ハリー・ポッター
de
テニプリ
Chapter:36   作戦会議

「二手に分かれて、秘密の部屋潜入と、隠し扉突入を同時に行う」

 『スリザリンの継承者』によって連れ去られた竜崎桜乃を助ける、と決意した手塚は即座にそう告げた。

「同時にって……?」

「秘密の部屋での騒ぎが、敵の陽動作戦だということも考えられるからな。同時に叩く」

 きょとんとした表情を見せる菊丸に、手塚は続けた。

「つまり、秘密の部屋にみんなの意識を集中させておいて、その隙に賢者の石を奪う計画かもしれない、ということかい?」

 手塚の考えを補足するように付け加える乾に、手塚は肯定するように深く頷いた。

「そうだ。相手は闇の帝王と言われた、ヴォルデモートだからな。もしかしたら、この学校内に手引きする者がいるかもしれない」

「確かに、その可能性は十分考えられるな」

 軽く頷いて、乾は再びノートを開いてペンを取った。

「同時に叩くっていう手塚の考えはわかったけど、秘密の部屋への入り口。どこにあるのかわかったの?」

「そのことなら、心配ない」

 尋ねてくる不二に、乾は自身ありげに答えた。

「越前と海堂がクモのアラゴグから聞き出した話、覚えてるかい?」

「それって、秘密の部屋の怪物のこととか?」

「ああ。アラゴグは、怪物によって殺された生徒が、トイレで発見されたと話していた。そうだな、越前?」

「っす」

 確認するように尋ねてくる乾に、リョーマは頷いた。

 それを見た乾の眼鏡が、不気味に、不自然に光った。

「もし、その時殺された生徒が……まだ現場のトイレにいるとしたら?」

「え?」

 謎かけ問答のような乾の言葉に、不二が絶句する。

 リョーマも、それを聞いて思い出していた。トム・リドルの日記によって50年前のホグワーツを見せられた時。秘密の部屋が開かれた、まさにその夜。トイレで倒れている男子生徒がいた。それは……。

「嘆きのダビデ……」

 呆然と呟くと、乾はその通りだと大きく、満足げに頷いた。

「恐らく、50年前に秘密の部屋が開かれた夜、怪物によって殺されたのが天根ヒカル、つまり今でいう嘆きのダビデだ。彼が発見された時の状況を繰り返すと、側に凶器らしきものは何もなく、一滴の血も流れていなかった。……もし、バジリスクに睨まれて死んだのだとしたら、凶器もいらないし、血が流れることもない。目を見た瞬間に、即死だからね」

 乾は、前に全員に話して聞かせたダビデの第一発見状況を繰り返した。その推論に、反論する者は誰もいなかった。

「つまり、彼から死んだ時の状況を聞き出せば、秘密の部屋への入り口がわかるかもしれない、ということだ」

 少なくとも、怪物がどの方向からやってきたのか、ダビデは見て覚えているはずだ。

 と手塚は続けた。

「さっすが乾と手塚。カンペキじゃん?」

「期末試験だけじゃなくて、ふくろう試験だってあるのに、凄いな」

 菊丸と河村が感心したように呟くのを聞いて、乾は少し得意げに眼鏡のブリッジを押し上げたが、手塚はいつもと同じで無表情だった。

「問題は、誰がどちらに行くか、だな」

 状況を黙って見守っていた大石が、口を開いた。

「そうだね。僕たちが二手に分かれるのはいいけど、よく考えないと」

「秘密の部屋には、俺が行く」

 不二が大石に同意する中、手塚がきっぱりと言い放った。

「「手塚!?」」

「グリフィンドール生がさらわれているんだ。助けに行くのは、監督生の役割だろう」

 大石と菊丸が同時に声をあげるのも耳に入らない様子で、手塚はそう続けた。

「手塚が秘密の部屋に行くなら、俺は賢者の石を守りに行こうか。俺と手塚は、分かれておいたほうがいいだろう? それに、賢者の石の方はホグワーツの先生たちが腕によりをかけて罠を張ってるからね。俺の方が向いてる」

