ハリー・ポッター
de
テニプリ
Chapter:12   対戦 レイブンクロー

 グリフィンドールが初戦をハッフルパフと戦い、見事勝利した翌週。

 競技場で戦ったレイブンクローとスリザリンは、スリザリン勝利に終わった。最新型であるニンバス2003を全員が装備したスリザリンと、旧型の箒で試合に臨んでいるレイブンクローとの差は歴然としていた。

 実況と解説を任されたから、と試合を見に行った大石と乾は、戻ってくるや否や部長の手塚に練習メニューの強化を要請した。そして許可を得てからというもの、乾は嬉々として練習メニューを作り、チームの面々は野菜汁の恐怖に脅えることになった。

 スリザリンに勝たなければ、寮対抗杯を取り戻すことはできない。負けず嫌いな面々は、軽い気持ちで文句を言いながらも、乾の厳しいしごきに耐えていた。

 そして迎えた土曜日。試合前に乾が悪い知らせを持ってきた。

「俺が手に入れた情報によれば、今日の審判はスネイプ先生らしい」

「何だって?」

「それはマズイな」

 控え室で、菊丸と大石が顔色を変えた。

「何がマズイんすか?」

 今シーズンからチームに加わったリョーマは、思わず尋ねていた。スネイプの性格の悪さはすでに百も承知だが、それが試合にどう影響するのかまでは、考えつかなかったのだ。

「スネイプ先生は、グリフィンドールを嫌っているからな。スキあらばグリフィンドールから減点しようと狙ってくるんだ」

 告げる乾の口調は、あくまでも冷静だった。

「やっぱ、アイツ性格悪いぜ」

「まったくだ。全然フェアじゃねぇ」

 いつも顔を見ればケンカをする桃城と海堂も、この時ばかりは意見が一致していた。

「とにかく、審判が誰であれ、俺たちはフェアプレーを心がけることだ。スネイプ先生に、つけ込む口実を与えないようにな」

「手塚の言う通りだ。特に、桃城と菊丸。お前たちのプレーは、時として反則スレスレになることがあるからな。慎重に頼む」

 全体の空気を引き締める手塚の言葉に、乾が付け加えた。そして、乾はリョーマの肩に手を置いて話しかけてきた。

「越前。君にプレッシャーをかけるつもりはないんだが、この試合はとにかく早くスニッチを捕まえてくれ。スネイプ先生に、レイブンクローをひいきする余裕を与えずに、試合を終わらせるんだ。いいね」

