クィディッチ初戦を勝利で飾っても、青学チームの面々には浮かれている余裕はなかった。

 勝ったその夜は、チーム以外のグリフィンドール生が大騒ぎするのに紛れて、青学チームのメンバーたちも大盛り上がりだったのだが、翌日からは手塚の意向もあって、メンバーたちは気を引き締めた。

 もとより、彼らには問題が山積みだったのだ。

 週3回のクィディッチ練習、乾が組んだ特訓メニュー、授業で山ほど出される宿題。

 そして、秘密の部屋が開かれた、という血文字の謎。

 ハロウィーンからはすでに1週間以上経過していたが、壁の血文字は消えることがなかった。フィルチがどれほど洗剤で壁をこすっても、血文字は出現した直後のように、ろうそくの光に照らされてぬらぬらと不気味に浮かび上がっていた。

「不二ぃ、そっちは何か見つかったにゃ?」

「いや、何もないよ、英二。英二は?」

「なぁんにもないにゃぁ〜。まったく、乾のヤツ、図書室にある文献片っ端から調べろ、なんて妙なこと言いやがって」

 そんな中、菊丸と不二、桃城とリョーマは学校の図書室で古い文献の山に埋もれていた。ハロウィーンの事件以来、図書室では『ホグワーツの歴史』が大人気である。1冊も残らず借りられてしまっていて、予約を入れてもひと月待ち、という状態が続いている。

 それでも、他にも何か秘密の部屋に関する文献があるかもしれないから、とグリフィンドールで最も発言力のある監督生3人が話し合った結果、関係がありそうな文献を全て調べることになったのである。

 もちろん、言い出した当人たちも、監督生であることを最大限利用して、閲覧禁止の棚からも本を借りて調べている。

 が、日頃あまり本を読まない菊丸にとっては、この指令は苦痛以外の何物でもなかった。

「確かに、もっと手っ取り早い方法ってないんすかね?」

 菊丸に同意したのは、やはりあまり本を読むのが好きではない桃城だ。実際、彼は杖を振ったり箒に乗ったり、という実戦的な面は強いのだが、学業の方はいまいち得意ではない。

「手っ取り早いって、例えば?」

 入学してまだ二月と少しで、得手不得手がそれほどはっきりしてないリョーマが、桃城に聞き返す。

「例えば……そうだなぁ、誰か、詳しそうな人に聞く、とか」

「詳しそうな人って?」

「うーん……」

 リョーマに続いて不二にも突っ込まれ、桃城は言葉に詰まってしまった。何気なく言い出してみたものの、それほど深く考えてはいなかったらしい。

「先生、はダメだから……スリザリンの血を引いている人とか」

「スリザリンって、確か千年以上前の人っすよね。そんなの、山ほどいるんじゃないすか?」

 考えた末に出てきた答えに、さすがのリョーマも少々呆れてしまった。千年以上も前の人の血を引く人など、末裔まで含めたらどれほどいるのか。辿っていこうにも、かなり無謀で膨大な作業になるのではないか、ということくらいリョーマにも理解できる。

「それもそうだね。サラザール・スリザリンはもう千年以上も前の人だし。その血筋を辿るのは、文献を調べる今の作業よりもっと大変だと思うよ」

 不二もリョーマの意見に賛成する中、菊丸が何か考えるような仕草をした。マグル出身の桃城や不二、そして魔法族でありながら魔法界を知らずに育ったリョーマと違い、彼は生粋の魔法使いで、家の歴史もそれなりに古い。

 そして、心当たりがある、と菊丸は言い出した。

「気はすすまないけどぉ、っていうか、話を聞きだすのは相当大変だと思うけどぉ。スリザリン寮に、知ってるんじゃないかなぁ、っていうヤツはいるにゃ」

「スリザリンに?」

「あそこはぁ、魔法族に生まれたヤツしかいないんだよね。それも、マグルとの混血も全然いなくて」

 魔法教育は純粋に魔法族に生まれた者にのみ与えられるべきである、という創設者スリザリンの思想をそのまま反映したように、スリザリン寮には純血の魔法族に生まれた生徒しかいない。

「でぇ、中でもいっちばん古いのが、今5年生にいるんだにゃ」

 言い出したものの、菊丸は言いづらそうに声を潜めて話した。

「5年生?」

「それってまさか、跡部?」

「……って、あの偉そーでナルシストな人?」

 桃城と不二とリョーマに代わる代わる言われ、菊丸はその全てに頷いた。

「越前を襲って消えたっていう、"例のあの人"はスリザリンの末裔だ、っていう話なんだよね。で、今回の血文字に書かれてた"継承者"っていうのはぁ、スリザリンの継承者って意味でしょ? 跡部の家は、スリザリンの血も入ってて、魔法界でもかなり古い家で、おまけに全員スリザリン出身で、あいつの父親は"例のあの人"がいた頃は腹心の部下だったんだにゃ。……あの人が消えてから、真っ先に戻ってきたけど」

