紅葉狩り

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紅葉狩り

~From:松本るり様



 学校に集合して、新横浜駅にやって来た俺達は、今日から3泊4日で京都・奈良に修学旅行へ出かける。
 この時期の修学旅行というのは俺的に、とても有り難い。元々、立海の修学旅行は外国組と国内組に分けられているのだが、秋深まるこの季節の京都や奈良の紅葉を是非、間近で見てみたいと迷うことなく、国内を選択した。しかし、クラスやテニス部の連中は外国を選択する者が多い事を後から知る事に成った。
 結局、テニス部での国内組は俺と弦一郎、それに幸村のみという現状だった。
 …あの京都の美しい光景が朱に染まるところなど、表現しがたい美しさだというのに…
 でもまさか、この旅行であの様な嬉しい誤算が起こるとは…流石の俺でも予測できなかった。


「ほら、国内組の方が先に新幹線に乗るからな!国内組と外国組に早く別れなさい!!」
 引率教師の言葉に駅構内に入った俺達に再度、引率教師達から補足のように言葉が付け足された。
「国内組は良く聞きなさい!東京の方の学校も今日から修学旅行に出ている学校があります。新幹線の車内で同じ号車、座席が隣などという事柄起こります。呉々も他校の生徒達と問題を起こさないように!!彼らとは京都・奈良でも行動を共にしますので…良いですね!?」
 確かに国内組のこの人数では、金もかかると云う事だろうな。それなら他校と纏めた方が、断然安く上がるという事か…
 成る程、大人の事情だな。
「蓮二のクラスは他校と一緒だろう?」
「ああ、俺の座る座席の隣らしい…担当教師より話があった」
「大変だな、走り始めたら真田と二人で遊びに行くよ」
「ああ、頼む…京都まで会話も出来ないと云うのは流石にきついからな」
「ではな、精市それに弦一郎…又後でな」
「ああ」
 二人に一旦別れを告げて、東京から来た新幹線に乗り込んだ俺は、其処で運命的な出会いをする事に成った。


「…乾も外国組だよね…?」
 部活も引退して、今は週一程度に部に顔を出していた俺に対して、久し振りに会う不二が聞いてきた言葉。今度の修学旅行で俺達は国内組と外国組に別れて3泊4日の旅行に出る。
「いいや、俺は国内組だ。不二達は外国組か?」
「いいや、僕も国内組なんだよ!でも他のみんなは外国組なんだよね。…あっ!手塚は例外だよ。手塚は初めから国内だ!って言い張って人だからさ~!良かった~乾だけでも国内組が居てくれて…!」
 もしかして写真か…?そう訊ねると、握り拳を作って力説してくれた。
 力が入っているな、不二。
「うん!秋の京都・奈良だよ!?こんないい時期にそうそう行けないじゃないか!!」
 確かに写真が趣味の人間にとっては、秋の京都程美しい季節はないだろうな…分かる気がするよ。蓮二も一度は行きたいと云っていた季節と場所だからね、不二と同じように力説していたっけ…
「確かにな、綺麗なのが取れたら見せてくれよ」
「勿論!自由時間の時に一緒に回ろうね」
「ああ」
 不二はそう言うと自分のクラスに帰っていた。
 ……でも確か国内組の人数が少ないから他校と一緒に新幹線の車内で合流して団体旅行とするって…先生が云っていた様な気がするけど…


