられない。だが、油断はできないぞ」
乾の口からその事実を知らされて、桃城がほっと胸を撫で下ろしたように呟く。が、それに釘を刺したのは手塚だった。
「手塚の言うとおりだね。試合に出られない幸村に代わって、今年からレギュラーに加わっている2年生シーカーが出てくる」
乾の言葉に合わせるように、紙がめくれて今度はチリチリの髪をした、目つきの悪い少年が映し出された。彼はフレームの中からジロリ、と正面を睨んだかと思うと、すぐに姿を消してしまった。
「彼は切原赤也。9月25日生まれの2年生。身長は168cm、体重は61kg。ポジションはシーカー。幸村には及ばないものの、実力は申し分ない。近いうちに、ナショナルチームからも声がかかるかもしれない、と噂されている選手だ。ただ……ラフなプレーも多いみたいだから、注意が必要だ」
「だってよ、気をつけろよ、越前」
「言われなくてもわかってるっすよ、桃先輩」
桃城に小突かれて、リョーマは軽く睨み返した。
「立海のビーターは、この二人。まずは、ジャッカル桑原。11月3日生まれの3年生。身長は178cm、体重は69kg。デタラメと言われる守備範囲を誇るビーターだ」
乾の説明に合わせて再びノートがめくれて、今度は色黒で剃髪の少年が出てきた。彼は何やら落ち着かない様子でキョロキョロと辺りを見回して、切原と同様すぐに姿を消してしまった。
「それからもう一人はこいつ、柳蓮二。6月4日生まれの5年生。身長は181cm、体重は67kg。達人と呼ばれる技巧派プレーヤーだ」
乾の説明が次の選手に移ると、再びノートがめくれて今度は目を閉じているのかと思うほど細めの、端整な顔立ちをした少年が映し出された。彼は腕組みをして何か考えている様子で、フレームの中にじっとしていた。かと思うと、ノートの横にいる乾にチラリと視線を向けた。
「こいつは、相手の動き、試合の流れを全て計算し、予想してプレーしてくる」
気のせいか、乾の口調はどこか親しげな様子だった。
「へぇ……乾みたいなプレーをする選手が、ダームストラングにもいたんだね」
不二の言葉に、乾は少し沈黙して続けた。
「……そうだな。ちなみに、こいつもアイルランドの代表選手として、去年のワールドカップに出場した。決勝で途中出場したんだけど、そのプレーは対戦チームのチェイサーたちをかなり苦しめていた」
「その試合、俺も見に行ったけど、確かに凄かったな、柳のプレーは。もちろん、スニッチを捕まえてチームを勝利に導いた幸村も凄かったけど」
乾の言葉に、大石は何か思い出すような遠い目をして、呟くように言った。
「それから、立海のチェイサーはこの3人。一人目は、丸井ブン太。4月20日生まれの3年生。身長は164cm、体重は62kg。氷帝の芥川慈郎が憧れているという、ボレーの天才選手だ」
やはり自動的にめくれた乾のノートには、赤い髪の人なつこい顔をした少年が映っていて、パチリと片目を閉じてウィンクを投げてきた。
「それから、二人目は彼、柳生比呂士。10月19日生まれの4年生。身長は177cm、体重は64kg。誰に対しても礼儀正しく、紳士と呼ばれるプレーヤーだが、一撃必殺のスーパーショットを武器にしている選手でもある」
続いて出てきたのは、薄茶色の髪の、涼しげな顔をした少年だった。レンズの奥の瞳が伺えない彼は、澄ました顔でフレームの中に納まっていて、クイ、と眼鏡のブリッジを指で押し上げた。
「それから、3人目は仁王雅治。12月4日生まれの4年生。身長は175cm、体重は62kg。彼のプレーは……予測不能で対戦相手を欺くようなものだ。それゆえに、詐欺師と呼ばれている。それだけでなく、立海の選手で唯一、この俺がデータを取れない選手でもあるんだ」
柳生に続いて出てきたのは、クセのある銀色の髪で、後ろ髪を一部分だけ伸ばしている、目つきの鋭い少年だった。彼は鼻の下を指で軽く擦り、正面を見据えてすぐに姿を消してしまった。
「乾でもデータを取れないなんて、かなり手強そうだね」
「ああ。……もっとも、立海で手強くない選手なんて、一人も存在しないけどね」