 菊丸の話を聞いて、桃城はどちらにしてもいけ好かねぇ、と呟いた。もともとスリザリンとグリフィンドールは伝統的に仲が悪い。現に、今でも学年首席を分け合っているグリフィンドールの手塚と、スリザリンの跡部は互いに反目しあっていた。……といっても、傍目から見れば、跡部が一方的に手塚を意識していて、手塚は我関せずといった様子を見せているのだが。

「ってことは、跡部は何か知ってるかもしれないってことだね」

「うん。知っててもおかしくないと思う」

 不二の言葉に頷く菊丸の横で、桃城とリョーマはヒソヒソと言い合った。

「でも、あの人って、まともに聞いても絶対答えてくれないっすよね」

「……か、もったいぶって交換条件突きつけてくるか、のどっちかっすね」

 あまり好いていないとはいえ、酷い言い方である。

「でも、問題はどうやって聞き出すか、だよね」

「スリザリンに入り込むとか、ダメっすかね?」

「でもぉ、桃、合言葉知ってるかにゃ?」

「う……知らないっす」

 それぞれの寮に入るには、合言葉が必要だ。その合言葉は、寮生しか知らない。

「それに、グリフィンドールの制服じゃ、スリザリンには入れないっすよね?」

 ホグワーツでは、寮ごとに制服も違う。上着のエンブレムには寮の紋章が、ネクタイは寮のシンボルカラーが使用されているためだ。

「うーん、それもそうか」

「それに、僕たちは顔も知られてるからね。制服変えても、すぐにバレちゃうよ?」

「不二先輩、魔法とか薬とか使って、スリザリンの誰かに変身するっていうこと、できないんすか?」

 リョーマの意見に、菊丸と不二と桃城が一斉にリョーマを見た。

「そっか、その手があるぜ」

「おチビ、たまにはいいこと言うじゃん」

「確か、変身薬っていうのがあったよね」

 口々に言い合って、意見は一致した。

「薬といえば、やっぱあの人っすか?」

「だね。確か、談話室で数占いのチャートとにらめっこしてたよ」

「っしゃ、じゃ、戻りましょう」

「この本、全部片付けていいっすよね」

 4人は積み上げた本を元の位置に戻して、一斉に図書室を出た。





 図書室から寮へ戻る途中、4人はレイブンクローの生徒とすれ違った。クセのある黒髪の、不二とあまり身長のかわらない生徒と。不二と同じ色の髪を角刈りにして、少し目つきの悪い生徒と。前髪を少し長めにして前に垂らし、唇が突き出ている生徒の3人だった。

