ハリー・ポッター
de
テニプリ
Chapter:34   手塚の秘密

 グリフィンドール寮に戻ると、手塚をはじめとするクィディッチチームのレギュラーたちが勢揃いしていた。就寝時間はとっくに過ぎ、他の寮生たちは寝静まっている中、談話室の中、暖炉の側だけ蝋燭の明りが灯されていた。

「無事だったか、皆」

「ああ、なんとかね」

 眉間に皺を寄せ、厳しい表情を崩さない手塚に、乾がかすかに苦笑を浮かべて答えた。

「帰りが遅いから、心配したんだぞ」

「お茶でも飲むかい? お菓子もあるけど」

 ほっと胸を撫で下ろした様子の大石に、河村が続く。

「あ、俺手伝うっす!」

 暖炉の火で沸かしたお湯でお茶の用意をする河村を手伝うべく、桃城もソファから立ち上がった。

「疲れているところ悪いが、経過報告だけは今のうちに済ませておいてくれ」

「わかってるよ」

 手塚にそう指示されて、乾は指定席になっている肘掛け椅子に腰かけて、深いため息をついた。

「甘いものがいいかい?」

「そうだね。あれだけの魔法を短時間で使ったから、さすがに疲れたよ」

「だが、探索系の魔法に最も長けているのはお前だ。仕方ないだろう」

 河村に尋ねられて本音をこぼす乾に、手塚が遠慮のない言葉をかける。乾は苦笑を深くした。

「蓮二君を出すのは簡単だけど、3羽も出して維持するのも、その状態でさらに別の魔法を使うのも、今の俺にはまだ荷が重いんだよ」

 チョコレートの欠片を一緒に焼いたビスケットを河村から受け取って、乾はそれを口に運んだ。

「おい、越前。お前何ボーッとしてんだよ。ほら、早く座って、これでも食えよ」

 桃城に話しかけられて、リョーマはようやく、自分がただ呆然とその場に立っていたことに気づいた。今まで森で見てきたことと、談話室での様子のギャップが激しく、頭がついてきていなかったのだ、と漠然と思った。

 辺りを見回すと、菊丸も不二も海堂も、思い思いの椅子に腰掛けて、マグカップやビスケットを口に運んでいた。

「あ……どもっす………」

 カップとビスケットを受け取って、リョーマは側にあるソファに腰かけた。ビスケットの甘い香りを嗅いで、気分が落ち着いてくるのをリョーマは感じていた。

「それで、何があった?」

「だいたいのことは、蓮二君で知らせただろう? お前たちが聞いた通りだよ」

「俺が聞きたいのは、お前たちがもう一度森へ下りた後のことだ」

「それも、俺たちの会話は聞こえるようにしておいたはずだけど?」

「知らせていたのか?」

「一応ね。……もしかして、届いていなかったのか?」

 手塚との会話が噛み合わないことに、乾は表情を曇らせた。リョーマは確認するように乾に尋ねていた。

「それも、あいつの仕業っすか?」

「そうとしか…考えられないな」

 乾は眼鏡のブリッジを指で押し上げながら、沈痛な面持ちで深いため息をついた。

「何を見た?」

「ヴォルデモート……」

「!?」

 もう一度手塚に尋ねられて、リョーマはその名を口にした。その名を聞いて、大石と河村と、リョーマと共にその場に居合わせたはずの海堂や菊丸までが恐怖に顔を歪ませた。

 ユニコーンの血をすする、あのおぞましい光景を見た今となっては、彼らが何故そこまで『ヴォルデモート』という名前に過剰なまでの恐怖を見せるのか、リョーマは何となく理解できる気がしていた。

