ハリー・ポッター
de
テニプリ
Chapter:8   ハロウィーン大事件 前編

 ハロウィーンの朝は、パンプキンパイの匂いで目が覚める。

 数日前から菊丸と不二をはじめとする生徒たちが作って、談話室に置かれていたジャック・オ・ランタンも、気がつくと数が増えていた。生徒たちもどことなくそわそわと落ち着かなくて、普段は沈着冷静な手塚や乾でさえ、どことなく気分が弾んでいる様子だった。

 リョーマが面白い、と思ったのは呪文学の授業でフリットウィック先生が物を飛ばす練習をしよう、と言ったことだった。クィディッチの練習で乾がゴルフボールを飛ばすのを見て以来、リョーマは密かにその魔法を自分でもやってみたいと思っていたのである。

 二人一組になりなさい、と言われてリョーマは堀尾と組むことになった。

「さあ、今まで練習してきたしなやかな手首の動かし方を思い出して」

 いつものように積み重ねた本の上に立って、フリットウィック先生はキーキー声で言った。

「ビューン、ヒョイ、ですよ。いいですか、ビューン、ヒョイ。呪文を正確に、これも大切ですよ。覚えていますね」

 この魔法は、人がやっているのを見るのは簡単そうなのだが、いざやってみるとなかなか大変だった。カツオもカチローも、ビューン、ヒョイとやってみたものの、軽いはずの羽は机に張り付いたまま、びくともしなかった。

「ウィンガディアム レヴィオサー!」

 堀尾はダミ声でそう叫んで、杖を何度も振り回した。

「堀尾、それ危ないよ。それに、呪文間違ってる」

「なに? そう言うなら、お前がやってみろよ、越前」

 リョーマがボソッと指摘すると、堀尾は拗ねたように言い返してきた。仕方ない、とリョーマはため息をついて杖を取り上げた。手首をしなやかに、ビューン、ヒョイ、と振りながら唱えた。

「ウィンガーディアム レヴィオーサ」

 すると、羽はフワフワ浮き上がって、リョーマの杖の動きに合わせて宙を漂うように上昇していった。

「おおーっ、よくできました。皆さん、見て下さい。越前君がやりました」

 一度で羽を飛ばしたのは、リョーマだけだった。それを見て、向かいに座っているハッフルパフ生、壇が尊敬の眼差しをリョーマに向けてきた。同時に、すぐ後ろに座っている朋香が

「きゃぁー、さっすがリョーマ様ぁ♪」

 と黄色い声をあげた。

 そんな様子を見て羨んだ堀尾が、悔しそうに言った。

「ちっくしょー、見てろよ。俺だって」

 そして気を取り直して、杖を振り回して唱えた。

「ウィンガディアム レヴィオサー!」

「だから、呪文違ってるって」

 リョーマが言った瞬間だった。

 ボン!

 小さい爆発音がしたかと思うと、堀尾の羽が火を噴いて、あっという間に灰になってしまった。そして堀尾も、灰で顔を真っ黒にしてしまっていた。

「だから、危ないって言ったじゃん」

 リョーマの容赦ない突っ込みが、むなしく響いていた。





 授業も午前中だけで終わり、夜には大広間で宴が開かれる。大広間に入ると、天井には無数のかぼちゃが魔法で浮かされていて、数百匹のこうもりが飛び回っていた。そして、長机の上には豪華な料理が所狭しと並べられていた。

 リョーマや桃城などの大食漢をはじめ、みんなが料理に飛びつく中、グリフィンドールのテーブルには一人生徒が欠けていた。

「そういえば、堀尾君どうしてるんだろう?」

「うん。一人にしてくれ、って言ってたけど……大丈夫かな。ねぇ、リョーマ君?」

 心配そうにしているカツオとカチローに話しかけられて、リョーマは口の中に放り込んだポテトを咀嚼して飲み込んだ。

「別に、気が向いて、腹が減ったら来るんじゃない? 放っとけば?」

 そっけないリョーマの返事に、カチローとカツオは心配度数を上昇させた。

「でも、堀尾君かなり落ち込んでたみたいだし……」

「そうだよね」

 午前中に行われた呪文学の授業で羽を灰にして以来、堀尾はすっかり落ち込んでしまい、一人トイレにこもっていた。寮の談話室に戻ることもなく、宴に出てくることもなかった。

