ハリー・ポッター
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テニプリ
Chapter:4   クィディッチ

 翌日、リョーマは正式にクィディッチのグリフィンドール・チームに入ることが決まった。ダンブルドア校長が規則を曲げ、特別に許可したのである。

 授業が終わり、日が傾きかけた時間に、リョーマは乾との待ち合わせ場所へ急いだ。約束の時間より、少し遅れてしまっていた。

 クィディッチがどんな競技なのか、昨夜から堀尾に嫌というほど聞かされていた。が、堀尾の話すことはいまいち要領を得ず、途中からいささか興奮気味に自分が贔屓しているチームの話になってしまい、役に立ちそうになかった。

 そして今日。実際にチームの練習に参加する前に、コーチの乾からルールとシーカーの役割について説明を受けることになっていた。マグル出身のリョーマは、哀しいことにクィディッチの『ク』の字も知らなかったのだ。

「悪いね。このボールを入れた箱が結構重くてね。一人で運ぶのは無理なんだ」

「それ、魔法で浮かして行くとか、できないんすか?」

「できなくはないけど、あまり無駄な魔力は使いたくないんでね」

 リョーマは乾と前後に並んで、箱を持って競技場まで歩いた。

 競技場のグラウンド周りには何百という座席が高々とせり上げられていて、観客が高い所から観戦できるようになっていた。グラウンドの両端には各々16メートルずつの金の柱が3本ずつ立っていて、先端には輪がついていた。

「観客席、ずいぶん高い所にあるんすね」

「箒に乗って行う競技だからね。あの高さがあっても、時々選手が観客席に突っ込んで危ないことになるんだ」

 乾はどっかりと、リョーマと一緒に運んできた箱を競技場に置いた。そして、乾は口を開いた。

「いいかい、越前。クィディッチは覚えるのは簡単なんだ。プレイするのは、そう簡単じゃないけどね」

 乾が箱を開けると、大きさの違うボールが3つ入っていた。

「選手は、両チームそれぞれ7人。そのうち、3人がチェイサーだ。このボール……クアッフルを投げ合って、相手ゴールの輪の中に入れる。そうしたら、得点。輪に入るたびに10点だ」

 乾は箱の中から、赤いサッカーボールほどの大きさのボールを取り出して、リョーマに投げた。リョーマはそれを受け取って、しげしげと眺めた。

「だが、そう簡単に得点されてはたまらないからね。各チームにはキーパーと呼ばれる選手がいる。うちのチームは、部長の手塚だ。わかるだろう?」

「ああ、あの無表情な人?」

「そう。女子の中には、クール・ビューティなんて呼ぶ人もいるみたいだけどね。キーパーは味方の輪の周りを飛び回って、敵が点を入れられないようにするんだ。チェイサーは、そのキーパーをかいくぐってゴールを狙う」

「ふーん」

 乾の説明を聞いて、リョーマは普通に納得していた。そして乾にクアッフルを投げ返した。

「それから、これ。この黒いボールはなかなか厄介なヤツでね。君も、試合中は気をつけてくれ。もっとも、2人のビーターが君をこれから守ってくれるけどね。こいつの名は、ブラッジャーだ」

「ブラッジャー?」

「どんな物か、見たい?」

 もったいぶった口調で尋ねられて、リョーマは頷いた。すると、乾は箱の両端に収まっている黒いボールを留めている鎖に手をかけた。そのボールは、今にも鎖を振り切って飛び出そうとしているように、リョーマには見えた。

「危ないから、下がって」

 乾はリョーマにそう声をかけて棍棒を手渡し、ブラッジャーを一つだけ鎖から外した。とたんに、黒いボールは空中高く飛び上がった。

「……戻ってくるぞ。気をつけろ」

 空を見上げた乾が呟くように言うと、ブラッジャーはリョーマ目がけて戻ってきた。リョーマはタイミングを計って、棍棒でそれを打った。すると、ブラッジャーはグラウンドの外まで飛び出してしまった。

「ふん、ビーターとしてもなかなかいい腕だね。……っと、マズイな」

 グラウンドの外に飛び出したブラッジャーは、今度は乾目がけて戻ってきた。乾はブラッジャーを受け止めると、体を使ってそれを地面に押さえつけながら箱に戻し、暴れるブラッジャーを鎖で再び箱に留めた。

