ハリー・ポッター
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テニプリ
Chapter:41   勝負!

 リョーマたちは、大石が考えを巡らせているのをじっと見ていた。

 しばらくして、大石がリョーマたち4人に言った。

「皆、ここは俺の言うとおりに動いてくれるかい?」

「いいっすよ」

「任せるにゃ」

 素直に返事をする桃城と菊丸に頷いて、大石は続けた。

「まず、越前。お前はキングと代わってくれ」

「わかったっす」

 チェスの駒は、大石の言葉を聞いていたようだ。

 リョーマがチェス盤に向かうと、黒のキングがクルリと白に背を向け、チェス盤を降りてリョーマに場所を譲った。

「桃城、お前はh8のルークと代わってくれ」

「わかったっす」

 リョーマのいるマスから近い側のルークが盤から降りて、桃城に場所を譲った。

「英二、お前は越前の隣にいるビショップと代わってくれ」

「りょーかい」

 大石に指示されて、菊丸が黒い駒と入れ替わってチェス盤に上がった。

「乾、君はクイーンだ。俺たちの司令官だからね」

「わかったよ。それで、大石はどうするんだい?」

 クイーンがチェス盤から降りるのを見ながら、乾は大石に尋ねた。

「俺はナイトだ」

 大石はきっぱりと答えた。すると、大石が入れ替わろうとしていたナイトが馬を降りて、大石に場所を譲った。

 大石がチェス盤に上がり、駒の代わりに馬にまたがると、準備が整った。

「白駒が先手らしい」

 大石の言葉どおり、白のポーンが二つ前に進んだ。

「なるほど。ポーンは最初に動かす時に限り、2マス進めるんだったな」

 白駒の動きを見て、乾が感心したように呟いた。

「b7のポーンをb5へ」

 大石の指示通り、黒駒が動いた。

 そして次に白駒が動いた時、最初の衝撃がリョーマたちを襲った。

 最初に進んできた白駒が、大石が進めた黒駒に襲いかかったのである。手に持っていた剣を横から振りかぶって、黒駒を破壊したかと思うと、チェス盤の外に引きずり出したのである。

「やはりそうだったか……。これは、魔法使いのチェスだ」

 大石はそれを確かめるために、あえてポーンの駒を一つ犠牲にしたのだ、とリョーマは理解した。

 それと同時にリョーマは考えた。

(これって……もし俺たちが取られることになったら、どーなるワケ?)

 あんな風に手にしている剣や杖で殴られるのはゴメンだ、とリョーマは思った。

(ま、大石先輩がそんなヘマするワケないと思うけど)

 駒は大石の指示通りに、黙々と動いた。

「英二、斜め右に4つ進んでくれ」

「わかった」

 菊丸が大石に言われたとおり、指示されたマスへと動いていく。やがて桃城の横にいたナイトも動いて、リョーマと桃城は一度も動かないまま、間に駒が一つもないという状態になった。

「越前、左に2マス動いてくれ。それから桃城、お前は右に2マス動くんだ」

「え? 大石先輩、俺たち同時に動いていいんすか?」

 大石の指示に戸惑って、桃城が尋ねた。

「ああ。今は条件が揃っているからな。動いてくれ」

 そんな桃城に、大石は冷静に答えた。

「この手をキャスリングと言ってね。キングの守りを固めるんだ。ある一定の条件が揃った時にだけ、打つことができる手なんだよ」

 いつもなら乾の解説が入るところだが、この時ばかりは大石が自分で説明した。

「越前を頼むぞ、桃」

「はい、わかったっす」

 チェスの場合、キングが詰められたら負けになる。大石は序盤からキングの守りを固め、自分たちが攻めやすくなるような作戦を取っていた。

 リョーマと桃城を除いて、菊丸や大石や、他の黒駒たちは盤上を動き回っていた。特に移動範囲が広い乾は、次々に白駒をチェス盤から引きずり下ろしていた。同様に黒駒も、白駒のクイーンによって次々に盤上に投げ出され、破壊され、チェス盤から引きずり下ろされていた。