 その中の、クセのある黒髪の生徒が前髪をかき上げながら、不二に話しかけてきた。

「やぁ、不二君じゃないですか。再来週の試合、楽しみにしていますよ」

 が、不二はまるっきりその声など聞こえていない、といった様子で角刈りの生徒に話しかけていた。

「やぁ、裕太。いよいよ、この週末はクィディッチデビュー戦だね。調子はどう?」

 無視されて悔しそうな顔をする黒髪の生徒が、なおも不二に話しかけようとしたが、これも無視された。

「なんなんすか、あの人?」

 その様子を見て、リョーマはこっそり菊丸に尋ねた。

「ああ、同学年の観月はじめだにゃ。どーも、入学してからやたらと不二に絡むんだよね、あいつ」

「そうなんすか?」

「うん。でも、観月が一方的に絡んでるだけで、不二はぜーんぜん気にしてないっていうか、むしろわざと無視して楽しんでるっていうかぁ……。」

「あんまり好かれてないんすね、あの人」

「そーみたい」

 無視されて悔しがる観月を、唇が突き出た生徒、柳沢慎也がなだめていた。が、そんなことも不二の視界には入っていない様子だった。

「代表選手に選ばれて、それもシーカーだなんて、すごいじゃない。姉さんも喜んでたよ」

「そ、そうなのか」

 笑顔全開の不二に話しかけられて、角刈りの生徒は戸惑ったように答えていた。

「で、あの人は? なんか、不二先輩があんなに笑顔全開なのって、初めて見たんすけど」

「ああ、あの子はぁ、不二の弟で裕太君だにゃ。桃は知ってるよね?」

「はい。同じ学年で、魔法薬学とか呪文学とか、よく一緒になるんで。でも、兄弟ってわりには、あんまり似てないっすよねぇ、不二先輩と不二裕太って」

 言いながら、桃城は苦笑した。確かに、見た目にも二人はあまり兄弟には見えない。もとより、不二より裕太の方が身長が高い上に、顔つきも全く違っている。

「でも、なんで弟なのにレイブンクローなんすか、あの人?」

「うーん、それはフクザツな事情ってのがあるんだにゃ」

「フクザツな事情?」

 思わずおうむ返しにしたリョーマに、桃城が耳打ちした。

「不二先輩って、入学してすぐにすんげぇ天才だ、って有名になっちまったからな。一緒の寮に入って、比べられるのがイヤだったんじゃねぇのか。ってのが、もっぱらのウワサなんだよ」

 実際に、入学の宴で行われた組分けで、裕太は組分け帽に言ったらしい。

『俺は、兄貴と同じグリフィンドールには絶対に行きたくない。他の所にしてくれ』

 と。それを聞いた不二は、一見平然としていたが、菊丸に言わせれば少し寂しそうだったという。

「でも、裕太君見かけたら、ああやって構ってるんだけどにゃ」

 苦笑する菊丸に、リョーマはふーん、と頷いた。レイブンクローといえば、再来週に対戦する相手だ。不二の言葉では、裕太はシーカーだと言っていたから……。

(なるほどね、弟君との対決になるんだ)

 不二は、天才と言われるだけのことはあって、箒を操るのも魔法をかけるのも、クィディッチのプレーも隙がなくて上手い。

 その弟がどれほどのプレーをするのか、リョーマはちょっと楽しみかも、と思っていた。

「来週の試合、相手はスリザリンだったね。僕も応援に行くから、頑張って」

「あ、ああ」

 不二は、もともと細い目をさらに細めて言った。

「スリザリンの、氷帝のシーカー跡部はかなり手強いし、結構悪どい手も使ってくるから、気をつけて」

「俺様が何だって?」

 不二が弟の裕太を勇気づけようと言った言葉に、突然後ろから乱入した男がいた。当の、スリザリンのシーカーにして監督生の跡部景吾である。後ろには、入学日のホグワーツ特急で会った時のように樺地が付き従っていた。

「噂をすれば、だね」

 が、剣呑な跡部の雰囲気を全く意に介することもなく、不二はニッコリと振り向いた。

「不二、お前が心配しなくても、ルドルフなんざ俺様が叩きのめしてやるぜ。なぁ、樺地」

「うす」

 不二に話しかけておきながら、跡部は後ろにつき従っている樺地に同意を求めた。そして樺地も、すかさず頷き返した。

「さて、試合が始まってもその強がりが続くかどうか、楽しみですね、跡部君。氷帝のデータは揃えさせてもらいましたよ」

 それに食ってかかったのは、観月だった。が、跡部は観月を見下したような顔をして、言い放った。

「去年俺様に5勝したからって、いい気になってんじゃねぇよ、あーん?」

 もともと低い声が更に低くなり、観月の神経を逆なでするのに絶妙な響きを帯びていた。

「"穢れた血"をシーカーにするようなチームになんざ、この俺様が負けるわけねぇだろ。なぁ、樺地?」

「うす」

 相変わらず、跡部は樺地に同意を求めた。そしてすかさず樺地が頷き返す。

 が、跡部の言葉に、菊丸と桃城が怒りの表情を露にしていた。菊丸と桃城だけではない。観月と柳沢と裕太も同様である。

「跡部、そういう言い方は!」

「そうですよ、今の言葉は取り消すべきです」

 菊丸と観月が同時に言ったが、跡部は何食わぬ顔で、むしろ嘲るように続けた。

「"穢れた血"を"穢れた血"と言って何が悪い? 言われたのが悔しいなら、試合で俺様に勝ってみることだな。もっとも、俺様に勝つにはお前らじゃ役者不足ってとこだろうがな」

 そして、これ以上話をするのも無駄だと言わんばかりに、跡部は樺地を促した。

「行くぞ、樺地」

「うす」

 樺地は無表情のまま頷いて、跡部について去っていった。

 その後姿を見送って、リョーマたち4人も裕太たちに別れを告げて、寮へと戻って行った。





「……で、俺に変身薬を作れ、と?」

 図書室から戻った4人は、数占いの宿題を終えて自室に戻っていた乾を訪ねていた。

 薬草学と魔法薬学には死角なし、という乾は、監督生にだけ与えられている個室にもいろいろな植物や薬品を持ち込んでいた。

 部屋の本棚には薬の調合法や植物の育て方の本が隙間なく並んでいて、部屋のあちこちに妙な色の葉をつけたり、奇怪な形をしたりしている植物が置かれていた。それに加えて、薬の調合に使うという、動植物の干物や動物の薬品漬けが入った瓶もズラリと並んでいた。