「隣、良いですか?」
「ああ、そうだったね…どうぞ…!?」
 何…!?何が起こった…!!何故貞治が此処に座っている!?思わずその場に立ちつくしてしまった俺に、
「取り敢えず、座ったら?後ろ、つかえてるから」
「…そうだな」
 貞治の隣の席に座り、荷物を座席の下に押し込んだ。まさか東京からの学校が青学だったとはな…嬉しい誤算だ。
 貞治も俺が隣に座ると顔を赤らめながら、俯いてしまった。
「…神奈川から一緒になる学校って立海の事だったんだね」
「ああ……」
 まるでお見合い会場のような雰囲気を作ってしまった俺と貞治。逢うのも久方ぶりだが、こうやって二人で語らうのも久し振りだ。学校が違うと云うのは酷くもどかしく、そして歯痒い思いをする事もある。しかし、今回のような嬉しい誤算が生じる事も有るのだとつくづく実感した。
 そんな矢先、青学と立海の担当教師が深刻な顔で、俺と貞治の傍に寄ってきた。どうしたのかと黙って教師の話に耳を貸すと…
「柳…あのな、京都と奈良で泊まるホテルにちょっと問題が起きたんだ…」
「乾…一部屋に5人、一班ずつの割合にしていただろう?」
 貞治と二人で顔を見合わせ大きく頷くと、教師は更に言葉を続けた。その筈だったのだが、二部屋だけ四人部屋に成っていたと…
「急いで部屋をもう一つ用意して貰ったのだが、」
「…二人部屋しか用意出来なかったと?」
「いや、その…」
 俺の言葉に教師二人は顔を見合わせ、更に渋そうな顔をした。どうしたというのだ…?まさか部屋に問題が有るのか?
「二人部屋は二人部屋でもツインではなく、ダブルの二人部屋しか取れなかったと…?」
 貞治の言葉に担当教師は大きく目を開け、どうして分かったんだと云った表情を浮かべている。そのように分かり易い顔をしていれば部屋に何かあると考えるのは自然だろう。そして、一校だけ班をバラしてはもう一校との歪みを生んでしまう、その為両校から一人ずつ出す事によってバランスを保とうと云う事だろうだろう…しかし、ダブルの部屋に誰が好きこのんで行くというのだ…女子ならまだしも他校生となど…女子も寄りつかんと思うのだがな…
「なら、俺達がそのツインの部屋を貰っても良いでしょうか?」
「…それは構わないが…お前は良いのか?乾」
 貞治!?…そうか、お前がそうしたいのなら俺は依存など無いぞ。
「俺と貞治は幼馴染みですし、知らない仲でも有りませんから」
「そうか!!じゃあ…」
「その代わり…先生、明日夜…」
「分かったよ、お前には参るな…では、悪いがホテルの件、二人とも宜しくな」
「「はい」」
 明日の夜に何かあるのか?貞治にそれとなく尋ねたものの、軽くあしらわれてしまった…


