ハリー・ポッター
de
テニプリ
Chapter:17   狂ったブラッジャー 後編

「さあ、試合再開だよ」

 グリフィンドールのタイムアウトが終了し、再び試合が動き出す。

 リョーマ一人を付け狙うブラッジャーは、試合が再会しても相変わらずリョーマを追い続けていた。何とかして振り払おうと、リョーマは急発進や急停止、ハイスピードでの方向転換を繰り返したが、全く効果がなかった。

「なんだ、てめぇ。バレエの練習でもしてんのか?」

 跡部がすかさず野次を飛ばしたが、リョーマの耳には入っていなかった。というより、リョーマには跡部に構っている暇すらないのである。

 リョーマがそうしてブラッジャーと格闘するのを見て、次第に観客席でも事の異常性に気づき始めていた。

「ねぇ、橘君。さっきから気になってるんだけど……なんで越後屋君はブラッジャーに追いかけられてるんだろうねぇ」

「……越後屋ではなくて、越前だろう、千石。いい加減に覚えろ」

「ああ、そうだったっけ? で、あのブラッジャーなんだけど」

「確かに、おかしいな。ブラッジャーがある特定の選手だけを狙うことは、あり得ない」

 実況席で千石と橘も話し合っていた。

「ホグワーツで行われる全ての試合でデータを取っている乾でさえ、こんな事態は初めてだろう」

「誰かがブラッジャーに細工したとか?」

「そう考えるのが、一番自然だな。だが……手塚は試合続行を決めたようだ」

 その手塚は、ゴールへ攻め込んでくるスリザリンのチェイサー3人と向き合っていた。

「なんや、おかしなことになってるみたいやけど、この隙にゴールさせてもらおか」

「そうだな」

 グリフィンドールがタイムを取っている間に少し回復してきた向日も、アクロバティックプレーが戻っていた。

「忍足が左サイドから斜め上にいる向日にパスを出す確率91%。角度は27度ってとこかな」

 越前の様子を気にしつつも、乾のデータクィディッチは冴え渡っていた。各選手の動きを分析しつつ、ミリ単位のコントロールでブラッジャーを打ち、忍足たち3人の連携プレーを乱す。

「忍足ぃー、こっちこっちー」

「そこへ、芥川が割り込んでくる確率100%」

「のわっ!?」

 乾の読みどおり、慈郎は乾が放ったブラッジャーの飛ぶコースへと飛び込んできた。しかし、慈郎はバランスを崩しながらも、忍足から受けたパスを箒に当てた。ふらふらと不規則なカーブを描いて飛ぶクアッフルは、左側のゴールへと吸い込まれていった。が、風のように移動した手塚が、体ごと箒を回転させてそれを打ち返し、ゴールを阻んだ。

「ほな、今度はこっちや」

 そのリバウンドを忍足が狙い、今度は右側のゴールを狙って打ち返した。そのまま右側のゴールへと吸い込まれていくかに見えたクアッフルは、途中でコースを変えて手塚の正面へと飛んだ。

「おい侑士、お前どこ狙ってんだよ」

 再び手塚に打ち返されたクアッフルを、今度は向日がゴールしようとしたのだが、それもやはり手塚の正面へと飛んでいき、ついに手塚にキャッチされた。

「……どないなってんねん?」

「手塚ゾーンだ」

 絶句する忍足たち3人をよそに、乾がどことなく嬉しそうに呟いていた。そして、誰に聞かせるともなく解説を始めていた。

「手塚は箒で打ち返す時に、クアッフルに回転を与えている。回転をかけられたクアッフルは、全て手塚の所へ飛んでいく。まるで、吸い寄せられるように。……箒で自在に回転を操ることができる手塚だからこそ、できる技だ」

