ハリー・ポッター
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        テニプリ
Chapter:21   決闘クラブ

 レイブンクローの野村拓也に続き、ハッフルパフの壇太一が石にされたというニュースは、瞬く間にホグワーツ中に広まった。

 太一と一緒にリョーマファンを自認していた剣太郎も、いつもの明るさは陰を潜め、元気がないようだった。

 やがて先生に隠れて、魔よけやお守りなどの護身用グッズの取引が、校内で爆発的に流行るようになった。グリフィンドールでも、菊丸が便乗して、マグル出身者である不二や桃城を使って売り出そうとしたが、即刻手塚に処分されてしまった挙句、グラウンド50周を命じられた。

 その週末、クィディッチの試合もない土曜日。大石の提案で、グリフィンドール生全員が談話室に集められた。

「……で、何すか、大石先輩? こんな昼間っから全員集めて」

 談話室の中には、いつどうやって作ったのか、長い直線になっている壁に沿って金色の舞台が出現していた。

 舞台の周りに集まって、最前列に陣取った桃城が舞台の上にいる大石に疑問をぶつけた。

「これから、決闘クラブを開催する」

「決闘クラブ?」

「ああ。先日の壇君で、スリザリンの怪物に襲われた生徒は二人になった。今後、自分の身を守るためにも、こういったことを経験しておいた方がいいと思うんだ」

 大石は舞台の上から、不思議そうな顔をしているグリフィンドール生たちに説明した。黒いレンズが入った丸い眼鏡をかけ、無精ひげを生やした7年生や、他の6・7年生たちは舞台から遠い所から、面白そうな表情で事の成り行きを見守っていた。

「っていうかぁ、スリザリンの怪物が決闘なんかするのかにゃぁ?」

「そ、それは……」

 菊丸の鋭い突っ込みに、大石はたじたじとなった。すると、菊丸の隣にいた不二が助け舟を出した。

「怪物が決闘をするかどうかはわからないけど、使える魔法の種類を増やしたり、自分を鍛えるにはいいかもしれないね」

「あ、ああ……」

 不二の言葉に助けられて、大石は顔の冷や汗を拭った。

「とりあえず、口で説明するより実際に見てもらったほうがいいと思う。それで、模範演技をこの二人にお願いする」

 大石に紹介され、舞台の左端から手塚が、右端からは乾が登場し、舞台に上がった。二人は端から中央に向かって歩き、向き合って一礼した。それから、二人とも杖を剣のように前に突き出して構えた。