 真剣な乾の口調と表情に、リョーマは神妙に頷いた。

「わかったっす」

「よし、みんな、油断せずにいこう」

 手塚が決まり文句を言うと、桃城が声を張り上げた。

「せいがくぅー、ファイオーッ!」

 グリフィンドールの控え室に、大きな声が響き渡った。

 気合を入れて控え室を出ると、ちょうどレイブンクローの選手たちと鉢合わせした。つい先だって、リョーマが廊下ですれ違った観月や柳沢、そして不二の弟裕太がいた。

 青の競技用ローブに身を包んだ観月が、不二を見つけてさっそく声をかけようと近寄ってきた。

「おや、不二君。制服のままとはどうしたんです?」

「……観月、お前、全然相手にされてないだーねー」

 が、不二は相変わらず聞こえない様子で、というより裕太しか目に入っていない様子で、裕太に歩み寄っていた。

「兄貴、今日は試合出ねぇつもりかよ」

「うん。桃と英二と大石のコンビネーションを試してみたいって、乾がね。裕太と対戦したかったんだけど、また今度だ」

「……逃げたわけじゃねぇんだな」

「ヒドイな、裕太。僕がそんなことするわけないだろ?」

 言いながら、不二は自分より少し背の高い弟の頭を撫でた。が、裕太は逃げるように後退さった。

「と、とにかく。今日も、次に兄貴と対戦する時も、俺は負けねぇからな」

「そうだね、頑張って」

 喚くように言い残した裕太に、不二はニッコリ笑いかけた。が、その後姿を見送りながら、目を開いて小さく呟いた。

「でも、うちのシーカーもなかなかやるからね。気をつけたほうがいいよ、裕太」

 そんな不二の独り言を聞き逃さなかった人間がいた。

「そういうことは、ちゃんと面と向かって言ってやったほうがいいんじゃないの、不二?」

 振り返ると、不二より少し濃い色の髪で、整った顔立ちの男子生徒がいた。その顔を見て、不二が笑顔を深くした。

「佐伯」

「残念だな、今日は控えなんだ、不二ってば」

「うん。でも、次に対戦する時には出てると思うよ」

「そっか。じゃ、お楽しみは次の機会に、ってことだね」

「そういうこと。佐伯も、試合がんばって。裕太のこと、よろしくね」

「はいはい」

 不二は佐伯と軽く会話をして、乾を促した。

「乾、観客席に行こうか」

「ああ。……不二って、佐伯とあんなに仲良かったっけ?」

「うん。幼なじみだよ」

「じゃぁ、佐伯もマグル出身ってことか」

「そういうことだね。珍しいだろう? マグル生まれで近所同士で、魔法使いだなんて」

「……マグル生まれで兄弟揃って魔法使い、っていうだけでもかなり珍しいけどね。そういうところも、さすが不二ってところかな」

「からかわないでよ、乾」

 試合に出ない不二と乾が観客席に着いてみると、そこには横断幕を掲げ、応援グッズを持った1年生達がいた。

 横断幕には、大きな字で『ガンバレ リョーマ様』とハートマーク入りで書かれていた。それだけでなく、リョーマファンを自認する小坂田朋香と、友人の竜崎桜乃は揃いの応援用コスチュームに身を包んでいた。

 そして、いつもリョーマと一緒にいる1年生男子3人組も、頭にハチマキを巻いて、手には布を細かく裂いて丸くした応援グッズを持っている。その横に、もう二人。見慣れない生徒がいた。

「あれ、君は確か……」

 乾が口を開こうとする前に、彼は自己紹介をした。

「ハッフルパフ1年の、壇太一です。よろしくです」

 見れば、胸元にはハッフルパフの象徴である熊をモチーフにしたエンブレムが縫いつけられていた。リョーマとあまり変わらないくらい背が低く、少女のような顔をした太一は、乾と不二にペコリと頭を下げた。