「わかったかい? こいつに襲われて、箒から落ちて気を失うプレーヤーも少なくない。君は特に気をつけてくれよ」

 ブラッジャーと格闘して少し息を乱した乾が、深刻な面持ちでリョーマに言った。黒縁の分厚いレンズが、夕日を受けて不吉に反射した。

「どうして特に、なんすか?」

「君はシーカーだからね」

 リョーマに問われて乾は腰をかがめ、蓋の裏側についている、ホグワーツにある4つの寮のシンボルをあしらった校章が描かれた小さな扉を開けた。そこには、金色の小さな球が入っていた。それを慎重に取り出して立ち上がり、乾はリョーマの顔の前に差し出した。

「君は、クアッフルを投げあうチェイサーや、暴れ回るブラッジャーを避けながらこの"黄金のスニッチ"を追うのが仕事だ。君がこれを取れば、150点が加算されて試合終了となる。シーカーがスニッチを捕まえない限り、何時間でも、何日でも試合は続く」

「何日でも?」

「そう。俺のデータによれば、最長試合記録は3ヶ月だ」

「3ヶ月も?」

「ああ。交代選手を次々投入し、正選手は交代で眠ったらしい」

「ふーん。でも、こいつってそんなに捕まえにくいボールなんすか?」

「まぁね。実際に自分の目で確かめてみるといい。これだけ広い競技場の中で、こんなに小さいボールだからね。まず見つけるのが大変だ。それにこいつは、とんでもない速さで飛ぶ」

 乾の説明が終わるのとほぼ同時に、大きめな胡桃ほどの金色のボールは、銀色の小さな羽根を広げた。そしてその羽根をヒラヒラさせたかと思うと、乾の手から消えた。いや、性格には消えたと思うほど速いスピードで移動した。

 ヒュン、ヒュン、と空気を切るような音をさせて、スニッチはリョーマの周りを飛んだ。

「こいつを捕まえたら、ほぼ勝利は決まったようなものだからね。敵は当然シーカーを妨害しようとする。優れた動体視力と反射能力、そして時にアクロバティックな動きを強いられるほどの、箒の操縦能力が問われるのが、シーカーだ」

「なるほどね。つまり、俺は飛び回ってる連中やボールを避けながら、こいつを追いかけて捕まえればいいってことっすね」

「平たく言えば、そういうことだ。飲み込みが早いね」

 リョーマの答えに、乾は満足げに頷いた。そして、ニヤリと不敵な微笑を浮かべた。

「それで早速なんだが。君の周りを飛び回っているそのスニッチ、捕まえてくれないかな?」

「え?」

「それが、今日の練習だ。早く捕まえないと、夕飯を食いそびれるぞ」

 スニッチは瞬間移動かと思うほど速いスピードで、数秒ごとに方向を変えながら飛び回っていた。じっと目をこらして集中して、ようやくその姿を捕らえたかと思うと、またすぐに視界から消えてしまう。

 今は競技場の中にいるのが乾とリョーマの二人だけで、他のプレーヤーもブラッジャーも飛んでいない。その中でこいつを捕まえるのもなかなか骨が折れそうだが。実際の試合では、当然かなりの邪魔が入る。

 ――なるほどね。面白そうじゃん。

 リョーマは内心でほくそ笑んだ。障害が多ければ多いほど、自分の前に立ちはだかる壁が高いほど、燃える性格なのだ。もちろん、表情にはほとんど出ていなかったが。

「はい、箒」

 そんなリョーマに気付いているのか、いないのか。乾はリョーマに箒を手渡した。

「それ、うちの元シーカーから借りてきた箒だから、スピードは出るよ」

 両手でしっかり柄を掴んでまたがると、箒が飛びたがっているようにリョーマには思えた。リョーマはスニッチの羽音と残像を頼りに、地面を蹴って飛び上がった。

「ああ、言い忘れた」

 リョーマが空中に飛び上がったのを見て、乾が少し間の抜けた声を出した。

「その箒、英二でも時々扱いに困ってたほどクセが強いんだ。気をつけてくれ」

「は?」

 何か言い返そうとする隙もなく、いきなり箒は飛んでいる方向を変えた。リョーマの意思とは関係なく、右方向に旋回する。そして観客席と同じくらいの高さまで上がると、急にスピードアップした。