 するとクルリと二人は回れ右して背中合わせになり、端へ向かって5歩歩き、再び中央へと向き直った。

「俺が3つ数えたら、最初の術をかける。もちろん、どちらも相手を殺さないように手加減する」

 大石の解説が入り、手塚は右手を軽く後ろへ上げ、左手で杖を乾に向けて構えた。対する乾は、左手を軽く上げ、右手で杖を手塚に向けて構えた。

「大石はああ言ってるけど、あの手塚、かなり本気だね」

 不二がいつも閉じている目を軽く開けて、そう呟いた。

「わかるんすか?」

「うん。だって、手塚の体から金色のオーラが出てるからね」

 不二の隣にいてその呟きが聞こえたリョーマが尋ねると、不二が再び目を閉じてニッコリ笑顔で答えた。

「……見えるんすか?」

「うん」

 不二はあっさり頷いて、再び視線を舞台に戻した。

「1――2――3――」

 大石が3まで数えたその時、手塚と乾は同時に叫んでいた。

「「エクスペリアームズ!」」

 二人の杖から目も眩むような紅の閃光が走ったかと思うと、真ん中でぶつかり合って弾け飛んだ。

「……今の、どうなったの?」

「二人ともほぼ同じ魔力だったから、威力が相殺し合ったみたいだね」

「ってことは、引き分けってこと?」

「そうだね」

 不思議そうな菊丸に、不二が状況を冷静に解説していた。

「今、二人がかけ合ったのは武装解除の術だ。まともに食らったら、杖ごと吹っ飛ばされるんだ」

 審判ついでに真ん中に陣取っている大石が、状況説明をした。そして、模範演技をした手塚と乾に再び声をかけようとして、言葉を失った。

「て、手塚……、乾………?」

 手塚も乾も、まだ戦闘態勢のままだったのである。

「眉一つ動かさないとは、さすがだな、手塚」

「魔力を少し上げたようだな、乾」

 ニヤリ、と不敵な微笑を浮かべる乾とは対照的に、手塚はいつもの無表情を崩さない。

「て、手塚? 乾?」

 互いの魔力をぶつけ合ったことで本気モードに突入してしまった二人を見て、大石はおろおろし始めた。

「ふ、二人とも、もう模範演技は……」

「でも、面白そうだにゃー」

「そうだね。もうちょっと見てみようか」

 面白いことなら何でも歓迎、といった様子の菊丸と不二の3年生コンビに押しきられて、手塚と乾の決闘は続行されることになった。

「でも、止めなくていいんすか?」

「いいんじゃねぇの? あの部長がやる気になってんだから」

 リョーマの疑問に、桃城はあっさり野次馬を決め込んでいた。

 そんな野次馬の様子など全く気に留めない様子で、乾は手塚との会話を続けていた。

「ちょっと、上へ登ってみたくなってね」

「……上と来たよ」

「久しぶりに見るね、本気の乾」

 乾の言葉を聞いて、菊丸と不二が感心したように呟いた。

「……乾先輩、俺の倍以上特訓してやがった」

「ええ? 乾のヤツ、そんなことしてたの? 海堂だって、普段の3倍は魔力高める特訓してたよね?」

「っす」

「海堂。正確には、2.25倍だよ」

 河村から確認するように尋ねられて頷いた海堂に、乾が舞台上から訂正するように言ってきた。視線はあくまでも手塚から離さずに、である。

「3倍の2.25倍って……」

「つまり、約7倍の練習量をこなしてた、ってことだね。いつの間にそんな特訓してたんだろうね、乾」

「そうやってまとめないでくれるかな、不二?」

「ごめん、ごめん」

 桃城が思わずといった様子でもらした言葉に反応した不二にも、乾は苦情を言ってきた。そして乾は、一気に自分の魔力を高めた。

「ふ、感謝するがいい、手塚よ。お前には特別に、この俺の最も忠実なる僕の姿を拝ませてやろう。出でよ、ブルーアイズ・ホワイトドラゴン!」

 乾が叫ぶや否や、乾の上に青い目をした白い竜の姿が浮かび上がった。

「………」

 対する手塚は、黙って魔力を高めていく。やがて、リョーマの目にも手塚の体から金色のオーラが立ち上るのが見えた。そのオーラに重なるように、月のような天体がいくつか浮かび上がってきた。

「二人とも、かなり本気だね」

「っていうか、あんなに声張り上げる乾先輩、初めて見るっすね」

 楽しそうな不二に、桃城が腕を組んで呟く。

「なんか、口調変わってるみたいだったっすけど」

「おおっ、乾のヤツ、ブルーアイズを召喚しやがったな!」

 リョーマがボソッと呟いた時、菊丸が急に握りこぶしを作って、いつもの声よりずっと低い声で叫んだ。

「え、英二?」

 それを聞いて、河村が菊丸の後ろで戸惑ったような声を出す。

「ふしゅー」

 海堂は不機嫌そうな息を吐き出していた。

「どうやら、乾も英二もキャラが変わってるみたいだね」

「って、何そんな冷静になってるんすか、不二先輩?」

 不二とリョーマが囁きあうのをよそに、菊丸はなおも低い大声で漏らしていた。

「ちっくしょー、こうなったら、俺もレッドアイズを召喚してぇぜ」

「ふっ、ムダだ。凡骨は黙ってそこで見ていろ」

「何だとぉ、乾ぃ!?」

 完全に口調が変わっている乾に言い返されて、菊丸が怒りをあらわにする。けれどそんなことはお構いなし、といった様子で手塚と乾はお互い魔力を最高まで高めた。そして、二人ほぼ同時に叫んでいた。