「ねぇ、桃先輩?」

「何だよ、越前?」

「俺たちだけこうやってじっとしてるのって、何かヒマっすね」

「だな。でも、仕方ねぇよ。この先に待ってるのはヴォルデモートかもしれないんだろ? だったら、お前をここであんまり消耗させないように、って考えたんじゃねぇか?」

 盤上の戦いを見守りながら話しかけたリョーマに、桃城が答えてくる。

「ま、ここは先輩たちに任せておこうぜ。大丈夫だって、大石先輩はチェス強いみたいだからな」

「そうっすね」

 桃城に頷いて、リョーマは視線を盤上に戻した。すると、菊丸が白のルークの移動線上にいた。

「でも、あの菊丸先輩ってヤバいんじゃないっすか?」

「あ……」

 リョーマが指差したのを見て、桃城も少し顔色を変えた。

 すると大石もそれに気づいたのか、菊丸を安全なマスへと移動させた。

 しばらくすると、負傷した駒が壁際に累々と積み上がった。白黒入り混じったそれらが増えていくのを見て、大石がまた少し考えた。

「詰めが近い。……このまま行けば……」

 大石が呟くのを聞いて、その側で白駒を取った乾が振り返った。

「待つんだ、大石。他に何か手があるんじゃないか?」

「いや、この手しかない」

「大石!?」

 言い切る大石に、乾が珍しく顔色を変えた。

「これしかないんだ、乾。俺が取られるしか……」

「大石!?」

「大石先輩!?」

 大石の言葉に、菊丸と桃城が同時に叫んだ。

「これがチェスなんだよ、英二、桃。乾も、わかってくれ」

「確かに、チェスに犠牲はつきものだ。でも、何もお前が……」

「こうするのが、白のキングにチェックメイトをかける一番の近道なんだ」

 乾の制止を振り払うほど、大石の決意は固かった。

「俺が一コマ前進する。そうすると、白のクイーンが俺を取る。英二、それでお前が動けるようになるから、キングにチェックメイトをかけるんだ」

「大石……」

 淡々と指示する大石に、菊丸は戸惑ったような表情を浮かべて沈黙した。少しの間俯いて、グッと両拳を握ったかと思うと、笑顔になって顔を上げた。

「わかったよ、大石。ケガしないように、気をつけて」

「ああ、英二」

 大石は少し青ざめた顔で、しかしきっぱりと言った。

「俺はd3へ動く!」

 大石がまたがっている馬が、盤上を滑るように指示されたマスへ進んだ。そこへ、白のクイーンが飛び掛った。

 盤上を滑るように移動してきたかと思うと、手にしていた杖で大石がまたがっている馬を2度、3度と打ちつけてきた。

「っ!?」

 大石は声にならない悲鳴を上げて、馬からチェス盤へと投げ出された。

「大石先輩!?」

「動くな、桃!」

 思わず、といった様子でマスから出そうになった桃城を、厳しい口調で菊丸が止めた。

「まだゲームは終わってない。動いちゃダメだ」

「英二先輩……」

 呆然と呟く桃城に、菊丸よりは桃城に近い位置にいた乾が振り返って、諭すように話しかけた。

「英二の言うとおりだ、桃。ここで動いたら、大石の犠牲が無駄になる」

「乾先輩……」

「大石は大丈夫だよ」

 自分に言い聞かせるように呟いて、菊丸は斜めに動いて白のキングの前に進み出た。

「チェックメイト!」

 高らかに菊丸が宣言すると、白のキングは手にしていた剣を投げ出した。大きな音を立てて、剣がチェス盤へと倒れていく。

 リョーマたちの勝ちだった。

 白駒は前方の扉への道を開けた。

「大石!」

 道が開かれたのを見て、菊丸が真っ先に大石に駆け寄った。床に落ちた大石は、気を失っているようだった。

「大石、大石!?」

 菊丸の呼びかけにも応えない大石の腕を取って、乾が脈を診た。

「落ちたショックで気を失っているだけだ。心配ない」

「大石先輩……」

 床についた膝の上に大石を抱え上げる菊丸を見て、リョーマも思わず大石に呼びかけていた。

「おチビたちは先に行って」

「英二先輩?」

「時間がないんだろう? だったら、おチビと桃と乾はこのまま先に進むんだ」