「その箒、右に曲がるクセがあってね。ついでに、高いところが好きらしい」

 乾が低い声を張り上げて、上空のリョーマに伝えた。競技場で響き渡るその声に、リョーマは毒づいた。

「そういうことは、乗る前に言うべきっすよ」

 リョーマは自分勝手に飛ぼうとする箒をなだめつつ、スニッチを追った。そして追跡開始から30分、辺りが暗くなり始めた頃にようやくスニッチを捕まえた。それも、地面スレスレで飛びながらのキャッチだった。

 スニッチを捕まえると同時に、背中からグラウンドに落ちたリョーマを上から覗き込んで、乾はニヤリと微笑した。

「ふん、初めてにしては上出来だね。30分でスニッチを捕まえるとは、やはりこれも血筋かな」

「どういうことっすか?」

「君のお父さん、越前南次郎はホグワーツでは伝説のシーカーだったんだ。彼が作った連続不敗記録は、未だに塗り替えられていない。卒業後はイギリス国内でも有名なプロチームに入って、ナショナル・チームのメンバーにもなったんだけど、不幸な事件と自身のケガで引退し、魔法界とも連絡を絶ってしまったんだよ」

 乾の言う不幸な事件とは、リョーマが母親と共に例の魔法使いに襲われた事を指しているのだろう。乾は直接口に出さなかったが、リョーマには何を言わんとしているのか理解できた。

「明日から、本格的に週3回行われる練習に参加してもらうよ。ついでに、うちのメンバーも紹介しよう」

「他の5人っすか?」

「いや、6人だ」

「でも、プレーヤーはあと5人っすよね?」

「うちはね、戦略上チェイサーが4人いるんだ」

「ふーん」

 スニッチを箱に戻し、蓋を閉めて乾はリョーマに向き直った。

「シーズン開始は11月だ。それまでには、君を立派なシーカーに育て上げる。いいね、越前?」

「っす」

 リョーマは乾と共にボール箱を持ち上げて、頷いた。





 翌日、練習開始時間から少し遅れて競技場に到着すると、グラウンドを8人の生徒が箒で飛び回っていた。その8人のうち、乾と手塚と桃城はすでに見知っていたが、後の5人もグリフィンドールの中では比較的目立っている生徒たちばかりだった。

「ほいっとね」

「いいパスだ、英二」

「おらおら、バーニィーング!」

「ドーン」

「英二、もう少し大石から離れて飛んでくれ。二人の角度が90度になるように。……そう、それでいい。桃はその2メートル下を、ちょうど二人の真ん中になるように」

 8人のうち、ゴール前にいる手塚を除いて7人はかなりのスピードで飛び回っていた。パスを回したり、棍棒でボールを打ったりする中を、乾が飛び回ってアドバイスしているのが見えた。といっても、しっかり集中して凝視して、ようやくわかるほどのスピードだった。

「あれ、桃先輩がいる。……へぇ、結構面白そうじゃん」

 ボソッと呟いた時、ゴール前にいた手塚がリョーマに気付いた。

「そこまでだ。皆、一度地上へ降りてくれ。河村、海堂。ブラッジャーを回収しろ」

 手塚の声がグラウンド中に響き、8人はバラバラに地上に降りてきた。そして大きな木製の箱に3つのボールを収めて、リョーマを囲むように集まってきた。

「皆に紹介する。今日からこのチームに加わることになった、越前リョーマだ。まだ1年だが、シーカーとしての才能はマクゴガナル先生も、乾も認めている。越前、自己紹介をしろ」

「越前リョーマっす。よろしく」

「お前、もうちょっと愛想のいい挨拶ってもんがあるだろうが」

 すかさず突っ込みを入れたのは、桃城だった。

「しょーがないよぉ、桃。魔法界でこのおチビの事知らないヤツなんて、モグリなんだしぃ」

「そうそう。僕はマグル出身だけど、それでも越前君のことは知ってたくらいだからね」

 髪を外に跳ねさせて、右の頬に白いテープを貼り、大きな目をした少年が桃城に反論する。それに、薄茶色のストレートの髪をして、対照的に線のように目を細めた少年が同意した。