「見るがいい、銀河の星々が砕け散るさまを! ギャラクシアン・エクスプロージョン!」

「食らえ、滅びのバースト・ストリィーーームッ!」

 手塚の杖からは金色の閃光が、乾の杖からは青白い閃光がほとばしり、お互いに向けて放たれた。

 互いの杖から放たれた閃光は、舞台の中央でせめぎあい、ぶつかりあった。しばらくこう着状態が続いていたが、総合的な魔力では乾に勝る手塚が、次第に押し始めた。

「……このままでは、お互いただでは済みませんね。それに、この談話室が破壊される可能性もあります」

 そんな様子を見守っていた、黒いレンズの丸眼鏡をかけた無精ひげの7年生がぽつりと呟いた。そして舞台に群がるほかの生徒たちをかき分けて、どう対処していいのかとおろおろしている大石の隣に並んだ。

「大石君。このままでは、この談話室も含め、二人ともただではすまないでしょう。君の魔力を少し分けてくれませんか?」

「あ……は、はい……」

 彼が大石に話しかけている間に、今度は乾が押し始めた。

「僕の魔力は手塚君や乾君には劣ります。が、魔力の使い方にかけては少々自信があります。大石君、杖の先を、僕の杖の先に合わせてくれませんか」

「わ、わかりました」

 大石が杖を取り出して、言われたとおりに7年生の杖先に自分の杖をピタリと合わせた。

「僕が呪文を唱えますから、同時に魔力を解放して下さい」

「はい」

 大石が頷くのを見て、7年生は静かに呪文を唱えた。

「フィニート インカンターテム」

 そして大石の杖から放たれた魔力を自分の魔力に加え、呪文を増幅させて、舞台中央でせめぎ合っている手塚と乾の魔法へとぶつけた。

「―――っ!?」

「くっ!」

 その瞬間、手塚の杖から放たれていた金色の閃光と、乾の杖から放たれていた青白い閃光が同時に消え去った。その反動で、二人とも背中を引っ張られたように後退さった。

「お、収まった……?」

「手塚君、乾君。君たちの最大奥義を見せてくれたことは大変貴重なことですが、ここは寮の談話室です。大広間や屋外でなら存分に出してくれて構いませんが、少し魔力が過ぎたようですね」

 ほっと胸を撫で下ろす大石をよそに、その7年生は手塚と乾を交互に見て、諭すように叱った。

「申し訳ありません、大和部長」

「すみません、大和部長」

 いつも堂々としている手塚と乾も、さすがに彼に対しては素直に頭を下げた。

「大和部長、って……?」

「去年まで、うちのクィディッチチームの部長だったんだにゃ」

 思わず呟いたリョーマに答えてくれた菊丸の声は、いつもの高いトーンに戻っていた。

「あ、元に戻ったみたいだね、英二」

「うんにゃ。なぁんか、乾に釣られて、キャラ変わっちった」

「やっぱりそうだったんだ?」

 言い訳をする菊丸に、不二はニッコリと微笑みかけた。

「でも、さすが大和部長だ。手塚と乾の魔法を一瞬で終わらせるなんて」

「そうっすね」

 感心したように呟く河村に、桃城も同意した。

「そんなに凄い人なんすか、大和部長って?」

「うん。魔力が一番強いのは手塚なんだけど、何ていうかな。大和部長は、魔力が強いとか弱いとか、そんな尺度では測れない人だよ。今のグリフィンドールで最も権力がある監督生は、あの人だから」