 リョーマは内心少し気にかけてはいたものの、大広間の飾りつけと豪華な料理を目にした途端、堀尾のことは頭から抜け落ちてしまっていた。

 そしてかぼちゃのパイを頬張った時、バタン!と大きな音を立てて大広間の扉が開いた。そして血相を変えて、頭のターバンも歪んでしまっているクィレル先生が大声を上げて飛び込んできた。

「トロールが地下室に!」

 彼は広間の中央まで走ってきて、正面にいるダンブルドア校長に訴えた。

「トロールが、地下室に……お知らせしなくてはと思って」

 喘ぎながらそこまで言うと、クィレル先生はばったり倒れてしまった。

 広間は大混乱になった。

 ハッフルパフのテーブルでは壇が真っ青になって、手にしていたローストチキンを取り落としていた。

 スリザリンのテーブルでは、パニックになる生徒たちの中で、跡部と忍足が微妙に顔色を変えていた。跡部の隣にいる樺地は、相変わらずボーっとしていて、表情が読めなかった。

 グリフィンドールのテーブルでも、平然としていたのは手塚一人だけで、さすがの乾も少々慌てているようだった。

「静まれーっ!」

 ダンブルドアが何度か大声を張り上げて、ようやく広間は静けさを取り戻していた。

「静まるのじゃ。先生方は地下室へ。生徒諸君は監督生について自分の寮へ戻りなさい」

 重々しいダンブルドア校長の声が轟いた。

「皆、俺について来てくれ。1年生は一緒に固まるように。後ろについて離れないように気をつけろ」

 ダンブルドアの指示を受けて、手塚はいち早く動いていた。

「道を開けろ。1年生を通してくれ」

 机に並んだ料理もそこそこに、リョーマもカツオやカチローたちと一緒に、手塚の後ろに続く列に加わった。

「まさか、ホグワーツにトロールが入り込むなんてな」

「ああ。あいつは、図体はでかいが頭が悪くて動きがトロい。そう簡単に入り込めるとは思えないんだが」

 手塚を先頭に、1年生を挟むようにしてすぐ後ろを歩いていた大石と乾が話し合うのを、リョーマはなんとなく聞いていた。

 大広間を出てすぐの廊下では、皆があちこちの方向へと急いでいた。いろいろなグループとすれ違い、レイブンクローの一団をかき分けて進もうとしたその時、リョーマは突然気がついた。

「そういえば、堀尾は?」

「あ、そうだ、堀尾君!」

「何だ、堀尾がどうかしたのかよ?」

 混雑して列が乱れたために、リョーマのすぐ傍に来ていた桃城が、リョーマとカツオの会話を聞きつけて首を突っ込んできた。

「あ、桃ちゃん先輩」

「実は堀尾君、ずっとトイレにこもってて……」

「多分、トロールが出たの、知らないと思うんすけど」

「そりゃ大変だなぁ、大変だぜ」

 カチローとカツオとリョーマに代わる代わる説明されて、桃城は大きく頷いた。そして、何か企んでいるような不敵な微笑を浮かべた。

「そりゃ、探しに行かねぇとな。おい越前、そいつ、どこにいるんだ? 教えろよ」

「て、桃先輩。マジで探しに行くんすか?」

「ああ、お前も来い」

 行くとも行かないとも言わぬうちに、桃城はリョーマの腕を掴んでいた。

「桃先輩、手塚先輩には何て言うんですか?」

「テキトーにごまかしといてくれ。頼むぜ」

 尋ねてきたカツオにそう言い捨てて、桃城はリョーマの腕を引いて、ちょうどグリフィンドール寮生とは反対方向へ行こうとしていたレイブンクロー寮生に紛れ込み、誰もいなくなった方の廊下をすり抜けてトイレへと急いだ。