「それにしても、1年生で代表に選ばれるなんて、さすがだよな。何年振りって言ったっけ?」

「データによれば、100年振りだ。つまり100年に一度の逸材を、俺たち青学は手にしたというわけだ」

「静かにしろ。越前には、誰が誰だかまだわかっていない。思い思いに話すだけ無駄だ」

 口々に話し始めるメンバーを、手塚が一喝した。

「それもそうっすね。俺のことはわかるよな、越前?」

「桃先輩も代表だったんすね」

「ああ、チェイサーだ」

「桃はまだ補欠だけどねん」

「あ、酷いっすよ、エージ先輩」

「だって本当じゃん? チェイサーの固定メンバーは、俺と大石だもんにゃ。あ、俺、3年でチェイサーの菊丸英二だよん。で、こっちの変な髪形してるのが、同じくチェイサーで4年の大石ね」

 菊丸は軽口を叩きながら、親指で前髪を二房、真ん中を空けて両側に垂らすという面白い髪形をした大石を指差した。

「英二、それはないだろう。越前、俺がチェイサーの大石秀一郎だ。今年は、副部長も勤めている。よろしくな」

 大石は右手をリョーマに差し出した。リョーマがそれを握り返すと、大石は人の良さそうな微笑を浮かべた。

「チェイサーから自己紹介するなら、次は僕だね。桃と一緒にチェイサーのサポートになっている、3年の不二周助だよ。よろしくね」

 閉じているのか開いているのかわからない細い目の、温厚な顔つきをした不二も、大石と同じように握手を求めてきた。

「次はビーターだね。タカさん」

 その不二からバトンタッチされて、乾の次に背の高い、がっしりした体躯の男が背中を丸めて恥ずかしそうにリョーマに話しかけた。

「あ、ああ。4年の河村隆だよ、よろしくな、越前」

「よろしく」

「俺も今年からレギュラーになれたんだ。だから、まだあまり慣れてないんだけど……」

 言いかけた河村に、桃城がいたずらを思いついた子供のような表情を浮かべて、ビーターが使う棍棒を持たせた。すると、河村の眉毛が釣りあがり、見る見る表情を変えた。

「アイ・アム・グレイトォー! ブラッジャーだろうがクアッフルだろうが、関係ナッシィーング! 全部まとめて片付けてやるぜぇ。かかってこいやぁー!」

 絶叫する河村の背後に、リョーマは燃え上がる炎の幻を見たような気がした。

「タカさんは、棍棒を持つと性格が変わるんだ」

「そうみたいっすね」

 冷静に解説する乾に、リョーマは短く頷いた。

「海堂、次はお前だぞ」

 そして最後、乾に促されて、頭にバンダナを巻き、素足に直接靴を履いている無愛想な男が口を開いた。

「っす。俺が2年でビーターの海堂薫だ」

「ども」

 海堂はリョーマを睨みつけるように見下ろして、それだけ言うとリョーマに背を向けてしまった。

「愛想ないんすね、あの人」

 リョーマのすぐ傍にいる桃城にボソッと呟くと、桃城は嘲るような微笑を浮かべて、わざと海堂に聞こえるように言った。

「ぷっ、相変わらず暗ぇなぁ、マムシぃ」

「んだと!? もう一回言ってみやがれ」

 言われた海堂は怒りの形相で振り向いた。睨みつけるその視線を軽く受け流して、桃城は言い返した。

「おお、何度でも言ってやるぜ、マ・ム・シ」

「てめぇっ! このサルが」

「んだと? やんのか、おら?」

 言い合いながら、桃城と海堂はお互いに掴みかかって、一触即発状態になった。

「……仲悪いんすか、あの二人」

「うん。入学当初から、お互いをライバル視してるみたいでね。よくケンカしてるよ」

 リョーマの呟きに応えたのは、睨み合う桃城と海堂を面白そうに眺める不二だった。

「そうそう。同室だってのに、ケンカばっかりしてるし」

 菊丸が同意するのを見ながら、リョーマは尋ねた。

「止めなくていいんすか?」

「うん。だって、面白いし」

「……」

 微笑して傍観する不二に、リョーマは絶句した。

「こら、やめろ二人とも」

 見るに見かねた大石が、桃城と海堂の間に割って入った。