「そうそう。それに、手塚も尊敬してるくらいの人なんだにゃ」

「へぇ、そうなんだ」

 自分から質問しておきながら、不二と菊丸の説明にリョーマはそっけない相槌を打った。





 手塚と乾の対決が無効となった後は、同学年同士での決闘が何試合か行われた。学年が違えば、習っている呪文の数が違うから低学年の生徒が不利になる、と配慮しての組み合わせだった。

「すごいね、カツオ君。堀尾君に勝っちゃうなんて」

「いやぁ、たまたまだよ」

 カチローに尊敬の眼差しを向けられてはにかむカツオと、呪文の発音を間違えたためにまともに武装解除の呪文を食らって敗れてしまい、がっくりと肩を落とした堀尾が舞台から下りてきた。

 二人が舞台から下りたのを見届けた大石は、次の対戦カードにリョーマを指名した。

「次は、1年から越前。越前と組むのは……」

「俺じゃダメっすかね、大石先輩」

 視線をさまよわせてリョーマの対戦相手を決めようとした大石に向かって、2年の荒井が手を挙げた。

「荒井……。ダメって、お前は2年生だろう。1年の越前が不利だ」

「でも、魔力だけなら問題ないんじゃないっすか、越前は。なんたって、『例のあの人』を消滅させたくらいなんすから」

 荒井が口にした『例のあの人』に反応して、談話室内にざわめきが起こった。当の荒井は、リョーマに敵意むき出しの視線を向けていた。

(……ふうん、俺を目の敵にしてるってワケ。面白そうじゃん)

 が、リョーマは全く怯むことなく、大石に向かって言った。

「俺、いいっすよ。荒井先輩が相手でも」

「越前? だって、お前呪文……」

「休みの間に、桃先輩や菊丸先輩がいくつか教えてくれたんで。大丈夫っす」

 リョーマはこともなげにそう言って、スタスタと舞台へ上がっていった。生徒の大半が帰宅してしまったクリスマス休暇中に、寮に居残った桃城や菊丸からいくつか呪文を教わったのだ。それも、相手に悪戯を仕掛けるような呪文ばかりを。

 教わったといっても、桃城や菊丸、ましてや監督生である手塚や乾にそれをかけたら、後でどんな仕返しをされるかわかったものではない。結局、リョーマはまだ一度もそれを使ったことがなかった。

(1回試してみたかったんだよね。ちょーどいいかも)

 リョーマはこれ幸い、と思っていた。

 そんなリョーマの心の内を知ってか知らずか、舞台に上がってきた荒井はリョーマを睨みつけてきた。

「2年の力を思い知らせてやる。手加減しねぇからな」

「望むところっすよ、荒井センパイ」

 リョーマを挑発しようとする荒井を逆に挑発して、リョーマは杖を取り出して構えた。

 一応、作法どおりに向き合って礼をし、数歩歩いて距離を取る。くるりと回れ右をして、大石がカウントを始めた。

「1――2――」

 まで大石が口にしたところで、荒井は杖先をリョーマの膝に向けて、いきなり叫んだ。

「タラントァレグラ!」

 次の瞬間、リョーマの足がピクピク動き、勝手にクイック・ステップを踏み出した。

「荒井のヤツ、かけた相手を踊らせる呪文をかけたな」

「そうみたいだね」

 舞台から下りた乾が、冷静に解説に回る。その言葉に、不二も同意した。

「あれをかけられると、疲れて足が動かなくなるまで踊り続ける」

「うんにゃ、おチビのヤツ、どーするかにゃ?」

 さらに続ける乾に、菊丸が目をキラキラと輝かせて呟いた。

(何だ、これ? 体が勝手に……)

 リョーマは自分の足が意思に反して動くことに、戸惑っていた。

(止まれ、止まれ!)

 そして強く思う。視線を前に移すと、荒井が思惑通りだとニヤニヤ笑っているのが見えた。

(にゃろう!)