「そうしてくれ」

 すかさず乾が手塚に続き、手塚も了承した。

「おい、越前。お前どっちに行きたい?」

「そうっすね、俺は……」

 桃城に尋ねられて考えていると、手塚が有無を言わさない口調でリョーマを指名してきた。

「越前、お前は賢者の石を守りに行け」

「……何でそうなるんすか?」

「賢者の石が保管されている隠し通路の奥に、ヴォルデモートが待ち構えているかもしれないからだ」

 尋ねたリョーマに手塚が話す根拠に、リョーマは黙り込んだ。

「ヴォルデモートを完全に消滅させることができれば、お前のその額の傷も消える。奴から移された力が消えることはないがな。自分の手で、決着をつけろ」

「……わかったっす」

「越前が賢者の石の方に行くんなら、俺もそっち行っていいっすか、手塚部長?」

 そちらの方が面白そうだ、と判断したらしい桃城が手塚の判断を仰ぐ。手塚は構わない、と頷いた。

「ってわけだ、越前。何かあったら、俺がジャックナイフで助けてやるよ」

「それが通じれば、の話っすけどね」

「それを言っちゃぁいけねぇな、いけねぇよ」

 軽口を叩く桃城にそう言い返すと、桃城は苦笑した。リョーマもつられて笑いながら、緊迫していた空気が少し緩むのを感じていた。

「ああ、そうだ、海堂」

「何すか?」

 突然乾から指名されて、海堂は弾かれたように乾を見た。

「お前は手塚と一緒に秘密の部屋の方へ行ってくれ。多分、お前が必要になるはずだ」

「……そうなんすか?」

「ああ。頼む」

「わかったっす」

 乾ははっきりと理由を口にしなかったが、必要になる、と言われて海堂は素直に頷いた。

「乾先輩、何でこいつが必要になるんすか?」

「それは……まぁ、行ってみればわかるよ」

 乾と海堂のやり取りに聞き耳を立てていた桃城が、すかさず乾に尋ねてくる。いつも何かと張り合っているだけに、海堂を頼りにしているような乾の言い方が気に障ったらしい。

 けれど適当に言葉を濁されて、桃城は少し不満そうにしていた。

「あと残ってるのは、俺と英二。それから不二とタカさんか……」

「できれば、大石はこっちにほしいな」

 呟く大石を指名したのは、乾だった。

「賢者の石の方には、先生方の罠が待ってるからね。4年生で首席を守ってる大石がいてくれると、心強い」

「おだてるなよ、乾」

「はいはいはーい! 大石がおチビや乾について行くなら、俺も行くにゃ」

 乾から指名を受けて照れる大石を見て、菊丸も自分から勢いよく手を挙げて志願してきた。

「だったら、僕とタカさんは手塚と一緒に行こうか」

「うん、そうだね」

 こうして、賢者の石組と秘密の部屋組の割り振りが決まった。

「決行するのは何時にする? 今すぐに行くかい?」

「そうだな。先生方は職員室で会議中、生徒は全員寮に戻っている。人目は少ないだろう」

 尋ねてくる乾にそう答えて、手塚は自分のクローゼットに向かい、引き出しから銀ねず色の布を取り出した。

 リョーマはそれに見覚えがあった。手塚が今手にしている物と全く同じ物を、自分も持っているからだ。

「透明マント……」

「祖父の形見だ」

 呆然と呟く河村に、手塚は静かに告げた。

「俺の祖父は、越前。お前の家が襲われる前に、ヴォルデモートに殺された。俺と、俺の両親を守るためにな」

「部長……」

「竜崎は俺たちが助ける。お前は、ヴォルデモートを倒してくれ」

 手塚はリョーマを真っ直ぐに見据えて、そう言った。

「わかったっす、部長」

 リョーマは、真剣に、深々と頷いた。

「越前と手塚、透明マントは2枚か。全員がその中に入るのは、無理だな」

「特に乾とタカさんはね。身長高いから、一人で1枚使わないとダメなんじゃないか?」

「身長が高いっていうなら、手塚もだよ。タカさんとあまり変わらないんだからね」

 乾と河村は身長が180センチを越える。手塚も、179センチでほぼそれに並ぶ身長の持ち主だった。

「談話室には、他の寮生たちもいるからな。怪しまれないように外に出る必要がある」

 話す手塚の眉間に、皺が寄っていた。

「この中で、こういう緊急事態に寮の外へ出ても怪しまれないのは?」

「とりあえず、手塚と俺、それから乾。あとはタカさんと、海堂だな」

 乾の問いかけに即答したのは、大石だった。

 その全員が、日頃から教師の信頼も厚く、特に問題ない生徒だと認識されている。

「って、大石ぃ。何で俺がその中に入ってないのさ?」

「英二はともかくとして、僕まで除外されるっていうのは、どういうことかな?」

「って、何で俺もその中に入るんすか!? 越前ならわかるっすけど」

「俺より問題ありなくせに、そういうこと言わないで下さいよ、桃先輩」