「箒で自在にクアッフルの回転を操るなんて……」

「そんなことができるんですか?」

 乾の解説は、何故か観客席にいるカチローや剣太郎たちにも聞こえていた。

 確認するように問いかけられた大石は、深く頷いていた。

「ああ。そんなことができるから、手塚は無敵のキーパーなんだよ」

「さすがだな、あいつは」

 大石の言葉に、ハグリッドも感心したように何度も頷いていた。

「へぇ、さっすが部長。やるじゃん?」

 追いすがるブラッジャーと格闘しながらも、リョーマはそんな様子を横目で見ていた。

「これは、俺も負けてられないな」

 手塚が決めたタイムリミットまでは、あと7分しかない。乾からのサインを確認したその時、リョーマの視界の端で跡部が動いた。前方を真っすぐに見据えて、猛スピードで突進していく。

(ふーん、スニッチ見つけたんだ)

 リョーマにはピンときていた。そしてその一瞬こそ、リョーマが狙っていた瞬間だった。

(ブラッジャーは俺を狙ってる。ってことは、俺があそこへ飛んで行ったら、あのナルシストな人も巻き添えってコトだよね?)

 ニヤリ、と笑ってリョーマは跡部の方へ向かって行った。案の定、ブラッジャーはリョーマを追いかけてきた。

 跡部に追いついてすぐ横に並ぶと、案の定目の前でスニッチが羽ばたいていた。

「お前、この俺様を出し抜けるとでも思っているのか?」

「やってみなきゃ、わかんないでしょ」

 お互いにスニッチから視線を外すことなく、言い争っていた。時々、相手をスピードダウンさせようとして体当たりをする。そしてスニッチを追いながらも、リョーマを追って襲い掛かってくるブラッジャーから身をかわしていた。

 赤いローブのリョーマと、緑のローブの跡部。その二人がスニッチを追って飛ぶ軌跡が、赤と緑の線となって観客たちには映っていた。その赤と緑の軌跡が、急に競技場から消えた。

「ん? リョーマのヤツ、どこ行ったんだ?」

 ハグリッドが疑問符を浮かべる中、リョーマと跡部はスニッチを追って観客席の下に潜り込んでいた。観客席を支えるために複雑に組まれた木材をくぐり、後ろからバキバキとその木材を折りながら飛んでくるブラッジャーから身をかわし、けれど猛スピードで逃げるスニッチを追いかける。

 そんな状況下でも、跡部もリョーマも飛ぶスピードを緩めることはなかった。どちらかと言えば、箒の操作で優れる跡部の方が有利だったが、リョーマも負けてはいない。

 ガンッ、バキッ!

 攻め方を変えたブラッジャーが、一度観客席の外に出て、横からリョーマに襲い掛かってくる。リョーマはそれを間一髪で避け、さらに木にぶつかりそうになったところを避け、スニッチを追った。

「ちっ、何なんだこのブラッジャーは!?」

 跡部の反応が一瞬遅れる。目の前に迫る横木を避けるためにスピードダウンした跡部をよそに、リョーマはスニッチとの距離を詰めていた。猛スピードで跡部を追い越し、再び競技場へと戻り、あと少し、あと少しとスニッチに近づいていく。

(あと少しで!)

 スニッチを掴もうと、体を伸ばして左腕を伸ばす。全神経がスニッチに集中したその時、リョーマに隙ができた。

 バシッ!

 ついに、ブラッジャーがリョーマを捉え、肘を強打した。燃えるような痛みを感じて、リョーマは腕が折れたのを自覚した。けれど、スニッチを捕らえる事だけは忘れていなかった。

 使えなくなった利き腕をだらりと伸ばし、足で体を支え、必死で右腕を伸ばし、そして……。

 ピーーーッ!