 このままやられてたまるか!とリョーマは膝に意識のすべてを集中させた。その瞬間、膝が呪文から解放されて自由になった。

(よし、今だ!)

 リョーマが呪文を打ち破ったのを見て、一瞬動揺した荒井の隙をついて、リョーマは杖を荒井に向けて叫んだ。

「リクタスセンブラ!」

 銀色の閃光がリョーマの杖から迸り、荒井の腹に命中した。荒井は体をくの字に曲げて、腹を抱えて笑い出した。

「やるじゃねぇか、越前」

「だにゃー。あの呪文、カンペキに使えてるみたいだにゃ」

 二人してその呪文をリョーマに教えた桃城と菊丸は満足げに、笑い転げる荒井を見ていた。

 荒井の様子を見ながら、乾がポツリと呟いた。

「……なるほど、くすぐりの術か。あれをかけられたら、笑い転げて動くこともできない。あの呪文は確か、1年生から3年生までの基本呪文集にも載っていないはずだ。あれが載っていたのは、確か……」

 そして思い出したように、乾はいつものノートを取り出してパラパラとめくり出した。

「ああ、あった、これだ。『呪いのかけ方、解き方(友人をうっとりさせ、最新の復讐方法で敵を困らせよう)』……」

「桃城、菊丸」

 乾の話を聞いてわずかに怒気を孕んだ声が、背後から桃城と菊丸を呼んだ。

「お前たち、悪戯目的で越前にあの呪文を教えたのか?」

 問いただすような口調のそれは、手塚だった。桃城と菊丸は、二人揃って恐る恐る、といった様子で手塚を振り返った。

「そ、それは……」

「て、手塚、あの……これは……」

「この決闘クラブが終わったら、グラウンド50周だ」

「マ、マジっすか?」

「ええ!? それって多すぎだよ、手塚ぁ」

 お決まりのグラウンド走を言い渡した手塚に、桃城と菊丸が抵抗の声をあげた。

「まぁまぁ手塚君。彼らにグラウンド走を言い渡すなら、先ほどこの談話室を壊滅の危機に晒した君と乾君も、同様の罰を受けるべきなのではありませんか?」

 そんな桃城と菊丸に救いの手を差し伸べたのは、手塚と乾を止めた7年生、大和祐大だった。

「大和部長……」

「ということで、今日のところは桃城君と菊丸君は見逃してあげませんか?」

「……わかりました」

 鶴の一声ならぬ、大和の一言で手塚は素直に頷いた。

「おいおい、二人とも。武器を取り上げるだけだと言っただろう」

 大石が困ったようにそう言った時、リョーマの気が一瞬緩んだ。その時、新井はすばやく杖を取り上げて大声で怒鳴った。

「サーペンソーティア!」

 荒井の杖の先が炸裂した。その先から、長い黒いヘビがニョロニョロと出てきたのを見て、リョーマは少し驚いた。

 ヘビは二人の間にドスンと落ち、鎌首をもたげて攻撃の態勢を取った。舞台で審判を勤めていた大石はもちろん、周りにいた堀尾やカツオ、カチロー、朋香や桜乃たち、ほとんどの生徒は悲鳴をあげてザーッとあとずさりした。

「ふーん、なかなかやるじゃねぇのよ、荒井ぃ」

「だにゃぁ」

「まさか、ヘビを出してくるとはね」

「どうする、越前?」

「ふしゅー」

 面白いこと好きなクィディッチチームの面々と、7年生の大和祐大だけは平然として事の成り行きを見守っていた。

「荒井のヤツ、いつの間にヘビの召還術を覚えたんだろうな」

「さぁな」

 同意を求めるような乾に、知ったことではないと手塚が答えた。そしてスタスタと舞台に向かって歩き出した。

「手塚?」

「ヘビをあのままにはしておけないだろう」

 舞台の上では、リョーマが身動きもできず、怒ったヘビと目を見合わせて立ちすくんでいる。

「どうするつもりだい?」

「追い払う」

 乾の問いかけに短く答えて、手塚は舞台に上がった。荒井を舞台から下ろして、背後から杖を出してヘビに近づいた。すると、リョーマと向き合っていたヘビは向きを変えて、今度は手塚に向かってシューシューと鎌首をもたげ、牙をむき出しにして攻撃の構えを取った。