「桃先輩……何か、臭いません?」

 男子トイレが近づいてきたと思った時、異臭がリョーマの鼻を突いた。汚れた靴下と、掃除をしたことがない公衆トイレの臭いを混ぜたような、字にも書けない悪臭だった。

「こりゃ、トロールが近くにいるな」

「わかるんすか?」

「まぁな、クィレルの授業で聞いたんだよ」

「へぇ、桃先輩でも一応授業はちゃんと聞いてるんだ」

「ったりめぇだろ。てめぇ、先輩をなめんなよ」

「別になめてないっす」

 怪物が近くにいるというのに、二人は軽口を叩きながら廊下を急いでいた。

「っていうか、この方向って、男子トイレっすよね?」

「ああ。それがどうかしたか?」

「あのトロール、男子トイレに向かってるみたいなんすけど」

 リョーマが指差した先には、巨大な棍棒を床に引きずりながらのろのろと歩く、ずんぐりした巨体の怪物がいた。

「っておい、あいつが向かってるの、嘆きのダビデがいるトイレじゃねぇか!」

「堀尾、ヤバイかも」

「おい、急ぐぜ、越前」

 さほど慌てた様子を見せないリョーマに対して、大いに焦った様子の桃城は慌ててリョーマの腕を引いてトイレへと駆け出していた。





 リョーマと桃城が男子トイレへ駆け出していた頃、堀尾は男子トイレに住みついているゴーストと談笑していた。

「犬が言っても猫が言ってもワンダホー」

「ひゃははは、それ、メチャクチャ寒いっすよー」

 そのゴーストはホグワーツの生徒だったのか、レイブンクローの制服を着ていて、目鼻立ちがはっきりしていて彫りが深く、ホグワーツのどこかに飾られている彫刻のような整った顔立ちをしていた。が、口にするダジャレはとてつもなく寒い。

 授業で呪文を失敗して落ち込んで、一人になろうと思ってきたはずのトイレで、堀尾は天根ヒカルと名乗るゴーストに事情を打ち明けて、ゴーストの下らないダジャレにつき合わされているうちに、落ち込んでいたことなどすっかり忘れていた。

「あれ? 何か臭うな? このトイレって、こんなに臭かったっけ?」

「臭いトイレでごめんくさい」

「だから、それ、寒いっすよー」

 ギャハハハと大口を開けて笑った堀尾は、そのまま固まってしまった。

「なな、な、……」

「……? どうしたの?」

 ゴーストの天根には、何が起きたのかわかっていないらしい。堀尾は、天根の背後に現れた巨大な影に脅えていた。扉に体が入りきらず、ドカッ、ドカッ、メキッと周囲の壁を壊す音が聞こえて、堀尾はヒッと息を呑んだ。

 扉が蝶番ごと外され、周囲の壁が壊されて、墓石のような灰色の肌をした、岩石のようなずんぐりした巨体が現れた。太い足の先には、コブだらけの平たい足がついていて、異様に長い手には巨大な棍棒を持っていた。そして、どこか焦点のあっていない不気味な目が、堀尾の姿を捕らえていた。

「ト、ト、トロ……」

「トロいからトロール」

「ダ、ダジャレ言ってる場合じゃないっすよぉーーー!!!」

 ゴーストだから何をされても害がない、とわかっている天根は相変わらず寒いダジャレを飛ばした。それを聞いて、堀尾が今にも泣きそうな声をあげたのと、獲物を見つけたトロールが棍棒を振り上げたのは、ほぼ同時だった。

「た、助けてぇぇーーー!!」

 そして堀尾は情けない叫び声を上げて、個室の一つに飛び込んだ。トロールは一度、半透明な乳白色の天根に向かって棍棒を振り下ろした。が、ゴーストの天根には何の害もない。するっと棍棒が突き抜けてしまい、トロールは一瞬不思議そうな顔をして、ノロノロと頭を振った。

 が、やがて気を取り直して標的を変えた。つまり、トイレのドアを片っ端から叩き壊す、という行為に出たのである。

「ドアを壊すと許さんどぉ」

 天根のダジャレは、トロールには通用しなかった。トロールは一つ、また一つとドアを叩き壊しながらトイレの奥へと進んできた。そして、ついに堀尾が潜んでいた個室のドアも、叩き壊されてしまった。