「それに、あの二人を止めるのはぁ、大石の役目だにゃ」

「今週に入ってから、通算16回目のケンカだからな。日常茶飯事ってやつだ」

「それって、1日2回はケンカしてるってことっすか?」

「そうそう」

 大石以外は、菊丸も乾も傍観者を決めこんでいるようだった。手塚も、巻き込まれてはたまらない、と言わんばかりに関わらないようにしているらしい。

「練習を再開するぞ。各自ポジションにつけ」

 桃城と海堂の始末を大石に任せ、手塚は他のメンバーに指示を出した。そして自ら率先して箒にまたがり、ゴールの前へ飛んでいった。

「ほいほーいっとね」

「さあ、練習練習っと」

「おらおら、行くぜぇ、マムちゃん」

 菊丸、不二、河村と続いて上空へ飛んでいく。それを見送るリョーマの肩を、乾が軽く叩いた。

「さっそくだが、実戦形式での練習を行う。昨日も言った通り、実際の試合では上空を選手たちやボールが飛びまわっている。その中でスニッチを探すことに、少しでも慣れてほしいんでね」

 言いながら乾はリョーマに箒を手渡した。

「って、スニッチ使うんすか?」

「いや、失くしたら大変なんでね。これを使う」

 懐から取り出したのは、ゴルフボールだった。

「それは?」

「マグルの大人たちがよくやるという、ゴルフで使うボールだよ。知ってるだろう?」

「それは、知ってるっすけど」

「このボールの大きさは、ちょうどスニッチに似ているんでね。練習用には最適だ」

 言いながら、乾は自分の杖を取り出して、小さく呪文を呟いた。

「ウィンガーディアム レヴィオーサ」

 すると、ゴルフボールがすうっと空中に浮いた。そして乾の杖の動きに合わせるかのように、グラウンドをふわふわと移動していった。

「スピードはスニッチには到底及ばないけどね。いい練習になるはずだ」

 言いながら、乾は杖を手にしたまま、リョーマに飛び上がるよう促した。リョーマは小さく頷いて箒にまたがり、地面を蹴って飛び上がった。

「チェイサーとビーターには、君の邪魔をするように言ってある。わざと君の行く手を阻むような動きをしたり、ブラッジャーを君に向かって打ち返したり、とあらゆる手段を使って邪魔をしてくるはずだ。その中で、これを取ってもらう。いいね」

「わかったっす」

「乾、こっちの準備はできたよ」

 リョーマが観客席と同じくらいの高さまで飛び上がった所で、大石がまだ地面に立っている乾に声をかけてきた。

「じゃぁ、実戦練習を始める。チェイサーは越前の邪魔をしつつパスを回して、手塚から一つでも多くのゴールを奪う。ビーターは、狙った位置にブラッジャーを打ち返すためのコントロールを高める。そして越前は、その中をかいくぐってゴルフボールを取る。いいね」

 乾の説明に、一同はほぼ同時に頷いた。そして乾はボール箱を強く足で蹴って、ブラッジャーを放し、強く言った。

「始め!」

 乾が杖を持っていない方の手でクアッフルを空中に投げ上げると同時に、スピード発進した菊丸がそれを掠め取った。チェイサーたちがゴールを狙ってクアッフルを運んでいくのを見送って、乾は片手で箒を掴んで飛び上がる。そして、空中で浮遊していたリョーマに声をかけた。

「さあ、越前。行くよ」

 実戦形式の練習は、日が暮れるまで続けられた。その間に、リョーマは乾がグラウンドに放したゴルフボールを全て捕まえて、メンバーたちを感心させた。

「これは、シーズン開幕が楽しみだな」

 大石の言葉に、チーム全員が頷いていた。





第4章にしてようやく、青学レギュラーが全員揃いました(^^)。
いやいや、これだけ登場人物がいると、出演させるだけでもなかなか大変です。
映画や原作をご覧になった方は、どのキャラが誰の役割をしているのか。
考えながら読むのも、また一興ってものかも、なのです。
次回は、番外編ですので、お楽しみに(^^)。





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