 それを見た瞬間、リョーマの頭を何かがつき抜けた。何が自分を駆り立てたのかはわからなかったし、何かを決心したのかどうかさえ、リョーマ自身には意識がなかった。

 ただ、まるで自分の足に魔法がかかったかのように、体が前に進んで行ったこと。そしてヘビに向かってバカみたいに叫んだことだけは覚えていた。

手を出すな、去れ!

 すると不思議なことに、ヘビはまるで庭の水撒き用の太いホースのようにおとなしくなり、床に平たく丸くなり、従順にリョーマを見上げた。

手を出すな

 もう一度そう言うと、ヘビはわかった、とでも言うようにシューとさっきまでの威嚇とは違う音を出した。

(これで、大丈夫)

 リョーマは何故かそう思っていた。もう、ヘビは誰も襲わないとわかっていた。

「越前」

 いつも無表情な手塚が、何故か顔色を変えていた。ヘビから助けたのはリョーマだというのに、手塚は何故か鋭く射るような視線でリョーマを見ていた。

「部長、もう大丈夫っすよ」

「そうなのか」

 リョーマがそう声をかけても、手塚にはわかっていないようだった。

 舞台から遠ざかった生徒たちが、ヒソヒソと何やら不吉な話をしているような雰囲気に気づいて、リョーマは視線をそちらへ向ける。すると生徒たちは、一様に恐怖に縮み上がったような顔をしてリョーマを見た。

「越前……」

 いつも手塚に負けず劣らず冷静な乾も、リョーマを呼ぶ声がかすかに震えていた。

「どうしたんすか、みんな?」

「お前、気づいていないのか?」

 問いかけた乾から、リョーマは逆に聞き返される。

「気づいてないって、何すか?」

「お前は、パーセルマウスだ」

 乾の代わりに答えたのは、手塚だった。冷静さを取り戻したのか、手塚はヘビに進み寄って杖を振り、ヘビはポッと黒い煙を上げて消え去った。

「パー……何っすか?」

「パーセルマウス。ヘビと話ができる魔法使いのことだ」

 もう一度そう言い聞かせた手塚の顔は、相変わらず固く、厳しいままだった。

「まさか、こんなことが……」

 手塚は眉間に皺を寄せて、そう呟いたまま絶句した。

 リョーマはただわけもわからず、周りが重く沈黙するのを眺めていた。






というわけで、騒然となっているグリフィンドール談話室の現場からお届けしました(笑)。
ハリポタをご存知の方はおわかりかと思いますが、また少し、話の核心に近づいて参りました。
そして、相変わらず遊んでおります、結月(笑)。

といいますか、この決闘クラブの話を書かねばならないなぁ、と構想を練った時点で考えていたのです。
模範演技でキャラが変わる手塚vs乾(笑)。
ちなみに解説を致しますと、アニプリの手塚役:置鮎龍太郎氏は「聖闘士星矢 ハーデス十二宮編」で双子座のサガ・カノンを。
乾役:津田健次郎氏は「遊戯王デュエルモンスターズ」で海馬瀬人を。
菊丸役:高橋広樹さんは「遊戯王デュエルモンスターズ」で城之内克也を演じておられまして。
「ジャンプ」つながりってことで(笑)。

でもって、出てきてしまいました、大和祐大(苦笑)。
出そうかどうしようかと迷っていたのですが、暴走しかかった手塚と乾を止められるのは、この人しかいないので。
次回も、いろいろと首を突っ込んでくるようですので、お楽しみに(^^)。





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