 引率教師の解散という言葉に両校の生徒達は、持っていた荷物の傍で雑談を始めた。…まさか、蓮二と同室なんて…
「はい!では青学・立海の各班の班長は、部屋の鍵を取りに来てください」
 俺と蓮二はその場に残り、最期に残った鍵を受け取ると、他の生徒達とは違う階の指定された部屋へ姿を消した。
 ドアを閉じると同時に俺は荷物をその場に落とし、引き寄せられるままに蓮二と唇を合わせた。
 …何だか凄く久し振りだね、こんなに触れ合うの…
「…貞治…」
 吐息混じりの蓮二の美声とうっすらと見え隠れする切れ長の瞳…俺は思わず力が抜けてしまった。
「…蓮二、その声と目は反則だよ…」
 そのまま蓮二は俺を抱き上げてベッドまで運んでくれた。蓮二ったらドアに荷物を置きっぱなしなのに…そう思いながら、蓮二の首に腕を回して、されるがままに成っている俺自身に苦笑しながら、この人が心底好きなんだな~としみじみ思ってしまった。
「貞治…久し振りだな…こうやって二人っきりでゆっくりと抱き合うのは…」
「…ホントだね、何ヶ月ぶりかな…」
「…分かって告げているだろう…」
 うん、そうだよね…1ヶ月と20日ぶり…だよね。全国大会決勝で逢った以来だね。ベッドに折り重なるように倒れ込んだ俺の唇にもう一度、蓮二の物が触れた矢先…
「…チッ!」
 いきなり鳴った部屋の呼び鈴…蓮二には珍しく大きな音の舌打ち。蓮二ったら、仕方ないじゃないか…先生達だったらどうするの?
「…ちょっと出てくる…そのままで待っていてくれ」
「うん…」
 声からすると青学と立海の担当教師のようだ。思わず顔を出そうとしたが、蓮二が疲れて仮眠を取っていると告げた為俺はベッドの上で寝たふりをするしか無くなった。
 …蓮二ったら、もぉ…!
「…貞治、もう良いぞ」
「もぉ…蓮二ったら…あのまま先生が入ってきたらどうするつもりだったの?」
「その時はお前が上手く、交わしてくれれば良いだけの事だ…先生からの伝言だ。明日の夜はレンタカーを出してやるとの事だった…」
 何の事だ…って云う顔をしているね。それも嫌でも白状させる気だ…そんなにうっすらと開眼しないでよ、キチンと云うから…
「明日の夜ね、京都の能楽堂で『紅葉狩』っていう演目があるんだよ」
「ほぉ~、帝の名で平維茂が紅葉で人を惑わす鬼を退治する(美女の姿の為、鬼女とも云われる)演目だったな」
 そうだよ、蓮二が行きたいって云っていたあれ…一度で良いから京都の宇治山田の紅葉を見た後に行きたいって云っていたあれだよ。明日は丁度、団体行動で宇治山田を回るから、その夜に行われる能に行かせて欲しいって先生に打診していたんだよ。
「…よもや、お前一人で行くつもりなのではあるまいな…」
「…チケットがペアでしか手に入らなかったから、一枚余分が出てるんだけど…ご一緒してくださいますか?立海の達人」
「勿論だとも…!俺が行きたがっていた事を覚えていてくれたのだな…明日のコースに宇治山田が入っているから楽しみにしていたのだ。この時期の宇治山田の紅葉はそれは美しい物だろうからな!」
 当たり前じゃないか!蓮二が告げた台詞は、全部この頭脳に一言一句間違わず、鮮明に覚えているよ。
「その後の能・紅葉狩…この時期ピッタリの演目だね」
「ああ、それも楽しみだ!こんなに早く、望みが叶うとはな…!!」
 蓮二の嬉しそうな顔と云ったら……思わず笑みを浮かべてしまった。


 翌日、制服を着込んだ俺達は京都の各名所を回り、午後より時間まで宇治山田の美しい紅葉に目を奪われた。
「やっぱ、綺麗だな~」
「本当だね」
 ヒラヒラと舞う黄色や赤く色づいた葉を貞治と精市が、自然な動作で眺めている。精市は一緒に行動するのが青学と分かるといなや、直ぐさま貞治の隣を陣取り、俺よりもベッタリと張り付き、今に至っている。少々焼けるが、致し方あるまいな…俺とて命は惜しい…
「…美しい…幸村の白い肌にこの紅葉…たまらんな」
 弦一郎よ、お前の目は節穴か?貞治程美しい存在などあるはずがないだろう…そう思っていた俺の傍に不二が現れ、いきなりカメラを構えて…
「シャッターチャンス!」
 その言葉の先には、精市によって眼鏡を外されている貞治の姿…思わず、吹き出しそうになった!何を勝手に取っているのだ!?貴様は…!!その写真をどうするつもりだ!?
「その写真をどうするのかって顔だね、柳」
「どうするつもりなのだ…」
「高いよ?幸村とのツーショットも含めると」
「何っー!?不二、貴様ぁ~!」
 お前は黙っていろ!弦一郎!!しかし、不二の事だ…とんでも無い金額をふっかけるか、俺と貞治の仲の詮索をするか……やはり後者か、不二よ…
「君はもうその条件が分かっているだろう?柳蓮二」
「…貞治のプライバシーに関する事が含まれる…」
「大丈夫…僕は口が堅い方だから」
 此処は飲むしか有るまいな…貞治とそんな関係に成ってからは、その事が周りの連中に悟られぬように最前の注意を払ってきたというのに…こんな所で俺の計画が頓挫する事になるとはな…
「…分かった…但し、無粋な事は口にしないぞ、いいな…?」
「それで良いよ。君との事情の事まで僕が踏み込んだら、それこそ乾に嫌われれちゃう…流石の僕もそれは嫌だもの」
「なら最初から、俺と貞治の事に首を突っ込まなければ、良かろう?」
 俺のその言葉にカメラを手にしていた不二の躰が一瞬、動きを止めた。そして、もう一度構え直して貞治にピントを合わせて、一枚シャッターを切った。
 …両手を軽く前に出して、ヒラヒラと散りゆく紅葉の葉を掌に乗せている絵…
「…どんなに僕が乾に好意を寄せても、所詮は君の次なんだよ…それはとても悲しい事なんだよ…」
「不二…」
「でも……僕も何時か乾以上の存在を見つけられたら良いな~とか思ってるんだよね。だからそれまでは大事な乾に言い寄ってくる悪い虫の排除に励むんだ」
 俺もその一人か?そう訊ねると悪戯が成功した顔をして、大きく頷かれてしまった。でも、お前なら見つけだせるだろう。…大切な相手をな…
 しかしそう言う相手は大概、傍にいるものだぞ、不二。…先程から何処かの鉄仮面が頻りに此方を伺っている様だしな…
「蓮二~!不二~!手塚と真田を捕まえたからみんなで写真取らないか~?」
「行くか?お姫様のお呼びだ」
「そうだね」


