ハリー・ポッター
de
テニプリ
Chapter:9   初戦ハッフルパフ 前編

 ハロウィーンの次の日は、11月最初の土曜日だった。

 ホグワーツの生徒たちが待ちに待った、クィディッチシーズンの初日である。今年のシーズン初日のカードは、昨年2位のグリフィンドールと昨年4位のハッフルパフだった。

 グリフィンドールのシーズン初戦=リョーマのデビュー戦でもあった。

 といっても、リョーマは特別緊張した様子もなく、いつもと同じように朝食を食べていた。その時である。リョーマが飼っている白フクロウのカルピンが、リョーマの目の前に細長い包みを落とした。ホグワーツに入学して以来、カルピンがリョーマに届けるものといったら、父親の南次郎が下らない手紙を送ってくるだけだったのだが。その日のカルピンは包みをテーブルに落とすと、そのまま先生方が座っている長机に飛んで行った。

「これは……?」

「なんだか細長いけど」

「開けてみようよ、リョーマ君」

 いつも一緒にいる同学年のカツオ、堀尾、カチローにせがまれて、リョーマは薄茶色の包みをいささか乱暴に破いた。すると、中から現れたのは……。

「箒だな。それも、最新型のニンバス2003だ」

 リョーマが声を出す前に、いつの間に後ろに立っていたのか、乾が不自然に眼鏡を光らせて呟くように言った。

「そいつは小回りが効いて、スピードも出る。シーカーが乗るには、最適だ」

「へぇ、そうなんだ」

 リョーマは真新しい、つややかな茶色い柄を軽く撫でた。そしてカルピンを追うように、先生方が座っている長机に視線を移した。すると、カルピンはマクゴガナルの前に止まっていて、頭を撫でられていた。マクゴガナルはリョーマの視線を感じて、微笑を向けた。

「なるほど、これを君に贈ったのはマクゴガナル先生か」

「そうみたいっすね」

「よほど、君に期待しているらしい。頑張れよ。それから、後でちゃんと礼を言っておくといい」

「わかったっす」

 朝の大広間は、ついに始まるクィディッチシーズンと、好試合を期待するウキウキしたざわめきで満たされていた。その中で、リョーマも初戦に向けて心地よい緊張感に包まれていた。





 11時になると、学校中が競技場につめかけていた。双眼鏡を持っている生徒もたくさんいた。

 リョーマは更衣室で、クィディッチ用の真紅のローブに着替えていた。グリフィンドールチームは、青学という愛称とは裏腹に、チームカラーは赤だった。

「いよいよだな、手塚」

「ああ」

 全員が着替え終わると、大石は手塚に話しかけた。今日のこの試合から、クィディッチ杯をかけた年に一度の戦いが始まるのである。ここ数年、グリフィンドールは万年2位に甘んじていて、優勝を逃していた。

「あー、ワクワクするにゃぁ。ハッフルパフから、何点取れるかにゃぁ?」

「そう簡単に点が取れる相手じゃないと思うけど、頑張ろうね、英二」

「今日は頼みますよ、先輩たち」

 菊丸と不二が言い合う中、今日は控えに回っている桃城が苦笑しながら言った。そしてすかさず、すぐ後ろにいる海堂をからかった。

「おい、マムシぃ。ブラッジャー空振りして、箒から落ちるんじゃねぇぞ」

「何バカなこと言ってやがる。てめぇじゃあるまいし、そんなヘマはしねぇ」

「んだと?」

 自分からからかっておきながら、海堂に言い返されて桃城が掴みかかっていくのを、河村が慌てて止めた。

「こら、桃、海堂。試合前なんだぞ、やめろよ」

「はい、タカさん」

「ん? ……」

 普通に止めていた河村に、不二がひょいと楽しそうな顔をして棍棒を渡した。すると、河村の表情が一変した。

「おらおらぁ、試合前にケンカなんかしてんじゃねぇぞぉ! 気合入れて行くぜぇ、バーニィーング!」

「前にも言ったけど、今年のハッフルパフは去年とは全然違うチームになっているからね。特に、キーパーの橘とチェイサーの亜久津には要注意だ。もっとも、俺たちが勝てない相手じゃないけどね」