 そしてもう一人は、大きな声でやたら元気に頭を下げた。

「グリフィンドールの乾さんと、不二さんですね? お二人の凄さ、レイブンクローでもかなり噂になってるんですよ」

「ああ、どうも。君は確か、レイブンクローの新入生だったね?」

「覚えて下さってるんですか? うわぁ、感激だなぁ。僕、葵剣太郎です。よろしくお願いします」

 剣太郎は元気で大声で、その上おしゃべり好きなようだった。

「乾の頭の中には、ホグワーツにいる全校生徒のデータが入っているからね」

「そうなんですかぁ。すごいですね、さすが乾さん」

 ニッコリ笑って剣太郎に教えた不二に、剣太郎は笑顔全開で答えていた。裏表のなさそうな顔だった。

「それで、これは何なの?」

「リョーマ様ファンクラブ公認の応援グッズです、不二先輩」

 不二は人好きのする笑顔で朋香に尋ねていた。すると、朋香はよくぞ聞いてくれました、といった表情で答えた。

「リョーマ様ファンクラブ?」

「そう。私たち、リョーマ様のファンクラブを作ったんです。会長が私で、副会長が桜乃。で、堀尾も加藤君も水野君も、この壇君も葵君も、みぃんな会員なの」

「へぇ、そうなんだ。楽しそうだね」

 不二が微笑を深くして朋香に答えたところで、両チームの選手たちが競技場へ飛び出してきた。全員が決められたポジションにつくと、実況の声が競技場に響いた。

「ふん、全員出てきやがったな。じゃ、グリフィンドールとレイブンクローの1回戦を始めるぜ。今日の実況は俺様、スリザリン5年の跡部景吾だ。俺様の実況に、酔いな」

「きゃぁーーっ! 跡部さまぁっ!」

 実況席には、跡部が座っていた。どういう演出なのか、最後のセリフにはエコーがかかっており、言い切るとほぼ同時に女子生徒たちから黄色い歓声が飛んだ。

 跡部の左隣には、いつものように樺地がぬぼーっと座っている。そして、跡部の右隣ではクルクル頭の男子生徒が居眠りをしていた。

「解説はこいつら。スリザリン4年の樺地祟弘と3年の芥川慈郎だ。っておい、ジロー。お前今から寝てんじゃねぇぞ」

「んぁ? 何、試合終わったの?」

「バカが。これから始まるんだよ」

 いずれにせよ、役に立ちそうにない解説者のようだった。

「去年かろうじて2位だったグリフィンドールと、先週無様にも俺様に敗れたレイブンクロー。ま、どんな試合をしようが、最後に勝つのは俺たち氷帝だ。なぁ、樺地」

「……うす」

 やはり、解説2名はただ座っているだけのようだった。

「では、スネイプ先生、お願いします」

「正々堂々と戦いたまえ」

 決まり文句を言って、スネイプは箱からスニッチとブラッジャー2個を解放し、クアッフルを上空へ投げ上げた。

 正々堂々と……と言いながらも、決して公平ではないスネイプは、レイブンクローの選手が取りやすい位置にクアッフルを投げていた。案の定、クアッフルはレイブンクローの佐伯にキャッチされてしまった。

 佐伯はクアッフルを抱えて、猛スピードでグリフィンドール陣地へと攻め込んできた。大石も桃城も、佐伯を追ったものの振り切られ、かろうじて菊丸だけがついていく。

 が、その菊丸も佐伯を止めるまではいかず、佐伯は同じチェイサーである観月や柳沢の力も借りず、一人でゴールへと迫っていた。

「まず、10点」

 呟いて佐伯は右側のゴールへシュートした。が、それは手塚が箒で弾き飛ばした。

「ナイス、手塚」

 手塚が弾き飛ばしたクアッフルは、佐伯のすぐ後ろに詰めていた菊丸がキャッチする。そのままレイブンクロー陣地へ攻め込もうとダッシュするのを、佐伯が追いかけてきた。

「菊丸。俺は抜かせないよ」

 かくして、スピードを誇る菊丸と佐伯の一騎打ちが始まっていた。

 そこから少し離れた場所では、菊丸をサポートしようとする大石、桃城と、邪魔をしようとする観月、柳沢の攻防が始まっていた。

「んふっ。桃城君、丸見えですよ、君の動き」

「なかなかしぶといだーねー。でも、こういう試合、大好きだーねー」

 抜きつ抜かれつしながら、チェイサーたちはレイブンクロー陣地へとなだれ込んでいった。そこへ、木更津亮が打ったブラッジャーが、桃城目がけて飛んできた。といっても、わざと狙ったわけではなく、たまたま打ったコースに運悪く桃城が居合わせてしまったのである。

「っと、危ねぇなぁ、危ねぇよぉ」

「おおっと、危ないだーねー!」

 間一髪でブラッジャーの直撃を避けた桃城は、弾みで柳沢にぶつかりそうになってしまった。

 その時、スネイプが意地悪そうな顔をしていたのを、観客席にいた乾と不二は見逃さなかった。

「ヤバイね、桃」

「ああ。スネイプに反則を取らせる口実を与えたな」

 乾の分析どおり、スネイプは特に反則というわけでもない桃城の行為を無理やり反則にし、レイブンクローにペナルティ・シュートを与えた。

「けっ、情けねぇ。手塚ぁ、腕なまったんじゃねぇのか?」

 手塚が動いた方向と逆サイドの輪に佐伯がゴールし、レイブンクローが10点先取した。そこへ、すかさず実況席の跡部から野次が飛んだ。

「お前なら、あれくらい止められるよなぁ、樺地?」

「うす」

 そして相変わらず、樺地に同意を求めていた。

「ふーん、なるほどね。そーゆーコト」

 事の成り行きを、グラウンドの隅の方で傍観し、けれどスニッチを探すことは忘れていなかったリョーマは、乾が試合を早く終わらせろ、と指示した理由を納得していた。

 幸い、相手チームのシーカー不二裕太は離れた場所にいる。邪魔されないうちに見つけておこう、とリョーマは鷹のようにグルグルと高い所を旋回し始めた。

 その下では、再び大石と桃城がレイブンクロー陣地に攻め入っていた。菊丸と佐伯は、相変わらず一騎打ちを続けていた。

「にゃ〜、もうしぶといにゃぁ〜」

「だから、抜かせないって言ったでしょ」

「ふふふ。苦労しているようですね、菊丸君。佐伯君は、君と同じくらいいいんですよ、動体視力」

 競り合っている菊丸の後ろに、何気なく観月がやってきて、勝ち誇ったように言い放った。その間に、桃城と大石は絶妙のコンビネーションを見せ、いよいよゴールを奪おうかといった所まで来ていた。

