ハリー・ポッター
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テニプリ
Chapter:16   頂上決戦! 青学vs氷帝 後編

 試合開始から20分を経ても、グリフィンドール対スリザリンの試合は、相変わらず両チーム共得点ゼロ、という状態が続いていた。

「相変わらず動かないねぇ、この試合は」

「だが、少しスリザリンが押し気味のようだな」

 橘の解説どおり得点こそされていないが、全体的にスリザリンの方が試合を優位に進めていた。

「英二、動きが悪いね」

「ああ……」

 心配そうに呟く河村に、大石が頷いた。菊丸の上を行く向日のアクロバティックプレーに、菊丸だけでなく桃城までが翻弄されていた。

「……ダメだ、速すぎ」

 競技用としては最速の箒に、アクロバティックプレー。菊丸は向日を追いかけるのをあきらめかけていた。そして不安げな視線を、一瞬大石に投げかけてきた。

「英二!」

 大石は、とっさに大声で呼びかけていた。歓声にかき消されそうになりながらも、その声は菊丸に届いていた。

(大丈夫だよ、英二)

 その声が、菊丸の記憶に刻まれた大石の言葉を呼び覚ましていた。

(諦めるな。諦めなけりゃ、必ず弱点は見えてくるんだ。チャンスはどこかにあるハズ)

(俺たちの力を信じよう)

「そだね、大石」

 菊丸は小さく呟いて、向日に対して猛追撃を開始した。クアッフルを抱えて、手塚が守るゴールへ向かっていく向日に追いついて、ギリギリまで体を寄せてスピードダウンさせる。

「お前、まだ諦めてなかったのかよ」

 挑発するような向日の言葉にも、もう菊丸は反応しなかった。

「侑士!」

 菊丸のチャージに負けて、向日はついに下斜め後ろにいた忍足にパスを出した。その瞬間、菊丸が動いた。

「させないっ!」

 そのまま向日を追っていくと見せかけておいて、菊丸は素早くクアッフルをキャッチしたのである。

「桃、不二!」

 そして桃城と不二に、自分について来るように指示し、クルッと高速で急ターンしてスリザリン陣地へと向かっていった。

「こいつ……今までと目つきが変わりやがった」

「何ぼさっとしてんねん、岳人。追いかけるで」

 急に動きが良くなった菊丸に、向日は愕然としていた。そんな向日を忍足が叱責して、二人は菊丸を追い始めた。

「英二先輩……」

「桃、僕たちは英二のサポートだよ」

「は、はい、不二先輩」

 菊丸の立ち直りは、不二と桃城にもいい影響を与えていた。菊丸を追って自陣へ戻っていく向日と忍足の足を、少しでも止めること。そのために、最速の箒も凌ぐようなスピードで、桃城と不二は飛び始めた。たとえ箒の性能が劣っていたとしても、乗り手の技術次第でカバーできるのだ、ということを二人は、いや菊丸も含めた3人は証明していた。

「桃は忍足を頼む。僕は向日を止めるよ」

「わかったっす」

「それから……そろそろ試合に参加させてあげないとね」

 不二はいつも細めている目を開けて、ボーっと飛び回っている芥川をチラリと見た。

「でも、その前にゴールは取らせてもらうよ」

 不敵な微笑を浮かべて呟いて、不二は向日に近づいていった。そして、菊丸にチャージをかけようとする向日の飛行コースを邪魔するように、ピタリとマークした。

 不二が向日をマークするのとほぼ同時に、桃城も忍足についていた。クアッフルを持っている菊丸に両側からチャージをかけて、シュートさせないようにしよう、という忍足の思惑を読んで先回りしたのである。