「そう。スリザリンには跡部がいるじゃん? あいつの父親って、"死喰い人"の一人だったじゃない?」

 "死喰い人"というのは、例のあの人、つまりヴォルデモートに忠誠を誓い、重用された腹心の部下のことだ。跡部の父親は、ヴォルデモートの右腕とまで言われた人物だった。もっとも、そのヴォルデモートが越前によって消滅した後は、いち早く戻ってきて魔法省の重役に納まっているが。

「だから、跡部も何か聞いてないかなぁ、と思って」

「跡部が後を引いている、と英二は考えているのかい?」

「そういうワケじゃないけどぉ……。ちょうどおチビが入学してきたこともあるし、何か企んでても不思議じゃないなぁ、とは思ってる」

「……確かにな。あれからもう10年以上も経ってる。例のあの人の復活を狙って、越前に危害を加えることを企んでも、不思議じゃないな」

 実際、先日のハッフルパフとの初戦では、リョーマの乗る箒に魔法がかけられて、あやうくリョーマは怪我をするところだった。

「不動山戦でおチビの箒に魔法かけたの、スネイプだったんだよね?」

「実際に手を下したのがスネイプかどうかはわからないが、何か呪文を唱えていたのは確かだったな」

「スネイプも、今はダンブルドア校長についてるけど、その前は"死喰い人"だったって聞いた」

「……そうだな」

 菊丸は、父と兄が魔法省に勤めていることもあって、それなりに事情には明るい。そして乾も、父親が日刊預言者新聞の記者で、当時の状況もよく知っていた。

「まさか、跡部がスリザリンの継承者ってこと、ないっすよね?」

 横で菊丸と乾の話を聞いていた桃城が、おもむろに口を開いた。何を言い出すんだ、という顔をする菊丸に対して、乾は何か考えるような顔をした。

「確かに、跡部家はスリザリンの分家の中でも、今一番力を持っている家だ。その可能性がゼロだとは、言い切れない」

「それに、さっき跡部のヤツ、不二と弟君に向かって"穢れた血"って言いやがったんだ」

「なんだって?」

 菊丸の発言に、乾が眉をひそめた。確かに、その言葉を聞いた時、リョーマ以外の生徒は皆跡部に向かって怒りの表情を見せた。

 リョーマにはその意味がわからなかったが、乾はわかるらしい。

「仕方ないな、跡部のヤツ。そういう事は、口に出して言うべきじゃないんだけど」

 乾はため息をついて、眼鏡をずり上げた。

「乾先輩、その"穢れた血"って、何なのか訊いてもいいっすか?」

 尋ねてみると、乾は今気がついた、といった表情をした。

「そうか、越前は知らないんだったな。魔法使いの中には、純粋に魔法族同士で婚姻を結んで、血統をつないできたことを最も尊いと考える連中がいるんだ。そういう連中から見れば、マグルとの混血は卑しいことで、マグル出身者なんてもっての他、と考えてしまうんだ」

 そして、跡部もその一人、というわけである。

「そういう、自分が純血であることを鼻にかけて、マグルの両親から生まれた魔法使いを侮辱して言う最悪の言葉が"穢れた血"なんだ」

「それで、さっき英二先輩たちが怒ったんすね」

「ああ。まともな教養を身につけている人間なら、まず口にしない言葉だな」

 跡部の言葉は不二兄弟だけを侮辱したものではなかった。同じく、マグルの両親を持つ桃城をも侮辱したものだったのだ。

(やっぱり、あの人キライかも、俺)

 リョーマは改めて思っていた。そして、次にスリザリンと当る時は必ず勝ってやる、と心に決めていた。

「跡部は口が悪い。その上、いつも樺地を連れて歩いているからな。まともに近づくのは、かなり難しい」

「だから、確かめてみる価値はあるんじゃない、乾?」

 不二に促されて、乾はついに首を縦に振った。

「校則を53個破ることになるんだが……、いいだろう。変身するにはポリジュース薬を使うんだが、作り方は……」

 ブツブツ言いながら、乾は本棚に向かった。そして本棚から1冊の本を取り出した。その本のタイトルは『最も強力な魔法薬』。中にはかなりヤバそうな物もありそうだ、と菊丸が呟いたが乾の耳には届かなかった。