「ドーン!」

 が、桃城の放ったシュートは色黒のキーパー赤澤に跳ね返されてしまった。そこに、佐伯を振り切った菊丸が絶好のタイミングで飛び込んでいたのだが……。

「あれ?」

「珍しいな、英二がキャッチし損なうなんて」

 菊丸はそれを取り逃してしまった。

「任せろ、英二」

 菊丸を追ってきた佐伯を出し抜いて、大石がクアッフルをキャッチする。そしてシュートしたが、これもまた赤澤に箒で叩き返されてしまった。そのボールも菊丸の正面へ飛んだが、またも菊丸は取り逃してしまった。

「あーん? どうした、菊丸よぉ。あんなボール、キャッチできねぇのか?」

 そこに再び、実況席の跡部から野次が飛ぶ。

「おかしいな、英二」

 心配そうな不二の視線の先で、菊丸はこしこしと目を擦っていた。

「どうしたんすかね、菊丸先輩」

「うん。あんなボール、普通なら取れるはずなのに……」

「もしかして……」

 1年生たちが口々に呟く中、乾がノートを指で軽く叩いてボソッと言い出した。

「赤澤はボールを箒で叩く時に、毛の先の方で叩く妙なクセがある。そのせいで、あのクアッフルには無数の微妙なブレが生じているのかもしれない。常人には判別できないほどの」

「それってつまり、英二は動体視力がいいから、見分けられるってこと?」

「そういうことだね。能力の高さが、仇になっているというわけだ。恐らく、英二は無意識のうちに全てのクアッフルを追ってしまうんだろう」

「それで、菊丸さんはクアッフルを取り損なってしまったんですね」

「ああ」

 納得したような剣太郎に、乾は小さく頷いた。そして、ふっと時計を見る。

「試合開始から3分か。審判が敵に回っている上に、あの赤澤の厄介なクセ。そして佐伯の動体視力とスピード。あまり長引かせたくないな」

「だね」

 誰に聞かせるともなく呟いた乾の言葉に、不二も同意した。

 その間に、またもスネイプは理由もなくレイブンクローにペナルティ・シュートを与え、今度は観月がゴールを奪っていた。

「なんだ、青学もたいしたことねぇな。なぁ、樺地?」

「うす」

 実況席の跡部から呆れたような野次が飛ぶ中、菊丸と、その彼をスピードでフォローする桃城が弾丸のようにレイブンクロー陣地へと突っ込んでいった。

「菊丸、お前の敏捷さには感心するぜ。だが……何っ!?」

「へへへのかっぱ」

 もう一度シュートを箒で打ち返し、菊丸の手元を狂わせようとした赤澤の狙いは、見事に外れてしまった。

「残念だったな、赤澤。チェイサーは3人いるんだ!」

 桃城の後ろから、目立たないようについてきていた大石が飛び出し、シュートすると見せかけて菊丸がパスを出したクアッフルを箒で叩いた。

「どこ狙ってるだーねー」

「あっ、上がりすぎだ、シュートミスですよ、あれ」

 グラウンド上で柳沢が野次を飛ばすのと、客席で剣太郎が呟くのがほぼ同時だった。

 が、不二と乾と菊丸は不敵な微笑を浮かべていた。

「よく見ておくといいよ。あれが、大石の十八番。ムーンボレーシュートだ」

 不二がそう言った時、大石が打ち上げたボールが急降下し、右側のゴールに吸い込まれた。

「グリフィンドールがやっとゴールで20−10かよ。お前ら、腕なまったんじゃねぇのか? ま、こんな調子じゃ、今年もクィディッチ杯は俺たち氷帝のものだな、樺地」

「うす」

 跡部の実況は競技場中に響いていたが、グリフィンドールの観客席一帯では全く聞いていなかった。

「い、今のは……」

「打ち上げたと思ったボールが急に落ちたけど……」

「ム、ムーンボレーシュートって……」

「やっこさん、なかなかやるじゃねぇか」

 絶句する堀尾やカチローにカツオ、感心するハグリッドに解説したのは、やはり乾だった。

「キーパーの死角に、針の穴を通すコントロールで落とす、大石の十八番だ。箒の柄で、クアッフルの上の方を滑らせるようにして叩き、回転をかけられたクアッフルは一度アウトかと思えるほどに上昇し、ゴール目前で急降下する」