 一人で燃えている河村を他所に、乾が試合前の最終アドバイスをしていた。そして、その後を手塚が引き取った。

「初戦に勝ちたいと思う気持ちは、相手も同じだ。だが、勝つのは俺たちだ。さあ、油断せずにいこう」

「はいっ!」

 手塚の言葉に、全員が大きく頷いた。

「せーがくぅー、ファイッオー!」

 桃城の音頭で勢いよく気合を入れて、リョーマは手塚に続いて更衣室を出た。

 グラウンドに飛び出していく直前、待機中に手塚がリョーマに声をかけてきた。

「緊張しているか、越前」

「全然。平気っす」

「そうか。今まで練習でやってきたことを、全て出し切れ。いいな」

「わかったっす」

 審判に合図され、全員がほぼ同時に箒にまたがった。リョーマも、新品の箒の感触を確かめるように、ニンバス2003にまたがった。そして、手塚を先頭に、一斉にグラウンドへ飛び出していった。

 真紅のローブに身を包んだグリフィンドールの選手と、カナリア・イエローのローブに身を包んだハッフルパフの選手がグラウンドへ飛び出してくると、競技場はたちまち大歓声に包まれた。

「きゃー、リョーマさまぁ!」

 その一角で、堀尾とカチローとカツオに桜乃と朋香も、リョーマを応援に来たハグリッドと一緒に歓声をあげていた。そこに、控えにまわって試合に出ていない桃城と、コーチということで選手登録をしていない乾も加わった。

「いよいよっすね、乾先輩」

「ああ」

「乾よ、お前さんから見て、リョーマはどうだい?」

 自分の側に乾が来たのを見て、ハグリッドが話しかけてきた。乾は、黒革のカバーがついたノートを取り出しながら答えた。

「さすがに血筋でしょうかね、才能はありますよ。シーカーとしての素質は、申し分ない。それに、この俺が特別メニューを作って特訓しましたからね。期待できますよ」

「そうかい。そりゃぁ楽しみだ」

 乾の言葉を聞いて、ハグリッドは大きな身体を揺すって、満足げに呟いた。

「さぁ、今年もクィディッチシーズンがやって来ただーねー」

 そこへ、競技場中に実況の声が響き渡った。

「今年の初戦は、去年2位のグリフィンドール・青学と4位のハッフルパフ・不動山だーねー。なんだか大したことなさそうなカードだけど、みんな盛り上がってるだーねー!」

 にょき、と口をとがらせて前髪を跳ね上げた男子生徒が、マイクを握ってしゃべっていた。実況にしてはいささか辛口で、口癖なのか語尾が少々おかしかった。

「この試合、実況はレイブンクロー3年、柳沢慎也でお届けするだーねー!」

「解説は、同じくレイブンクロー3年、観月はじめです」

 その横で、クセのある黒髪の、何か企んでいそうな目をした男子生徒がもう一つのマイクを持っていた。

「青学のシーカーは新入生だーねー。新入生はチームには入れないはずだーねー。どーなってるだーねー?」

「ダンブルドア校長先生が特別に許可なさったそうですよ。新入生がチームに選ばれたのは、100年ぶりのことだそうです」

「そんなのありだーねー?」

「いいんじゃないですか。その新入生とは、あの越前リョーマ君のようですし。今年は不動山もメンバーがかなり変わっているようですから、お手並み拝見といきましょう」

 前髪を指で触りながら観月が話し終わるのとほぼ同時に、選手たちがスタートの位置に並んだ。グラウンドの中心に、今日の審判になっているフーチ先生がクアッフルを手に立っていて、その横には試合に使う3種類のボールが入った木箱が置かれていた。

「皆さん、正々堂々と戦うんですよ」

 念を押すようにそう言って、フーチ先生は甲高い音がする笛を吹き、同時にクアッフルを真上へ投げ上げ、足で木箱を蹴って2つのブラッジャーを箱から解き放った。ブラッジャーより先に解き放たれていたスニッチは、すでに姿が見えなくなってしまっていた。