仁王が乾のノートから姿を消すのを見た河村が、思わずといった様子で呟く。それを聞いて、乾は軽く苦笑した。
「でも、だからこそ倒し甲斐がある、ってモンなんじゃないっすか、タカさん?」
「そうだね、桃」
「それで、乾? キーパーはどんなヤツかにゃ?」
珍しく一言も口を挟まずに話を聞いていた菊丸が、まだ紹介されていない選手の説明を乾に促した。
「立海のキーパーは……彼だ。真田弦一郎」
乾のノートが自動的にめくれて、帽子をかぶった厳格そうな顔をした少年が出てきた。
「ゲッ!? こんなヤツまで立海にいるわけ?」
「って、知ってるんすか、英二先輩!?」
それを見て、大声を上げた菊丸に桃城が尋ねる。菊丸は3回ほど深々と頷いて、乾のノートに映っている真田を指差して答えた。
「知ってるも何も、こいつも代表選手じゃん!? それも、去年優勝したアイルランドチームの!」
「そうだ。幸村や柳と同じく、アイルランドのワールドカップ優勝に貢献した三鬼才の一人だよ。5月21日生まれの5年生で、身長180cm、体重は68kg。アイルランド、そして立海。それぞれの『常勝』の砦を守る、鉄壁のキーパーだ。彼は立海の副部長なんだけど、幸村が戦線を離れている今、実質上立海を率いているのはこの真田だ」
乾がいつも「ウソをつかない」と豪語するデータを見せられて、グリフィンドール寮談話室の一角に集まった青学レギュラーたちは揃って沈黙した。
「……強いね、立海は」
沈黙を破ったのは、冷静な様子で乾のデータを聞いていた不二だった。
「恐らく、今まで戦ったことがないほど強いだろう」
不二に同意した手塚に、桃城が口を開く。
「……でも、どうしてもそいつらに一泡吹かせたい」
「同感だな」
いつも顔を見たらケンカになる海堂も、この時ばかりは桃城に同意した。
「俺たちはタダじゃ負けねぇ」
「そうそう。この菊丸様のアクロバティックで、成敗しちゃる!」
ふしゅー、と息を吐き出しながら呟く海堂に、菊丸が調子よく勢いづいた。
「試合をするからには、負けるつもりはない。常勝しているからといって、無敵ではないからな」
負けたくない、と口にした海堂より更に一歩踏み込んで、手塚は勝利への執念を表に出した。
「立海戦のオーダーを発表する。キーパーは俺。ビーターは、乾。それから、海堂」
「……」
手塚に指名された乾と海堂は、無言で深く頷いた。
「チェイサーは大石、菊丸、それから桃城」
「ほいっとね」
「了解っす!」
続いて指名された大石は、緊張した面持ちで頷き、菊丸と桃城は調子のいい声で返事をした。
「シーカーは越前、お前だ」
「わかったっす」
かくして、スターティングメンバーの決まったリョーマたちグリフィンドールチームは、さっそく翌日からダームストラング校との対戦に向けての特訓を開始した。
というわけで、始まりました。
「結月堂サイト開設記念&4万ヒット超え感謝御礼企画 ハリポタdeテニプリ特別番外編 最強王者立海見参!」
ぜぇぜぇ(←ひと息で言って、息が切れたらしい。というか、長いよ、このタイトル;)。
略して、特別番外・立海編。
書き出してみたら、何やら長くなってしまいました(苦笑)。
というワケで、このお話は次回の「前夜祭には歓迎パーティ(仮)」に続きます。
正直な所、今回はチェイサーのスタメンを誰にするかで悩みました。
黄金ペアは不動として、桃にするか、不二にするか。
でも、立海で出てくるのが28+ブン太で。
赤也はシーカーとしてリョーマさんと対決してもらうので、不二さんファンには申し訳ないのですが、
彼にはタカさんと一緒に外れてもらうことになりました。
ご了承下さいませ<m(__)m>。
ハリポタde乾塚の方も同時進行で書いているんですが、肝心の本編がまだ続きます(苦笑)。
「前夜祭には歓迎パーティ(仮)」などと合わせて読まれたほうがいいかも。
ということで、温めております。
ハリポタde乾塚ファンの皆様、もうしばらくお待ち下さいませ<m(__)m>。
歓迎会編 へ続く / ハリポタdeテニプリ トップへ戻る