 二日目の日程を終了する頃には持っていた新のフィルムを二本取り終えて、満足そうな顔をしている不二の姿が其処にはあった。一体誰をそんなに取ったんだか…
 そして、宿泊施設に戻った時に、
『現像したら柳には、無料で上げるから楽しみにしててね』
 又、誰かに売りつけるのか?思わず頭を抱えた俺に、ニッコリと微笑み綺麗に取れているから心配しないで!と何処か露点がずれた言葉を残し、自分の班の連中達の所へ戻っていった。
 全く、敵わんな、彼奴には…
 そして、夕食を済ませた俺と貞治は、私服に着替え、青学の担当教師が借りてきた車に乗り込み、能・紅葉狩が開かれる能楽堂へと足を踏み入れた。
 夜間の外泊に当たって、青学の担当教師が、立海の教師達の了承を取って下さったらしく、先生より『楽しんでこい』と言葉を掛けて貰った。 
「では、終わる前には又此処に迎えに来るからな!二人とも」
「ありがとう、先生」
「お手数をおかけ致します」
「楽しんで来ると良い」
 そう告げると車は一度、元来た道を戻り始めた。俺と貞治は顔を合わせて、能楽堂へと足を向けた。そして、辿り着いたその場所は…
「…絶景だな、この場所は…」
「満足ですか?柳蓮二様」
「…ああ、まさか野外の能楽堂とはな…恐れ入った」
「それは良かった」
 本来なら、ライトアップされているはずの楽堂の周りには、古風にも薪が焚かれている。貞治と肩を並べて、指定の椅子に座り舞台が始まるを待った。
「そろそろだな、」
「蓮二、楽しそうだね」
「ああ、これを京都で見れるとは思っても居なかったのでな。少し、浮かれているようだ」
「みたいだね、」
 そういってクスリと笑う貞治に笑みを返し、舞台に視線を注いだ。
 まもなく始まり、美しくそして…大胆に舞う役者達…貞治とただただ圧倒されっぱなしだった。そんな時、舞台も終盤に差し掛かかった頃に貞治が舞台に視線をやったまま、俺に尋ねてきた。
「ねぇ~蓮二…もし俺が紅葉で人を惑わす鬼で、蓮二が帝の名で平維茂だったら…蓮二は俺を退治する…?」
「いきなりだな…お前が鬼女だったら俺は……」
 そんな俺の言葉を遮るように舞台は終わりを告げ、二人で無言のままその場を後にする事になった。
 帰りの車の中でも大した言葉を交わす事は無く、ホテルの玄関に車が到着した。
「ほら着いたぞ。他の生徒達は自由時間と成っているから気付かれないように手前のエレベーターで自分達の階に上がりなさい」
「「はい」」
 相変わらず無言の貞治の背中を見詰めたまま、教師より云われたエレベータで自分達の部屋に戻った。 
 …貞治…