「復活しているのか?」

「正確には、復活しようと足掻いている、というところだろうな。俺達が見たのは、ローブに身を包んだ影のようなものだった。けれど、あの禍々しさ……間違いないだろう」

 そして乾は、手塚に話して聞かせた。

 ヴォルデモートが禁じられた森に棲息するユニコーンを襲い、その血を飲んで命を繋ぎとめていることを。また、今ホグワーツに隠されている賢者の石を狙っていることを。

「復活、する……」

 大石が呆然としたように繰り返した。

「ヴォルデモートは、スリザリンの末裔であるとも伝えられている。秘密の部屋とも、何らかの関係があるかもしれない」

「乾まで……」

 その名が誰かの口に上るたびに、魔法族生まれの大石や河村、菊丸や海堂は恐怖の表情を浮かべた。そんな様子を見て、手塚は毅然と言い放った。

「名前を恐れれば、その存在をも恐れるようになる。あの者の狙いはそこだ、と亡くなった祖父が話していた。必要以上に恐れることはない」

「手塚の言うとおりだね。そして何より、ここにはそのヴォルデモートに唯一対抗できる魔法使いがいる」

「それって、ダンブルドア校長?」

「ああ」

 手塚に同意した乾に、菊丸が聞き返す。手塚は深く頷いた。

「ダンブルドア校長がいる限り、ヴォルデモートも好きなようにはできない」

「それ以前に、自分で何とかしよう、って思ってるんじゃない、手塚?」

 茶化すように、どこか楽しげな口調で不二が手塚に問いかけると、暗くなりかけた雰囲気が少し和んだ。

「賢者の石をヴォルデモートの手から守り、秘密の部屋の真相も探る、か。……大変だけど、面白そうだな」

「もし成功したら、ホグワーツ特別功労賞モノだにゃ」

「ついでに、寮杯獲得だって夢じゃないっすよね」

 そんな不二に、面白いこと好きな乾と、好奇心旺盛な菊丸と、やはり調子のいい桃城が便乗した。

「その分、校則もたくさん破らないといけないけどな。くれぐれも、ほどほどにしてくれよ」

 心配性の大石が至極真っ当なことを口にして、手塚以外のレギュラーから自然と笑いがこぼれた。

 彼らの笑い声を聞いていると、今夜次々と目の当たりにした出来事も、夢のように思えるとリョーマは感じていた。

「まぁ、途中でトラブルは発生したけど、今夜の作戦は成功だな」

「そうだな、皆ご苦労だった」

「さて、もう遅いけどゆっくり休んで明日に備えようか」

 乾と手塚、大石の監督生三人組が締めた所で、その場はお開きになろうとした時。リョーマは思い出していた。

 そういえば、何故リョーマが寮を抜け出してハグリッドの所へ行こうとしているとわかったのか、その理由を尋ねていない。

(それは……寮に帰ってから話すよ。ここで俺が話すのは、多分ルール違反だからね)

 アラゴグの巣からリョーマと海堂とファングを助け出した車の中で、乾はそう言った。けれど、リョーマはまだその答えを聞いていなかった。

「ねぇ、乾先輩」

「何だい、越前?」

「何で俺が寮を抜け出そうとしてるってわかったのか、まだ聞いてないんすけど」

「……」

 後片付けをしようとする桃城にカップを預けようとしたまま、乾は固まった。

「寮に帰ったら話す、って。先輩そう言ったっすよね?」

 尋ねられても、乾はしばらく無言だった。いつも流暢に話す乾らしくもなく、口を開くのを躊躇っているようだった。

「それは、俺から話す」

「手塚!」

「いずれわかることだ。話しておいてもいいだろう」

 重苦しい空気を打ち破るかのように言ったのは、手塚だった。

「でも……いいのか?」

「ああ」

 確認するように尋ねる乾に頷いて、手塚はリョーマに向き直った。

「越前。俺には生まれつき、触れた物の記憶を読み取る力がある」

「記憶を、読む……?」

「魔法使いの中には、時々そういった特殊な能力を持って生まれてくる者がいる。俺には、触れたものの記憶を読み取ってしまう力が備わっていた。この眼鏡は、その力を抑制するためにかけている」

 手塚がリョーマに告げる事実は、俄かには信じがたいものだった。

 同時に思い出していた。寮を抜け出そうと決意した後で、リョーマは宿題の質問をしようとして談話室へ降りる途中、階段で手塚と衝突したことを。

「まさか、あの時に……」

「お前は生まれて間もない時期にもかかわらず、ヴォルデモートを打ち破ったほどの魔力を持つ魔法使いだ。恐らく、潜在的な力は俺より上なんだろう。眼鏡をかけていても、お前とぶつかった時にお前の記憶が見えた」