「ひ、ひぃぃーー!」

 堀尾は両手で頭を押さえて、尻を突き出した状態で床に伏せった。その上に、容赦なく木の破片が降ってきた。

「堀尾っ!?」

 そこへ、リョーマと桃城が飛び込んできた。木片の下にうずくまる堀尾に、さらに一撃を加えようと棍棒を振り上げるトロールに向かって、桃城が杖を取り出して叫んだ。

「ジャックナイフ!」

 桃城の杖の先から淡い水色の閃光が走り、トロールの腰の辺りに命中した。が、トロールは少し身体を起こし、首を傾げただけで、全くダメージは受けていないようだった。

「効いてないみたいっすよ、桃先輩」

「こいつは皮膚が分厚くて、あんまり魔法効かねぇって話だからな。でも、堀尾から気を逸らすことには、成功したみたいだぜ」

 のろりと振り返った先に、更なる獲物を見つけたトロールは、標的をリョーマと桃城の二人に変更した。

「も、桃先輩、越前、助けてえぇぇっっ!」

 木片をかき分けて身を起こした堀尾は、半泣き状態で叫んでいた。

「助けてやっから、ちょっと待ってろ」

 桃城は堀尾に向かって叫ぶと、のろのろと、しかし大股で歩いてくるトロールと向き合った。

「越前、俺がトロールを引き付ける。お前は、その隙に堀尾を頼む」

「わかったっす」

 慎重にトロールとの間合いを計り、緊張する二人に天根がトロールの頭上を飛びながらボソッと言った。

「素早くてもトロール」

「てめぇは黙ってろ!」

「それ、寒いっす」

 桃城とリョーマにほぼ同時に突っ込まれ、天根は拗ねたような表情を見せ、頭から便器の一つに飛び込んで、溜まっていた水を大きく跳ね上げて姿を消してしまった。かと思うと、天根が飛び込んだ便器からみるみるうちに水が溢れてきて、トイレの床を水浸しにしてしまった。

「あーあ、やっちまったぜ。だーから、このトイレに来んの、ヤだったんだよなぁ」

「んなこと言ってる場合じゃないっすよ、桃先輩」

「っと、そうだったな」

 桃城がぼやいた時、すでにトロールは目前に迫っていた。天根が溢れさせた水をビシャッと巨大な足で踏みしめると、水しぶきがあがった。

「こっちだぜ、バカトロール!」

 桃城の悪態が通じたのか。トロールはゆっくりとした動きで、桃城に向かって棍棒を振り上げた。そして、ダンッ!と一気に桃城めがけて棍棒を振り下ろした。

「っと、危ねぇなぁ、危ねぇよぉ」

 だが桃城はそれを間一髪で避け、再び振り上げようとする棍棒に飛びついた。そしてトロールが桃城ごと棍棒を上まで振り上げた瞬間に、棍棒から手を離してトロールの頭に飛び乗った。

「動きが遅ぇんだよ、バーカ」

 そしてトロールの顔めがけて再び杖を構え、魔法を放った。

「ジャックナイフ!」

 桃城の杖先から放たれた閃光が鼻先に当たり、今度はトロールも少しは効いた様子だった。棍棒を持っていない方の手で鼻先を押さえ、目を閉じてトイレ中に響き渡るうめき声をあげた。

 桃城がトロールに飛びかかっている隙に、リョーマはトイレの奥へと駆け込み、服を濡らしながらもまだ床にうずくまっている堀尾を助け起こした。

「大丈夫?」

「ま、マジで怖かったぁ……」

 安心する堀尾をよそに、リョーマはすぐに全神経をトロールに向けていた。トロールの頭上に乗った桃城も、そうそう無事ではいられない。リョーマがトロールを振り返ると、片足を取られて逆さまに吊り下げられている桃城が目に飛び込んできた。

「桃先輩!」

 トロールが自分めがけて振りかぶる棍棒を、桃城は身体をよじってかわした。

 リョーマは桃城を助けるために懐から杖を取り出して、トロールに向けて構えた。のだが……。

 ――そーいえば、俺、まだ呪文知らないんだっけ。

 マグルの世界で育ち、ホグワーツに入学してからまだ2ヶ月のリョーマは、呪文らしい呪文をほとんど知らなかった。

「越前、何とかしろ!」

「って言われても、俺、呪文ほとんど知らないっす」

「マジかよ!?」

 言いながら、桃城はトロールの2撃目をかわした。

「と、とにかく何でもいいから、知ってる呪文言え!」

「わかったっす」

 リョーマが知っている呪文といえば、午前中の呪文学で習ったあの呪文だけである。

 ――ま、なんとかなるかな。

 リョーマはあっさり開き直って、その呪文を唱えた。

「ウィンガーディアム レヴィオーサ!」

 すると、桃城に向かって今にも振り下ろされようとしていた棍棒が、トロールの手から離れて宙に浮いた。

「?」

 今まで掴んでいた棍棒の感触がなくなり、トロールは不思議そうな顔をして棍棒を持っていた右手を眺めた。そして、次の瞬間。

「!」

 宙に持ち上げていた魔法が切れて、トロールの巨大な棍棒がその頭に落ちて、見事に命中した。その衝撃で、トロールは桃城を取り落としヨロヨロと大きく身体を揺らし、ついには大きな水しぶきをあげて床に倒れてしまった。