 チェイサーたちがスリザリン陣地へと攻め入っていた頃、グリフィンドール陣地では海堂が二つのブラッジャーを追って闇雲に飛び回っていた。

「海堂先輩、苦しそうだね……」

 それを見守っていたカツオが、心配そうに呟いた。

「宍戸さんと鳳さんが打ち返してくるブラジャーを一人で追い回していたんですから、無理もないですよ。ずいぶん無茶なことをする人ですね」

 リョーマを応援しに来ていたレイブンクローの剣太郎も心配そうな様子を見せた。

「一球入魂!」

 気合を入れた鳳のスカッドショットが、グリフィンドール陣地に向かって飛んでくる。が、海堂は相変わらず手が出せないでいるようだった。

「ああ、また……」

 カチローが悲痛な声を上げる中、大石と河村は落ち着いていた。

「ふしゅー」

 宍戸が打ってきたブラッジャーを、海堂が打ち返す。縦に放物線を描いて飛んでいくブラッジャーは、切れが悪くなっていた。

 それをさらに打ち返しながら、宍戸は不敵に笑った。

「激ダサだな、海堂。所詮この程度かよ」

 そして海堂が飛び回っているために、先ほどからブラッジャーには全く手を出していない乾に向かって、宍戸は言い放った。

「残念だったな、乾。海堂はもう、終わりだ」

 しかし言われた乾は全く動揺した様子を見せず、静かに海堂を振り返った。

「おい、海堂。お前、もう終わってるそうだが?」

「……データ、取れたんすか?」

「ああ、バッチリな。ご苦労さん」

「………」

 確認するように問いかけてきた海堂に、乾は少しだけ微笑って、得意げに眼鏡をずり上げた。

「やっぱ、やーな先輩」

 上空で旋回しながら事の成り行きを見ていたリョーマは、思わずボソッと呟いていた。リョーマは、海堂が一人で飛び回っていた本当の理由に気づいていたのである。大石、河村と同様に。

「気づいたかい、タカさん?」

「ああ、大石もかい?」

「まぁな。乾のヤツ、さっきからずっとブツブツ言ってたからな」

 苦笑する大石の前で、宍戸が打ってきたコースに回りこんで、乾がブラッジャーを打ち返していた。

「ストレートの確率、100%」

 乾が打ったブラッジャーは猛スピードでスリザリンゴールの上をかすめ、戻ってくる時には桃城と凌ぎあっている忍足を狙っていた。

「な、なんやねん、今の……。――まさか!?」

「あのバカどもが。乾の策にハマってんじゃねぇよ」

 かろうじてブラッジャーを避ける忍足を見ながら、跡部が毒づいていた。

「一球…入魂っ!」

 鳳渾身の一球にも、乾は反応していた。

「クロスに打ってくる確率87%」

 今まで一度も返せなかった鳳のスカッドショットを、乾は風を切るように移動して難なく打ち返したのである。

「出たね、乾のデータクィディッチ」

「ああ」

 観客席で、河村と大石が呟いていた。そして、ハグリッドも感心したように頷いていた。

「青学の頭脳、健在ってとこか。相変わらず嫌なビーターだなぁ、奴さんは」

 乾が自分で動いたり、海堂に指示を出したりしながらブラッジャーのコースを自在に操っていくのを見て、ようやく観客たちも気がついた。

「まさか、海堂さんが一人で飛び回っていたのって……」

「ああ、そうすることで乾にデータを取らせていたんだよ」

「じゃぁ、海堂先輩はわざとキレた振りをしてた、ってことっすか?」

「そういうことだね」

 大石は、剣太郎と堀尾に頷いてみせた。

「宍戸さん……」

「まったく、なんてヤツだ。相変わらず嫌なヤローだぜ」

「俺たち、何も知らずにデータを取らせてたってことっすね。でも、こんな短時間であんなデータを収集できるなんて……」

 動揺する宍戸と鳳は、防戦一方になっていた。

「グリフィンドールが盛り返してきたみたいだねぇ。でも、樺地君からゴールを奪えるのかな?」

 緊迫した試合を一気に和ませるような呑気な千石の実況が響く中、菊丸はついに樺地と一騎打ち状態になっていた。フェイントをかけて樺地を左右に揺さぶってみるものの、巨体に見合わぬ素早さで樺地が反応してくるのである。

「もう、しつっこいにゃぁ」

 不二と桃城は、向日と忍足に菊丸の邪魔をさせないように、とかかりきりになっている。菊丸は自分一人で何とかするしかない、と思っていた。その時である。

「い゛い゛ーーっ!」

 海堂が打ったブラッジャーが大きく横にカーブする放物線を描き、樺地に当るか当らないかのギリギリの位置を掠めていった。

「出た、海堂先輩のブーメランスネイクッ!」

 グリフィンドールの1年生男子3人組みが声を揃えて叫ぶ中。

「ほいほいっとね」

 樺地の注意が菊丸から逸れた一瞬を、菊丸は見逃さなかった。菊丸が投げたクアッフルが、樺地が動いたのとは逆の、右側のゴールへと吸い込まれていった。

「おや、やっと試合が動いたみたいだね。グリフィンドールが10点先取だ」

 グリフィンドールのゴールで興奮する歓声の中、やはりのんびりした千石の実況が響いていた。






・・・あれ、ここまで?
と思われた読者各位さま。
大変申し訳ないのですが、今回は次章へ続くのでございます。
氷帝相手に盛り返し始めた青学が、この先どうなるのか、次週に乞うご期待!ということで。

この章では、できるだけ原作の青学vs氷帝戦で出てきたセリフや技を入れよう!
ということで、オンパレード状態になってます(笑)。
でも、まだ必殺技を出していない人がいるんですけどね。
まだ寝てる人もいますし(苦笑)。
その辺りも、次章でフォローしてる(はず;)なので、お楽しみに(^^)。





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