「グリフィンドールの勝利!」

「越前君がスニッチを捕まえた! 240−30でグリフィンドールの勝ちだね」

 指が冷たいスニッチを握り締めるのを感じた時、試合終了を告げるフーチ先生の笛の音と声、そして少し興奮したような千石の声を、リョーマは聞いたような気がしていた。

気を失うまいと必死にこらえながら、リョーマはまっしぐらに地面に向かって突っ込んだ。

「リョーマ君っ!」

「リョーマ様っ!?」

 観衆たちから叫び声が上がる。

 リョーマは地面に落ちて、箒から転がり落ちた。けれど、スニッチだけは握り締めていた。

 痛みと疼きの中で、観衆のどよめきや口笛が、遠くの音のように聞こえていた。

「よくやった、越前」

 地上に降りてきた手塚が、開口一番そう言ってリョーマを誉めた。

「乾、先輩……。今、何分っすか?」

「タイムリミットまで、あと2分26秒残っている。よくやったな、越前」

「そ……すか………」

 乾の言葉に力なく頷いて、気を失いかけた時、リョーマは本能的に動いていた。リョーマを追いかけ続けていたブラッジャーが、試合が終了したというのにまだリョーマに襲い掛かってきたのである。ドゴッと音がして、地面に穴が開く。二度、三度とブラッジャーはリョーマに襲い掛かっては地面に穴を開けた。

「フィニート インカンターテム」

 それを見た手塚が、とっさにローブから杖を取り出し、ブラッジャーに向けて呪文を唱えた。杖の先から青い閃光が放たれ、ブラッジャーは粉々に砕け散った。

「すごいにゃ、おチビ。あの跡部と競り合って、勝っちゃうにゃんて」

「すっげぇキャッチだったぜ、越前」

 菊丸と桃城が、両側から座り込んでリョーマを覗き込んできた。

「イタッッ!!!」

「ふん、完全に折れてるな。これは、医務室へ行って治療してもらった方がいい」

 乾がリョーマの左腕の様子を見て、冷静に呟いた。

「桃、海堂。越前を医務室へ連れて行け」

「わかったっす」

 勝利の余韻に浸る余裕もなく、リョーマは桃城と海堂に付き添われて医務室へ直行した。

「……ここ最近、グリフィンドールは怪我人が多いですね」

 リョーマの腕を診察したマダム・ポンフリーは少し呆れたように言った。

「骨折はあっという間に治せますけど、気をつけなさい」

「はい……」

「一応大事を取って、今日はここに泊まりなさい。いいですね?」

「わかったっす」

 リョーマは神妙な面持ちで頷いた。





 翌日、骨折が完治したリョーマは寮に戻った。

 そしてそれから数日後。

 ホグワーツにはクリスマス休暇が迫っていた。

 秘密の部屋の一件と、ノムタクとニックが石化した事件が原因で、クリスマスに帰宅しようと、生徒たちはホグワーツ特急に雪崩を打って予約を入れた。

「でも、跡部さんは居残るらしいぜ」

 監督生の特権か、それとも持ち前の情報収集力を生かした結果なのか。乾はスリザリンで誰が残るのかを正確に把握していた。スリザリンは純血ばかりだから、秘密の部屋の恐怖とは関係ない、とばかりに居残る人間が多かったのだ。

「ポリジュース薬ももうすぐ完成するって話だからな。休みになるのが楽しみだぜ」

 そう言う桃城の声は、どこか楽しそうだった。

「あの人に何訊くのか、整理しないとダメっすね」

「ああ」

 帰宅組に入ることになった不二が実行メンバーから抜けて、リョーマは乾のアドバイスを受けながら、連日桃城や菊丸と計画を練った。

 そして。

 学期が終わり、外に降り積もった雪と同じくらい深い静寂が城を包んで。

 ホグワーツはクリスマス休暇に突入した。






というわけで、2章に渡ってお送りしました、青学vs氷帝戦でございました(^^)。
プロットを立てた段階から、青学vs氷帝は長くなるだろうなぁ、と思っていたのですが、
本当に長かったです(笑)。
だって、ねぇ。
跡部様を登場させないといけませんし、岳人にはムーンサルト、長太郎にはスカッド、
宍戸さんには究極の反射能力などなど発揮させないといけませんし、
ジローちゃん起こさなきゃいけないし、侑士にボヤかせないといけないし、
樺地に「もう、打てません」って言わせないといけないし(笑)。
青学サイドも、立ち直らせたり、仲間割れしたり、手塚ゾーンやらなきゃいけないし、
王子追っかけなきゃいけないし……。
書いているのはとても楽しかったのですが、詰め込むのは大変でした(苦笑)。

次章は、ついにクリスマス休暇に突入です。
魔法薬は完璧、な汁の人が薬を完成させているようですので、お楽しみに(^^)。





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