 大石から遠まわしに問題あり、と判断された菊丸と不二、桃城とリョーマは一斉に声をあげた。

「俺のデータによれば、俺たち9人の中で減点が多いのはお前たち4人だ。データは嘘をつかないからね」

 データという名の客観的事実を根拠に、乾はリョーマたち4人の反論を封じてしまった。

「決まりだな。では、菊丸と桃城は俺のを使え。不二、お前は越前のを借りて一緒に入れ」

「……わかったよ」

 不二をはじめ、リョーマもしぶしぶと頷くしかなかった。

「みんな、杖はちゃんと持ってるだろうな?」

「持ってるよ」

 確認するような口調の手塚の問いかけに、リョーマは自分の上着のポケットを探った。指先に硬い杖が触れて、少しほっとした。

「出発する。油断せずに行こう」

 いつもの手塚の言葉に全員が頷いて、手塚の部屋を出た。

「先輩、俺、透明マント取ってくるっす」

 階段を下りながら、リョーマは手塚にそう断って、駆け足で自分の部屋に下りた。ベッドの下にしまい込んだ透明マントを取り出して、部屋を出ようとしたところで、リョーマは後ろから声をかけられた。

「リョーマ君」

 誰もいないはずの部屋に、同室の3人が揃っていた。

「マクゴガナル先生が寮に戻りなさい、って言ったのに。どこに行くの?」

 いつになく真剣な表情で問いかけてきたのは、カチローだった。

「越前、お前時々寮を抜け出してただろ?」

「僕たちが気づいてないって、思ってたの?」

 堀尾もカツオも。口調は少し厳しかったが、リョーマを心配しているのがよくわかった。

 だが、今は彼らに構っている余裕はない。

「悪いけど、今それどころじゃないから」

「リョーマ君!」

 そのまま部屋を出ようとすると、3人はドアの前に立ちはだかって、出口を塞いでしまった。

「どいてくれる? 時間ないんだけど」

「ダメだよ、リョーマ君!」

 いつも気弱なカチローが、泣きそうな声でリョーマを引き止める。少し心が痛んだが、仕方がないとリョーマはポケットから杖を取り出した。

「悪いけど、力づくで通らせてもらうよ」

 リョーマは自分の正面にいるカチローに、杖を突きつけた。

「ペトリフィカス・トタルス!」

 リョーマがそう唱えると、カチローの両腕が体の脇にピチッと貼りつき、両足がパチッと閉じた。体が固くなり、その場でユラユラと揺れ、まるで一枚板のようにうつ伏せにバッタリ倒れた。

 前に桃城と菊丸が面白がって貸してくれた呪文集に載っていた、全身金縛りの呪文だった。

 リョーマはカチローの両脇にいる堀尾とカツオを代わる代わる見た。

「え、越前……」

 リョーマは倒れたカチローをまたいで、呆然としている二人の間をすり抜けた。

「金縛りになってるだけだよ。1時間もすれば、戻るから」

 心の中でカチローにごめんと謝って、リョーマは部屋を出た。そして、部屋の外でリョーマを待っていた手塚たちに合流して、透明マントを頭からかぶり、寮を出てまずは嘆きのダビデがいるトイレへ向かった。

「ここで分かれよう」

 大広間に続く廊下の前で、リョーマたちは秘密の部屋に向かう手塚たちと分かれることになった。

「ここから先は、どれだけ魔力を消耗するかわからないからね。緊急事態が起きたら、ふくろう便を飛ばしてくれ」

「わかった。健闘を祈る」

 乾は手塚とお互いの連絡手段を確認し合うと、ふっと笑って軽口を叩いた。

「そっちもね。先に寮に戻った方が、お茶を用意しておくってことで、どうだい?」

「いいんじゃない、それ?」

 同意しながら、不二が目を開けて不敵に微笑する。

 とても、これから大仕事を成し遂げようとしている人間が交わす会話とは思えなかったけれど、おかげで少し緊張がほぐれた。

「じゃ、ここからは本当に……」

「油断せずに行こう」

 この中で最上級生の乾と手塚がそう言い合って、秘密の部屋へ向かう4人は手塚を先頭に。賢者の石を守るために隠し扉の廊下へ向かう5人は乾を先頭に。別々の方向へと分かれた。





さぁ、やっとここまで来ました「ハリポタdeテニプリ」。
36章、いかがだったでしょうか?
本家本元の「ハリポタ」も、映画第3弾「アズカバンの囚人」が6月26日公開。
5巻の日本語版が9月発売。
ということで、盛り上がっているので、楽しみですね♪

1巻「賢者の石」と2巻「秘密の部屋」をミックスしたこのお話も、
次回からいよいよラストに向けて走り出します。
どこでどのエピソードが出てくるのか、原作をご存知の方は想像しながら読んでいくと面白いかも、なのです。
そしてご存知ない方は、是非、25日にはテレビで「賢者の石」が放送されますので、
ご覧下さいませ(^^)。





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