「英二……」

 学年が1年違うとはいえ、クィディッチでコンビを組むほどに、菊丸と大石は仲がいい。相棒が心配なのだろう、とリョーマは思っていた。

「俺は、大石の意識が戻ったら追いかける」

「わかった。大石はお前に任せる、英二」

 菊丸の意志は固い、と判断した乾が頷いた。

「お前も、さっき鍵を捕まえた時に消耗しているからな。ちょうどいいから、少し休め」

「うん、乾」

「そのついでというわけではないんだが、今までの経緯をダンブルドア校長に知らせてほしい」

「校長先生に!?」

 乾は黙って頷いて、懐から小さい羊皮紙と羽ペンを取り出して、サラサラと何かを書きつけた。

「俺が蓮二君を呼び寄せている暇はない。すまないが、お前が飼っているフクロウを呼んで、この手紙をダンブルドア校長に届けてくれ」

「わかった」

 菊丸はしっかりと頷いて、乾から手紙を受け取った。

「行くぞ、越前、桃」

「わかったっす」

「っす」

 乾は桃城とリョーマを引き連れて、先ほどまで白のキングが立ちはだかっていた扉から奥へと進んで行った。

 扉の奥は、また通路になっていた。けれどその通路はそれほど長いものではなく、すぐにまた広い部屋へと出た。

「うわっ。何すか、この悪臭!?」

「この臭い……何だか覚えがあるんすけど、俺」

 その部屋には何年も掃除をしていない公衆トイレと、何年も洗濯していない靴下の臭いを混ぜたような、字にもかけない悪臭が満ちていた。

「トロールがいるな……」

 あまりの悪臭に顔をしかめながら、乾が呟いた。

「トロール!?」

 リョーマと桃城は、ハロウィンの夜に嘆きのダビデがいるトイレでトロールと対峙した時のことを思い出していた。

 あの時は二人がかりで知恵を絞り、気絶させるのがやっとだった。

 それがまた……と思いかけた時、乾が安堵したように続けた。

「だが、すでに何者かによって倒された後のようだ。やはり、先客がいるようだな」

 乾はそう言うと、何事もなかったようにトロールの側を横切って部屋の奥へと進んでいった。

「はぁ、助かったな、越前」

 ほっとしたように話す桃城に、リョーマは問い返していた。

「何すか?」

「だって、お前。考えてもみろよ。今この状況でトロールと戦ったら、体力と魔力がいくらあっても足りねぇだろ?」

「……それも、そうっすね」

 そう言われて、リョーマは納得していた。

「桃の言うとおりだな。ここは、トロールを倒してくれた先客に感謝するとしよう」

 難なくその部屋を抜けて、リョーマは乾や桃城と共に通路を更に奥へと進んで行った。

「最初の罠がスプラウト先生。次がフリットウィック先生。チェスの駒を動かしたのは、マクゴガナル先生だろうな。そして今のトロールは…多分、クィレル先生だ」

「何で、クィレルになるんすか?」

「あの先生は、闇の魔法に対する防衛術の先生だからな」

「ああ、なるほど」

 通路を進みながら乾と桃城が話すのを、リョーマはただ黙って聞いていた。

「まだ出てきていないのは、スネイプ先生…か」

 呟くように言って、乾は通路の奥にあった扉を開けた。







実力テストのために、飛んでしまいまして申し訳ございませんでした。
前回までは手塚班の様子をお届けしましたが、今回は再びリョーマ班に戻って参りました。

今回のお話は魔法使いのチェス対決、ということで。
チェスなんてやったことないし。
駒を見てもどれが何やら、さっぱりわからないし。
ルールなんて当然知らないし。
でもチェスの話書かなきゃいけないし。
どーするんだ!?

ということで、ネットでザッと調べました。
……が、いかんせん付け焼刃な知識で書いておりますので、間違っている所もあると思います。
その辺りは見逃してやって下さいませ(額すりつけて土下座;)。







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