「あった、これだ。材料は、クサカゲロウ、ヒル、満月草、ニワヤナギ、二角獣の角の粉末、毒ツルヘビの皮の千切りと変身したい相手の一部だ。クサカゲロウとヒルとニワヤナギはすぐ手に入る。満月草も、満月の夜に摘めばいい。が、問題は二角獣の角の粉末と、毒ツルヘビの皮の千切りだな。これは、スネイプ先生の研究室に保管されていたはずだ」

 乾はパラパラとページをめくり、目的の物を見つけ出して読み上げた。

「それなら、僕と英二に任せてよ。スネイプの研究室から、くすねてくるよ」

 穏やかな表情を変えることなく、不二は物騒な発言をした。

「あとは、変身したい相手の一部っすよね?」

「それって、誰でもいいんすか?」

「ああ、スリザリンの生徒ならな。髪の毛でも、爪でもいい。できれば、跡部に近い……そうだな、例えばクィディッチチームの誰かがいいかもしれない」

「じゃぁ、それを手に入れればいいんすね?」

 ならば、明日にでもさっそく実行しよう。という雰囲気になりかけたのを、乾の一言が遮った。

「ただし、この薬を作るには時間がかかるんだ。なにせ、クサカゲロウは21日間煎じる必要があるんでね。だいたいひと月くらいで完成する」

「そ、そんなにかかるんすかぁ?」

「それだけ、調合が難しいってことだよ。授業で習う、簡単な薬とは訳が違うんだ」

 そう言って、乾は再び椅子に腰掛けた。そして、菊丸と不二に向き直った。

「次の魔法薬の授業の時に、二角獣の角と毒ツルヘビの皮を手に入れてきてくれ。確か、並んでいるビンに名前が書いてあったはずだけど、見本はこれだ」

 言いながら、乾は本に書かれている材料の絵を二人に見せた。

「わかった。明日授業があるから、その時にもらってくるにゃ」

「頼む」

 乾に言われて、不二と菊丸はどこか楽しそうに頷いた。

「それから、このことはしばらく手塚や大石にもナイショにしておこう。あの二人、校則違反にはうるさいからね」

 監督生には、他の生徒にはない特権がいくつかある。その一つが、先生たちと同じように、生徒に寮の減点を言い渡すことができる、というものだ。こんなことが手塚と大石にバレたとしたら、大石はともかく、手塚は間違いなく5人に減点を言い渡すだろう。

 不二と菊丸の二人は、何度も手塚に減点を言い渡されていた。そのせいか、乾の言葉に大きく頷いた。あまり大量に減点されると、学年末の寮杯獲得合戦に響いてしまうのだ。

「わかった。じゃぁ、スネイプの所から材料をもらう時も、それほど派手なことはしないように気をつけるよ」

「そうしてくれ」





 その翌日、菊丸と不二は魔法薬学の授業中にちょっとした騒ぎを起こし、その混乱に乗じて乾に支持された材料を入手した。それによってグリフィンドールは5点減点されたが、他の所で点数を上げた生徒がいたらしく、全体としてはそれほどの打撃ではなかった。

 そして、乾の部屋ではさっそく変身薬の調合が始まった。授業や練習や睡眠中でも鍋が焦げつくことがないように、と自動掻き回し機能付きの鍋に材料を入れ、火にかける。

 薬が完成するまでは約1ヶ月。

 その間、できる限り書物での調査も進めることと、変身するターゲットを決めてその相手を観察すること。

 という新たな指令が乾から下された。

(なんだか、面白くなってきたじゃん?)

 何よりも、手塚や大石にナイショで、という辺りがなかなかスリリングで楽しいかも、とリョーマは思っていた。





というわけで、ついにChapter10でございます。
ワーワー、ヒューヒュー、ドンドン、パフパフゥ〜♪
そして、久しぶりに跡部様ご登場です。
ちなみにこの話、アップするのは10月14日ですが、書いたのは跡部様のバースデイ・デビューアルバム発売前です。
なので、あんな曲が収録されているということは、これを書いている時点では知らなかった、というワケなのです。
いやぁ、マジで驚きましたねぇ。「KA・BA・JI」(笑)

…と、余計なことを(苦笑)。
さて、次回は特別番外編です。
こちらにアップするノーマル版とは別に、乾×手塚追加版がカップリング小説の方にアップされます。
乾×手塚も好き〜、というそこのアナタ。
楽しみになさって下さいませ♪





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ハリー・ポッター
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テニプリ
Chapter:10   スリザリン潜入計画

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