 説明しながらも、乾の目は眼前で繰り広げられる試合展開に向けられていた。

「大石先輩って、地味だけどすごかったんですね」

「大石は視野も広いし、ここぞという時にはあのシュートで相手ゴールを抉る。副部長に相応しい男だよ」

 朋香のけなしているのか、誉めているのかわかりにくい言葉に、不二はニッコリと微笑んでそう言っていた。

 一方、グラウンドでは旋回していた両チームのシーカー同士が遭遇していた。

 お前には負けない、とばかりにリョーマを睨みつけてくる裕太に、リョーマはニヤリと不敵に口の端を上げた。

「あんた、不二先輩の弟だったよね」

「!?」

 リョーマの明らかな挑発に、裕太は顔色を変えていた。

「不二先輩って箒操るのも上手いけど、どっちが上手いのかな。あー楽しみ、楽しみ」

「……わざとだな」

「だね。やるじゃない、越前。裕太を挑発するなんて」

 越前の棒読みセリフは、客席にいる不二と乾の耳にも届いていた。

 挑発された裕太は、まんまとリョーマの作戦にひっかかっていた。

「お、俺を兄貴と比べるんじゃねぇ!」

 頭に血が上った裕太は、リョーマとは別の方向へと飛んで行った。その時である。

「越前君!」

 太一が絶叫する中、リョーマは突然ものすごい急降下を始めた。その素晴らしさに観衆は一瞬息を呑み、次の瞬間には大歓声を上げていた。

「行っけぇ、リョーマ様ぁっ!」

 朋香はすっかり興奮して、椅子の上に飛び乗って声を張り上げた。リョーマはスネイプの方へ猛スピードで突進していく。

 空中では、スネイプがふと箒の向きを変えたとたん、耳元を紅の閃光がかすめていった。ほんの数センチの間だった。

 次の瞬間、リョーマは急降下を止め、左手を上げた。その手には、スニッチが握られていた。

 スタンドがドッと沸いた。

「やったぁっ! すごいすごい、リョーマ様っ!」

「リョ、リョーマ君……」

「やったぜ、リョーマ! すげぇじゃねぇか。あいつの親父さんよりすげぇぞ!」

 朋香はさらに興奮したように絶叫し、桜乃も頬を高潮させ、ハグリッドは喜びを爆発させていた。

「なるほどね。それでわざと裕太を挑発したってわけか。やるじゃない、越前」

「まったくだ。試合の最短記録をさらに更新してくれるとはな」

 乾の時計の針は、試合開始から5分弱の場所を示していた。

「なんだ、もう試合終了かよ。レイブンクローもたいしたことねぇな」

 実況席では、跡部が本当につまらない、といった顔をしていた。今度は樺地に同意を求めることはなく、代わりに慈郎の頭を小突いた。

「おい、ジロー、起きろ。試合が終わった。帰るぜ」

 が、よほどガンコに熟睡しているのか、慈郎は起きる気配を見せなかった。

「おい、起こしてやれ、樺地」

「うす」

 頷いた樺地は、のっそりと立ち上がって跡部の後ろから慈郎の背後へと回り込み、襟元をむんずと掴んで椅子から吊り上げた。

「んあ? あ!? のわぁっ! なんだ、なんだっ!?」

 さすがの慈郎も、突然椅子から吊り上げられて目を覚ました。樺地に襟元を掴まれたまま、空中で手足をバタバタさせた。

「もういい、樺地」

「うす」

「ほら、帰るぞ」

「んあ〜」

 まだ頭がはっきりしない様子の慈郎を連れて、跡部は樺地を従えて実況席を後にした。

「手塚。次の試合で俺様の前に屈するがいい。覚悟しておけ」

 が、その前に再びマイクを握って宣戦布告することも忘れなかった。

 越前を囲むようにしてグラウンドに降り立っていた手塚は、わずかに眉をひそめて跡部を睨み上げていた。

 昨年度の覇者、最強の称号を持つスリザリンとの対決は、次週に迫っていた。

「来週のスリザリンは、今までの相手とは比べ物にならないほど強い。試合の最短記録更新に浮かれている場合ではないぞ」

 手塚の厳しい言葉に、メンバー全員が頷いていた。





というわけで、聖ルドルフ&六角中の登場でございます。
でもって、実況であの方が再び登場でございます(笑)。
最初は、実況を鳳&宍戸にしようと思ったんですが、忍足でもいいかなぁ、とも思ったのですが、
やはりあの方のインパクトに敵う人はいませんから(苦笑)。

さあ、次はいよいよ氷帝との決戦です!
と言いたいところですが、何やら事件が起きている模様。
事件は会議室ではなく、現場で起きているということで、次回は事件現場からお送りします(笑)。





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