 桃城は床に尻餅をついた状態で。

 リョーマはまだ杖を構えた状態で。

 堀尾はあっけに取られた表情で、しばらく倒れたトロールを見つめていた。

「……これ、死んだんすか?」

 最初に口を開いたのは、リョーマだった。

「いや、気絶してるだけだな、こりゃ」

 言いながら、桃城はトロールに息があるのを確認して、トイレの入り口へと歩いていった。

 そこへ、物音を聞いて、先生たちが駆けつけてきた。

「ま、まぁ。なんということでしょう」

 マクゴガナルがトロールの強烈な臭いとトイレの惨状に顔を引きつらせた。そのすぐ後に、スネイプ、クィレルも飛び込んできた。

「いったい、どういうつもりなんですか?」

 3人に向けられたマクゴガナルの声は、冷静だが怒りに満ちていた。

「殺されなかったのは、運が良かったからです。寮に戻っているはずのあなた方が、どうしてここにいるんです?」

 問い詰めるマクゴガナルに、堀尾が裏返った声で言った。

「え、越前と桃先輩は、俺を探しにきたんっす」

「堀尾君!?」

 壁にもたれていた堀尾はようやく自力で立って、恐る恐るトロールの脇を通ってマクゴガナルの前に進み出た。

「お、俺、一度トロールを間近で見てやろうと思って、それでここに来たんっす」

 堀尾は桃城とリョーマが先生に怒られないように、と嘘を並べていた。

「二人が見つけてくれなかったら、俺…今頃死んでたかもしれないっす」

 まさに危機一髪の状態だったのだ、と堀尾はほのめかしていた。そして桃城とリョーマもその通りだ、という顔を装った。

「堀尾君、なんと愚かしいことを。野生のトロールを見ようなんて……。堀尾聡史、グリフィンドールから5点減点です。あなたには失望しました。怪我がないなら、早くグリフィンドール寮へお帰りなさい」

 マクゴガナルは厳しい顔で堀尾にそう言った。そして、桃城とリョーマの二人に向き直った。

「先程も言いましたが、あなた方は運が良かった。ですが、大人の、野生のトロールと対決して無事でいられる1・2年生は多くありません。一人5点ずつあげましょう」

 さらに減点が言い渡されるのかと思っていたリョーマと桃城は、思わずお互いの顔を見合わせた。が、ほっとした空気が二人の間を漂う前に、マクゴガナルの厳しい声がそれを制した。

「あくまでも、あなた方の運の良さに対してです。早く寮へお帰りなさい」

「はい」

 桃城とリョーマは声を揃えて返事をした。

 リョーマはこれでやっとトロールの悪臭から解放される、とほっとした気持ちを抱えながらトロールの脇を通り、入り口へ戻ろうとした。その時ふと、スネイプの足元に目がいった。

 スネイプの右足首に、血が滲んでいる……。

 スネイプはリョーマの視線をすぐに感じとり、隠すようにマントで足を覆い、ジロリと睨みつけた。

 堀尾と桃城とリョーマの3人がトイレから出て、手洗い場へ入った時、血相を変えた菊丸が飛び込んできた。

「た、大変だにゃぁ!」

「英二先輩!? どうしたんすか!?」

「今度は何です?」

 またも、グリフィンドール生が寮から抜け出しているのを見たマクゴガナルが、開口一番菊丸を叱りつけた。が、菊丸はそれに気づかずに、噛み付くような勢いでマクゴガナルに言った。

「ろ、廊下が水浸しで。か、壁に文字が書かれてて。ね、猫が死んでて。フィ、フィルチが怒ってて!」

「菊丸、それでは何が何だかわかりませんよ。少し落ち着いて説明なさい」

「と、とにかく大変なんですってば! 一緒に来て下さい!」

 一気にまくしたてて、菊丸はマクゴガナルを引っ張ってトイレを出て行こうとした。マクゴガナルは菊丸に引きずられながら、スネイプとクィレルに指示を出した。

「と、とりあえず後はスネイプ先生とクィレル先生にお任せします。ダンブルドア校長へは、私からご報告しますから」

 そして菊丸に引っ張られて、マクゴガナルはトイレから出て行った。

「まったく、グリフィンドール生は何をしているんでしょうな。お前たち、さっさと寮へ戻りなさい」

 スネイプが吐き捨てるように言い、3人はトイレを後にした。



Chapter 8 後編へ続く




というわけで、Chapter8前編でございました。
8章にして、嘆きのダビデが登場でございます(笑)。
いやぁ、ぶっちゃけ大変でした。
結月は日頃ダジャレなどまったく口にしないので、ダジャレを考えるのが、ねぇ(苦笑)。

さて、このお話は後編に続きます。
果たして、どのように話がつながっているのか。原作&映画ファンの方も、お楽しみに(^^)


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