「試合開始だーねー。おっと、最初にクアッフルを取ったのは、青学の菊丸だーねー。相変わらず動きが素早いだーねー」

「菊丸君は、去年はシーカーだったはずですが、越前君が加わったことでチェイサーに転向したようですね」

「菊丸が突っ走ってるだーねー。不動山の2年、神尾と伊武もいい動きをしてるけど、菊丸に追いつけないだーねー。――ん? 神尾が何か言ってるだーねー」

 クアッフルを抱えながら、片手で箒を起用に操って、菊丸は次々に選手をかわして不動山ゴールへ襲いかかっていた。その菊丸を追っていた不動山の2年生、神尾アキラが楽しそうに叫んだ。

「リズムに乗るぜ!」

 そして箒のスピードを上げて、今にも菊丸に追いつきそうになった。

「英二!」

「ほいほーい」

 が、追いついてくる神尾を軽くかわして、後ろから飛んできた大石にパスを出した。大石はそつなく箒を操って、3つあるゴールのうち右側のゴールを狙った。が、大石のシュートはキーパーの橘に、彼が操っている箒で跳ね返されてしまった。が、すぐにそれを菊丸がサポートしてキャッチし、自分に向かって飛んできたブラッジャーをクルリと1回転してかわし、橘の逆を突いて左側のゴールにシュートした。

「決まったぁー! 青学が10点を先取だーねー」

 ゴールを決めた菊丸と、サポートした大石は軽くハイタッチをして、お互いを讃え合った。

「すみません、橘さん」

「気にするな、神尾。今度は俺たちが反撃すればいい」

「はい、橘さん」

 橘に励まされて、神尾が元気よく相手陣地へ飛び出して行った。そして、その神尾を伊武がブツブツ言いながら追った。

「あーあ、先取点取られちゃったよ。今日寒いんだよなぁ。早く試合終わらせたいってのに、嫌になるよなぁ、ホント。……ぶっ倒そ」

 今度は不動山の反撃が始まった。亜久津が一人でチェイサー3人をかき乱し、その間をぬうようにして神尾と伊武がクアッフルをパスしあって青学の陣地へと攻め込んできた。

「おらおら、バーニーング!」

 河村が打ち返してくるブラッジャーも、神尾は箒を旋回させてかわした。

「リズムを上げるぜ!」

 そしてスピードアップして青学ゴールへと向かっていった。

「へぇ、頑張ってるなぁ、神尾君」

 そんな様子を傍観していたのは、不動山のシーカー千石清純だった。スニッチが見つからないかぎり、シーカーは暇なのだ。それをいいことに、千石は完全に試合展開を傍観しているようだった。