「それって、寮を抜け出してハグリッドの所へ行こう、って思ったことっすか?」

「そうだ」

 いつもと変わらない無表情で頷く手塚を見て、リョーマはようやく納得した。自分一人で決めたはずのことが手塚たちに感づかれていて、さまざまなフォローがなされたその原因を。

「それで、乾先輩が俺の考えに便乗したってワケっすね?」

「そういうことだ。その後は、乾がお前に話した通りだ」

 リョーマも、他のレギュラーたちも、ヴォルデモートの名を聞いた時と同じような衝撃を受けているようだった。ただ一人、乾を除いては。

「乾先輩は、知ってたんすか?」

「手塚とは、一番付き合いが長いからね」

 リョーマに尋ねられて、乾は眼鏡をずり上げながら答えた。

「もっとも…俺がその力を知ったのは、3年になってしばらく経った頃だったけど」

 乾が話し終えても、誰も口を開かなかった。

 ヴォルデモート復活の現実と、手塚が持って生まれた能力。

 レギュラーたちを襲ったショックは大きかった。

「魔法使いの中には、何らかの特殊な能力を持って生まれる者が時々いる。手塚も、その一人だってことだよ。今日はもう遅いから、もう寝よう」

 重苦しい沈黙を断ち切るように乾はそう言って、半ば強制的にリョーマたちを部屋に上がらせた。





 翌朝、リョーマは同室の堀尾とカツオ、カチローの3人に叩き起こされた。

 かなり遅い時間にベッドに入った上に、昨夜はいろいろなことが一度にありすぎて、なかなか寝付けなかったのだ。

 朝食のために大広間へ向かうため、談話室に集まってきた他のレギュラーたちも、同様のようだった。

「よっ、越前。昨夜は眠れたかよ?」

「全然っす。桃先輩は?」

「俺も全然だったぜ。っていうか、あんな話聞いて、寝れるかよ。マムシのヤツも、しばらく寝付けなかったみたいだぜ」

 眠たそうな顔をしてリョーマに声をかけてきた桃城は、やはり欠伸をしている海堂を親指で差した。

「やっぱ、そうっすよね……」

 リョーマや桃城の少し後ろでは、菊丸が「眠い、眠い」と連発していた。

 寮監であるマクゴガナル先生の引率で大広間に入り、朝食を摂った後の自由時間。

 大石が慌てた顔で駆け込んできた。

「大変だ、手塚!」

 大石は手塚の肩を叩こうとして、とっさに手を引いた。それを見た乾が軽く苦笑して、大石に声をかけた。

「どうしたんだい、大石? そんなに慌てて」

「今、大和部長のお見舞いに行ってきたんだ。そうしたら、大和部長が、これを……」

 大石は、皺だらけになった一枚の紙を取り出して、乾に見せた。

「これは……?」

 紙を受け取って確認する乾の周りに、リョーマや桃城をはじめ、クィディッチのレギュラーたちが集まってきた。

「バジリスク……」

 それは、本のページを破り取ったものだった。

 その紙の隅には、『パイプ』と走り書きがされていた。

「もしかしたら、大和部長は…秘密の部屋にいる怪物の正体がわかったのかもしれない」

 呟く乾に、レギュラー全員の視線が集中した。





お待たせ致しました。
急きょ、学業の方が忙しくなりましたために、1週飛びまして申し訳ございませんでした。
ハリポタdeテニプリ、34章でございます。
いかがだったでしょうか?

いやいや、半年以上前からずーっと黙っておりました、手塚に関するオリジナル設定をようやく公表することができまして、
ちょっとスッキリしております(笑)。
まぁ、乾×手塚作品展示室の番外編をご覧になっている方には、11章アップと同時にお知らせしていたのですけれど(苦笑)。
ようやく、本編でも情報解禁と相成りました♪

そして、学業&家事の両立+サイト運営というのは、
ちょっと手の回りきらない面がでてきておりまして。
大変申し訳ないのですが、ハリポタdeテニプリは正式に隔週連載とさせて下さいませ<m(__)m>。
なので、次回の更新は6月8日になります。
……その日、実力テストや(滝汗;)。





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