功夫茶

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柳×乾祭Returnにいただいた作品

功夫茶

~From:蒼紫様


「どうした?」
 ノートを広げたまま、こちらに視線を向けている貞治に声を掛ける。
 珍しく立海と青学の部活の休みが重なった日曜日、二人で偵察に出かけた。
 偵察に向かった先が神奈川の学校だった為、そのまま家に寄らせたのだが。
 毎日の練習量が多いのはお互い変わらないし、自身で組んでいる個人メニューだっておそらくそれ程の違いはないだろう。
 だからあからさまに気遣うことは貞治を格下に見ているようで気が引ける。
 しかしせっかくの休みをいくら同じデータを重要視するテニスをするからとはいえ、けして近いとはいえない距離を呼び出してしまったことに多少の罪悪感を覚えていた。


「やはり疲れたか?」
 茶器を用意していた手を止め、そっと陽に焼けにくい白い貌を覗き込む。
 と、突然ふわりと微笑まれ、僅かに眸を瞠った(が、表立って変化はない)。
「ふふ、キレイだな~って思って」
「…なにがだ?」
 時々、貞治の思考についていけないことがある…俺のデータもまだまだということか。
「今日は緑茶じゃないんだ?」
 こちらの質問に答える気はないらしい。しかしぼんやりとしていたようで、鋭い観察眼はいつも通りだったことに安堵する。
「もう少し待っていろ」
 温めていた茶器からお湯を捨てる。タイミングよく鳴いたケトルから茶壷に高い位置から湯を注ぎいれ、蓋の上から更に湯をかける。蒸らして茶海に全て移してから聞香杯に注ぎ、茶杯を載せて差し出した。
「えと、どうすればいいのかな?」
 軽く小首を傾げる仕草は180を超える長身であっても可愛らしい。当然貞治限定だが。
「こちらに移して…その空けた方―聞香杯というらしい―からは香りを楽しむそうだ」
「いい香り…蓮二、中国茶も飲むんだ?」
「たまにだ。最近姉さんが凝っててな…」
 貞治の長い指が流れるような所作で聞香杯から離れ茶杯を包む。
「一華さん凝り性だもんね………コレって果物の…ライチ?…マスカットかな?」
「よく判るな。俺など、なにか甘い…と言って笑われたぞ?」
「蓮二、日本茶だったら詳しいのにね」
 疲れたときには甘いもの。甘い香りのお茶というのは違う気もしたが、初めてこのお茶を飲んだときになんとなく貞治のことを思い浮かべたこともあって、見よう見まねで煎れてみた。貞治は気に入ったようで嬉しそうに飲んでくれている。


「さっき、茶器に嫉妬しちゃったよ」
 蓮二のそのキレイな掌は俺のなのに。さらりと可愛いことを言うから思わず茶杯を取り落としそうになった。
「…綺麗なのはお前の方だろう?」
 まったく、なにを言っているんだか。貞治のほうへ腕を伸ばし、指を絡める。
 存在すべてが魅力的でいつでも油断などさせてもらえやしないというのに…本人に自覚がないのが一番厄介なのはどうしたものか。
 軽く溜息を吐くと、細く形のいい指先にゆっくりと口唇を寄せた。




◆いきなり蓮二の姉の名前捏造してしまいました!二人が飲んだのは鳳凰単叢蜜蘭香という茶葉のつもりです。

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