「君の事は知ってたけど、まさか1年生でチームに入って、それもシーカーになるとはね。越後屋君」

 のんびりとリョーマに話しかけてきたが、名前を微妙に間違えていた。

「俺、越前っすよ」

「ああ、そうだったっけ?」

「スニッチ、探さなくていいんすか?」

 神尾が青学ゴールを襲ったものの、手塚が箒ごと身体を回転させてクアッフルを打ち返し、不二がそれをキャッチするのを横目に見ながらリョーマは千石に尋ねていた。

「うーん、そのうち見つかるんじゃない?」

 が、千石の返事はなんとも呑気なものだった。

「リョーマ様、何してるのかしら? さっきからずっと、あそこにいるんだけど」

 二人が井戸端会議を始めているのにいち早く気づいたのは、ずっとリョーマのみを追い続けていた朋香だった。

「ホントだ。リョーマ君、相手選手と何か話してるみたい」

「千石さんと?」

 カツオと桃城がその会話に加わるのを、側で聞いていた乾が眉をひそめた。

「まずいな、越前のヤツ。千石のペースに巻き込まれなければいいんだが」

 乾の手には黒革のカバーをつけたノートがあり、その上では羽ペンが自動的に動いて試合状況を記録していた。

「千石さんのペースって、どういうことっすか?」

 堀尾に尋ねられて、乾は眼鏡のブリッジをずり上げた。

「通称、棚からぼた餅ラッキー戦法、だよ」

「棚からぼた餅?」

「ラッキー戦法って、何なんですか、それ?」

 カツオとカチローに代わる代わる尋ねられ、乾はさらに説明を続けた。

「千石の戦略だ。相手シーカーをマークして、世間話を持ちかけながら相手にスニッチを探させる。相手シーカーがスニッチを見つけて追い始めたら、自分も後からそれを追いかけて相手を出し抜くんだよ」

「それって、ズルくないですか?」

「そうとも言うけどね。でも、クィディッチにはそういった駆け引きも必要だ。第一、シーカーはスニッチを見つけて捕まえる時に、嫌でも攻撃される。それまでは、試合とは関係ない場所に待機して、無用な攻撃を避けるんだ。越前にも、そう指示してある」

 乾はあっさりとそう言って、また試合のデータ収集に戻ってしまった。グラウンドでは、再び青学の攻撃が始まっていた。今度攻めているのは、不二である。大石、菊丸の二人が息の合ったサポートを見せ、相手選手がブラッジャーを打ち返してくるのも巧みに避けながら、ゴールを目指していた。

「させるかよ」

 不二からクアッフルを奪おうと、目つきの悪い亜久津が猛スピードで追撃した。が、不二はニッコリ微笑すると斜め下を飛んでいる大石にパスを出した。大石はクアッフルをキャッチすると、二人がかりでクアッフルを取りに来た神尾と伊武をかわして、すぐ横をすり抜けるように飛んでいく菊丸に、すれ違いざまパスを出した。

 クアッフルを受け取った菊丸は、亜久津のマークを振り切って、不二にラストパスを送った。

「ふーじ、頼んだにゃー!」

「うん、英二」

 不二は細い目をさらに細めて、体ごと箒を回転させてクアッフルを真ん中のゴール目がけて打ち込んだ。

「どこ狙ってんの、あの人? 橘さんの正面じゃん」

 伊武がボソッと呟いて、橘がクアッフルをキャッチしようとしたその時。不二が目を開いて、楽しそうに呟いた。

「そのボール、消えるよ」

「!?」

 クアッフルは橘の手前で急に消えて、次の瞬間には右側のゴールへと吸い込まれていった。

「やるだーねー、さすが青学の天才、不二周助だーねー。グリフィンドールに10点追加で、20−0だーねー」

 柳沢が興奮したように実況したが、観月はギリギリと唇をかみ締めるような表情をして、何も言わなかった。

「何なんだ、今のは?」

「相変わらず、切れのいいカットシュートだな」

 グラウンドで不動山選手たちが顔を見合わせるのを眺めながら、乾がボソッと言った。

「カットシュート?」

「ああ。英二がラストパスを出す時、微妙にクアッフルに回転を加えていたんだ。そして不二は、箒を回転させてクアッフルをカットするように打った。それによって、クアッフルには強烈な回転がかかって、今みたいにキーパーの手元で外へ逃げていくようにカーブする。消えたように見えるのも、無理はない」

 乾の解説に、カチローが驚いたように問いかけてきた。

「そんなことが、できるんですか? 箒で、そんな回転なんて……」

「そんなことができるから、不二は天才なんだよ」

「ホント、すごいっすよね、不二先輩」

 不二のシュートで、不動山が押していた試合のムードが一気に青学ペースへと傾いた。大石がサポートする中、菊丸と不二が次々と得点を重ね、試合開始15分で50−0と青学がリードしていた。



Chapter 9 後編へ続く





というわけで、ついに始まりました。クィディッチシーズン。
そして、初戦なわけですが・・・。
すみません、全部アップしようと思ったら、長くなりました。
というわけで、急きょ前・後編になります。
まずは青学リードで展開する試合ですが、このまま順調に勝利するのか、はてさて。





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