「貞治、」
 蓮二が歯切れが悪そうに俺の名前を呼んでいる。別に怒ってなど居なよ、蓮二。
 ……ただ、俺が鬼でも蓮二はきっと帝の名なら、俺を退治する……
 そう考えてしまうと何だか凄く寂しくて成ってしまっただけ…こんな気持ちに成るんだったら、あの能の舞台を蓮二と見に行くんじゃなかった。そうすれば、こんなに気持ちになる事なんて無かったのに…蓮二にとっては所詮俺は、その程度の存在だっただけなのに…
「貞治、一体どうしたんだ」
「…蓮二」
「どうした!?何処か痛いのか?」
 えっ?ベットに座らせられて、蓮二の指を見ると…涙…俺、そんな事で泣いちゃってるんだ。恥ずかしくて思いっきり目元を擦ろうとした俺の手を蓮二が痕になるからと強引に外された。
「…何でもないよ…大丈夫…ちょっとあの能に自身の感情移入してしまっただけだから…」
「そういえば、舞台の最中にお前が口にしたあの問い…未だ答えてなかったな」
 蓮二は何かを察したような口振りでそう俺に告げてきた。
 …聞きたくないの、お願い云わないで…
 そうすれば、少しで長く蓮二を思っている俺の気持ちに終止符を打たなくて済むのに…
「…いい…聞きたくないよ…」
「貞治、俺はお前が鬼だとしても決して殺さない…そして、お前を俺の内に捕らえ、生涯俺だけの傍に置く…外からの干渉も受けさせない。一生俺に囚われて生きていかせる」
 そう告げた蓮二は、お前はどうする?訊ねて来た。…思わず目を見開き、マジマジと蓮二を見詰める。次の瞬間、俺の躰はこの柔らかいベットに押し倒された。
「…貞治はどうする?鬼として、俺を食らうか?」
「…そんな事出来る分けない…」
「ではどうする?正体を明かさずにいてもお前には、一生自由など訪れないんだぞ…」
「…それでいい…ミイラ取りがミイラになったと云われても構わない…柳蓮二という牢獄に一生囚われていたいと思うのは俺が…」 
「…黙って…分かっているから…」
 そう告げると蓮二は、俺の来ていた服を脱がしお互いの体温を感じられる行為に及んでしまった。
 修学旅行なのに…でも、理性を保つ事が出来なくなっていたのは俺だけじゃないと思って良いんだよね?蓮二…


 我ながら抑えが効かなくなってしまったとは、情けない…しかし、こんな色っぽい貞治を目の前にして理性を保てと云う方が無理な話しだ。
「ねぇ…蓮二…」
「んっ…起きていたのか?」
「うん…あのね、何年掛かっても良いから今度は二人っきりで…旅行…行きたいね…」
「二人っきりでか…いいな、又この季節に今度は二人きりで旅行か…弦一郎ではないが、たまらんな…」
「たまらない?」
 クスクスと笑いながら、そう告げた貞治は俺の唇に自身のを押し当て、離れる間際に、…約束だよ…そう呟いた。
 ああ、約束だ…
「…お前は正に紅葉で人を惑わす鬼女だな…」
「蓮二限定だけどね」
「ではその鬼女を囲うとしよう…」
 そのままお互いに求め合い、行為が終わる頃には軽い倦怠感に襲われていた。それさえも今の俺にはとても愛おしく…そして、腕の中のこの可愛らしい鬼女を抱き寄せて、一言…
「…だから、“紅葉狩”の演目は好きなのだ…」
 お前は知らない。
 俺が精密に練った策に自身で入り込んでしまっている事に……
 俺がそういった演目が好きだという言葉だけで、お前はそれに興味を持つ…そして、そういう演目にお前はのめり込んで見てしまう癖がある。後は、自身をそれと重ねさせれば良いだけ…至極、簡単な事なんだぞ、貞治。
「それでも俺はお前を手放したくないのだ…誰かに奪われる前に自らの足で俺に縛られるように仕向ける程な…」



FIN

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